▼【Maxxxine マキシーン 公開記念】「X エックス」「Pearl パール」3部作のこれまでを振り返る
純粋で純情で純潔で残虐なヒロイン・パールの人生を描くタイ・ウェスト監督の三部作が
2025年6月6日公開の「Maxxxine マキシーン」でいよいよ完結する。
1918年の少女時代(「Pearl」)から1985年の老婆(Maxxxine マキシーン)まで
約70年に渡るパールの人生を、ミア・ゴスがひとりで演じきる話題作。
時系列では第1作目の「X エックス」が1979年、2作目の「Pearl パール」は1918年、
3作目の「Maxxxine マキシーン」は「X エックス」の6年後、1985年のロサンゼルスが舞台となっている。
狂気と愛に彩られたパールの人生は、どんな形で幕を下ろすのだろうか。
▼映画「X エックス」3部作の第1作目は、続く「Pearl パール」への導線として完璧
1970年代のテキサスを舞台に、タイ・ウェスト監督が贈る3部作構成のホラー第1弾。
AV撮影のために田舎の農場を訪れた男女6人が殺人鬼に襲われる
スラッシャームービーのお手本のような展開を、往年の名作へのオマージュを盛り込みながら描く。
主演は「ニンフォマニアック Vol.2」「サスペリア」のミア・ゴス。
共演にジェナ・オルテガ、マーティン・ヘンダーソン、ブリタニー・スノウ、スコット・メスカディ。
私の大好きなA24制作。

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事件は1979年に発生する。
1974年に「悪魔のいけにえ」、1977年に「サスペリア」、1978年に「ゾンビ」、1980年に「13日の金曜日」と
花盛りとも言える1970〜80年代の名作ホラー群が当時の若者に与えた影響は大きい。
(私が大林宣彦監督の「HOUSE ハウス」の洗礼を受けたのも1977年だった)
「悪魔のいけにえ」が始まったのかと思うほどコンパチな冒頭の車中シーンから
まんま「シャイニング」なカットまで、映像面でのオマージュも相当な数だが
当時の世相を反映した台詞もたくさん出てきて、目にも耳にも懐かしい古典ホラーの佇い。
PCもDVDもアダルトコンテンツが初期の普及を牽引したように
本作でもストーリー性のあるアダルト映画で存在感を示そうとする若者たち。
時に道を踏み外す(身体を合わせる相手をパートナーにこだわらない)こともあれど
快楽の追求に素直で奔放な彼らを、少し遠くから見つめている老夫婦。
心臓を悪くし、もうかつてのように妻を抱くことのできなくなった夫と
まだまだ愛されたいと願う妻の行き場のない欲望との温度差は広がるばかり。
若さを武器に生(性)を謳歌する若者への羨望は、いつしか嫉妬に変わり嫉妬は憎悪へと移行する。
事件の成り行きだけを記録としてまとめれば、本作はいわゆるシリアルキラーものであり
凶行に及ぶ老婆パールの形相はジェイソンからエスターまで
ホラー映画の歴史で数多登場した名物キャラクターと比較しても遜色ないインパクトを持っている。
しかし、私はこのパールの姿を単なる『キ印婆さん』として面白がることは出来なかった。
それは、若者に嫉妬し、やり場のない疼きに耐えながらも
求める相手を夫以外に向けなかった純粋さが根底にあるからかも知れない。
もう随分と前の話だが、60代から70代ぐらいまでの女性に囲まれて食事をする機会があった。
私以外に男性がいなかったということもあるのだろうが、話題に上がるネタのほとんどは色恋についてで
全国を旅をする一座の花形に惚れ込んで、給料を全てつぎ込んで追いかけている話、
同じ飲食店で働く一回り以上年下の若い板前と不倫関係に落ちた話など
その場にいたメンバーが次々とコイバナに花を咲かせていたとき
一番物静かで一番の年長者だった70代後半の女性が
「私は夫しか知らないからそういった話はないの。でも先週も夫としたわ」と破壊力抜群の爆弾ネタを投下し、
メンバー全員が「ええええええ!羨ましい!」と叫びにも近い声をあげたのを覚えている。
日本人は特にその傾向が強いように思うが、年を重ねるとパートナーを求めることが
「ありえないこと」になってしまう。しかしパールは違う。
心臓のことは心配だが、それでも叶うのであればもう一度夫と...と願っている。
そして本作は、パールの願望や老夫婦の行為を、おそらくは意図的に「醜いもの」として描いている。
爺さんと婆さんのセックスシーンなんてそれだけでホラーだろ?と言わんばかりの演出をしているが
不思議なことに私はこのシーンを、なんだか少し感動的な気持ちすら抱きながら見ていた。
若い女性を羨み妬むあまりに武器を手にとったパールと、パールのようになりたくない若い女性マキシーン。
パールが「彼女だけは特別」と語ったマキシーンは、セクシャリティを売りにする仕事に就いている
薬物使用の常習者という、世間的には「堕ちた生活を送る女」なのだが
本人はそういった声を聞いてか聞かずか「私はセックスシンボルだ、私は素晴らしい」と鏡に向かって言い聞かせている。
マキシーンがパールを忌み嫌うのは、このままの人生が続けば自分の行く先はパールだと悟っての
拒否反応だったのかも知れない。そしてパールは、マキシーンの中に昔の自分を見ているのだろう。
敵対しながらどこかで通じてしまっている二人の結末は予想通りではあったが、やはり少し哀しかった。
唯一の難点は2時間弱の尺で前半の1時間はほぼ何も起こらないこと。
これはラース・フォン・トリアーの「ドッグ・ヴィル」あたりを意識した
スローペースな種撒きと私は解釈したが、序盤からテンポ良く絶叫が入る
近代ホラー映画を期待していると、ちょっと退屈に感じてしまうかも知れない。
ただ、この序盤があってこその後半なので、オマージュを見つけるなど楽しみを見出しつつ
途中でリタイアせず最後までご覧いただきたい。
▼映画「Pearl パール」純情愛情過剰に異常
シリーズ2作目の「Pearl パール」は、1918年に時代を巻き戻して
要介護の父と厳格な母と共に農場で暮らしていた、若かりし頃のパールの物語。
結婚したばかりの夫が戦地へと旅立ち、田舎でのルーティーンに辟易していたパールは
都会への憧れだけが膨らみ続けている。
そんな彼女の元に、各地を回るツアーに出演するダンサーオーディションの話が舞い込むのだが...。

