忍之閻魔帳

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【訃報】おおたか静流、69歳|手の届く距離で、心に触れる歌を

2022年09月07日 | 瓦版


【訃報】おおたか静流、69歳|手の届く距離で、心に触れる歌を


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【関連記事】畠山美由紀「わが美しき故郷よ」「歌で逢いましょう」を改めて聴く
【関連記事】「伝える花 / 二階堂和美」

「祈りを込めた歌」というものを生で聴いた経験が、人生で何度かある。
上手い下手の物差しではなく、表現力という言葉もしっくりこない。
無条件に心の中に真っ直ぐ入ってきて、優しく触れられるような感覚。
それは古謝美佐子の歌った「黒い雨」であったり、二階堂和美の「いのちの記憶」であったり、
畠山美由紀の「わが美しき故郷よ」であったり、私の年齢になってもそう多くはない。
声量や音域といった、カラオケの採点機なら満点をつけるパラメータ的な要素が
歌にとっていかに二の次であるかを知らしめる、神通力を持った人というのが
世の中には何人かいて、その中のひとりが、おおたか静流だった。
(*上に挙げた人々はもちろんパラメータ的な意味でも抜群に上手い。そこが重要ではない、という意味)

訃報を聞いてchoro club(ショーロクラブ)の沢田穣治氏のTwitterを見に行くと
追悼のツイートがされていて、ああ本当だったのだと思った。69歳。
松任谷由実や桑田佳祐など、現在活躍する大御所ミュージシャンと同じ世代で
割と精力的に活動されているイメージだったので今も少し信じられない気持ちでいる。

おおたか静流の代表曲といえば、世間一般では「花」になるのだろうが
私の中では「東北」だった。
以前に当BLOGでも少しだけ取り上げたことがあるのだが、再度紹介したい。

『東北』
作詞・おおたか静流
作曲・梅津和時

風の歌 ささやいて 名もない野花と遊ぶ
空を分け まっすぐに 山々は美しく
木漏れ日を浴びながら 日長 野を駆けめぐる
雨あがり 飛び込んだ 母の胸は優しく

思い出すふるさと
懐かしい あの笑い声
待ちわびた春に
聞こえてくる 君のうたが
夕暮れの帰り道 遊んで投げた石ころ
会いたくて 会いたくて 名前を 呼びつづける

夏祭り 水しぶき 川に浮かべた笹舟
身に染みる茜雲  散り咲いた花吹雪

思い出すふるさと
ちぎれるほど 手をふってた
遠い昼下がり
聞こえてくる 君のうたが

夕凪の砂浜で 声を枯らして歌ったね
会いたくて 会いたくて 名前を呼びつづける
会いたくて 会いたくて 名前を呼びつづける


3.11後に復興への願いを込めた楽曲で、
東北出身の梅津和時氏がメロディをつけ、おおたか氏が作詞を手掛けている。
メジャー流通には載せず、地道なライブ活動で歌い続け
支援金募集サイトで音源を売っていた(*2022年9月現在は販売終了)だけなので
認知度はそれほど高くないかも知れないが、これが実に素晴らしい。
YouTubeに貴重なライブ動画があったので紹介しておきたい。



