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忍之閻魔帳

ゲームと映画が好きなジジィの雑記帳(不定期)。
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映画『国宝』|可憐と業の狭間に、化け物は生まれる|【ネタバレあり】原作を使って物語の行間を補完してみる

2025年06月06日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


▼映画『国宝』|可憐と業の狭間に、化け物は生まれる



2025年06月06日公開■邦画:国宝

第69回芸術選奨文部科学大臣賞、第14回中央公論文芸賞を受賞した吉田修一の同名小説を、
「悪人」「怒り」など吉田作品の映像化を手がけてきた李相日監督が映画化。
幼くして父を亡くしたヤクザの息子が、余興で披露したパフォーマンスに
天賦の才を見抜いた歌舞伎役者の家に引き取られ、史上最年少で人間国宝を受賞するまでの
約50年に渡る人生を描いた波乱万丈の物語。
主演に「キングダム」「東京リベンジャーズ」の吉沢亮。
2020年頃から企画をスタートさせた李監督が
「吉沢が受けてくれなければこの企画は終わり」とまで見込んでのキャスティング。
吉沢と共に厳しい芸道を歩む御曹司役には「流浪の月」に続き2度目の李作品となる横浜流星。
その他の共演者は高畑充希、寺島しのぶ、田中泯、渡辺謙。
少年時代のキャストに「怪物」の黒川想矢、「ぼくのお日さま」の越山敬達と
将来有望な二人を揃えているのもさすがの李監督。
脚本は「しゃべれどもしゃべれども」「八日目の蝉」、アニメ版「時をかける少女」の奥寺佐渡子。
舞台美術は「キル・ビル」などのハリウッド作品も手がける種田陽平。
音楽は「流浪の月」「ロストケア」の原摩利彦、ボーカルゲストにはKingGnuの井口理。




配信中■audible:国宝 上 青春篇(ナレーション:尾上菊之助)
配信中■audible:国宝 上 花道篇(ナレーション:尾上菊之助)

吉田修一の原作小説は、軽妙な語り口を使い、
境遇の異なる青年の人生を「青春篇」「花道篇」の上下巻で描いた大長編。
ヤクザ者の息子・喜久雄と、伝統ある梨園の御曹司・俊介。
同じ年頃の二人がひとつ屋根の下で暮らすこととなり、兄弟・友人・ライバルとして
互いに切磋琢磨しながらスターへの階段を駆け上がっていく物語である。
恵まれた環境の秀才・俊介(横浜流星)と、恵まれぬ環境の天才・喜久雄(吉沢亮)という構図は
「ガラスの仮面」や「エースをねらえ!」を引き合いに出すまでもなく
頂点を目指して競い合うライバルを描く作品では定番中の定番で、この小説そのものが古典とも言える。
Amazonレビューで知ったのだが、本作のaudible版は尾上菊之助をキャスティングされており
本編終了後に劇中に登場する舞台を再現した尾上菊之助の「特別音声版」を収録されているとのこと。



原作を読み終えてから試写会に臨んだこともあり
十二単から七、八枚は減らしたかというほどの軽装で
駆け足に進むこの映画版も、脳内で補完しながら楽しむことが出来た。
しかしもし、未読で臨んでいたらどうだったろうかと考えると、
線を使わず、点と点のみを繋げた荒っぽい脚本では、
『国宝』という作品の全体像を理解するのは難しいのではないかと思う。
薄味になってしまった物語を補ってあまりある吉沢亮と横浜流星の、
それこそ血の滲むような努力をしたであろう女形(手先、視線、発声の全てが圧巻)の前に
希釈された物語までもが背景と化してしまった。
間違いなく俳優・吉沢亮の代表作として後々まで名を残すだろうが
歌舞伎のシーンが美しければ美しいほど、波乱に満ちた二人の生き様が覆い隠されてしまう皮肉。
演者のせいではなく、これは偏に本が悪い。

血を分けた自分より部屋子を選んだ父への嫉妬から
袂を分かった二人の人生が、紆余曲折を経て再び手を取り合う。
小説版「国宝」には、二人の人生を陰日向から支えた多くの人々の、様々な形の愛が描かれている。
物心ついた時から役者になることが決まってた俊介も、
荒くれ男達に守られて幼少時代を過ごした喜久雄も、
歌舞伎を取り上げれば何も残らない、舞台の上でしか「生」を感じられない生粋の芝居バカ。
だからこそ、二人の周りには甲斐甲斐しく世話を焼く人々が溢れている。
しかし映画版では、スポットライトは二人(しかも7割方が喜久雄)にしか当てられず
生涯をかけて芸を磨き続けた二人の「歌舞伎への愛」は十二分に伝わるも、
喜久雄のお目付役的な存在である徳次、喜久雄の育ての母・マツ、
喜久雄の子を産み育てる藤駒ら、原作では忘れ難い名脇役であった人物が、
映画版ではいないも同然の「その他大勢」へと格下げになっている。

グラビア映画になる寸前まで物語を端折ったことで
本作は「舞台裏にも少しだけカメラが入ったシネマ歌舞伎」として画期的な作品にはなった。
「こんな特等席(近く)で曽根崎心中を演る吉沢亮(横浜流星)が見られるなんて贅沢」と、
二人のファンならずとも、思わず溜息を漏らすほどの美しい姿を拝めるが
生憎これは「映画」なのであって「情熱大陸」や「映画館で見る歌舞伎」ではないのである。
3時間の尺に収めるにはこの方法しかなかったと言われればそれまでだが
ならばいっそ原作通りに「青春篇」と「花道篇」の前後編に分けるか、連続ドラマでやってほしかった。



半次郎(喜久雄)の光源氏には滲み出る色香が
半弥(俊介)の光源氏は青年の色欲が匂い立つ(原作より)


俊介が欲しかったものは喜久雄が持つ天性の色香であり、
喜久雄が欲しかったものは、どれだけ稽古を積んでも手に入らない血筋という看板。
血は水より濃くとも、芸道において血とは、優先される条件なれど絶対ではない。
花井半二郎(渡辺謙)が舞台に穴を開ける事故を起こした時、
代役として指名したのが、実の息子の俊介ではなく喜久雄だったことから
足並みを揃えて精進してきた二人の道は、それぞれに過酷な方向へと進み始める。
喜久雄の才能に嫉妬した俊介は、血筋に見合う結果を出せない己の力不足に苦しみ、
俊介を羨んでいた喜久雄は、姿を消した俊介の代わりに舞台も家も背負う覚悟を決める。
「水が澄んだ時こそ底の泥を見よ」の言葉通り、晴れやかな舞台には魔物が付き物。
二人を襲う数々の苦難は、芸を高めるための試練としてもあまりに過酷で
見ていて息苦しくなるほどだが、そこをくぐり抜けた者だけが見える景色というのも
あるのだろうと、血の涙を流しながら舞う二人の姿を見て想像するしかない。

雪景色の中でゆっくりと崩れ去った父の姿を見たあの日から、
人生の大半を舞台に費やしてきた喜久雄。
迫り上がる舞台から眼前に広がる客席の海は、客席からは絶対に見られない景色。
当代随一の女形に贈られる万雷の拍手は、白虎(襲名後の名前)を孤高の地位へと押し上げる。
歌舞伎界を背負い、前だけを見据えてひたすら芸に打ち込む姿は人を寄せ付けない。
月のうち二十五日を舞台で過ごし、残り五日で次の舞台の稽古と準備。
「舞台を降りること」を許されないまま過ごした五十年余の役者人生で手に入れた栄誉は、
彼を幸福にしたのだろうか。



【ネタバレあり】原作を使って物語の行間を補完してみる



三時間の長尺にも関わらず、映画版は拙速な脚本のために消化不良を起こしている部分が多い。
そこで、原作を読んだ私なりに(一部おぼろげではあるが)映画と小説の両方を思い出しながら
説明不足の部分を補完してみたい。
(*映画版のネタバレになる部分も含まれているため、読みたくない方はここで止めるのを推奨)

<万菊の散り際>

女形というものは、男が女を真似るのではなく
男が一旦女に化けて、その女をも脱ぎ去った後に残る形である


何と言っても書いておきたいのが、映画版では田中泯が演じていた万菊。
老齢に差し掛かりつつも現役で舞台に立ち続ける女形であり、
その妖艶さを目の当たりにした二人は

喜久雄「こんなもん、女ちゃうわ、化けもんや」
俊介「確かに化け物や、せやけど、美しい化け物やで」


と洩らしている。
映画ではところどころ登場し、その都度強烈な印象を残す万菊だが
小説版では復活後の俊介を引き取り面倒を見るなど
もっと大きな役所を担っている。
女形に人生をかけている二人にとって、万菊は手が届かないほど遠くで輝く巨星であり
いつか追い抜きたい偉大な先輩でもある。

映画版では万菊が余命幾許もないとの知らせが入り、喜久雄が会いに行くシーンが登場するが
試写会の帰り道に「万菊はなんであんな急に落ちぶれた生活をしてたんだろう」という声が
あちこちから聞かれた。確かに小説を読んでいなければ、多くの方がピンと来ないだろう。

万菊が安アパートで最後を迎えたのは、決して落ちぶれたわけではない。
生涯をかけて美しいものを追い続けた万菊だからこそ、長年の重責から放たれ、
「美しいものがひとつもない場所」、若かりし頃に過ごしたドヤ街を死場所と決めたのである。
関係者には何も告げず行方を眩ました万菊は、安宿で夜な夜な粗雑な男衆と酒を酌み交わし
程よく酔ったところで化粧もせず踊りを披露してはウケていたという。
ある日、前夜も遅くまで飲んでいた男たちが昼になっても起きてこない万菊を不審に思い
部屋を開けてみると、そこには美しく化粧を施した万菊が眠るように横たわっていたという。

<徳次>

徳次は、映画でも少年時代の喜久雄とともに冒頭の余興で共演しているが
原作小説では花道篇の最後まで出てくる重要人物である。
喜久雄の危なっかしさを知りながら、覚悟を決めたと見ればトコトンまで付き合い、
時に尻拭いをし、時に体を張って守り、盾となり鉾となり喜久雄をサポートする。
ヤクザ者の息子だからこそ、裏の力を借りずに解決したい喜久雄の生き様と、
それを理解する徳次との関係が描かれなかったことは残念。
俊介が無二の親友であるなら、徳次は血の繋がらない兄のような存在なのだが
徳次の筋の通し方が任侠道のそれであるために、映画では退場を命じられたような気がする。

<興行とスポンサー>

徳次の件と連動しているのだが、映画版では興行というものが
スポンサーの存在なくしては成り立たないことをほぼスルーしている。
この場合のスポンサーとは即ち反社組織であるが
小説版では時代の変化に対応し、形態を変え企業として生き延びている。
そしてそこで働くのが、映画版にも出てくる竹野である。