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パールの奥底に眠る純粋無垢な狂気の根元が描かれるエピソード0だけあり、
他罰的思考に基づいた凶行(だってあなたが●●したのだから仕方がないでしょ)が鮮烈。
なんの躊躇もなく人に刃を向ける直情型のパールだが、その言動の節々から
戦争とスペイン風邪に挟まれ、一度きりの人生を浪費せざるを得なかった時代が生んだ
モンスターなのではと思わせる不憫さや悲しみが染み出していて、やはりどうしても憎みきれない。
ミア・ゴスはパールを「理解不能の狂人」にはしたくなかったのだと思う。
歴代のホラー映画に登場するシリアル・キラーは、ほとんどの場合感情がない。
しかしパールは、子供のように声をあげて泣くし、一度きりの過ち(不貞)を悔いているし、
熱意と努力だけでは手に入れられない夢のチケットを手にした友人を妬ましく思っている。
彼女を苦しめる自責の念や悲しみは、誰しも経験のあることばかりだ。
長い長い独白のシーンや、喜怒哀楽をごちゃ混ぜにしたエンドロールの視線からは
抑えたくても抑えられない感情に自分自身も苦しんでいるのだという
パールの心の叫びが込められているように感じた。
(この書き方が妥当かはわからないが)「まともな世界」と「まもとじゃない世界」は
薄い扉一枚で隔てられていて、人間関係や職場環境など様々な要素が絡み合った時に
簡単に破られてしまう。人が凶行に及ぶきっかけなど、いつだって些細なことなのかも知れない。
▼映画「Maxxxine マキシーン」2025年6月6日公開
数々の名作ホラーへのオマージュを込めた作品だからなのか、公開日がオーメンっぽく6月6日というのも面白い。
1985年、ハリウッド。
6年前の事件(1979年の「X」での殺人事件)で唯一生き残ったマキシーンは
ついに主演の座を射止め、ポルノスターからハリウッドスターへの階段を上ろうとしている。
しかしそんな彼女の元に、謎の連続殺人鬼や、彼女の過去を探る私立探偵、FBIまでもが立ちはだかろうとしていた。
3作かけてパールとマキシーン二人の人生を駆け抜けたミア・ゴスはオスカーものの大奮闘。


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2025年5月現在、「X エックス」はAmazonプライムビデオ、Huluで見放題配信中。
続編の「Pearl パール」はAmazonプライムビデオ、U-NEXT、Huluで見放題配信中。
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