私もこの歌を生で聴く機会が一度だけあった。
天六にある「大阪くらしの今昔館」で無料ライブを行うと聞き
「そんなところで?無料で?」と半信半疑で出かけると
先の沢田氏とキーボードを連れての三人編成という、無料とは思えない贅沢な編成だった。
しかも会場は広い座敷にお習字教室のような長テーブルだけがあり
好きなところに自由に座って良いというフリーダム過ぎるスタイル。
「くらしの今昔館」はもともと親子で歴史を楽しめるイベントをしているようなところなので
来場者の大半は親子連れで、ライブは「たまたまやっていたのでついでに」という雰囲気だった。
私のように「おおたかさんを聞きにきました」というファンはほとんどいなかったように思う。
ライブが始まっても子供達はわーわーとはしゃいだり泣いたりこれまた自由奔放だったが
おおたか氏はその様子を微笑みながら見守り、時に子供達に話しかけながら楽しそうに歌い続けた。
そこ(今昔館)で演ると決めた時点で、そうなることは予想できていたのだろう。
そして歌が進むにつれて、次第に興味を抱き始め、真剣に聴く子らが増えていった。
最後は小さな手を目一杯叩いて拍手喝采の子供らに満面の笑みで感謝を述べ、ライブは終了した。
未就学児童の入場はお断り、私語厳禁が当たり前のマナーだと思っていた私にとって
この日のライブは衝撃的で、今でも忘れられない体験のひとつになっている。
そんな空気のライブで披露されたのが「東北」で、私はその時まで全く存在を知らなかったため
帰宅してすぐにダウンロード購入した。今でも良く聴いている。

騒ついた会場をひとつに束ねる神通力と、誰もがつられてしまう幸せそうな笑顔。
手の届く距離で、心に触れる歌を歌い続けたおおたか氏の素晴らしさを、
もっともっと多くの方に知っていただきたかった。



おおたか氏でもうひとつ、是非知っていただきたいのが
川井憲次氏が手掛けた「NHKスペシャル 未解決事件」シリーズの
メインテーマになっている「ラビリンス」である。
こちらの曲に歌詞はなく、おおたか氏がスキャットを担当している。
私はこの番組がとても好きで、毎回必ず録画して視聴しているのだが
毎回鳥肌が立つほど興奮するのがこの曲が流れてくる場面だった。
「花」や「東北」の温かさもおおたか氏の魅力だが
こうした曲で披露されるダークサイドもまた、おおたか氏の表現者としての幅広さを表している。
底知れぬ不穏な曲の中に在っても、彼女の歌声はどこか鎮魂歌めいた響きを持っていて
改めて唯一無二の存在であったことを再確認させられる。

この何年か「この世代の人のライブには、行ける時に行っておかなくては」と
度々ブログでも書いているのだが、コロナによってその行動が制限されてしまい
またひとり、「いつかまた生で」と願っていた歌手が居なくなってしまった。
寂しい。またあの温かな歌声に生で触れたかった。

謹んでご冥福をお祈りいたします。



▼おおたか静流「おとづれ」を聴く(2022年9月18日追記)


*2022年5月8日発売のアルバム「おとづれ」ダイジェスト
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【関連記事】【訃報】おおたか静流、69歳|手の届く距離で、心に触れる歌を

「おとづれ」

音が無くなってしまった世界…
歌が忘れられてしまった世界…
ひとりぼっちで殺風景な毎日を過ごしていたら、
急に音が恋しくなって、
チリンチリンと鉦を鳴らしてみました。

そしたらナント、
懐かしい面々が次々にぞろぞろ現れてきて…
そんな妄想の中から、アルバムが生まれました。

「おと」が大切な何かを「つれ」てくる。
—そんな願いをこめて—


<収録曲>
 1. Dear Tree ~SORASHI~
 2. Saja Dream (映画「鉄塔武蔵野線」主題歌)
 3. 明日ハ晴レカナ、曇リカナ
 4. 水の恋唄 (NHK金曜時代劇「とおりゃんせ」主題歌)
 5. 悲しくてやりきれない (映画「シコふんじゃった」挿入歌)
 6. 夏を見ていた (アニメ「蛍火の杜へ」主題歌)
 7. 密会
 8. Toji La Maji
 9. ほしのこどもたち
 10. Aloha Oe

おおたか氏が今年5月に発売したアルバム「おとづれ」のCDが楽天からようやく届いた。
一時的に在庫切れになっていて、何度か「まだ入荷の目処が立ってない」とのメールが来ていたのだが
9月26日を手配期限としますとの通知が来た数日後に到着。良かった。

この素晴らしい歌声がもう生で聴けないのかと思うと悲しくてやりきれなくなり
3曲目の「明日ハ晴レカナ、曇リカナ」あたりで耐え切れなくなって少し泣いた。
アルバムタイトルになっている「おとづれ」の由来は、

