JMのバレーボール観戦記

テレビのバレーボール解説では触れられない戦術面や選手個人の特徴について、「全員応援」の立場から語ります。

男子の世界標準バレーの先にあるもの マチェラータ

2013-03-22 19:33:01 | 用語解説
マチェラータは、イタリアの強豪チームです。JTのイゴール選手は、移籍前にはマチェラータでスーパーエースをしていました。イゴール選手の穴を埋めたのは、本来レフトのザイツェフ選手。逆立った髪型が目立つ彼です。このザイツェフ選手の転向によって、マチェラータは世界標準バレーからさらに発展させた後衛システムを作りました。

・スーパーエースのサーブレシーブ参加
前記事でも、ロシア男子のミハイロフ選手が、代表でもクラブチームでもライト側の2ローテでサーブレシーブに参加することをご紹介しました。これを、ザイツェフ選手は後衛の全ローテで行い、4枚レシーブをします。もちろん、S4でザイツェフ選手が後衛ライトの時には、そのままザイツェフ選手はバックライトに入ります。S3からは、ザイツェフ選手は中央付近でサーブレシーブし、そのままレフトの選手のようにバックセンターに入ります。その時、ザイツェフ選手の一人右にいる裏レフトの選手が、サーブレシーブに参加したまま、バックライトに入ります。つまり、後衛でレフトとライトが両方サーブレシーブし、その役割が逆転するのです。

よく考えてみれば、バックオーダーは、前衛の左右が入れ替わるピンチローテが少ない代わりに、後衛では2ローテも左右が逆転するのです。そのため、スーパーエースをサーブレシーブ免除にしてサーブが打たれた瞬間にバックライトにダッシュさせるのが一般的です。それに対し、マチェラータではザイツェフ選手のレフト経験を活かして、後衛での左右が入れ替わった状態をデフォルト化しているわけで、これによって前衛2枚のピンチローテを4枚レシーブでしのげます。

バックアタックを常用するバレーを現代バレーとするなら、後衛では左右が入れ替わった状態を放置するバレーは時代遅れです。マチェラータがこの課題に取り組んでいることが、これからの男子バレーの発展に寄与するのではないかと思っています。来シーズンのマチェラータがどういったシフトを組んでくるのか、わくわくしますね。

・何がマチェラータのオリジナルを可能にしたか?
これは、本来レフトのザイツェフ選手がスーパーエースをこなせたことに尽きるのではないでしょうか。セッターのトス配分を見ても、ザイツェフ選手はスーパーエースとしてかなりの信頼を得ているようです。前記事のロシア男子と同じく、男子の世界標準バレーの先には、脱分業化があるのかも知れません。

男子の世界標準バレーの先にあるもの ロシア男子

2013-03-21 13:21:13 | 用語解説
まずは、ロンドンの金メダルチームのロシア男子を取り上げます。

・スーパーエースがサーブレシーブ
ロシア男子不動(ではなかったが)のスーパーエース、ミハイロフ選手は、なんとサーブレシーブに参加します。参加するのは、ミハイロフ選手が前衛ライトと後衛ライトとなるS5とS4ローテが主です。レシーブフォーメーションは、以下のようになります。

S5
C ①l ④R
S ②L ③c

S4
S C ①l
②L ③c ④R

この2ローテでは、ミハイロフ選手が他の選手と入れ替わる必要がありません。入れ替わらないなら、スーパーエースも、ずしりと構えてサーブレシーブに参加すればいい、という考え方です。やろうと思えば、S1でも可能ではないかと思います。

この形は、ロシア男子の代表チームだけではなく、ミハイロフ選手所属のゼニト・カザンでも取り入れられています。

・土壇場でポジションチェンジ
これには驚き、岡山シーガルズか!と思ってしまいました。なんと、ロンドンの金メダルマッチで2セットを失ったロシア男子は、こんなポジションチェンジをしたのです。

ムセルスキー選手:センター→スーパーエース
ミハイロフ選手:スーパーエース→表レフト

そして、ムセルスキー選手が好き放題に右から打ち込み、ミハイロフ選手は全ローテでサーブレシーブに参加。S1では、表レフトに入っているミハイロフ選手が本来のライトから打ち込む形になるので、問題なし。ほとんどバックセンターは使わず、ブラジルに勝って金メダルです。よく、センターやレフトの表裏をセット間に変えることはありますが、これほど大胆なポジションチェンジで世界最高峰の試合を征したのには驚きです。

・何がロシア男子のオリジナルを可能にしたか?
それは、ズバリ言って、選手が複数ポジションを経験していることです。サーブレシーブに参加したり表レフトもこなしてしまうスーパーエースのミハイロフ選手、実は1年間レフトを経験していました。スーパーエースとしてもライトから打てるムセルスキー選手、彼にもスーパーエースの経験があります。このように、選手が複数ポジションをこなして、枠にとらわれない起用が可能だったことが、ロシア男子の金メダルの原動力となりました。

男子の世界標準バレーは時代遅れ!

