「まだはたらいてるんですか?たいへんですね」と言われたのは先々月、一回目の胆石発作で入院していたときのことだ。
ベッドの脇にノートパソコンとモニターを置き、いかにも仕事に勤しんでいるかのようなぼくの姿を見た看護師の言葉である。
一瞬、意味を計りかねたぼくは、その「まだ」が年齢のことをあらわしていることに気づき、妙齢の看護師に対して思わず苦笑いしながら、こう答えた。
「そう、たいへんよ」
そして、そうか世間一般では定年退職している齢なのだとあらためて思いが至った。
もちろん、そう言った看護師になんらの悪気はなく、むしろその素直な物言いには好意すら感じられたのだが、はたしてそれは、ぼくのような年齢の男に対してもつ感覚として正しいのだろうか。すぐに調べてみた。
『令和5年版高齢社会白書』によると、65~69歳の男性の就業者の割合は61.0パーセント。半数以上がはたらいている。それが70~74歳となると、41.8パーセントとなり約2割方落ちるのだが、それにしても、70歳をすぎてなお、半分近くの人がはたらいているというその結果は、少しばかり予想外だった。
そして、そうか世間一般的にはいわゆる定年退職年齢とされることが多い65歳をすぎても、はたらいている人がたくさんいるのだと気づかされた。
そんなことを思い出したのは今日、あたらしい弁当箱をもたされたからである。昼餉、包をあけると出てきた新品の曲げわっぱ弁当箱を目にし、「まだまだがんばんなさいよ」という妻からのエールが聞こえたような気がして、思わず背筋が伸びた。
この先いつまではたらくことができるか、ボギーを気取って言ってみると、「そんな先のことはわからないさ」でしかないのだが。