弁護士美和のブログ つづりまとめ

 弁護士 美 和 勇 夫

日弁連の会長選挙候補者二名から、公開質問の回答をいただきました。

2020-03-05 14:02:25 | Weblog
日弁連会長選挙は、次の通り令和2年3月11日に、日本全国各地の弁護士会でおこなわれます。

そこで私は、現在、司法界で問題になっている2つの問題点につき、
日弁連会長選挙候補者である、山岸良太弁護士、荒中弁護士の両名に、2月26日に以下の公開質問状を出しご回答をいただきました。


 回答があり次第、私のブログ(https://blog.goo.ne.jp/isao1216)で、回答内容を公表しますということでお願いしました。




< 公開質問状 >


日弁連会長選挙候補者の御両名に二点おたずねいたします。

                記

第一点

このたび岡口裁判官の令和元年11月12日のフェイスブック投稿について、仙台高等裁判所長官が、同人に対し最高裁に懲戒を求める分限裁判の申立をされたことを、どのように考えられるのでしょうか?


私どもは、この申立が裁判官の表現の自由を委縮させる弊害を生むと考え、長官を公務員職権濫用罪に該当するとして仙台地検に告発しましたので参考の為、告発状を添付します。




第二点


このたびの、東京高等検察庁黒川弘務検事長の63才、定年延長・閣議決定につき、どのように考えられるのでしょうか?

過日の法務省、検察長官首脳会同会議で、検察庁の内部(検事正)からも、この問題に疑義が出されました。定年63才の「検察庁法」を解釈で変更したことをどのように考え対処されるおつもりですか?
日本弁護士連合会は、この定年延長問題を傍観されるのでしょうか?




 
なおこの公開質問状の回答については、
その回答書を弁護士 美和勇夫のブログ、ホームページ、フェイスブックに貼り付けて広く公表させていただきます。


 
       令和 二年二月二六日



                    弁護士  美 和 勇 夫

                    弁護士  浅 井  正






【山岸候補の回答はつぎのとおりです】
2020年 3 月 3 日







第一点

一般論として、裁判官であっても 、市民的自由を制限されるべきではなく、表現の自由 についても 重要な基本的人権であり、裁判官からの発信も認められるべきであると考えております。この点、我が国の裁判官はどちらかというと、市民的自由については謙抑的なところが見られる点は、司法が市民により親しまれるためにも残念なことであると考えております。この観点から、裁判官に対する分限裁判の申立についても、裁判官の表現の自由を委縮させるようなことにつながる弊害が生じ得ることについても、問題点として認識しております。ご意見の趣旨も踏まえて、検討していきたいと考えております。



第二点

報道で見る限り、今回の 法令解釈の変更の経緯や時期については不透明な点があり、もっと十分な説明がなされてしかるべきと感じております。
また、一般論として、検察の政治からの独立性は極めて重要であると考えており、また政府が、十分な熟議を経ずまた文書も残さずに、長きにわたって実施されてきた法の解釈を急に大きく変えることは、法の支配の観点から問題があると考えております。今後の国会における議論や今後の事態の推移等を注視しつつ、ご意見の趣旨も踏まえて、検討していきたいと考えております。

以上




【荒候補の回答はつぎのとおりです】

2020年3月4日
1. 質問1について

裁判官も市民的自由としての表現の自由は保障されるのであり、裁判官がインターネット上のSNS(ツイッターやフェイスブック)で自らの見解や思うところを発信することは原則として保護されるべきです。
ただ、お問い合わせの仙台高等裁判所の分限裁判申立については、岡口基一裁判官のブログ「分限裁判の記録岡口基一」の2020年1月28日の記事を見ても、申立の事実関係や申立の理由等の内容が掲載されておらず内容が不明な状況ですので、コメントを差し控えさせていただきたく存じます。



2. 質問2について

黒川検事長の定年延長問題については、政府(内閣)が黒川検事長を次期検事総長に据える狙いで定年延長に向けた動きをしたのではないかと見られること、また過去の国会における人事院の答弁内容を無視して検察庁法及び国家公務員法の解釈を変更しているうえ、解釈変更をするにあたっても国会での議論を全く経ずに閣議決定のみで行っていること等、きわめて多くの問題があると考えております