<竹野>

映画では三浦貴大が演じている竹野もキーパーソンのひとり。
出会った時には、希望した部署と違う歌舞伎に一ミリも興味を示さなかった竹野だが
舞台を観劇するごとに歌舞伎の世界に惹き込まれ、いつしか売れっ子のプロモーターへと成長する。
映画版では端折られていたが、喜久雄の前から姿を消した俊介を
地方巡業先で発見し、復活のお膳立てをしたもの竹野である。
出自や隠し子の存在を暴かれた喜久雄が舞台を追わされた時には、
「ヤクザ者の息子が実子を追い出した」という筋書きでマスコミに触れ回り、
喜久雄を悪者に仕立てることで俊介の復活を後押しした。
喜久雄の復活を手助けしたのもまた竹野であり、俊介と喜久雄の久しぶりの舞台共演や、
同じ題材を別の場所で上演させるという競演を仕掛けるなど、
竹野の手腕があってこそ歌舞伎界が盛り上がった場面がいくつも登場する。

<幸子とマツ、二人の母>

映画版では俊介の母親・幸子を寺島しのぶが、
喜久雄の母・マツを宮澤エマが演じているのだが
まだ少し出番のある幸子はさておき、マツは少年時代にほんの少ししか登場しない。
小説版では、境遇の全く異なる幸子とマツが、俊介と喜久雄のような母性のコントラストを見せている。
マツは喜久雄の実の母親ではなく、病弱な実母の身の回りの世話をさせるために
父・権五郎(映画版は永瀬正敏)が雇った家政婦であるが、
いつしか二人は恋仲になり、実母は二人の関係を知り認めた上で
「喜久雄を頼む」と言い残して亡くなる。
マツは喜久雄のことを本当の子供のように可愛がっており
半二郎のもとに送り出した後も、「向こうの家で肩身の狭い思いをしないように」と
組長を失って傾く組の台所事情をひた隠しにしながら毎月十分な養育費を送り続ける。
一方の幸子は、部屋子である喜久雄の才能を認めつつも、
我が子可愛さに俊介の失踪後は怪しげな宗教を頼ってしまう弱さも持っている。

<藤駒と綾乃>

見上愛が演じていた芸妓の藤駒と、喜久雄との間に生まれた娘・綾乃。
映画では藤駒はほとんど登場せず、娘の綾乃も終盤に登場して
積年の恨み言を喜久雄にぶつけるのだが、小説ではもっと親子仲について描かれてる。
隠し子だった綾乃のところには定期的に徳次が様子を見に訪れており
綾乃が出版社勤務になったのも本好きな徳次の影響である。
しかし喜久雄も決して悪い父親ではなく、満点はもらえないまでも
及第を取るべく何かにつけ心は砕いていた。
綾乃も藤駒もそれは承知していて、綾乃が結婚を決めた時には喜久雄に連絡を入れて
食事の場を設け、結婚相手の相撲取りと顔合わせもした上で
「半二郎の娘として嫁ぎたい」と式への出席を依頼している。
孫が生まれた時にも「七五三に付き合ってくれ」と連絡を入れており
映画版で描かれてるほど放ったらかしではなかったのだ。

<春江>

映画版で高畑充希が演じている春江は、喜久雄から俊介へと乗り換えた女性なのだが
映画版だけ見ると何故俊介の出奔に付き合うことにしたのかが良くわからない。
春江は長崎時代には喜久雄と付き合っており、お揃いの墨を入れ将来を誓い合う仲だったが
芝居に打ち込み高みへと上がって行く喜久雄に一抹の寂しさを感じてもいた。
そんな折、同じく寂しさを感じていた俊介に絆されて付いていったのは
情に厚い春江らしい決断でもあった。
俊介と全国を転々としている間に長男の豊生を授かるも
経済的に困窮していたこともあり幼くして亡くしてしまう。
竹野の力を借りて復活した俊介がほどなく糖尿病を発症し
片足切断との診断(原作では両足)を受けた時も気丈に支えようとするが
半狂乱となった俊介を受け止め切れず、耐えかねて喜久雄に助けを求める。
喜久雄・俊介・春江の三人は、男女の関係としては変化したが絆の強さは変わらないままだった。

<彰子>

映画版では森七菜が演じていたのが彰子。
映画では突然登場し、表舞台への復活を目論む喜久雄が
権力者の千五郎(中村鴈治郎)の力を借りるために色を仕掛けたように描かれている。
きっかけは確かにそうなのだが、小説版での彰子はそんなヤワな女性ではない。
ゆくゆくは喜久雄の個人事務所の社長にまで上り詰め、千五郎と喜久雄の和解の手助けもし
藤駒や綾乃とも懇意にする懐の深さもある。
出会いは下心だったかも知れないが、喜久雄も彰子を信頼しており夫婦仲は決して悪くない。

<一豊>

小説ではかなり重要な人物である一豊は俊介と春江の間に生まれた次男であり、
長男を早くに亡くした二人にとって何が何でも守りたい存在である。
俊介と一豊の親子同時襲名披露は、二十年前に父と喜久雄が立った舞台の再現であり
苦々しい思いが去来するが、その晴れがましい場の口上に、
俊介は喜久雄に並んで欲しいと頼む。
喜久雄はこれを二つ返事で受け、俊介は一豊の襲名を喜びつつ、
本来ならばその場にいるはずだった長男を思い舞台上で嗚咽する。

足の切断をし休業を余儀なくされた時にも
俊介は一豊を預かって欲しいと喜久雄に頼み、喜久雄は無事に育てて見せると約束を交わす。
喜久雄の厳しくも深い愛情を受けた一豊は、(途中色々とあれど)歌舞伎役者として成功を収める。

<喜久雄>

小説を読むと、喜久雄はあらゆる責任から逃れて人間国宝を手に入れたわけではないと分かる。
様々な人達の力を借りつつではあるが、誰も取りこぼさずに生き抜こうと必死に駆け抜けたように思う。
映画版では、全てを手放す代わりに成功を手にした男のように描かれているが
これはそんな単純な物語ではない。

それぞれの人がそれぞれの場所で一応の安息を手に入れたとわかったところで
役目を終えたと自覚した喜久雄は、「小さな水槽に閉じ込められた錦鯉が、広く澄み切った川を想像し、
空想の川に泳ぎ出すように」(小説より)劇場を出ていったのかも知れない。


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映画「We Live in Time この時を生きて」色褪せない想い出の中で生きる

2025年05月27日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


▼映画「We Live in Time この時を生きて」



若き天才シェフとして将来を嘱望されているアルムートと、妻と離婚したばかりで落ち込んでいるトビアス。
自由奔放に生きるアルムートと、石橋を叩いて渡るトビアスはある日運命的な出会いを果たし、
気がつけば共に暮らし、やがて愛娘を授かって三人家族となった。
しかし幸せな日々は長くは続かず、ある日、アルムートが余命幾許もない病に冒されていることが発覚。
残された時間を家族で一緒に過ごしたいトビアスと、与えられた時間で生きた証を遺したいアルムート。
価値観の異なる二人の姿を通して「限りある時間を、誰とどのように生きるか」を描くラブストーリー。
妻のアルムートには「ミッドサマー」フローレンス・ピュー、
夫のトビアスは「アメイジング・スパイダーマン」シリーズのアンドリュー・ガーフィールド。
脚本は「ベロニカとの記憶」のニック・ペイン。
監督は「ブルックリン」「ザ・ゴールドフィンチ」のジョン・クローリー。
製作総指揮には、名優ベネディクト・カンバーバッチが名を連ねている。


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あの日 あの時 あの場所で 君に会えなかったら 僕等は いつまでも 見知らぬ二人のまま
(*「ラブ・ストーリーは突然に」小田和正より)

シェイクスピアは「人生は選択の連続である」(「ハムレット」)と書いた。
かけがえのない家族、生涯の友、馴染みの店、人生の大切なパートナーである愛犬。
私たちは日々無数の選択をし、選択の結果が生む奇跡の中で生きている。
一瞬が一日を作り、一日が折り重なって一年になる。
あの日の映画を見ていなければ、あの日一本早い電車に乗っていたら、
あの日ペットサロンに立ち寄らなければ、今の私はここにいないかも知れないし、
見知らぬ土地で見知らぬ人と暮らしていたかも知れない。

この映画は、無数の奇跡をくぐり抜けて出会い、「二人」になった一人と一人の物語である。
子を授かり三人家族になった瞬間に訪れた試練はあまりにも過酷なものだった。
限りなく勝率の低い闘いを前に、それでも立ち向かうか、有意義な時間を過ごすか。
三人で過ごした時間はまだあまりにも短い。
夫は少しでも多く三人の思い出を刻みたいと願い、余命を宣告された妻は
残された時間の中で「最高に輝いているママ」を子に見せたいと願った。
二人の選択はきっとどちらも正しい。
映画は「あなたならどうですか?」とずっと問いかけてくる。
治療法の選択や家族の心得について、私も過去に似たような経験をしているだけあり
アルムートの怒りや焦りも、「自分が泣いてはいられない」と
必死に笑顔を作るトビアスの苦しみもよくわかる。

記憶とは気ままなもので、印象深い想い出や最高の瞬間を特別扱いするように出来ている。
この映画も同様に、二人の歴史を時間軸を交錯させながら走馬灯のように描いている。
初めのうちは面食らったが、思い出とはお行儀よく時系列順に蘇るものではないことを表す
効果的な手法であると段々わかってくる。
出産手前の二人、告知を受けた時の二人、出会った頃の二人、、、
トビアスとアルムートにとって、人生で最も濃密だった数年間の記憶が
次から次にシームレスに描かれるのは、きっとこの映画がトビアスの記憶に基づいた
「娘に聞かせるお母さんとの話」だからなのかなと私は解釈した。

亡くなった人との想い出は増やすことが出来ない。
だからこそ、アルムートは「あの時のお母さんカッコ良かったよね」と
自分のいなくなった後の世界で二人に思い出してもらいたかったのではないか。
現実的に側に居られないなら、せめて記憶に棲みたいという切なる願い。
卵を割る時のコツは、トビアスにとってはアルムートとの大切な思い出であり、
娘にとっては、これから刻まれていく父との思い出のひとつになる。
娘の中で、確かにアルムートは生きていくのだ。

「泣ける感動作」然とした演出ではないので
さぁ泣くぞと思って劇場に足を運んだ方は拍子抜けしかねないが
時間が経つほどに、しみじみと余韻が胸に広がる良作。
(私の中では、そろそろ人生のベスト20入り目前)

映画「We Live in Time この時を生きて」は2025年6月6日公開。



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▼今日のエンディング・特別編


Jess Glynne - Hold My Hand [Official Video]


「We Live in Time この時を生きて」は、フローレンス・ピューの芝居が節々に
バイセクシュアル、またはパンセクシュアルを匂わせているのは冒頭から気づいていたのだが、
アルムートが同性の弟子と単なる師弟関係を超えた強い信頼関係で繋がり、
ついに国を背負っての大会に出場した時、入場のシーンで流れたのが
ジェス・グリンの世界的大ヒット曲「Hold My Hand」だったことでストンと胸に落ちた。
(ジェス・グリンは2015年にバイセクシャルであることをカミングアウト済み)
映画の中でアルムートのセクシャリティについて語るシーンはワンカットも出てこない(こなかったと思う)が、
性自認について敢えて触れないことで「改めて問うまでもないこと」とのメッセージを含ませ、
トビアスとアルムートの二人の物語として描き切ったことが素晴らしかった。
「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」でマイノリティを演じた
ベネディクト・カンバーバッチが製作に加わっているのも、本作の物語に何かしら感じるところがあったのかも知れない。

