JMのバレーボール観戦記

テレビのバレーボール解説では触れられない戦術面や選手個人の特徴について、「全員応援」の立場から語ります。

男子の世界標準バレーの先にあるもの ブロード攻撃

2013-03-26 13:02:53 | 用語解説
ブロード攻撃は、高くて横幅もあるバンチリードブロックに対しては通用しない、ということで、男子バレーでは過去の遺物となりました。タイ男子はいまだセンターがブロードをしますが、これはライト攻撃の貧弱さを補う目的で、そもそもタイ男子自体があまり強くないため、参考にする必要は無いかも知れません。

しかし、世界標準バレーが完成されてからも、ブロード攻撃を打ち続けている選手がいます。

・ブラジル男子のシド選手のCワイド
シド選手の場合は、自分が前衛レフトにいて、そこからCクイックに入るために、長い距離を移動してやや空中で流れる感じになります。ジャンプは両足ジャンプですから、女子のワンレッグによるCワイドとは異なります。しかし、移動距離、移動速度ともに女子のCワイドと変わりませんので、変則助走のCワイドと認定できるでしょう。前記事でご紹介した通り、ブラジル男子の場合はCクイックが一つの重要な起点になります。その起点に到達するためなら、ブロード攻撃という手段も有効と言うことです。

・ブラジル男子のダンテ選手のL
こちらは、何も変則ではなく、正真正銘のL、つまりセンターからライトに移動し、片足ジャンプで空中移動しながら、上体をやや右に傾けて打つ攻撃です。ブラジル男子のナショナルチームでは、ダンテ選手は裏レフトですので、ライトから打つことはありません。しかし、ギリシャリーグ時代は、ダンテ選手は表レフトでしたから、S1でのライト打ちが発生します。また、稀にスーパーエースもしていました。この時、前衛ライトでのレセプションアタックは、全てLブロードで打っていたのです。S1ではもとからライトにいますので、移動するためにわざわざセンターに走り、そこからライトに引き返す形で打っていました。そう、山口舞選手の、Bセミ囮のLの一人時間差と同じです。しかし、ダンテ選手はBセミは打ちません。なのに毎回センターに戻ってまでLに入ったのは、一人時間差という意味ではなく、ダンテ選手がライト平行よりLの方が得意だったからとしか思えません。Lからなら、ストレートのラインショットや超クロスを多彩に打ち分けていました。

このように、コンビの中での必要性や、各選手の適性によっては、ブロードも現代バレーで使われます。S1では、左利きスーパーエースがブロード助走でレフトから打っても良いはず。ブロードは古いと決めつけられている現状は、大変残念です。

世界標準バレーの先にあるもの ブラジル男子

2013-03-26 12:41:12 | 用語解説
さて、この記事で、どうして私がこれまでブラジル男子の選手を世界標準の名選手に挙げなかったかが明らかになります。それは、世界標準バレーだと思われているブラジル男子が、実は世界標準バレーをしていないからなのです!

まず、レフト平行については、世界標準バレーと変わりません。しかし、それ以外の攻撃は、全く異なります。

・遅いCクイックと速いバックセンターでダブルクイック
まず、ブラジル男子ではCクイックが非常に目立ちます。そして、Cに限らず、クイックは速くありません。ややネットから離したゆとりのあるトスを、きちんと打ち分けます。逆に、バックセンターはAクイックやBクイックの後衛版のような速さになっています。そのため、前衛の遅いCクイックと速いバックセンターが、ダブルクイックのような形になっているのです。本来、世界標準バレーのパイプ攻撃とは、前衛のクイックを囮にして、そのブロックの落ち際にワンテンポ遅れたバックアタックを打ち込むというもの。それを同時のダブルクイックにしたのが、ブラジル男子です。クイック囮のパイプという時間差攻撃では、まず試合序盤にクイックから使いますが、これは相手がバンチリードの場合は大きな矛盾ですよね。ダブルクイック化すると、どちらを先に使っても良くなりますから、一発目からの被ブロックという最悪の事態は避けられます。さらに、返球がネットに近ければCクイックに上げやすく、ネットから遠ければバックセンターからのクイックに上げやすくなります。Bパスという概念がなくなりました。

・両足ジャンプのCワイドもどき
センターが前衛レフトに入るローテでは、上述のCクイックに入るには、かなりの距離を移動します。女子のブロードとは違って両足ジャンプですが、特にシド選手は、Cワイドのような形の移動攻撃をします。

・超高速のライト攻撃を、Cクイック囮のパイプとして代用
ブラジル男子のスーパーエースが左利きのアンドレ選手から右利きのビソット選手やウォレス選手に替わってから、ライト攻撃が大幅に高速化されました。以前の世界標準バレーにおけるパイプ攻撃と同等の速さです。そのライト攻撃の手前には、Cクイックが跳んでいます。そう、Cクイック囮でライトからパイプが打たれるわけです。

・何がブラジル男子のオリジナルを可能にしたか?
各選手の個人技はもちろんですが、やはりそれを戦術として組み合わせた監督の存在が大きいと思います。