政府や政権与党の、検察庁に対するこのような実質的な人事介入ともみられる行為を許すこととなれば、検察の理念であるところの「国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務すべき責務を自覚し,法令を遵守し,厳正公平,不偏不党を旨として,公正誠実に職務を行うこと」や「基本的人権を尊重し,刑事手続の適正を確保するとともに,刑事手続における裁判官及び弁護人の担う役割を十分理解しつつ,自らの職責を果たす」こと、そして「常に内省しつつ経験から学び行動するとともに,自由闊達な議論と相互支援を可能とする活力ある組織風土を構築する」ことのいずれにも反する事態となると考えております。

既に静岡県弁護士会が2020年3月2日「黒川弘務東京高検検事長の定年延長に強い懸念を表明する会長声明」が発出されておりますが、今後も同様の動きは続くと見られます。
静観するのではなく、日弁連として適切に意見表明をしていくべき事柄であると考えております。



告  発  状

                      令和2年2月 10 日  
仙台地方検察庁検事正  殿

告発人・ 弁護士   美 和 勇 夫

  同  弁護士   浅 井   正

被告発人       〇〇〇〇〇


 被告発人(被疑者)の後記告発事実に記載の所為は,刑法第193条(公務員職権濫用罪)に該当するものと思料されるので,捜査の上,厳重に処罰されたく告発します。


第1.告発事実
被告発人は,仙台高等裁判所長官として、仙台高等裁判所裁判官会議を総括することで、仙台高等裁判所に所属する裁判官を監督する職務に従事するものであるところ、仙台高等裁判所裁判官会議を構成する多数の裁判官と共謀して、
令和2年1月27日、宮城県仙台市青葉区片平一丁目6番1号所在の同裁判所において、同裁判所所属の岡口基一裁判官が、令和元年11月12日、同人のフェイスブックに「(殺人事件の)遺族は自分を非難するよう東京高裁に洗脳されている」という趣旨の投稿をしたことを理由に、投稿者本人の動機・目的に照らし、客観的にも、当該投稿が裁判所法の定める「品位を辱める行状」に該当しないことが明らかであるにもかかわらず、当該投稿の趣旨が遺族を侮辱するものであるなどと意図的に曲解断定し、当該遺族の感情を傷つけたと牽強付会にみなして、最高裁判所に対し、同裁判官を懲戒するよう分限裁判の申立てをし、同裁判官をして自身の分限事件への対応を余儀なくさせ、もって、その職権を濫用して人に義務のないことを行わせたものである。


第2.告発に関する事情
1.本件投稿に至る経緯

①最高裁判所は「性犯罪に関する下級審判決書」については最高裁のウエッブサイトには掲載しない旨の内規があったのにもかかわらず、ウエッブサイト上で東京高裁の刑事判決(平成29年12月1日・高等裁判所刑事裁判速報集平成29年219頁。以下「本件刑事判決」)を公開・公表した。

②その公表に基づいて,岡口基一裁判官(当時,東京高裁判事。以下「岡口判事」)が,この刑事判決が「死体に対する姦淫」に関する法的論点を含んでいたことから,読者層に法曹関係者や法学部生らを多く含んでいる自身のツイッターで,当該判決を紹介した。

③ところが,東京高裁は,本件刑事判決に係る事件の被害者の遺族(以下単に「遺族」)からツイッター紹介について抗議を受けたので,岡口判事に対して,
厳重注意処分を下した。岡口判事は,即時,当該ツイッターを削除した。

 ④遺族の東京高裁に対する抗議の趣旨は,本件刑事判決が世間に拡散・周知されたことに対し,著しく不快な思いを抱いたことにあったと思料される。
しかしながら最高裁には「性犯罪に関する下級審判決書」については最高裁のウエッブサイトには掲載しない旨の内規があったのにもかかわらず、他ならぬ最高裁が先に当該判決を世間に公表したのであった。

  ⑤周知のとおり,岡口判事は,捨て犬のツイッターの件で平成30年10月17日大法廷決定をもって,上記性犯罪にかかるツイッター投稿も考慮され(ラスト・ストロー理論など)分限処分(戒告)を受けた。

⑥しかるに,遺族らは,岡口判事によるツイッター紹介に対する抗議の手をゆるめず,岡口判事の弾劾による罷免を求めて国会の裁判官訴追委員会に対して弾劾請求をした為,現在,同訴追委員会にて調査・審理が行われている。

⑦岡口判事は、遺族の被害感情がもっぱら岡口判事に対して向けられるに至った背景には,東京高裁事務局が「最高裁の内規違反広報」の問題性を棚上げにしておいて(しっかり説明せず)遺族の反感をもっぱら岡口判事だけに向かうように仕向けたのではないかとの疑念をもった。