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【Maxxxine マキシーン 公開記念】「X エックス」「Pearl パール」3部作のこれまでを振り返る

2025年05月22日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


▼【Maxxxine マキシーン 公開記念】「X エックス」「Pearl パール」3部作のこれまでを振り返る



純粋で残虐なヒロイン・パールの人生を描くタイ・ウェスト監督の三部作が
2025年6月6日公開の「Maxxxine マキシーン」でいよいよ完結する。
1918年の少女時代(「Pearl」)から1979年の老婆(X エックス)まで
約70年に渡るパールの人生と、1作目で起こる事件の唯一の生き残りである
女性・マキシーンの二人の物語をミア・ゴスがひとりで演じきる話題作。
時系列では第1作目の「X エックス」が1979年、2作目の「Pearl パール」は1918年、
3作目の「Maxxxine マキシーン」は「X エックス」の6年後、1985年のロサンゼルスが舞台となっている。
狂気と愛に彩られたパールの人生は、どんな形で幕を下ろすのだろうか。



▼映画「X エックス」3部作の第1作目は、続く「Pearl パール」への導線として完璧



1970年代のテキサスを舞台に、タイ・ウェスト監督が贈る3部作構成のホラー第1弾。
AV撮影のために田舎の農場を訪れた男女6人が殺人鬼に襲われる
スラッシャームービーのお手本のような展開を、往年の名作へのオマージュを盛り込みながら描く。
主演は「ニンフォマニアック Vol.2」「サスペリア」のミア・ゴス。
共演にジェナ・オルテガ、マーティン・ヘンダーソン、ブリタニー・スノウ、スコット・メスカディ。
私の大好きなA24制作。


配信中■Amazonプライム:X エックス
配信中■Amazonプライム:Pearl パール

事件は1979年に発生する。
1974年に「悪魔のいけにえ」、1977年に「サスペリア」、1978年に「ゾンビ」、1980年に「13日の金曜日」と
花盛りとも言える1970〜80年代の名作ホラー群が当時の若者に与えた影響は大きい。
(私が大林宣彦監督の「HOUSE ハウス」の洗礼を受けたのも1977年だった)
「悪魔のいけにえ」が始まったのかと思うほどコンパチな冒頭の車中シーンから
まんま「シャイニング」なカットまで、映像面でのオマージュも相当な数だが
当時の世相を反映した台詞もたくさん出てきて、目にも耳にも懐かしい古典ホラーの佇い。

PCもDVDもアダルトコンテンツが初期の普及を牽引したように
本作でもストーリー性のあるアダルト映画で存在感を示そうとする若者たち。
時に道を踏み外す(身体を合わせる相手をパートナーにこだわらない)こともあれど
快楽の追求に素直で奔放な彼らを、少し遠くから見つめている老夫婦。
心臓を悪くし、もうかつてのように妻を抱くことのできなくなった夫と
まだまだ愛されたいと願う妻の行き場のない欲望との温度差は広がるばかり。
若さを武器に生(性)を謳歌する若者への羨望は、いつしか嫉妬に変わり嫉妬は憎悪へと移行する。

事件の成り行きだけを記録としてまとめれば、本作はいわゆるシリアルキラーものであり
凶行に及ぶ老婆パールの形相はジェイソンからエスターまで
ホラー映画の歴史で数多登場した名物キャラクターと比較しても遜色ないインパクトを持っている。
しかし、私はこのパールの姿を単なる『キ印婆さん』として面白がることは出来なかった。
それは、若者に嫉妬し、やり場のない疼きに耐えながらも
求める相手を夫以外に向けなかった純粋さが根底にあるからかも知れない。

もう随分と前の話だが、60代から70代ぐらいまでの女性に囲まれて食事をする機会があった。
私以外に男性がいなかったということもあるのだろうが、話題に上がるネタのほとんどは色恋についてで
全国を旅をする一座の花形に惚れ込んで、給料を全てつぎ込んで追いかけている話、
同じ飲食店で働く一回り以上年下の若い板前と不倫関係に落ちた話など
その場にいたメンバーが次々とコイバナに花を咲かせていたとき
一番物静かで一番の年長者だった70代後半の女性が
「私は夫しか知らないからそういった話はないの。でも先週も夫としたわ」と破壊力抜群の爆弾ネタを投下し、
メンバー全員が「ええええええ!羨ましい!」と叫びにも近い声をあげたのを覚えている。

日本人は特にその傾向が強いように思うが、年を重ねるとパートナーを求めることが
「ありえないこと」になってしまう。しかしパールは違う。
心臓のことは心配だが、それでも叶うのであればもう一度夫と...と願っている。
そして本作は、パールの願望や老夫婦の行為を、おそらくは意図的に「醜いもの」として描いている。
爺さんと婆さんのセックスシーンなんてそれだけでホラーだろ?と言わんばかりの演出をしているが
不思議なことに私はこのシーンを、なんだか少し感動的な気持ちすら抱きながら見ていた。

若い女性を羨み妬むあまりに武器を手にとったパールと、パールのようになりたくない若い女性マキシーン。
パールが「彼女だけは特別」と語ったマキシーンは、セクシャリティを売りにする仕事に就いている
薬物使用の常習者という、世間的には「堕ちた生活を送る女」なのだが
本人はそういった声を聞いてか聞かずか「私はセックスシンボルだ、私は素晴らしい」と鏡に向かって言い聞かせている。
マキシーンがパールを忌み嫌うのは、このままの人生が続けば自分の行く先はパールだと悟っての
拒否反応だったのかも知れない。そしてパールは、マキシーンの中に昔の自分を見ているのだろう。
敵対しながらどこかで通じてしまっている二人の結末は予想通りではあったが、やはり少し哀しかった。

唯一の難点は2時間弱の尺で前半の1時間はほぼ何も起こらないこと。
これはラース・フォン・トリアーの「ドッグ・ヴィル」あたりを意識した
スローペースな種撒きと私は解釈したが、序盤からテンポ良く絶叫が入る
近代ホラー映画を期待していると、ちょっと退屈に感じてしまうかも知れない。
ただ、この序盤があってこその後半なので、オマージュを見つけるなど楽しみを見出しつつ
途中でリタイアせず最後までご覧いただきたい。



▼映画「Pearl パール」純情愛情過剰に異常



シリーズ2作目の「Pearl パール」は、1918年に時代を巻き戻して
要介護の父と厳格な母と共に農場で暮らしていた、若かりし頃のパールの物語。
結婚したばかりの夫が戦地へと旅立ち、田舎でのルーティーンに辟易していたパールは
都会への憧れだけが膨らみ続けている。
そんな彼女の元に、各地を回るツアーに出演するダンサーオーディションの話が舞い込むのだが...。


配信中■Amazonプライム:X エックス
配信中■Amazonプライム:Pearl パール

パールの奥底に眠る純粋無垢な狂気の根元が描かれるエピソード0だけあり、
他罰的思考に基づいた凶行(だってあなたが●●したのだから仕方がないでしょ)がより鮮烈。
なんの躊躇もなく人に刃を向ける直情型のパールだが、その言動の節々からは
戦争とスペイン風邪に挟まれ、一度きりの青春時代を浪費せざるを得なかった時代が生んだ
モンスターなのではと思わせる悲しみが染み出していて、やはりどうしても憎みきれない。
「X エックス」にも出てきた「私たちが探しているのはXファクター(特別な才能)なのだ」という言葉を
審査員が口にした時、この3作に渡る壮大なサーガが
「私は特別なはずだ」と信じながら、それを認めない世の中に苦しみもがく
二人の女性の物語であることに気づかされる。
若い日のパールに映写技師の男にポルノを見せ「いつか大衆が求める日がくる」と予言し、
数十年後にポルノ女優であるマキシーンが目の前に現れたのも、
パールがマキシーンを「あの子は私に似ている」と言っていたのも
ミア・ゴスが二役を演じているのも、全て計算づくなのだ。恐るべしタイ・ウェスト。

ミア・ゴスはパールを「理解不能の狂人」にはしたくなかったのだと思う。
歴代のホラー映画に登場するシリアル・キラーは、ほとんどの場合感情がない。
しかしパールは、子供のように声をあげて泣くし、一度きりの過ち(不貞)を悔いているし、
熱意と努力だけでは手に入れられない夢のチケットを手にした友人を妬ましく思っている。
彼女を苦しめる自責の念や悲しみは、誰しも経験のあることばかりだ。
長い長い独白のシーンや、喜怒哀楽をごちゃ混ぜにしたエンドロールの視線からは
抑えたくても抑えられない感情に自分自身も苦しんでいるのだという
パールの心の叫びが込められているように感じた。

(この書き方が妥当かはわからないが)「まともな世界」と「まもとじゃない世界」は
薄い扉一枚で隔てられていて、人間関係や職場環境など様々な要素が絡み合った時に
簡単に破られてしまう。人が凶行に及ぶきっかけなど、いつだって些細なことなのかも知れない。



▼映画「Maxxxine マキシーン」2025年6月6日公開



数々の名作ホラーへのオマージュを込めた作品だからなのか、公開日がオーメンっぽく6月6日というのも面白い。
1985年、ハリウッド。
6年前の事件(1979年の「X」での殺人事件)で唯一生き残ったマキシーンは
ついに主演の座を射止め、ポルノスターからハリウッドスターへの階段を上ろうとしている。
しかしそんな彼女の元に、謎の連続殺人鬼や、彼女の過去を探る私立探偵、FBIまでもが立ちはだかろうとしていた。
3作かけてパールとマキシーン二人の人生を駆け抜けたミア・ゴスはオスカーものの大奮闘。




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2025年5月現在、「X エックス」はAmazonプライムビデオ、Huluで見放題配信中。
続編の「Pearl パール」はAmazonプライムビデオ、U-NEXT、Huluで見放題配信中。




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【最新作公開記念】映画「パディントン」の素晴らしさを知って欲しいので1・2をまとめて紹介

2025年05月05日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


▼【最新作公開記念】映画「パディントン」の素晴らしさを知って欲しいので1・2をまとめて紹介

世界中に溢れる「kawaii」の中でもトップクラスの可愛さを誇る
パディントンの最新作がいよいよ2025年5月9日より公開。
前2作も好みど真ん中だった私は「とにかく見て!」とあちこち布教活動をしていたのを思い出す。
しかし「2」ですらもう7年前と知り、シリーズ未見の方も増えてきたはずなので
公開目前の応援企画として、過去2作の公開当時の紹介記事を1本にまとめて以下に再掲する。(一部加筆・改稿済み)
シリーズ初心者の予習と、シリーズファン向けの復習に役立てていただければ。



▼1年分の”可愛い”を凝縮した映画「パディントン」(2016年1月)


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マイケル・ボンドの児童小説を実写映画化した家族向けのコメディが「パディントン」。
人間の言葉を話す紳士的なクマを主人公にした心温まる作品で
出演はヒュー・ボネヴィル、サリー・ホーキンス、ジュリー・ウォルターズ、ジム・ブロードベント。
パディントンを剥製にせんとする悪役にはニコール・キッドマン。
パディントンの声には「007 スペクター」で一躍世界からも注目されたベン・ウィショー。
日本語吹き替え版では松坂桃李が担当している。