2013-03-21 00:18:27 | 用語解説
挑戦的な記事タイトルですが、是非最後までお読みください。

男子の世界標準バレーは、日本から見れば最先端のバレーに見えます。全日本男子は、特に山本隆弘選手の全日本復帰後からは、世界標準バレーを目指したチーム作りが行われています。左利きにこだわったスーパーエース山本隆弘選手や清水邦広選手の選出、サイドへのトスが速い宇佐美大輔選手の選出、身長は無くても速いトスが打てる越川優選手や福澤達哉選手の選出など、メンバーも世界標準バレーを意識した登録になっています。そんな中、北京では、旧世代バレーにフラッと回帰したりしましたが、北京後はまた世界標準バレーにシフト。しかし、追いかけても追いかけても追い付かず、強豪との差が広がるばかりで、ロンドンの出場権を逃しました。

では、その強豪は一体どんなバレーをしているのでしょうか?実は、強豪チームにとっては、既に世界標準バレーは目標ではなく出発点。いかに世界標準バレーを土台として、各チームのオリジナリティを出すかが勝負の分かれ目になっています。例えばスーパーエースのサーブレシーブ参加。例えばスーパーエースとレフトの後衛でのポジションチェンジ。例えば遅いクイック。例えばセンターからのバッククイックとライトからのパイプ。それにCクイックやDクイック。さらにブロードもどきまで。これは、全て世界の強豪チームが取り入れ、得点源にしているプレーです。

世界標準バレーとは相容れない単語が並びましたね。ブロードなんて、女子とタイ男子だけと思っていたら大間違い。強豪が似たことをやっているのです。では、次回記事からは強豪チームを1つずつ取り上げ、それぞれのチームがどんな驚きのバレーを展開しているかを明らかにしていきます。強豪と言えるかは別として、日本のトップチームについても取り上げますので、お楽しみに。

この連載の中に、全日本男子復活のヒントが隠されているはずです。

男子の世界標準バレーの名選手 リベロ

2013-03-20 18:44:00 | 選手紹介
ここは迷わず彼でしょう。

・ブラジル男子 サントス選手
サントス選手は、サーブレシーブもスパイクレシーブももちろんピカイチですが、世界標準バレーという文脈では、やはりトスの上手さが決め手です。男子の世界標準バレーのリベロは、セッターがトスを上げられない時のためのセカンドセッターの役割を担います。これは、アタッカーがトスを上げて攻撃枚数が減るのを防止するためです。サントス選手は、レフト、ライトにピタリと上げるのは朝飯前、バックライトにも余裕で上げ、さらに凄いのは縦Bやパイプにも上げられることです。セッターからの返球がアタックラインの少し内側にせり出した時には、アタックラインの外側で踏み切ったジャンプトスを上げます。他のリベロも真似していますが、サントス選手の上手さと安定感はずば抜けています。また、最悪の場合、アタックラインの内側からアンダーで上げるときも、手首に当てるときに手前に引いて衝撃を吸収して上げるため、球質はオーバー並みです。詳しくは知りませんが、サントス選手はセッター経験があるとしか思えません。

そのセッター並のトスアップ能力を、トスアップ以外のプレーにも応用しているのが、サントス選手の凄いところです。相手のチャンスボールをセッターに返球するときには、なんとジャンプトスでセッターに返します。これにより、まずは球質が安定して、定位置でセッターの両手に吸い込まれるような返球になります。さらに、ボールが沈む前に返すため、切り返しが格段に早くなります。サントス選手のジャンプトスでの返球→ブルーノ選手のトスアップ→ルーカス選手のBクイックが、1秒台で完結する、異次元の速さです。これにより、相手の守備が整う前に攻撃ができるようになるのです。

また、これは世界標準云々とは関係ありませんが、サントス選手は監督とコート上の選手の橋渡し役としても大活躍。レゼンデ監督は常に不機嫌です。サントス選手がサーブで交代するごとにベンチとコートを行き来し、話をすることにより、チームが一つにまとまっている感じがします。

他にも私の中ではお気に入りのリベロはいますが、トスアップ能力の重要性を強調するために、今回はサントス選手に絞ってご紹介しました。他の名リベロ達も、これからご紹介できればと思います。

次回からは、男子の世界標準バレーからさらに進化した、次世代のバレーの形を取り上げて連載したいと思います。

男子の世界標準バレーの名選手 セッター

2013-03-15 19:30:43 | 選手紹介
またまた間が空いてしまいました。今回は、男子の世界標準バレーの名セッターをご紹介します。引き続きブラジル男子からのエントリーが無いことの種明かしは、次の連載までお待ちくださいね。

・アルゼンチンのデセッコ選手
デセッコ選手は、世界標準バレーには欠かせないレフト平行の速度と球質の両方において、他のセッターを大きく引き離しています。ロングBを伸ばしたような速さと羽毛のような軽さを両立できるのは、もしかするとふっくら体型のおかげかもしれません。また、セッターは相手レフトの平行をブロックで止めに行く役割を担いますが、その身のこなしも非常に良いです。レフト平行が無いと判断したときにレシーブに下がる動きは、忍者の瞬間移動のようです。世界標準とは関係ありませんが、ワンハンドトスやワンハンドでのバックトスやツーアタック等の技術、それにサーブや強打スパイクもとても上手です。欠点といえば、身長くらいでしょうか。

・アメリカのボール選手
ボール選手は2m級のセッターで、その規格外の大きさは世界標準を遥かに超えています。しかしトスワークは世界標準バレーの教科書のようで、リリースポイントが高いため、無理な速さではないトスで左右に振り分けられます。北京ではアメリカが優勝しましたが、この立役者はボール選手だったように思います。

・ポーランドのザクムニ選手
正直、ここでザクムニ選手を掲載すべきかどうか、迷いました。なぜ掲載したかと言いますと、男子の世界標準バレーで非常に重要なレフト平行とBクイックの使い分けが非常に上手いからです。ザクムニ選手も2m級の長身で、その高さからの超高速ロングBはザクムニ選手ならではだと思います。センターの使い方が旧世代セッターに似ている部分については、世界標準とは言えないです。世界標準にしろ旧世代にしろ、ザクムニ選手は素晴らしい選手です。

他にも、エジプトのアブダラ選手も素晴らしいセッターですが、世界標準というカテゴリーには入れにくかったので、アブダラ選手についてはまた別の機会に取り上げたいと思います。