:〔続〕ウサギの日記

:以前「ウサギの日記」と言うブログを書いていました。事情あって閉鎖しましたが、強い要望に押されて再開します。よろしく。

★ シミュレーション(SIMULATION)または「擬態」

2011-03-01 11:36:49 | ★ 聖書のたとえ話

 

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SIMULATION 又は ≪擬態≫

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 シリコンバレーに世界的に事業を展開しているIBMを凌ぐ巨大IT産業があった。歴史においても、規模においても、業界ナンバーワンであった。同社は、長年の収益の中心であった製品の工場を、世界各地に展開する子会社を通じて保有していた。

 親会社の先代の会長兼CEOが、全く新しい次世代の製品に目を付け、パイロットプラントを本社工場に隣接して新設した。

 それに倣って、世界中の子会社の中で先進的な経営戦略に共感した社長たちが同じブラントを相次いで導入し始めたが、まだ多くの子会社の保守的な社長たちは、マーケットの状態を見ながら、慎重に事の推移を見守っていた。

 地域のマーケット基盤が極めて弱いある国の小さな子会社の社長が、国内の周りの慎重論、反対論を抑えて、率先して世界第VII番目の導入に手を染めた。反対派は大きな声をあげた。

 その後、その子会社の社長は定年で退職した。新しい社長の就任後間もなく、本社の会長も持病が悪化して他界した。

 新しい会長には、前会長の懐刀が、既にかなりの高齢ではあったが、圧倒的な支持を得て選ばれ、前会長の路線を引き継ぐことになった。

 問題の子会社の新社長は、新しいプラント導入に反対であった。前任者の始めたプラントの廃止を公約に掲げ、地域マーケットの反対派の勢いを借りて、工場閉鎖の計画を着々と進めた。親会社の執行部にも、自分の地域のマーケットの特殊性を根拠に、新しいプラントの不要さを納得させようと工作した。

 この子会社の新社長は何度もシリコンバレー詣でをした。しかし、本社の担当部署の反応は、必ずしも彼の期待通りではなかった。そこで、彼は親会社の会長兼CEOに直談判に及んだ。しかし、会長はその子会社の地域の将来のために、この新しいプラントの存続を望んだ。必要なら、子会社から切り離して、親会社直営の工場とすることも辞さない決意が伝わってきた。いずれにしても、この問題について、最終合意を見ることなく、頂上会談は終わった。

 しかし、子会社の新社長はあきらめなかった。彼は、信念にかけて、また意地でも前任者の開いた工場を閉鎖し、それが完全に無くなってしまうことを望んだ。後日、親会社の会長が同種のプラントをその地域のためにあらためて立ち上げることになるとしても、それはどうでもよかった。彼にとって大切なのは、一定の期間、前任者の開いた工場が完全に存在しない状態を生み出すことに成功すれば満足であった。会長の意思はわかっていたが、文書による命令はまだ無かった。

 そこで、彼は危険な賭けに出た。一線を越えたといってもいい。

 密かに子会社の意思決定機関の内部手続きを踏んで、プラントの閉鎖を決議し、この○月××日、子会社の管内の各営業所に宛てて工場閉鎖に関する社長書簡を送り、△日後に営業所の朝礼でそれを読み上げるよう指示した。

 これは、明らかに本社に対するクーデターであった。本社の会長兼CEOに対する不従順、敵対行為であった。本社がじっくり時間をかけて、問題処理について最善の策の検討を重ねている間に、工場閉鎖の既成事実を作って対抗するつもりだったのだろうか。閉鎖し、関係者を解雇し、土地も建物も売却してしまえば、本社の存続の意思をくじくことが出来るはずだった。一旦壊してしまえば、再度ゼロから立ち上げるには相当の時間がかかるに違いない。空白を生み出すことが可能になるはずだった。

 ところが、である。子会社の社長は土壇場で奇妙な行動に出た。前の書簡が郵送された2日後、二番目の手紙が同じあて先に送られた。○月××日付けの手紙は廃棄し焼却処分するように、と言う内容の、わずか45行のものだった。朝礼暮改とはまさにこのことだ。

 クーデターの謀略がタッチの差でシリコンバレーの本社に漏れたのか、或いは、偶然のタイミングの一致か、「本社から追って沙汰があるまで、現状凍結」の明文化された命令が届いたのかもしれない。事ここに至っては、△日後に各営業所で社長書簡を読み上げることは明白な命令違反、反逆の意思の動かぬ証左となる。 「破棄し、焼却せよ」とは、ただならぬ表現である。しかし、だれがこの45行の手紙を読んで、はいそうですかと○月××日付けの文書を実際に火で燃やして処分しただろうか。それにしても、子会社の社内では、商法に基づく正規の手続きを踏んで閉鎖を議決している事実は議事録に残っているはずだ。これはどうなるのであろうか。或いは、手回し良く既に焼却されているのだろうか。

 後日、このことはシリコンバレーの本社で問題にされた。

 この話では、支社長は、釈明の余地無く、進んで引責辞任したことになっている。

 わたしが一頃メシを食っていたウオールストリートなど、生き馬の目を抜くどの業界にもありそうなストーリーの一つである。

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