私ぐらいの年齢になると「kawaii」に対するアンテナ感度は鈍くなっていて少々のことではビクともしない。
むしろ見え透いた手段で「kawaii」を多用した作品を観ると不快感を覚えるぐらいに歪んでいる。
そんなひねくれ世代を取り込むには、毒舌xテディ・ベアの「テッド」のような変化球が有効だった。
真っ直ぐ飛んで来る「可愛い」をしっかりと受け止めるには、私は歳をとり過ぎたとばかり思っていた。

どうしてくれようか、このパディントンの可愛さ。

一挙手一投足、全てが「kawaii」に満ちている。
両手の指をしっかりと組み、瞳に星を散りばめながら
「可愛いぃー!」と言ってしまいそうなほどの愛らしさに開始5分でノックアウトされてしまった。
なんだこの生き物は。
最新技術がパディントンの可愛さ増幅のためだけに注がれていて、眺めているだけで幸福感に包まれる。

同じ人間の言葉を話すクマでも、「テッド」は「ブライズ・メイズ」や
「ハング・オーバー」に繋がるアメリカ製の笑いであり、
「パディントン」は「ペネロピ」や「ミス・ポター」のラインに属するイギリス製の笑い。
どちらのタイプが好みかは個人差によるもので優劣はないが私の好みは圧倒的に後者である。

ファミリー向けの作品と思わせておいて、家の壁に描かれた桜の木や
ハットに隠された秘密とサンドウィッチ、姉が語学力に長けていることや
父親の職業まで全てに伏線があり、わずか90分ほどの本編でそれら全てを回収する脚本。
家族全員が絶妙な連携プレーを見せつつ、ひとりひとりにきっちり見せ場まで用意されては
ブラッド・バード(「Mr.インクレディブル」)も形無しであろう。
ディズニーとしても、アトラクションを映画化した「カントリー・ベアーズ」が
この監督とならもっと上手くやれたのにと歯ぎしりしているに違いない。
この脚本は一体誰かと調べてみたら、何と監督と兼任だった。
ポール・キングの名は今後しっかりと覚えておかなくてはならない。

パディントンの愛らしさを増幅させる最終兵器はベン・ウィショー。
彼の持つ繊細さ、そこはかとなく漂う品格、茶目っ気がパディントンと重なって
屈指の名キャラクターに押し上げたことは間違いない。
やり過ぎなほどの悪戯やミステイクを笑って許せてしまうのは、彼の穏やかな声色があればこそ。
日本語吹き替え版は観ていないのだが、松坂桃李はいいところから持ってきたなと思う。
時間があれば吹き替えでも観てみたい。

大の大人をも悶絶させる「パディントン」。
実写もアニメも含めた「しゃべる動物の映画」の中でもトップクラスの出来映え。
赤い帽子と青のダッフルコートを着たクマが、まだ始まったばかりの
2016年の「可愛い」を1年分先取りしてしまった。
デートムービーとしてはもちろん、同性の友達同士でも、ファミリーでもどんと来い。
ありとあらゆる組み合わせで楽しめる傑作だ。

映画「パディントン」は2025年5月現在、Amazonプライムビデオ、U-NEXT、Netflix、Hulu、TELASAで見放題配信中。



▼映画「パディントン2」観た人全てを幸せにする魔法(2018年1月)


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2016年公開映画で「忍的カワイイ大賞」を受賞した映画「パディントン」の続編。
人間の言葉を話すパディントンが活躍するコメディで、『良心の塊のようなテッド』とも言うべき心温まる作品。
ロンドンでの生活にも慣れ、街の住民達とも交流を深めていたパディントンが
思わぬ犯罪に巻き込まれ投獄されてしまう展開。
パディントンの声は引き続きベン・ウィショー(松坂桃李)。
他の出演者はサリー・ホーキンス、ヒュー・ボネヴィル、サリー・ホーキンス、
ジュリー・ウォルターズ、ジム・ブロードベント。
落ちぶれたスターを演じるのはヒュー・グラント(斉藤工)。
強面のシェフにはブレンダン・グリーソン。監督は引き続きポール・キングが務める。

前作は私の好みど真ん中だったので、続編に対する期待は半端なかった。
それでも、本作はその期待に120%応えてくれた。
いや、150%ぐらいかも知れない。いやいや、200%か。
『映画を観る』ことの効能が『幸せな気分になる』だとすれば
本作を超えるものはディズニー作品でもなかなか見当たらない。
この年のおっさんが薄暗がりの劇場で「あはは」と声を出して笑い
ハンカチを取り出すほど泣ける映画など、年に何本もは巡り会えない。
「トイ・ストーリー2」も感動した。
「ベイマックス」には興奮した。
「ズートピア」には舌を巻いた。
しかし、「パディントン2」は全部入りである。

パディントンの愛らしさは言わずもがな、嬉々として悪役を演じるヒュー・グラントがいい。
落ちぶれたスターのフェニックス・ブキャナンはヒューを当て書きして生まれたキャラクターらしく、
台本を受け取った彼は大笑いしながらオファーを快諾したという。
その”ノリノリ”な空気が、役柄をさらに魅力的にしている。

好きなところを挙げ始めるとキリがないのだが、「パディントン」シリーズが素晴らしいのは
人を説得したり改心させたりしないことだ。パディントンはいつも人に「寄り添う」。
どんなに嫌がられても疎ましがられても、人間を信じている。
欲望や裏切りで荒んでしまった心の壁を叩き割るのではなく
ぶ厚いドアの向こうから、光が射すまで何度も語りかけるのである。
つぶらな瞳で、「僕があなたが大好きです」と伝え続けるのだ。
アメリカ的な解決法は「悪い奴には死を」だが、パディントンは決して厳罰を望まない。
自分に降り掛かった困難が解決すれば、あとは全て許してしまう。
彼の寛容さを見習わなければならないのは、私達人間の方だろう。

前作から凝っていた映像のセンスはさらに磨かれて最早アートの域。
おばさんを連れて飛び出す絵本のロンドンを旅するシーンはミシェル・ゴンドリーも真っ青のファンタジーで、
追走劇におけるカット割やテンポ、色使いはウェス・アンダーソンを彷彿するスマートさ。
さらっと見るだけでも楽しいが、細かく見るほど大人の鑑賞に耐えうるセンスと技術が詰まっている。

冒頭とエンディングを繋ぐシナリオ運びの上手さといい
最初から最後まで加点要素しかないので減点のしようがない。
日本でのオープニング興収は土日の2日間で動員9万3000人、興収1億1700万円で4位だったと聞く。
有り得ない。喰わず嫌いならぬ観ず嫌いが多過ぎるのではないか。
本気で言うが、本作は50億クラスのヒットでも何ら不思議ではない。

映画「パディントン2」は2025年5月現在、Amazonプライムビデオ、U-NEXT、Netflix、Huluで見放題配信中。



▼最新作「パディントン 消えた黄金郷の秘密」2025年5月9日公開



2025年05月09日公開■洋画:パディントン 消えた黄金郷の秘密

そしてシリーズ最新作が今週末より公開。
育ての親であるルーシーおばさんに会うために、ブラウン一家の家族旅行も兼ねて
ペルーに帰ってきたパディントンが、懐かしの故郷で思わぬ大冒険に巻き込まれる様子を描く。
パディントンの声は引き続きベン・ウィショー。
共演にはヒュー・ボネヴィル、ジュリー・ウォルターズ、ジム・ブロードベントなど続投組に加え
本作よりアントニオ・バンデラス、オリヴィア・コールマンが参加。
監督は本作が長編デビューとなるドゥーガル・ウィルソン。
7年振りでもベン・ウィショーが声を演ってくれたことは嬉しい。


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【ウィキッド ふたりの魔女 公開記念】映画「ジュディ 虹の彼方に JUDY」ステージでしか生きられなかった大スター

2025年03月03日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


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▼【ウィキッド ふたりの魔女 公開記念】映画「ジュディ 虹の彼方に JUDY」ステージでしか生きられなかった大スター



全世界で愛され続けている名作小説「オズの魔法使い」に登場する
悪い魔女・エルファバと善い魔女・グリンダを主人公にしたミュージカルを
映画化した「ウィキッド ふたりの魔女」が2025年3月7日より劇場公開される。
梅田の四季劇場で劇団四季版の生の舞台を観て圧倒されてから早何年経っただろうか。

幾度かの実写映画化、アニメ化もされている「オズの魔法使い(オズの魔法使)」だが
1939年のミュージカル映画「オズの魔法使」で主役のドロシーに抜擢されてアカデミー子役賞を受賞し
一躍スターになった伝説のミュージカル女優ジュディ・ガーランドを題材にした伝記映画があるのをご存知だろうか。
今回は、【ウィキッド ふたりの魔女 公開記念】として
2020年に公開された映画「ジュディ 虹の彼方に JUDY」の紹介記事を元のアメブロ版に加筆・改稿して再掲する。



「ブリジット・ジョーンズの日記」シリーズで人気女優となり
「シカゴ」「コールドマウンテン」「ミス・ポター」など演技派としての魅力も開花させた
レネー・ゼルウィガーが伝説のミュージカル女優ジュディ・ガーランドの晩年を演じた伝記ドラマ。

「オズの魔法使」でハリウッド・スターの仲間入りを果たすも、金に取り憑かれた大人達の思惑によって
ショー・ビジネスの世界で肉体も精神もギリギリまで追い込まれ、
47歳の若さでこの世を去ってしまったジュディ・ガーランドの知られざる晩年を描く。
監督は舞台演出家であり、映画は本作が2作目の長編となるルパート・グールド。
レネーは本作でアカデミー賞の主演女優賞も獲得した。

1968年。
「オズの魔法使」で輝かしい成功を収め、大スターとなったジュディ・ガーランドも今では47歳。
若かりし頃より薬漬けの生活を送っていたジュディの体はもはやボロボロだった。
睡眠障害とアルコール依存により、約束事を守ることができなくなった彼女に
オファーが届くはずもなく、寂れた小屋を回っては日銭を稼ぐ生活を送っていた。
愛する二人の子供を連れての巡業暮らしも限界に達し、止むを得ず元夫に預けたことでいよいよ独りきりになってしまう。
そんな彼女の元に、起死回生のチャンスとなるオファーが舞い込んだ。
未だ人気の根強いロンドンで長期公演に出ないかと言うのだ。
子供と別れ、単身で渡英したジュディは再び輝きを取り戻すことができるのだろうか。




歴史に名を残す大スターは短命なことが多いが、
ジュディ・ガーランドの場合は破天荒な生き方故の早逝というより「ショービズが殺した」と言った方が近いのかもしれない。
17歳でドロシーを演じ世界のアイドルとなったジュディは丸一日の休みどころかゆっくりと眠る時間すら与えられず、
肥満防止のため当時ダイエット薬として使用されていた覚醒剤(アンフェタミン)を常用する生活を送っていた。

