尾張廼家苞 四之下
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被忘戀 太上天皇御製
袖の露もあらぬ色にぞ消かへるうつればかはる歎せしまに
四の句は、人の心のかはれるをの給へり。これはさる
事なり。
二三の句は、あらぬ色にかはりてぞ、きへかへる也。あらぬいろとは、
我袖のうへに
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血ノなみだの
かゝる事。 下なるかはるをこゝへもひゝかせて、こゝにかはるといふべ
きを、下にうつればかは
るといはんとて
詞をかへたる也。聞べし。さて消るは露の縁にて、思ひきゆる事。
かへるはきゆるにをつよくいへる詞なり。一首の意は、我袖の
なみだの色も、くれ
なゐになりて消る。それは年月がうつるほどに、
人のこゝろがかはるとてなげきするかとにと也。
定家朝臣
むせぶともしらじなこゝろかはら屋に我のみけたぬ下のけぶりは
かはら屋は瓦をやく屋也。人の心のかはれるにいひかけたり。瓦屋
は、かは
りし故にと
いひかけたり。我のみとは、人は心かはれたる故にいへり。一首の意は、
人のこゝろが
かはりし故、われひとりきゆる時なく、思
ひの煙にむせぶともしるまいなアとなり也。後拾遺に、我心かはらん
物か瓦屋の下たく烟したむせびつゝ
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家隆朝臣
しられじなおなじ袖にはかよふともたが夕ぐれとたのむ秋風
おなじ袖とは、むかしも今もひとつの我袖にて、人の契の
かはれるにむかへて、我おもふ心のむかしにかはらず同じき
意をこめたり。此説詞に得、がたし。おなじ袖とは、我袖にも人の袖に
もといふ事。同じく袖にはかよふともといふ義なり。
かよふとは、かよふといふ事をもの意也。下句は、思ふ人の我には疎く
成て、よその人を頼みてまつ夕暮の秋風といふ意にて、秋と
いふに、我かたのちぎりのかはりし事を持せたり。厭アキをもたせたるニ
はあらず。たが夕暮
と憑む秋風なるぞ。わが夕ぐれとたのむ
秋かぜなる物をと、うらにかへる意也。一首の意は、此秋風は、昔相
みし時の袖に今もかよひて、我は昔と同じく戀しく
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おもへば身にしむ物を思ふ人はかくともしらじな、心かはりて、よ
その人を頼みてまつ夕暮なればといふ意也。此心一首の詞つゝ
きのうへにえがた
くやあらん。一首の意は、此秋風はたが夕ぐれとたのむ秋風なるぞ。我人まつとてた
のむ夕ぐれの秋かぜなる物を、同じ様に袖にはかよふとも、わが此待心のやるせなさ
を人しられぬであろうなアといふ事也。四五二三一とつゞきたり。秋風に人の心の
かはりたる心はなし。秋とだにいへば人の心のかはりたりと説なれど、秋も秋によりた
る事、たのむ秋風とつゞき
たるに、いりてか厭アキの意あらん。此歌たがといふ事いかゞ。同じ袖にはと
いひ、たが夕ぐれと
といへることばの奇偉なるなれど、いとよく
きこえたり。此ころの哥に多くあり。
※後拾遺に、我心~
後拾遺集 恋歌四
題しらず 藤原長能
我が心かはらむものか瓦屋の下たく煙わきかへりつつ
同 恋歌二
清少納言人には知らせで絶えぬ仲にて
侍りけるに久しう訪れ侍らざりければ
よそよそにてものなど言ひ侍りけり。
女さし寄りて忘れにけりなど言ひ侍り
ければ
藤原実方
忘れずよまた忘れずよ瓦屋の下たく煙したむせびつつ