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H1N1型インフルエンザは非定型的な徴候を起こしうる:NEJM研究

2009年05月16日 | Weblog
H1N1型インフルエンザは非定型的な徴候を起こしうる:NEJM研究
2009年5月13日 提供:Medscape



以下 長文です ↓



【5月8日】米国疾病管理センター(CDC)と州・地域の公衆衛生当局の研究者らが、A型ブタインフルエンザ(H1N1)ウイルスの現在の流行における米国の最初の症例642例の詳しい臨床情報を発表した。

『New England Journal of Medicine (NEJM)』5月7日号オンライン版に掲載されたその結果によれば、

発熱、咳、のどの痛みといった一般的なインフルエンザの徴候の他に、下痢が4分の1の患者に、嘔吐も4分の1の患者に現われた。

したがって、医師と患者は季節性インフルエンザの通常の症候と非定形的な消化管徴候の両方について気をつける必要があると、筆頭著者であるCDC疫学調査局(Epidemic Intelligence Service)のFatima S. Dawood, MDが記者会見で語った。

遺伝子分析によって、現在の感染の原因ウイルスは北米ブタインフルエンザの系統ではなく
ユーラシア大陸に起源を持つH1型ウイルスであることが分かっている。 !!

やはりNEJMオンライン版に掲載された関連報告においてCDCと自治体衛生担当当局が、現在の流行に先立って起きた、ブタからヒトに伝播したものとされる3種再集合ウイルスによる小規模なヒトでの散発的インフルエンザ症例群について記載している。その著者らは、発熱性呼吸器疾患がある患者にブタや家禽・野生鳥類へ最近曝露した履歴がある場合には、動物性インフルエンザを想定に入れることを医師に勧めている。

また著者らは、ブタに接触したヒトでの3種再集合インフルエンザ感染の散発的症例は、より大規模な流行の前哨であると考えられると、警告している。

ウイルスのこの2つのグループは感染力がまったく異なっているが、「いずれのウイルスともヘマグルチニンH1型であり、1918年にヒトおよびブタで出現し、どちらウィルスもその後進化をして、異なるH1型ウイルスになったものである」とセントルイス大学(ミズーリ州)感染症免疫科のRobert B. Belshe, MDが関連解説記事に書いている。

「現在の状況は『1918年の再来』ではなく、『1918年の延長』であり、1918年に汎流行したインフルエンザウイルスの残党に我々は今でも感染し続けているのだ」とBelshe博士は記している、

流行の詳細

現在の流行の最初の数百症例をまとめたDawood博士らによれば、季節性インフルエンザの流行による死亡(年間およそ36,000人)の大部分が、一次性ウイルス性肺炎や二次性細菌性肺炎(特に連鎖球菌性とブドウ球菌性肺炎)といった続発性合併症による死亡と、すでに存在していた疾患の悪化による死亡で占められている。

「これらと同様の合併症がS-OIV(ブタ由来インフルエンザウイルス)感染で起こりうる」と博士らは記している。「S-OIV感染で重度の合併症のリスクがもっとも高い患者は、

5歳未満の幼児、65歳以上の高齢者、慢性の医学的問題を基礎に持つ小児と成人、妊娠女性といった重症季節性インフルエンザでリスクがもっとも高いグループがおそらく含まれるが、それに必ずしも限定されるわけではないようである

。これまでに発見されてS-OIV感染が確認された入院患者で、データが揃っている22例のうち、12例は重症季節性インフルエンザのリスクが大きくなる特徴(妊娠、慢性の医学的問題、5歳未満)を持っていたが、65歳以上の患者は一人もいなかった。」




このウイルスに対する感受性がもっとも強いのは十代までの小児であり

、高齢成人は感染しにくいらしく、患者の40%が10歳から18歳までの年齢であり、51歳以上の患者は5%しかいないことが分かった。症状としては、94%に発熱、92%に咳、66%にのどの痛み、25%に下痢、25%に嘔吐があった。

入院の有無が判っている患者399例のうち入院が必要だった者は9%おり、年齢は19カ月齢から51歳までにわたっていた。入院が必要だった患者36例のうちデータが揃っている者は22例であり、そのうち4例(18%)が5歳未満の幼児であった。22例のうち慢性の医学的問題を持っている患者は9例であり、内容は先天性心疾患、喘息、リウマチ性疾患、関節炎、乾癬であった。

「患者の60%が18歳以下の若年者であるという所見から、小児および若齢成人のほうが高齢者よりもS-OIVに感染しやすいということか、社会的繋がりの違いゆえに高齢者への伝播が遅延しているということが考えられる。1976年のブタインフルエンザワクチンの血清学研究で示唆されているように、高齢者ではS-OIV感染に対する抗体をすでに持っていることである程度の交差免疫を備えている可能性も考えられる」と著者らは記している。