薬を飲んではステージに立ち、少しで良いから眠らせてくれという
ささやかな願いすら却下されながら疲弊していったジュディは幾度もの自殺未遂を繰り返し、
やがて大手スタジオは使い捨てのボロ雑巾のように彼女を突き放した。
ジュディが生涯で5回もの結婚と離婚を繰り返したのは、絶望から救い出してくれる強い光を求め続けた結果なのだろう。
重度の薬物依存だった彼女を丸ごと受け止める度量の男などそうそう見つかるはずがない。

本作では、国内で活躍の場を失ってしまっていたジュディが
単身で訪れたロンドンで、人生最期の輝きを取り戻した瞬間を映画化している。
千載一遇のチャンスですらフイにしてしまいそうな彼女を粘り強く支え続けるスタッフ達と、
ふとしたきっかけでジュディと親交を持つひと組のゲイカップル。
2019年末の紅白でMISIAのステージ上を飾ったレインボーフラッグは
「オズの魔法使い」でジュディが歌った「虹の彼方に」から着想を得たと言われているそうだが、
なるほど確かにこのカップルが物語に絶妙なアクセントを加えている。

ジュディはステージ上でファンと語らう時が一番楽しそうだった。
遊びたい盛りに仕事を覚え込まされ、最初はそれが強制であったはずなのに
いつしかそこ(ステージ)でしか生きられなくなっていたのだと思う。(それを象徴するような回想シーンもある)
ステージを降りたところで、手にするのは薬かアルコール。
信頼できるパートナーもなく、愛する我が子すら手から離れてしまった彼女は
ステージでファンと交流することでかろうじて生き長らえていたのかも知れない。

伝記ドラマとして見れば、至極まっとうな作りで特段の面白味はない。
気難しさで言えばマリア・カラスの方が厄介な人に思えるし、
命を削りながら歌う、鬼気迫る生き様はエディット・ピアフの方が上だ。
しかし、だからこそ私はジュディを愛さずにいられない。
最期までささやかな幸せを追い続けた、幼子のように笑うジュディを抱きしめたくなる良作。


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2025年03月07日公開■洋画:ウィキッド ふたりの魔女

全世界で愛され続けている名作小説「オズの魔法使い」に登場する
悪い魔女・エルファバと善い魔女・グリンダを主人公にしたミュージカル映画「ウィキッド ふたりの魔女」は3月7日公開。
善と悪、何もかもが対照的なエルファバとグリンダが友情を育み、袂を分かつまでを2部作で描く。
主演は「ハリエット」のシンシア・エリヴォと世界の歌姫アリアナ・グランデ。
共演にジョナサン・ベイリー、ミシェル・ヨー、ジェフ・ゴールドブラム。
監督は「クレイジー・リッチ!」「イン・ザ・ハイツ」のジョン・M・チュウ。


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映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』先駆者に苔は生えない&お薦めのミュージシャン伝記映画まとめ

2025年02月27日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


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▼映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』|先駆者に苔は生えない



1960年代の米ニューヨークの街角に彗星のごとく現れた若干19歳の天才ボブ・ディラン。
ギターを片手に次々と名曲を生み出し、時代の寵児としてスターダムを駆け上がっていくディランを
「君の名前で僕を呼んで」「DUNE/デューン 砂の惑星」のティモシー・シャラメが演じる伝記映画。
本年度のオスカーでも作品賞・監督賞・主演男優賞・助演男優賞・助演女優賞など8部門にノミネートされている。
共演にはエドワード・ノートン、エル・ファニング、モニカ・バルバロ、ボイド・ホルブルック、ダン・フォグラー、
ノーバート・レオ・バッツ、スクート・マクネイリーなど。
監督は「フォードvsフェラーリ」のジェームズ・マンゴールド。



ディランのアルバムを1枚も持っていなくても、彼の書いた曲は世界中の誰もが耳にしたことがあるだろう。
本作は、年齢性別国籍を軽々と飛び越えて心を掴む名曲をいくつも生み落としてきたボブ・ディランが
アメリカの音楽シーンに登場した1961年からの数年間を追ったもので、
50年以上に渡る彼のキャリアで言えばほんの序章に過ぎない。
ミュージシャンの伝記ドラマの多くが数十年間の出来事を2時間ほどにまとめた走馬灯方式で作られるが
本作はデビューからの数年に焦点を絞ることで、ディランの登場が当時の音楽シーンに与えた
インパクトの大きさを強く印象付けている。

類い稀な音楽センスを持った天才の登場に興奮を抑えきれないフォークシンガーのピート・シーガー(エドワード・ノートン)や
既に確固たる地位を築いていた女性フォークの旗手ジョーン・バエズ(モニカ・バルバロ)らを巻き込み
フォーク界の新星として祭り上げられる展開は非常にドラマティック。
当時ディランと交際していたスーズ・ロトロをモデルにしたシシルヴィ・ルッソ演じるエル・ファニングと、
音楽上のパートナーであると同時にプライベートでも親密になってゆくモニカ・バルバロとの三角関係にもヤキモキする。
プライベートの充実が仕事に好影響を与え、仕事の不調がプライベートにも陰を落とすのは
天才でも何でもない私にも身に覚えがあり、ほんの少し胸の奥がチクりとする。


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ちなみにジョーン・バエズを演じるモニカ・バルバロは
浅川マキが日本語詞をつけた「朝日楼(朝日のあたる家)」を劇中で披露しており、
クオリティの高さに度肝を抜かれた。その後のパフォーマンスも全て素晴らしく
全編吹き替えなしで挑んだというティモシー・シャラメのディランがどれほど凄いのかと期待をして観たら
エドワード・ノートンもモニカ・バルバロも期待を遥かに超えるパフォーマンスで、
助演男優&女優にWノミネートされたのも納得。
もちろん、ティモシー・シャラメもオファーから5年をかけてディランを研究し尽くしたというだけあって
話し方からギター演奏、ボーカルまで良くぞここまでの憑依ぶりでお見事と言うしかない。

レコードの売り上げが急増し、ライブの動員もうなぎ上りだったディランは
ピート・シーガーが掲げるフォークソング・リバイバル運動へと組み込まれ、
お仕着せのアイコンと自身が追い求める音楽との齟齬に葛藤するようになる。
名声と引き換えにするにはあまりに息苦しい環境の中でディランの創作意欲はさらに燃え滾り、
伝説と語り継がれる1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルへと繋がっていく。
「優れた楽曲には電子楽器もドラムも要らない」とするフォークの美学に反旗を翻し
聴衆の望む曲を永遠に繰り返すだけの生活からもはみ出してエレキ・ギターを掻き鳴らす姿は
まさに「ボブ・ディラン第二章」の幕開けと言えるだろう。
怒号と歓声が入り混じる当時の空気も含めて、歴史の変わる瞬間に立ち会えた人が羨ましい。
ジャンルの垣根を取っ払う先駆者に批判は付き物で、壁を突破した先に新たな地平が広がる。
(もちろん、ここと決めたジャンルをとことん追求し高めていくのもまた尊い)

ここからは少し余談を。
はっぴいえんどの登場で日本の音楽シーンに変革の種が撒かれた時にも
絶賛と同じぐらいの反発があったと松本隆や細野晴臣のインタビューで読んだことがある。
ほんの半世紀ほど遡るだけでまだ音楽には『ジャンル』という高く分厚い壁があり、
そこを飛び越えて違うジャンルに挑戦することは、各ジャンルのトップランナーや業界関係者、
何よりもリスナーが受け入れない堅苦しさがあった。
現代でもアイドルや声優などの一部ジャンルには堅苦しさが若干残っているが
サザンオールスターズがジャズピアニストの八木正生との出会いを経てジャズのエッセンスを吸収し
音楽性を高めてきたように、音楽とは本来自由な精神で伸びていくものだと私は思う。
中島みゆきが、メインのアレンジャーに後藤次利を起用して作ったアルバム「miss M.」をリリースした時に
インタビューでこう答えていたことがある。
「博物館をやっているか、反感を買ってでも博物館を出ていくか迷ったけど、出ていくことにした」
反感を買うことも事前に予想した上で、新たな世界に踏み出す行動力はディランに通じているかも知れない。


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映画の舞台である1964年頃には、ディランは大麻やLSDなどの薬物に手を出しており
その影響がコンサートやレコーディングにも現れているが、作中では薬物についてはほとんど言及していない。
それは、本作が「ボブ・ディランが何と闘い、何を得たのか」に力点を置いているからだろう。
同じジェームズ・マンゴールドが監督を務めた2006年の映画「ウォーク・ザ・ライン 君につづく道」は
本作にも登場するジョニー・キャッシュの伝記映画で、私も何度となく当BLOGで取り上げてきた名作。
こちらは劇中でホアキン・フェニックス演じるジョニー・キャッシュが重度の薬物やアルコール依存症に
悩まされていたことも描かれており、ボイド・ホルブルック演じる「名もなき者」版のジョニー・キャッシュも
駐車場で酩酊状態のジョニーが車を衝突させる場面が挿入されている。
直接的には物語に関係していないジョニー・キャッシュが頻繁に登場するのは
ジェームズ・マンゴールドの中で「名もなき者」と「ウォーク・ザ・ライン」の2作は連作という位置付けなのではないだろうか。

パフォーマンスの素晴らしさもさることながら、やはりジェームズマン・ゴールドの撮る伝記映画は
ほぼミュージカル映画と化した類似作品とは一線を画す重厚さがある。
少々不安だった140分という長めの尺も、観終わればあっという間だった。
是非とも音響の良い劇場でご覧いただきたい。
そして、できれば「ウォーク・ザ・ライン」の予習or復習をお勧め。

映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』は2025年2月28日より公開。


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▼お薦めのミュージシャン伝記映画まとめ

お薦めしたい作品をいくつかピックアップしたい。
本数が多過ぎるので今回はミュージカル、ドキュメンタリーは除外した。
紹介順とクオリティには関係がなく、強いて言うなら作曲家、
ソウルシンガー、女性シンガー…といった大まかな括りにしている。


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【関連記事】映画「ボヘミアン・ラプソディ」”らしさ”を貫いたロックスターより抜粋。

世界最大のロックグループ・クイーンのメンバーであるブライアン・メイとロジャー・テイラーの全面協力により
バンド誕生から絶頂期、そして「ライヴ・エイド」での奇跡の復活劇までクイーンの活動を表と裏の両面から描いた伝記映画。
主演はラミ・マレック。共演にルーシー・ボーイントン、グウィリム・リー、ベン・ハーディ、ジョセフ・マッゼロ。

私が洋楽にかぶれ始めた時期とクイーンの黄金期はけっこう被っていて、
しかも私はどちらかと言えばポップス寄りだったのでロックはそれほど詳しくなかった。
ヴァン・ヘイレンとブルース・スプリングスティーンとクイーンの楽曲がごっちゃになったことも何度もある。
ロックに関しては歌詞の意味はあまり気にせず、和訳された歌詞をさらっと流し見だけして
あとはメロディの好みだけでどのアルバムをカセットに残すか決めていた(当時はレンタルレコードの全盛期)。
そんな私ですら映画を観てほとんどの曲は知っていたし、何よりも驚かされたのが繊細な歌詞世界だった。
拳を振り上げるパフォーマンスからは想像もつかない、思春期の少女のような清廉さ、
失われない少年性こそが彼の魅力だったのだと数十年の時を経てようやく気付かされた。
映画で描かれているのは世界中に愛されたロックスターのサクセスストーリーではなく
秘密を抱え、孤独と闘い、愛と安らぎを求めながら45年の生涯を駆け抜けたひとりの男性の姿であり、
しばしば顔を出す独善的な振る舞いやエキセントリックな言動は男性アーティストの伝記映画ではなく
マリア・カラスやエディット・ピアフの映画を観ているようだった。

