皆様、こんにちは。
2014年7月19日(土)~20日(日)、四日市市総合会館(三重県四日市市)にて、
交通権学会2014年度第29回研究大会(主催:交通権学会、共催:
特定非営利活動法人四日市の交通と街づくりを考える会(略称YTT)、後援:四日市市)が四日市で開催され、統一論題とパネルディスカッションに登壇しました。
1日目は自由論題報告と研究助成報告「千葉ニュータウン地域における新たなバス運行の意義―『生活バスちばにう』運行実現までの軌跡―」前田善弘(NPO法人交通まちづくり戦略会議)、大塚良治(湘北短期大学)および会員総会が開催されました。
研究助成報告では、前田氏より、事実上高額運賃の北総鉄道しか選択肢がなかった千葉ニュータウン地域における市民提案型の低運賃バス「生活バスちばにう」の企画から運行実現に至るまでの取り組みについて、背景となる問題意識や参考にした各地の事例、そして運行にこぎつけられた成功要因などを中心に報告がなされました。私も「生活バスちばにう」の路線免許申請に係る国土交通省関東運輸局との事前折衝にバス事業者および市民メンバーとともに参加した経緯を踏まえ、フロアーとの質疑応答に臨みました。
夜には、料亭旅館
大正館で、交通権学会とYTTが同席した懇親会を開催し、親睦を深めました。
2日目は午前中に内部・八王子線沿線エクスカーションを行いました。途中南日永駅で下車し、「つたえよう 日永つんつくおどり―400年祭に向けて―」を見学しました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/14/f7/7a9ace8e8493389ab7e2c15ecf5c8986.jpg)
午後は四日市市総合会館に場所を移して、統一論題報告とパネルディスカッションが行なわれました。
私は「ステークホルダーアプローチに基づく鉄道の活性化」と題して統一論題報告をしました。報告要旨は以下の通りです。
・鉄道事業の廃止が許可制から事前届出制に緩和された2000年以降、地方を中心にして鉄道廃止が続出している。
・日本では、公共交通に採算確保が求められる。鉄道の維持には多大な努力が必要。
・1990年代終わりから2000年代にかけて我が国でも活発化した株主価値重視の動きにより、不採算路線の維持が困難に→ステークホルダーアプローチの適用で鉄道活性化を図ることが必要。
・ステークホルダーアプローチ適用の道筋・・・鉄道活性化に向けた関係者間の議論→鉄道の社会的便益の吟味→「現代企業はステークホルダーのニーズに対応する合目的的な社会的機関」ととらえる→株主以外のステークホルダーの利益擁護→ステークホルダーアプローチの適用によって鉄道を活性化。
・「社会貢献積立金」の設定と活用(私案)・・・積立金設定事業者に税制優遇を措置することで、補助金支給を回避しつつ、実質的な補助金支給と同等の効果を発生させる→事業者にとって不採算路線活性化のインセンティブになる*。
まとめ:鉄道を取り巻く諸課題(鉄道の存続問題、利便性低下、鉄道事業者間の連携不足)→対策実施(社会的便益測定、コスト見直し、鉄道事業者間の「戦略的提携」の実施)→ステークホルダー間の協働→鉄道の活性化・持続的運営の実現。
*交通権学会会員勇和孝氏のアイデアより示唆を得て、大塚が考案した。
15時00分からはパネルディスカッション「内部・八王子線の存続問題から見る四日市の公共交通の課題と展望」を行いました。
登壇者の顔ぶれは以下の通りです(敬称略)。
パネリスト:
太田裕治郎(四日市あすなろう鉄道株式会社代表取締役常務)
山本勝久(四日市市役所都市整備部理事)
芳野正英(四日市市議会議員)
安藤たみよ(北勢線とまち育みを考える会会長)
下村仁士(尚絅大学文化言語学部講師、NPO法人四日市の交通とまちづくりを考える会理事)
前田善弘(NPO法人交通まちづくり戦略会議理事)
コーディネーター:大塚良治(湘北短期大学総合ビジネス学科准教授、NPO法人四日市の交通とまちづくりを考える会専務理事)
パネリストの発言要旨は以下の通りです。
太田氏:近鉄の乗車人員はピーク時の平成4年3月期(約8億人)に比べて約3割も減って、不採算路線を維持する余裕がなくなった。そのような中で内部・八王子線の存続について、四日市市と協議を重ねてきた。内部・八王子線は四日市あすなろう鉄道の運営へ移行するが、ご理解を頂きたい。
山本氏:平成24年1月に近鉄より「一定の運営費補助がなければ鉄道という形態での事業継続が困難である。平成25年夏頃を目途に基本的な方向性を打ち出したい」との申し出を受けた。平成25年5月に市議会総合交通政策調査特別委員会から「公有民営方式を基本軸とした上で、市の負担をできる限り最小化するよう、近鉄と協議・交渉を進めることを要望する」という報告を受けて、近鉄と存続に向けた協議を続けた。本当に厳しくしんどい交渉となり、一旦は鉄道での存続をあきらめざるを得ないかもしれないというところまで追い込まれたが、同年9月に何とか鉄道での存続で合意することができた。今後は「鉄道事業再構築実施計画」の策定を急ピッチで進める。内部・八王子線存続のノウハウが他地域でも活用される「ベストプラクティス」となるような事例とするべく進めていきたい。
芳野氏:内部・八王子線存続に向けて、自治会とともに取り組んできた。四日市市には内部・八王子線を鉄道で残すことが必要との思いで活動してきた。(芳野氏も委員として参画していた)「総合交通政策調査特別委員会」も同線の存続を前提として調査を進めていた。
安藤氏:内部・八王子線は鉄道で存続すると確信していた。近鉄がBRT化を持ち出した時点で、近鉄は本音では鉄道で残したいと思っていたに違いないと確信した。
下村氏:四日市の交通と街づくりを考える会(YTT)のメンバーとして、内部・八王子線の存続活動に参画した。YTTはシンポジウムや清掃活動などで同線の存続を後押ししてきた。
前田氏:生活バス四日市の運行や内部・八王子線の存続は多くの市民の支援を得て実現したが、公共交通への市民参加が四日市市全域に広がっているとは言い難い。今後、四日市市全域にムーブメントを広げることが課題だろう。
その後、フロアからも活発な質問が出されました。
研究大会の最後は、20日の新理事会で会長に選出された上岡直見氏(環境経済研究所)より閉会の挨拶がなされ、第29回交通権学会研究大会は盛会のうちに無事終了しました。
そして、私も19日の旧理事会で交通権学会理事に選出され、20日の新理事会で事務局長に指名されました。
30年の伝統を重ねている交通権学会の発展に微力を尽くす所存です。ご指導・ご鞭撻の程、何卒よろしくお願い申し上げます。
なお、今回の研究大会は、四日市市ならびに四日市の交通と街づくりを考える会の全面協力を頂戴しました。この場をお借りして、厚く御礼申し上げる次第です。
※写真4枚目:四日市の交通と街づくりを考える会宗像氏提供
※※第29回交通権学会研究大会の開催概要は、
交通権学会ホームページをご参照ください。