「裁判官分限裁判」の懲戒と「弾劾裁判」罷免・・クビ については皆さん日頃縁遠いので、よく知らないのが実情である。
裁判官の分限裁判は、地裁、家裁、簡裁の裁判官は各高等裁判所(五人の合議)が、高裁は最高裁(大法廷)が行う。
「分限裁判の懲戒」は、戒告もしくは一万円以下の過料しかないから、分限裁判で裁判官をクビにすることは出来ない。
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岡口裁判官は、分限裁判調査委員会への【陳述書】(平成36年6月19日)において、
長官・事務局長らから「ツイッター投稿を止めるよう」に1時間にわたって叱責された状況について次のように記載している。
私は東京高裁の長官室に平成30年5月24日、午前11時に呼び出され、
「ツイッターについて今すぐにやめなさい」
「君はツイッターと裁判官としての仕事のどちらが大事なのか」
(とても激しい剣幕で私に迫り私は何も言えなくなってしまいました
私がツイッターをやめますと口にせずに黙ったままでいると長官と事務局長は・・・)
「君がツイッターを止めなければ分限裁判にかけてクビにしてしまうぞ」
(と、私を脅し始めました、すると事務局長は・・・)
「君ね、今、長官がなにをおっしゃってるかわかってる?」
「君、さっきツイッターと裁判官としての仕事を比べると裁判官の仕事の方が大事だと言ったよね」
「でも分限裁判でクビになってしまったら裁判官の仕事は出来なくなってしまうんだよ」
「君、そういうことわかってるの?」
私は裁判官をクビにされてしまうと聞いて大変なショックをうけました。
(注・高裁の裁判官に対して、岡口君!ならともかく、君(きみ)!と呼ぶのだか
ら、裁判所・上下関係の怖い雰囲気はよくわかる)
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平成30年7月4日付の東京高裁事務局長の分限裁判調査委員会への「報告書」によると問答のセリフが異なる。(要約)
「前回の(ツイッターの)厳重注意から二ヶ月しか経っていないのに全く同じようなことをしている」
「裁判所全体としても重く受けとめざるを得ず、これからは分限裁判も含めて検討することになる」
「国会の関係なので分からないが、裁判官訴追委員会も動くかも知れない」
「わずか二ヶ月で裁判関係者を傷つける投稿を行っていることから同じようなことを繰り返さないためにはツイートを止めるしかないのではないかと考え、ツイートを止める気はないのか」
と述べた。
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裁判所側は、(国賠事件と同じで)「あと出し報告書」であるから
うまーく報告書をかいているが、
少くとも岡口裁判官を分限裁判にかける為に長官室に呼び出しているのだから、分限裁判では、一万円以下の過料と戒告しかなく、クビにすることは出来ないことは、長官も事務局長も重々承知していた。
ところが突然いかめしい長官室へ呼び出され、雲の上の長官らから「ツイッターをやめろ」といわれ動揺してしまった岡口裁判官は(遠回しに言われていることを順々と書けばよいのに)
「分限裁判にかけてクビにしてしまうぞ」と陳述書に書いてしまっている。
「要件事実」の権威も「分限裁判・陳述書の要件事実」記載については疎(うと)かったようである。 (注、痛恨の極みである)
(おそらく脅されたという被害者意識ばかりが強くて、分限裁判ではクビになることはないということを、そのときはよく知らなかったのであろう)
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しかし、
「ツイートをやめなさい。続けると分限裁判にかけられるよ」
「厳重注意処分や分限裁判が重なると国会の弾劾裁判でクビになるかもしれないよ」
こういう趣旨の言葉を,岡口裁判官がツイッターをやめると言わなかったことから,両名は1時間あまりも長官室でやめるよう迫った。
これは憲法で保証された「表現の自由」に反するものであり、「脅迫罪」「強要罪」「職権濫用罪」に当たるとして、私は高裁長官らを東京地検に告発した。(強要罪には未遂規定あり)
(義を見てせざるは勇なきなりと、勝手連で告発したもので岡口裁判官とはなんの連絡もとっていない)
「受理せよ」、「しない」、で東京地検から告発状が二度も送り返されてくるという展開で、抵抗はされたが、
結局告発は受理され、岡口裁判官は東京地検特捜部から丁寧な事情聴取をうけることになった。