Dawood博士は記者会見において次のように述べている。

「症例の多くは学校での流行で見つかっており、若年者のほうが検査を受ける傾向が強いために、現時点で症例を見つけ出す手法にバイアスがかかっている可能性もある。また、高齢者の一部の者は別のインフルエンザウイルスに対する抗体を保有していて、それが現在のウイルスに対して交差免疫をもたらしている可能性もある。」

背後に潜むウイルスたち

CDCとさまざまな地方自治体衛生当局の者からなるVivek Shinde, MD, MPHのグループが関連記事の中で、トリ、ヒト、ブタのインフルエンザウイルスの遺伝子が混ぜ合わさった3種再集合ウイルスによるインフルエンザの散発的症例11例について報告している。

3種再集合ウイルスの感染は、1990年代後半に北米の養豚業者で初めて発見されており、2005年12月から2009年2月までの間に11症例が確認された。その年齢は16カ月齢から48歳にわたる。

2例を除いた患者の全員が、ブタに接触したことがあった。接触は直接的(農業祭での解体、展示、取り扱い、または養豚場への来訪)と間接的(農業祭や、ブタが展示してある養豚場への来訪)があった。ミズーリ州の7歳男児の1例はブタまたは感染者に接触した事実は知られておらず、もう1例のアイオワ州の4歳女児はブタインフルエンザ感染が疑われる患者に接触した事実があった。

アトピー関連疾患を有する患者が3例おり(喘息が2例、アトピー性皮膚炎が1例)、免疫不全であることが判っている患者が1例いたが、その他の7例の患者はいずれも慢性疾患を有していなかった。現在の季節性インフルエンザ株に対するワクチンを摂取した者が3例いた。

臨床症状の記録がある患者10例のうち、発熱は9例、咳は10例、頭痛は6例、下痢は3例に見られた。

詳細な血液検査が行われた患者は4例おり、白血球減少が2例、リンパ球減少が1例、血小板減少が1例に見られた。入院が必要になった患者は4例おり、そのうち2例には機械的呼吸補助が必要だった。オセルタミビル(商品名タミフル、Roche社製)の投与を受けた者は4例おり、11例全員が回復した。

「この患者シリーズでは、ブタインフルエンザウイルス感染が最初から疑われた患者は、いたとしてもほんの少数だった」とShinde博士らは記している。「症例のほとんどは季節性インフルエンザのルーチン調査の一部である呼吸器標本のウイルス学的検査で発見されており、このことは、季節性インフルエンザウイルスと動物由来の新規のインフルエンザウイルスのいずれについても、感染者の検出には、インフルエンザのルーチン調査が重要であることを強く示している。」

インフルエンザウイルスは家畜や野生動物の集団の中で地方性動物疾患として存在する能力を持っているので、医師は、ブタ、家禽、野生鳥類に最近曝露した経験を持つ発熱性呼吸器疾患の患者を診る際には、特にその地域でヒトインフルエンザウイルスが循環していない場合には、動物由来インフルエンザウイルス感染の鑑別を考慮に入れることをShinde博士らは推奨している。

「ただし、新型のA型インフルエンザウイルスがヒトからヒトへ効率的に伝播するエビデンスがある間は、医師は最新の推奨に基づいて、感染の適切な疑い、診断、治療の間口を広くしておくことが必要である」と著者らは記している。

「最後ではない」

Belshe博士は解説記事において、「S-OIVの登場と拡散は、現代社会に良い点と悪い点をもたらした」と述べている。博士の指摘によれば、米国でブタ由来A型インフルエンザ(H1N1)の症例が初めて発見されてから数日のうちにそのウイルスのヘマグルチニンの遺伝子配列が決定され、公衆衛生の体制と調査手法が稼働し始め、そのウイルスの抗ウイルス薬への感受性が判定された。

「その反面で政治的には扇情的な姿勢が巻き起こったことは、医師や科学者から一般大衆に向けて有効なコミュニケーションを取る必要があることを示している」と博士は続けて述べている。「ある者はこう訊く。『どうして国境を封鎖しないのか?』(答え:効果がないから。)誤った指導によるブタの殺処分が起きた国もあった(エジプト)。しかしS-OIVはブタでは流行しない。ウイルスを拡散させるのは人間なのだ。そして、調査、公衆衛生対策、ワクチン開発への資金供与が拡大される必要がある。現在のS-OIV大流行は最新のインフルエンザウイルスであって、最後ではないのだ。」

Belshe博士は、MedImmune社とNovartis社のコンサルタントまたはスピーカーを務めていることを開示している。その他に、この報道に記載した論文に関係する金銭的利害関係はない。



Medscape Medical News 2009. (C) 2009 Medscape




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