「おと」が大切な何かを「つれ」てくる。

と、おおたか氏によって明かされているが
亡くなった今、このアルバムを聴いていると、同時におおたか氏が人生をかけて愛し続けた
「おと」を連れて旅立ったのだというようにも聞こえる。
「おとずれ(訪れ)」ではなく、「おとづれ(音連れ)」であること、
長らく闘病中であったとの話から察するに
このアルバムが遺作になるであろうことはおそらくご本人も想像ができていて
その覚悟でレコーディングにも臨んでいたはず。

最後から2番目に収録されている「ほしのこともだち」の歌詞には

うたわせて うみがあれるなら
うたわせて あめがやむまで
はれわたる よぞらのしたで
またあえるときまで


とあり、最後の曲は「Aloha Oe」である。

アロハオエの意味は「我が愛をあなたに」または「さようなら」を指す。
「アロハオエ」は愛しい人への別離を歌っているのだが
おおたか氏はこのメロディに

波にゆられゆられて 流れついた島の
今日は最後の宴 踊れ花よ風よ
Aloha Oe Aloha Oe ひと夜の出逢いこそ
Aloha Oe Aloha Oe 忘れないでいて

あなたを乗せた船は 何処へ行くのでしょう
明日は見知らぬ海へ 旅は続くのでしょう
Aloha Oe Aloha Oe ひと夜の出逢いこそ
Aloha Oe Aloha Oe 忘れないでいて


と歌詞をつけた。
最後の宴(レコーディング)を仲間と共に過ごし「忘れないで」と歌って
マイクを置いた彼女の心境を想うと寂しさに胸が詰まるが
「Aloha Oe」の歌唱は、どこまでも優しく美しい。
おおたか静流という歌手が、少なくとも数十年は私の人生と共にいたという奇跡に
「ありがとうございました」を贈りたい。

少しでも興味を持っていただけたなら、是非手にとっていただきたい。


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2 コメント

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Unknown (おおしまけんたろう)
2023-02-08 22:44:24
「手に届く距離で、心に触れる歌を」
おおたかさんにぴったりな言葉です。澤田穣治さんのツイッターであなたのブログの存在を知りました。
16歳の頃から30年おおたかさんの歌を聴き続けた者です。亡くなってからずっと想わない日はないです。あなたの追悼文にすごく慰められました。ありがとうございます。
私も「東北」を聴くと、胸が熱くなります。自分はまだ大切な故郷や大切な人を失った経験もろくにないのに。ライブで聴きたかったです。失った故郷や大切な人への思い、これがおおたかさんの大事なテーマの一つだったんですね。
おおたかさんの歌はなぜか腑に落ちるんです。「神通力」確かにそうです。いい例えかどうかわかりませんが、自分にとってはほとんど教祖だった気がしてます。
もっともっとライブでおおたかさんの思いに触れたかった、残念でなりませんが、おおたかさんの歌は今後の人生も豊かにしてくれると感じます。
同じ思いの人がいたのがうれしくて、ついつい長々と書いてしまいました。失礼しました。
おおしまけんたろうさん ()
2023-02-09 17:51:01
はじめまして。

沢田さんがTwitterで紹介してくださったことは
全く存じ上げませんで、何故か昨年9月に書いたこの記事に
アクセスが増えているので色々と辿ってようやく気づいたんです。
まさか沢田さんのお目に触れることになるとは思ってもみず
光栄やら嬉しいやら恥ずかしいやらで。

30年お聞きになられたんですね。
私もそのぐらいはおおたかさんの音楽に触れていますが
おおしまさんの愛情の深さがコメントからも伝わって
そんな方に慰められたと言っていただけて安堵しています。
こちらこそ、ありがとうございます。

作品は永遠ですから
私もこれからまだまだ、おおたかさんの楽曲を
人生の傍に置いて生きていこうと思います。

おおしまさんもどうか健やかにお過ごしください。

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