⑧そこで岡口判事が,自らの心情を吐露する趣旨で,遺族は・・・東京高裁に洗脳されているという告発事実記載のフェイスブック投稿(以下「本件投稿」)をなすに至った。

2.本件投稿の趣旨

① 岡口判事が,本件投稿をなすに至った上記1の経緯に照らせば,本件投稿の趣旨は,もっぱら東京高裁事務局の対応を非難するものであって,遺族を「侮辱」する意図・動機は全く認められず,その趣旨を含むものとは到底いえない。

② 本件投稿には,「洗脳」といった不適切ともとれる言葉も用いられているが,「洗脳」の語義は,「俗に思想改造のこと」を意味し,「第二次大戦後の一時期,中国のそれを,揶揄的に表現したbrainnwashingの訳語」と理解されている(岩波・国語辞典)ことからも,東京高裁事務局の遺族に対する説明、働きかけの有り様を「批判」したに過ぎないものであって,遺族を侮辱することを企図したものではないことは客観的にも明らかである。

3.被告発人における本件懲戒権行使の濫用性

① しかるに,被告発人は,仙台高裁長官という地位にありながら,岡口判事が私生活上で自身の理解・心情を吐露すべく投稿・発信した,東京高裁事務局の態度に向けられた不審・不満・批判的な言動について・・・これを遺族に対する「侮辱」と一方的に曲解し,最高裁に懲戒請求した上で,それを新聞テレビなど各社に大きく報道・拡散させ,岡口判事の名誉を著しく毀損した。その為,岡口判事をして最高裁大法廷による分限裁判に対する対応を余儀なくさせるに至った。

  ② しかしながら,岡口判事の本件投稿は,遺族に対する「侮辱」の意を含むものではないことは,前記1の経緯及び前記2の投稿の趣旨等に照らし,客観的に明らかである。
また本件投稿をもって東京高裁事務局対応を批判することが,「裁判官に対する国民の信頼を損ねる言動」や「裁判の公正を疑わせるような言動」に当たらないことも明らかである

③ かえって,裁判所事務局の個々の裁判官に向けられた,今回のような不条理・不当な対応に抵抗せず,それを隠忍し,当局に対して迎合する態度をとるような「平目裁判官」の方が、客観的にはよほど国民の信頼を損ねるものであるといえよう。

④ 被告発人のとった本件懲戒請求は,裁判所当局に刃向かう裁判官は,問答無用で徹底的に懲らしめるという企図のもとに「言論弾圧」するものであり,裁判官の言論活動に対し看過できない萎縮的効果をもたらすものである。
この意味で,本件懲戒請求は,憲法秩序である「表現の自由」に対する重大な挑戦であるといっても過言ではない。

⑤ さらにいえば,本件懲戒請求にみられる上記異常性に照らせば,被告発人においては,岡口判事が,前記「捨て犬の分限裁判」での経験を踏まえて,「最高裁に告ぐ」などの著書を公表して,最高裁当局に批判的、反抗的態度をとっていることから,懲らしめ・報復の目的(他事考慮)で本件懲戒に至ったのではないかとさえ,強く疑わせるものである。

⑥ 「非義務の強制」については,「事実上の負担ないし不利益」で足り
るとする,最決平成元年3月14日がある。
さらに、刑法193条の公務員職権濫用罪における「職権」とは、公務員の
一般的職務権限のすべてをいうのではなく、そのうち、職権行使の相手方に対し法律上、事実上の負担ないし不利益を生ぜしめるに足りる特別の職務権限をいう(最高裁昭和55年(あ)第461号同57年1月28日第二小法廷決定)
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/383/050383_hanrei.pdf

⑦ 告発人らが重ねて強調したいことは、被告発人(被疑者)たる高等裁
判所長官による安易な上意下達的「懲戒申立て」は、裁判官の表現の自由を著しく萎縮させる重大な弊害を生むということである。
日本国憲法21条に明記されている(表現の自由)の、到底容認するところではない。
 以上から,その懲戒権の濫用性,悪質性,可罰的違法性は明らかである。



第3.添付書類
 1.甲1(令和2年1月28日 朝日新聞記事)
 2.甲2(岡口基一「『洗脳発言』報道について」)岡口ブログ
 3.甲3(岡口基一著「最高裁に告ぐ」岩波書店)
以 上
                 
当事者目録     略



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