21分にも及ぶ圧巻のパフォーマンスが披露されたライヴエイドは
当時私も中継で見たことをおぼろげに覚えている。
正直な話、あの頃の私はクイーンよりもフィル・コリンズやハワード・ジョーンズ、
デヴィッド・ボウイ、ジョージ・マイケルなどの名前に惹かれていた。
あの日のあのステージにこんな想いが込められていたことを、33年も経ってから知ることになろうとは。


発売中■DVD:ビヨンド the シー 夢見るように歌えば

戦後のアメリカのショービズ界で活躍した
作曲家ボビー・ダーリンの生涯を描くケヴィン・スペイシーの監督・主演による伝記映画。
大ファンだと公言するだけあり、そのなりきり度は相当なもの。
歌唱シーンも素晴らしいし、ドラマとしてもかなり良く出来ている。
ちなみにタイトルの「ビヨンド・ザ・シー」は「ファインディング・ニモ」にも使われた
あの名曲のことを指していて、ボビー・ダーリンの作曲である。
私はDVDを所有しているが、Blu-ray化もされておらずサブスク配信もないのは勿体無い。


発売中■Blu-ray/DVD:最後のマイ・ウェイ

フランスで絶大な人気を誇ったシンガー、クロード・フランソワの生涯を描いた伝記ドラマ。
フランク・シナトラの歌唱で知られる永遠の定番「マイ・ウェイ」は彼の作曲である。
厳格な父とギャンブル狂の母親という複雑な家庭環境で育ちながら
若干39歳という若さでこの世を去ったクロードは、
天才にはつきものの感情の降り幅の大きさや自信過剰なところを隠そうともしない。
ヒットを出しても認めてくれない父親と、金を無心するしか能のない母親に
嫌気がさしながら、しかし切り捨てることも出来ない彼の心には
「いつか僕を認めて欲しい」という想いがずっとあったのだと思う。
泣くことでしか想いを伝えられない赤ん坊のように、尊大に振る舞うことが彼なりのアピールだったのではないか。
人を惹き付けるスター性と甘えん坊なオトナコドモをきっちり表現してみせたジェレミー・レニエが素晴らしい。


配信中■Amazonビデオ:Ray/レイ

ソウルのレジェンドであるレイ・チャールズの伝記映画。
「ドリーム・ガールズ」でも名演を見せたジェイミー・フォックスの主演。
監督が本人に直接聞き取りをしただけあり、エピソードはかなり忠実で嘘がない。
レイがここまであけすけに自分の人生を語ったのは
自身の死期を悟っていたのだろうか。2時間半を越える長尺だが観て損なし。


配信中■Amazonビデオ:ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル) を持つ男

【紹介記事】映画「ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~」より抜粋。

アメリカ南部に生まれ、不遇の幼少時代を送ったJBことジェームス・ブラウンが
ゴスペル音楽と出会い大スターへの階段を駆け上がっていく様子を描く伝記映画。
JBの破天荒な面を余すことなく描くことで、
人間味溢れる大スター、ジェームス・ブラウン像を浮かび上がらせる手法。
ライバルに敵愾心を剥き出しにする攻撃性、仲間への厳しさと優しさ、
ファンと接する時の誠実さ、金勘定のルーズさ、どうしようもないスケべさ。
その全てが一体となってあれほどのパワーを生んでいるのだと分かる。

監督が「ヘルプ」のテイト・テイラーだけあり、
JBの音楽活動が黒人差別との闘いでもあったことに言及している。
見た目は似ても似つかないチャドウィックだが、台詞回しや振る舞いはJBそのものに見える。
JBの見た目ではなく”ソウル”を再現しているからだ。


発売中■DVD:アイム・ノット・ゼア

詩人であり、ロックスターでもありと多くの顔を持つ
ボブ・ディランという人間の魅力を複数の俳優を使って描き出す異色の伝記ドラマ。
ケイト・ブランシェット、リチャード・ギア、ヒース・レジャー、
クリスチャン・ベールに加えて、当時はまだ駆け出しだった
ベン・ウィショーが大抜擢されているあたりが、さすがはトッド・ヘインズ監督。
女性でありながらケイトのカッコ良さが群を抜いている。
若干アート志向の強い作品なので万人にはお薦めし辛いが
ふと思いつくと見返してしまうフェイバリット作品。


配信中■Amazonプライムビデオ:ウォーク・ザ・ライン 君につづく道

ボブ・ディランにも多大な影響を与えたと言われている
カントリーの大御所ジョニー・キャッシュの伝記映画。
キャッシュ本人の人生を辿る伝記ドラマとしてはもちろん、
ジューン・カーターとの関係に重きを置いた夫婦のドラマにもなっている。
オスカー受賞は妻役のリース・ウィザースプーンのみだったが
私としては気難し屋で寂しがりのキャッシュを演じたホアキン・フェニックスがとにかく素晴らしかった。
歌唱・演奏シーンも全て吹き替え無しというのにも拍手喝采。


発売中■Blu-ray/DVD:エディット・ピアフ 愛の讃歌

日本でも幅広い層から愛されている「愛の賛歌」や「バラ色の人生」など
数々の名曲を持つシャンソン歌手、エディット・ピアフの伝記ドラマ。
47年に渡る波瀾万丈の生涯を、歌に捧げ愛に生きたピアフの20歳から晩年までを
一人で演じきったマリオン・コティヤールはオスカーを受賞した。
「死ぬことは孤独でいることよりはマシ」と浜辺でのインタビューで
淋しげに語る晩年のシーンが今も忘れられない。
伝記映画の中でもトップクラスに好きかもしれない。


発売中■Blu-ray/DVD:永遠のマリア・カラス

誰もが跪くほどの美貌と神に祝福された声を持つと言われ
オペラ界の頂点に君臨していたマリア・カラスの晩年を描いた伝記ドラマ。
激情家で知られるカラスの深い孤独と、再起にかける執念を
私も大好きな名女優ファニー・アルダンが熱演。
歌唱シーンは上で紹介したピアフと同じくカラス本人の歌声を使用しており
「ボヘミアン・ラプソディー」と同じ演出法。



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【デイヴィッド・リンチの訃報に寄せて】「エレファントマン」と私の25年

2025年01月18日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


▼【デイヴィッド・リンチの訃報に寄せて】「エレファントマン」と私の25年

*本記事はリンチの代表作のひとつである「エレファントマン」が
生誕25周年を記念して2004年11月20日に劇場公開された際に紹介した
2005年3月8日公開の記事に加筆・改稿したものです。


「エレファントマン」が上映された1981年当時、私はまだ坊主頭のガキんちょであった。
100席にも満たない田舎の映画館で見たことを今でも良く覚えている。
「エレファントマン」を「象人間」と直訳し、ホラー映画ブームに便乗した作品だとしか思っていたので
布切れを被っている間のやり取りがひどく退屈で、布を剥ぎ取る瞬間だけを待ち詫びていた。
ジョン・メリックという人間の素顔を知ろうともせず、ただただ、肥大した頭部と瘤だらけの背中を嫌悪し、
辿々しい口調をキャラ付けだと誤解して、ゲラゲラ笑いながら観ていた。
看護婦に怯え、花束に涙するジョン・メリックを「ホラー映画にしちゃ随分弱い化け物だ」と見下し、
「これなら怖くないよ!」と自信満々だった。あの頃の私は、まさに見世物小屋の客そのものだった。

25年という時間を経て改めて観た「エレファントマン」には、
「完全な善意」も「完全な悪意」も存在していないことに気付かされた。
いや、気付いたというより、2005年現在の私にはそう見えたというのが正確だろうか。
極悪人に見えた見世物小屋の親父から愛情を、フレデリック医師からは外科医としての悪意を感じた。
もちろん、リンチがそういう意図で描いたかどうかは分からない。
リンチはと自らの作品を長々と解説するような無粋な真似をあまりしない監督なので
「ブルーベルベット」や「マルホランドドライブ」のような不可解な作品に出会うと
少しでもリンクの脳内を覗き見たくなって何度もリピートしてしまうのだ。

ケンドール夫人の招待した舞台には、夫人の言葉通り「夢」が詰まっていた。
物語の最後にジョンが枕を使って眠ったのは、まだ叶っていない夢を叶えたかったからなのだろうか。
「人間らしく生きること」が無理なのだと悟ったのだろうか。
自分の死期を悟り、もう充分と考えたのだろうか。
愛しい母親に会いに行ったのだろうか。
いつの日か、「あぁ、こうだったんだろうな」と分かる日が来るのだろうか。
私にはまだまだ分かりそうもない。


2005年3月に書いた紹介記事からさらに20年が経過して、リンチの訃報に触れることになってしまった。
M・ナイト・シャマラン、ラース・フォン・トリアー、アリ・アスターなど、
独自の世界観を持った作品を撮る監督は他にもいるが、リンチほど振り切った監督はいない。
唯一無二と言って良いと思う。

辻褄や謎解きに囚われてしまうと映像と音楽の洪水に飲み込まれてしまうし、
完全に身を預けてしまうと戻って来られなくなるのではと不安に駆られる。
「何年か経って見たらもう少しわかるだろうか」と思いを遺して年を重ね、
数年後にまた観返してみるのが私のリンチ作品との付き合い方だった。
観るものに決して優しくないが、匙を投げるにはあまりにも惜しい魅力的な世界から離れられない。
「マルホランド・ドライブ」も「インランド・エンパイア」もそうだった。
そんなリンチが1999年に発表した「ストレイト・ストーリー」は予想外の心温まるロードムービーで
あの作品を劇場で観終えた瞬間に、「私の好きな映画監督ベスト10人」入りしたのだった。

78歳は映画監督としてはまだまだ若い。
昨年8月には「長年の喫煙により肺気腫を患っています」とXで公表。
煙草への愛は変わらないながら、健康を考えて2年の禁煙生活を送っていることを明かし
「この楽しみ(喫煙)には代償があり、私にとってその代償は肺気腫です」と綴った。
訃報と肺気腫が関係しているのかは不明だが、こんな形で名匠を失うのは辛い。

謹んでご冥福をお祈りいたします。




配信中■Amazonプライムビデオ:デイヴィッド・リンチ 関連作品一覧
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発売中■Blu-ray/DVD:デヴィッド・リンチ 関連作品一覧
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映画「陪審員2番 /JUROR #2」正義より大切なものが、時に正義を歪める

2025年01月11日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


▼開催中のセールまとめ

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▼映画「陪審員2番 /JUROR #2」正義より大切なものが、時に正義を歪める



