新古今和歌集の部屋

尾張廼家苞 恋歌四 12

尾張廼家苞 四之下
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
被忘戀     太上天皇御製
袖の露もあらぬ色にぞ消かへるうつればかはる歎せしまに
四の句は、人の心のかはれるをの給へり。これはさる
                          事なり。
二三の句は、あらぬ色にかはりてぞ、きへかへる也。あらぬいろとは、
                                 我袖のうへに
血ノなみだの
かゝる事。  下なるかはるをこゝへもひゝかせて、こゝにかはるといふべ
                            きを、下にうつればかは
るといはんとて
詞をかへたる也。聞べし。さて消るは露の縁にて、思ひきゆる事。
かへるはきゆるにをつよくいへる詞なり。一首の意は、我袖の
                         なみだの色も、くれ
なゐになりて消る。それは年月がうつるほどに、
人のこゝろがかはるとてなげきするかとにと也。
         定家朝臣
むせぶともしらじなこゝろかはら屋に我のみけたぬ下のけぶりは
かはら屋は瓦をやく屋也。人の心のかはれるにいひかけたり。瓦屋
                                       は、かは
りし故にと
いひかけたり。我のみとは、人は心かはれたる故にいへり。一首の意は、
                                  人のこゝろが
かはりし故、われひとりきゆる時なく、思
ひの煙にむせぶともしるまいなアとなり也。後拾遺に、我心かはらん
物か瓦屋の下たく烟したむせびつゝ
         家隆朝臣
しられじなおなじ袖にはかよふともたが夕ぐれとたのむ秋風
おなじ袖とは、むかしも今もひとつの我袖にて、人の契の
かはれるにむかへて、我おもふ心のむかしにかはらず同じき
意をこめたり。此説詞に得、がたし。おなじ袖とは、我袖にも人の袖に
         もといふ事。同じく袖にはかよふともといふ義なり。
かよふとは、かよふといふ事をもの意也。下句は、思ふ人の我には疎く
成て、よその人を頼みてまつ夕暮の秋風といふ意にて、秋と
いふに、我かたのちぎりのかはりし事を持せたり。厭アキをもたせたるニ
                               はあらず。たが夕暮
と憑む秋風なるぞ。わが夕ぐれとたのむ
秋かぜなる物をと、うらにかへる意也。一首の意は、此秋風は、昔相
みし時の袖に今もかよひて、我は昔と同じく戀しく
おもへば身にしむ物を思ふ人はかくともしらじな、心かはりて、よ
その人を頼みてまつ夕暮なればといふ意也。此心一首の詞つゝ
                            きのうへにえがた
くやあらん。一首の意は、此秋風はたが夕ぐれとたのむ秋風なるぞ。我人まつとてた
のむ夕ぐれの秋かぜなる物を、同じ様に袖にはかよふとも、わが此待心のやるせなさ
を人しられぬであろうなアといふ事也。四五二三一とつゞきたり。秋風に人の心の
かはりたる心はなし。秋とだにいへば人の心のかはりたりと説なれど、秋も秋によりた
る事、たのむ秋風とつゞき
たるに、いりてか厭アキの意あらん。此歌たがといふ事いかゞ。同じ袖にはと
                               いひ、たが夕ぐれと
といへることばの奇偉なるなれど、いとよく
きこえたり。此ころの哥に多くあり。
 
 
 
※後拾遺に、我心~
後拾遺集 恋歌四
 題しらず        藤原長能
我が心かはらむものか瓦屋の下たく煙わきかへりつつ
 
同    恋歌二
 清少納言人には知らせで絶えぬ仲にて
 侍りけるに久しう訪れ侍らざりければ
 よそよそにてものなど言ひ侍りけり。
 女さし寄りて忘れにけりなど言ひ侍り
 ければ
             藤原実方
忘れずよまた忘れずよ瓦屋の下たく煙したむせびつつ
 
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