(検察庁では、当時の記憶を呼び戻し、さすがに分限裁判によりクビになると言われたという供述はしなかったが・・)
事件は、起訴猶予ではない事由で不起訴とされた。
為に私は東京地裁刑事部へ不服の「付審判」の請求をした。
(文春、新潮の週刊誌をはじめ、弁護士ドットコムなどマスコミには仔細を逐次連絡し、東京、名古屋弁護士会で記者会見をやった。
しかし第一線の記者は取材するものの、結局はどこに忖度するのか、どこもデスクが取り上げず一切黙殺され、告発事件は報道されなかった。
東京テレビが熱心で、地検に受理されたら必ず取り上げると言っていたが結局おしゃかになった)
★東京地方裁判所・刑事4部合議の「付審判」では、
「長官らが分限裁判でクビにする」などと言うはずがない」
(陳述書と検面調書では変遷があるから、クビになるとおどされたことは信用しがたい)
「ツイッターを止めたらどうかは適法な監督権の範囲である」
と上手にかわされた。
“最初の陳述書がしっかり書かれていれば”・・・と悔やまれたしだいである。
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ところで岡口裁判官はそのあと市民らにより国会に弾劾裁判の申し立てをされ、現在訴追委員会が検討中である。
◆分限裁判による懲戒事由は
◆弾劾裁判による罷免事由は、
(裁判官の罷免を求め裁判官としての身分を剥奪するものであるから、分限裁判以上の・著しい・甚だしいという形容詞がついている)
- 著しい職務義務違反
- 甚だしい職務懈怠
- 裁判官としての威信を著しく失うべき非行
◆一般の国家公務員、地方公務員に対する懲戒は
ⅰ免職 ⅱ停職 ⅲ減給 ⅳ戒告
◆裁判官の懲戒処分は
ⅰ一万円以下の過料 ⅱ戒告
とされている。
裁判官の一万円以下の過料は一般公務員の減給と同レベルの処分であり、両者ともに戒告が一番軽い処分となっている。
公務員の免職、停職に相当する重い処分は「裁判官分限法」にはない。
その代わり弾劾裁判においては公務員の免職に相当する罷免が定められているのである。
国会の弾劾裁判による訴追請求は、何人でも出来るとされているが、裁判官を罷免させうる重大な非違行為があると思科される場合でなければならない。
(最高裁は二つの分限裁判でいずれも戒告どまりとしており、それ以上に国会への罷免請求はしていない)
「比例原則」からして、罷免と戒告処分では、天と地ほどの隔たりがある。
(弁護士会のⅰ戒告 ⅱ業務停止 ⅲ退会命令 ⅳ除名
と比べてみればわかる)
これまで裁判官訴追委員会が罷免の訴追をした事案は、ゴルフ道具の収賄や公務員職権濫用、児童買春、ストーカー行為、盗撮など犯罪行為に該当する明らかな違法事案であった。
今般の岡口裁判官のツイッター投稿行為は、犯罪行為でもなく裁判の公正さに疑義を生じさせるなどの行為でもない。
最高裁の分限裁判では、「品位を辱める行状にあたる」とされ,懲戒、戒告とされたが、
たとえば 弁護士が同じように
“え、あなた犬をすてたんでしょ?”
と ツイートした場合、弁護士法56条の「品位を失うべき非行」があったとして、弁護士会から懲戒をうけるだろうか? そんなことはなかろう。
いずれにしても岡口裁判官の私人としてのツイートは、
裁判官としての威信を著しく失うべき非行(裁判官弾劾法第2条2号)には、とうてい 該当するものではないから、
すみやかに不訴追の決定がなされるべきものである。
◆しかるに裁判官訴追委員会は令和元年3月4日に岡口裁判官の出頭を要請して聴取を行った。犯罪行為でもなく前例に照らしても罷免事由があきらかに存在しない本例では「裁判官への出頭要請」そのものが不当である。
この点、岡口弁護団は出頭後、多くのマスコミから取材を求められたが、訴追及び呼び出しが不当であることを理由に一切応じなかった。
しかしながらここで弁護団が「国会への裁判官呼び出しの不当性」を順々と訴えつつ、ツイッター投稿については、
「東京高裁長官がツイッターをやめろと強要した行為」に関して職権濫用罪、脅迫罪、強要罪という犯罪行為で東京地検に有志弁護士より告発がなされており、告発が東京地検に受理されて審理中であるが、これまでマスコミが無視して、全く報道されていないことは不公平だと力説すべきであった。
(注、権力とたたかう戦術とはそういうものである)
かの岩波書店から、「最高裁に告ぐ」を堂々と出版した岡口裁判官なら、
(得意のオレ言葉を使って)
「オレだけを悪者扱いするマスコミは不公平だ」とやれば、
マスコミは「東京高裁長官・告発事件」も大きく報道したであろうもので、
そうすれば「一点突破」で岡口事件の事態は変わった展開をみせたとおもわれ,非常に悔やまれるところである。