配信中■洋画:U-NEXT独占|陪審員2番

アメリカ映画界の生きる伝説、クリント・イーストウッドの最新作「Juror #2」が
「陪審員2番」として2024年12月20日よりU-NEXTで独占配信中。
ある殺人事件の容疑者の裁判で陪審員(2番)に任命された主人公が
審議が進むうちに被害者の死と自身が無関係ではなかったのではと思い始め
申し出るべきか黙っておくべきかで苦悩する姿を描く。
主人公には「X-MEX」「ウォーム・ボディーズ」のニコラス・ホルト。
検事役には「ヘレディタリー 継承」のトニ・コレット。
その他の出演者はJ・K・シモンズ、クリス・メッシーナ、ガブリエル・バッソ、ゾーイ・ドゥイッチ、
キーファー・サザーランド、エイミー・アキノ、エイドリアン・C・ムーアなど錚々たる顔ぶれ。
海外では劇場公開もされ、全米映画批評家協会が選ぶ2024年の10本にも選出されている。

イーストウッド作品が劇場公開をスルーして配信になったことは残念。
製作がワーナー・ブラザースで、ワーナー運営の配信サービスであるMaxのオリジナル映画として
発表されていたのだから、日本はMaxと独占契約を交わしているU-NEXT独占になったということだろう。
一部では劇場公開を希望する署名活動も立ち上がっている。





監督業を活発化さた2004年の「ミリオンダラー・ベイビー」以降の作品で問い続けてきたのが「正義とは何か」。
本作は20年かけて様々な正義を描いてきたイーストウッドが93歳で辿り着いた集大成的な内容。
検事・弁護士・裁判官・陪審員・被害者遺族・加害者家族・証言台に立つ人々、それぞれの立場で考える正義が交錯する
陪審員制度を通して、正しい判断を貫く難しさや、正義より大切なものが、時に正義を歪めることも描いている。

出産間近の妻を愛する主人公・ジャスティン(ニコラス・ホルト)は温厚で真面目な青年だが、
アルコール中毒からの飲酒運転で事故を起こし、身を滅ぼしかけた過去を持っている。
断酒会に参加し自らを律し続けて4年が経過したジャスティンにとって、
素行も悪く世間から偏見の目で見られがちな被告の男は、昔の自分と被る部分もあったに違いない。
更生の道半ばのジャスティンと、恋人を失くしたことで人生のやり直しを決意したばかりの被告。
12人の陪審員の中で、世間の無理解や差別的な視線の冷たさを誰よりも知っているであろうジャスティンは
被告を助けるため真実を明らかにしなければと主張する正しさと、
真実に辿り着いた瞬間に、代わりに自身が終身刑を受けるかもしれない恐怖との板挟みで悩み続ける。

この法廷において、裁かれるべきは誰なのか。
被告の無実を証明する確固たる証拠も、視界不良の大雨の中でジャスティンが衝突したのが鹿で無かった証拠もない。
精査すればわかるかもしれないが、その作業を多くの陪審員は望んでいない。
子供のために早く帰りたい母親も、ただ警察に協力し喜んでもらいたくて曖昧な記憶のまま証言台に立つ老人も、
誰もが悪意で行動しているわけではない。
世間の多くが感じる「悪そうなやつ」は、もう悪いでいいじゃないかで片付けようとする。
男が無辜である1%の可能性に言及するより、家族との時間が大切だと考えるのは責められることではない。
昇進のために勝ち(有罪確定)を急ぐ検事(トニ・コレット)の杜撰さは権力の正しい行使ではなく、
職務怠慢として責められるべきだが、彼女もまた、元刑事の陪審員(J・Kシモンズ)の言葉をきっかけにして
「心臓が息の根を止めるまで真実に向かって浸走れ、それが刑事だ」(@SPEC)の刑事魂を取り戻していく。
登場人物の誰かには自分を重ね合わせられるように作られているはず。
「もし自分がこの場にいたら」と考えながら、あっという間の2時間だった。

現代の日本でも、詳細が明らかにならないまま、感情が暴走し束になって人を裁く場面にしばしば遭遇する。
反論を封じられた状態で拡散されるネガティブな情報は、精査されることなく広がり続け歯止めが利かない。
後に真実が明らかになったとしても、その時に世間の興味が別のニュースに移動していれば誰も気に留めない。
ひとつの事象について「間違っているかもしれない」と一旦立ち止まる重要性を、私達は今一度肝に命じなければならない。

映画「陪審員2番」はU-NEXTで独占配信中。


<U-NEXT>



▼こちらの作品がお好きなら「陪審員2番」もお勧め

昨年11月に紹介した「正体」の関連オススメとも被るので、ここでは1本だけ。


配信中■Amazonプライム:スリー・ビルボード(レンタル)
発売中■Blu-ray/DVD:スリー・ビルボード

娘をレイプされた挙げ句に殺された母親が、なかなか犯人逮捕に至らない地元警察の不甲斐なさに腹を立て
自腹で広告看板を出したことから始まる人間ドラマ。
主演は1996年の「ファーゴ」以来、2度目のオスカー受賞となったフランシス・マクドーマンド。
共演はウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル。
監督は「セブン・サイコパス」のマーティン・マクドナー。
2018年度のオスカーではフランシス・マクドーマンドが主演女優賞、サム・ロックウェルが助演男優賞を獲得。
作品賞は残念ながらノミネート止まりになってしまった(作品賞は「シェイプ・オブ・ウォーター」)が、
オスカーの前哨戦と言われる英国アカデミーやゴールデングローブでは作品賞も受賞している。



未解決事件の被害者の母親の心境は如何許りか。
それぞれの立場の人間達が、多少の言葉足らずはあれど(一部を除き)真摯に対応していて、
真犯人以外に明確な悪意の存在しない、片田舎の町の空気が映画全体を厚い雲で覆っている。
娘を殺された母親を演じたフランシスの執念と自己嫌悪が、勧善懲悪では割り切れない
現実的な問題の中でのたうち回り、時に人を傷つけ、自分をも追い込んでしまう。
その怒りや切なさが手に取るようにわかる。
地元民から愛される警部や、差別意識の強い部下、うまい話にはすぐ乗るものの
権力には滅法弱い広告業者など、脇役達とのアンサンブルも素晴らしいの一言。

「ここで終わったら最高の映画だな」と感じたまさにその瞬間にエンドロールに突入し、グゥの音も出なかった。
放心状態のままエンドロールを眺めていたのを今でもはっきりと覚えている。
2015年のオスカーで作品賞を穫った「スポットライト」は、
作品の背景を想うとやるせない気持ちになったりもしたのだが、
こちらは最後に提示される小さなピースが明るい未来を予感させてくれて
重苦しい作品でありながら観賞後の気持ちは清々しい。
未見ならば是非ご覧いただきたい。




配信中■Amazonプライム:アメリカン・スナイパー
発売中■Blu-ray/DVD:アメリカン・スナイパー

クリント・イーストウッド監督が84歳で発表したのが「アメリカン・スナイパー」。
米海軍のエリート部隊ネイビー・シールズの一員としてイラク戦線で活躍し
160人以上を射殺した伝説の狙撃手クリス・カイルの伝記ドラマ。
クリス・カイル自身が書いた回顧録「ネイビー・シールズ 最強の狙撃手」に
感銘を受けたブラッドリー・クーパーが映画化を思い立ち権利を獲得。
主演だけでなく製作にも名を連ねるほどの熱の入れようで体重が100kgを超えていた
クリスになりきるべく18kgも増量し、一瞬誰か分からないほどの変貌を遂げて本作に臨んでいる。

2001年のアメリカ同時多発テロをテレビで見ていたクリス・カイルが、
脅威に晒されたアメリカを守るためネイビー・シールズの一員となり、一流の狙撃手として活躍する様子を描いた本作は
クリスの功績を誉め称えるアメリカ万歳映画ではない。
合計で4度もイラクに渡り、狙撃によるイラク人の死者総数255人のうちの6割にもおよぶ160人を手にかけたクリスは
仲間内から”レジェンド”と賞賛され、国内で英雄視される一方で、愛する妻や子供との幸せな生活を完全に失ってしまう。
「殺せば殺すほど名声を得る」ことへの違和感が、巨大な火柱となってクリスを丸ごと包み込んでしまうのだ。
911以降、アメリカ全土で大変な患者数になっていると聞くPTSD問題は、英雄と呼ばれる男でさえも例外ではなかったのである。

イーストウッドの描く戦争映画には、常に『やるせなさ』が漂っている。
アメリカ側に立ってイラク戦争を正当化しているわけでもなければ、声高に戦争反対を訴えかけているわけでもない。
こちらに正義があるのなら、向こうには向こうの正義もあるのだろう。
力を力で押し返したところで、相手に遺恨を残すだけで何も解決しない。
テレビでニュースを見るだけの私達は刻々と変化する戦況に一喜一憂するが、最前線では若い命が次々に失われている。
そのことがたまらなく辛いと、そう呟いているように見える。
「父親たちの星条旗」「硫黄島からの手紙」の2作も、ひとつの出来事をアメリカ側、日本側から描くことで
どちらの言い分にも耳を傾け、結論はやはり『やるせない』だった。
「父親たちの星条旗」でも、戦争の資金集めのため広告塔に祭り上げられた兵士達が、
豪華なケーキのイチゴソースに血を想起するシーンがあった。イーストウッドの戦争観は一貫している。

もしクリスがあと数十年生きていたなら、PTSDを克服したとしても
「グラン・トリノ」の頑固爺さんであるウォルトのような年寄りになってたかも知れない。
狙ってやったかどうかはさておき、「父親たちの星条旗」「グラン・トリノ」
「アメリカン・スナイパー」はイーストウッドの戦争三部作と言える。
「生きてれば」と書いたことからお察しの通り、クリス・カイルは2013年2月2日、38歳の若さでこの世を去った。
退役して間もなく、PTSDに悩む帰還兵のためのNPO団体を設立したが
その活動の最中にPTSDを患った元海兵隊員に射殺されたのだ。
映画化が決定した当初、まだクリスは存命中でブラットリー・クーパーも会っていたが
このあまりにも皮肉な出来事によって映画も結末を変更せざるを得なくなった。
『戦争とは、人が人を殺すことなのだ』と今一度心に刻むためにも是非この作品を観て、様々なことを感じ取って欲しい。
音楽の流れない沈黙のエンドロールに、貴方は何を感じるだろうか。




配信中■Amazonプライム:リチャード・ジュエル(レンタル)
発売中■Blu-ray/DVD:リチャード・ジュエル

1996年のアトランタ五輪開催中に起きた爆弾テロをめぐる実録ドラマ。
会場の警備員として多くの命を救い、一躍時の人となった男が
一転して事件のテロの容疑者してマスメディアに蜂の巣にされる様子を描く。
主演は「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」のポール・ウォルター・ハウザー。
共演はサム・ロックウェル、キャシー・ベイツ、オリヴィア・ワイルド、ジョン・ハム。

ヒーローとして持ち上げておいて、疑惑が持ち上がるや容赦なく掌を返すマスコミの恐ろしさと
簡単に扇動に乗ってしまう民衆、結論ありきの捜査を強引に押し通そうとする警察権力。
ひとりの人生を切り取ることで社会全体の問題を浮かび上がらせる
イーストウッドのシンプルで力強い物語構成は本作でも健在。
冷静に事の成り行きを見つめる視点が素晴らしかった。
息子の無罪を信じ、堂々と証言台に立つ母親の愛情の深さを表現した
キャシー・ベイツはアカデミー助演ノミネートも納得の名演。
垂れ流される情報を精査し、何が正しいのかを見極めるのは最終的には自分自身。
これは、今の日本にも共通した問題でもある。
重いテーマだが着地は良い話であり、爽やかな感動と教訓を与えてくれる良作。
是非ご覧いただきたい。




【ネタバレ有】映画「正体」若者が絶望しない世界に|原作・WOWOW版との比較など

結論ありきの捜査で正義を歪める警察という意味で「正体」にも通じる。



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ディズニープラス「照明店の客人たち」”どこかで暮らしている”という救い|ネタバレ・考察込み

2024年12月23日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


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▼ディズニープラス「照明店の客人たち」”どこかで暮らしている”という救い



配信中■洋ドラ:ディズニーオリジナル|照明店の客人たち

ディズニープラスでも1,2を争う傑作ドラマ「ムービング」の制作陣が送る新作ドラマが先日完結した。
真っ暗な夜道を彷徨う人達の拠り所のように佇む一軒の照明店と
店を訪れる様々な人々との物語を描くヒューマンミステリー。
主人公を演じるのは「キングダム」シリーズのチュ・ジフン。
脚本と原作は「ムービング」と同じカンフルが務め、
監督は「ムービング」でジョンウォン高校の教師チェ・イルファン役を演じたキム・ヒウォンが初メガホンをとる。
カンフルが13年前に描いたコミックをベースに、当時描き足りなかった部分を補完しながら脚本を仕上げたという。
全20話構成、1話あたり1時間以上のエピソードもあった「ムービング」に比べると
1話あたり40分程度で全8話とかなりコンパクトにまとめられている。

出会いよりも別れが多くなる年齢に差し掛かった私は、今年も多くの知人や親族を見葬った。
別れを重ねるほど、死は誰にも等しく訪れるものなのだと念押しをされているように感じる。
そしてそれは私自身も例外ではないのだと。

全8話中、初週で一気に4話が配信され、残り2週をかけて2話ずつ配信された理由が良くわかる。
1話を見た時は「これはまた面白そうなホラーだ」とワクワクし
2話3話と進めるうちに、恐怖や不気味さの奥に寂しさや悲しみを感じるようになり
本作が単なるホラードラマでないことが見えてくる。
そして迎えた4話で明かされる衝撃の事実。
5話以降の怒涛の展開と、涙腺を刺激する人間模様の数々。
そうだったのかと膝を打つ脚本の巧さは「ムービング」以上と言っていいだろう。
このドラマは、別れを経験した人達と、これから別れを経験するであろう人達に向けた救いの物語である。
とある街を舞台にした群像劇、という意味では「ラブアクチュアリー」に近い。
そんな馬鹿なという声も聞こえてきそうだが、本当にそうなのだ。(季節も同じクリスマス)

このドラマを100%楽しむには、予備知識ゼロが望ましい。
まっさらな気持ちで触れるほど、見終えた時に得られる感動は何倍にもなっているはず。
しかし前情報なしでは見る気にもならない方も多いと思うので
以下はネタバレを含みながら書き進めていく。



*以下はネタバレを含みます。



本作の世界にはいくつかの階層があり、それぞれの場所で多くの人が暮らしている。
端的に言えば「既に亡くなっている人」「昏睡状態の人」「生きている人」で
ICUに勤務している看護婦のひとりが、臨死体験を経て生と死の狭間に居る人と
コミュニケーションが取れるようになっており、彼女の存在が照明店の店主と並ぶ物語の核になっている。
謎の男が営む照明店は狭間を漂う人々の生死を分ける場所であり、
店内に飾られた無数の電球は、住人達の命の灯。
自らの意思で探しに来たものだけが、現生に戻る(意識を回復する)ことが出来る。

聴覚障害を持つ女性と結婚を前提に付き合っている男性、青春を謳歌する男子高校生、
仲の良い母と娘、目立たないように暮らしている年の離れたカップル、飼い主に尽くす犬、
事件を追う刑事、様々な愛の形が用意され、導き出す答えも様々。
傍目には不幸な最後に見えても、当人同士はそれで幸せだったかもしれないし
九死に一生を得たことが、最愛の人との永遠の別れとなってしまうこともある。
手にしたチケットを破り捨てる愛も、身を裂かれる思いで送り返す愛も、きっと全て正しい。
それぞれの選択に説得力があり、涙腺が緩んでいたところに
まさかの照明店の店主にもある秘密が明かされる。これはさすがに読めなかった。
カンフル恐るべし。

私たちは大切な人を見送った時に、何かしらの慰めを頭や心に用意する。
墓参もそうであろうし、線香を焚くのもそう。思い出話に花を咲かせるのもそう。
「どこかで見守ってくれている」と考えることも
旅立った犬が虹の橋で遊んでいると思うのも、全てそうであって欲しいという切なる願いでもある。
忌野清志郎が亡くなった時に、大親友だった母が落ち込んでいないか、娘の坂本美雨が様子を見に帰ると
矢野顕子はケロっとしてこういったという。

「別に寂しくない。ちょっと住む世界が変わっただけで、いつかまた会えるじゃない」

このドラマが描いているのは、この時のアッコちゃんの言葉に近い。
誰の元にも等しくやってくるお別れに、残された私達が縛られないようにというカンフルからのメッセージなのだ。
悲しいエピソードもたくさんあるが、総じてこれは愛の物語になっていて温かい。
(最後の最後に少し暴走した愛も描かれているが、それも含めて愛だ)



本作でもうひとつ重要なのが「ムービング」の世界と繋がっていること。
原作からしてそうだったのか、カンフルが遊び心で入れたのかは不明だが
最終話では「ムービング」のヒロインである再生能力を持った(=怪我をしない)少女チャン・ヒスが登場し
本作がカンフル作品のシェアード・ユニバースであることが判明する。
「ムービング」は既にシーズン2の制作が決定しており
「照明店の客人たち」の人物があちらに登場する可能性は十分ある。
「ムービング」好きも今のうちにチェックしておいて損はない。




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発売中■DVD:THREE 死への扉
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発売中■DVD:THREE 死への扉

DVDも廃盤になりサブスクにも入っていないので
お勧めできないのがもどかしいのだが
2004年に公開されたオムニバスホラーの「THREE 死への扉」に収録された
「ゴーイング・ホーム」という短編を見た時の感動に近かった。
韓国・タイ・香港の3人の監督が手掛けていて
「ゴーイング・ホーム」を撮ったのはピーター・チャン。
2016年には当BLOGでも絶賛した「最愛の子」を撮っている。
撮影を担当したのは、日本人監督からも絶大な信頼を得ているクリストファー・ドイル。
この「ゴーイング・ホーム」だけでもなんとかサブスクで復活して欲しい。

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私的2018年度No.1「ブリグズビー・ベア」が再注目されているので改めて紹介したい

2024年11月30日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


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▼私的2018年度No.1「ブリグズビー・ベア」が再注目されているので改めて紹介したい


発売中■Blu-ray・DVD:ブリグズビー・ベア
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2018年公開作品の中で私がNo.1に挙げていた「ブリグズビー・ベア」が俄かに注目を集めている。
こういった形で世の中に見つかることに少し複雑な気持ちもあるが
名作であることに変わりはないので、映画公開やBlu-ray発売時に当BLOGで掲載した記事の内容をまとめてみた。

「ブリグズビー・ベア」は、アメリカの人気番組「サタデー・ナイト・ライブ」で人気の
コメディユニット「GOOD NEIGHBOR」のメンバーであるカイル・ムーニーが脚本・主演を務め、
同じくメンバーのデイヴ・マッカリーが監督を務めたドラマ。
制作は「LEGOムービー」のフィル・ロード&クリストファー・ミラー。
共演はクレア・デインズ、マーク・ハミル、グレッグ・キニア。



赤ん坊の頃に誘拐され、外の世界を知らないまま25歳を迎えた青年ジェームス。
彼の元には毎週「ブリグズビー・ベア」というタイトルの教育ビデオが届けられていた。
外の世界を知らないながらも、それなりに平穏に暮らしていたジェームスだったが
ある日突然警察がやってきて、優しかった両親が実は赤ん坊の頃に自分をさらった誘拐犯であることを知らされる。
突然解放され、初めて見る世界に驚きと戸惑いを隠せないジェームスだったが
一番の不満は「ブリグズビー・ベア」の新作が見られなくなってしまったこと。
あの作品は偽りの両親が彼のために作った物語で、ハナからこの世には存在しなかったのだ。
未完のままでは気持ちの整理がつかないジェームスは、自ら「ブリグズビー・ベア」の映画版を製作し
シリーズを完結させることを思いつく。


ユーミンが何故子供を作らなかったのか、欲しくはなかったのかと問われた時に
「子供って何も描いていないまっさらなキャンバスのようなもので、そこに何でも描くことができる。
あまりにも自由であまりにもピュアなその存在に、自分の思想や価値観が染み込んでいくことが
恐ろしかったし、その責任を取れる自信がなかった」と言っていたことがある。
美大に通っていたユーミンらしい表現だ。
本作のジェームスも誘拐犯の両親が作った「ブリグズビー・ベア」を知育教材として楽しみ、吸収して大人になった。
生みの親(被害者)の歯痒さと育ての親(加害者)の一途さに囲まれながら
自分をここまで導いてくれた「ブリグズビー・ベア」を頼りに、少しずつ世界を広げていく姿に何度も涙腺が緩んだ。
誘拐した両親が間違っていたとしても、2人が紡いだ物語はジェームスにとっては紛れもない本物で
それは外の世界に出てからも変わらない。
「最愛の子」や「ルーム」といった事件に親子の絆を絡めたヒューマンドラマの要素と
「ラースと、その彼女」や「FRANK -フランク-」などの生き辛い青年が奮闘する成長物語をミックスし
こんなにもハートウォーミングな結末に着地させるのはお見事というしかない。
少なからず「世間知らず」を自覚している大人子供の私にとっては、
「スター・ウォーズ」でルーク・スカイウォーカーを演じたマークにこんなことを言われたら泣くしかないじゃないか。

映画好きで大人オタクの自覚ある私にとって、これが2018年公開作品のNo.1だった。



▼そして「スパイダーマン:スパイダーバース」へ


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【予習・復習用】映画「スパイダーマン:スパイダーバース」アメコミ好きもアニメ好きも全員劇場にGO

マーベル映画ブームの火付け役となった「スパイダーマン」を劇場用アニメーションとして製作した
「スパイダーマン:スパイダーバース」はフィル・ロード&クリストファー・ミラーが製作・脚本を務めている。
ヒーローだったピーター・パーカーを失い落胆する世界を舞台に
2代目スパイダーマンとなった少年マイルス・モラレスが
違う次元からやってきたスパイダーマン達と協力して巨悪に立ち向かう爽快アクション。
声の出演はシャメイク・ムーア、ヘイリー・スタインフェルド、リーヴ・シュレイバー、
リリー・トムリン、そして「グリーンブック」でオスカーを受賞したマハーシャラ・アリ。



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