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忍之閻魔帳

ゲームと映画が好きなジジィの雑記帳(不定期)。
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【祝・『国宝』100億突破記念】李相日監督作品をもっと多くの方に知って欲しい

2025年08月18日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


▼【祝・『国宝』100億突破記念】李相日監督作品をもっと多くの方に知って欲しい



映画「国宝」の興行収入が100億円を突破した。
73日間での100億突破は、比較的近い推移となっている
洋画「ボヘミアン・ラプソディ」(累計134億)の100億突破よりも早いペースで
8月18日現在も動員に翳りが見えないところを見ると、累計でも上回る可能性が高い。
さすがに「踊る大捜査線2」を超えるのは厳しいとしても
邦画界の悪しき慣習とは距離を置いた作品がこれほど多くの人に受け入れられたのは
歴史的な快挙と言っていいだろう。

映画「国宝」は原作・演出・美術・演者(エキストラまでも含む)と、
作品に関わる全員が心一つにして打ち込めば必ず届くんだという熱量が
異様なまでに高く、スクリーンが熱を帯びているような錯覚にすら陥る。
歌舞伎のシーンの撮影では、劇場に招かれた満員のエキストラを前に
丸一日かけてほんの数カットしかOKが出なかった日もあったという。
「美しいものの、最も美しい瞬間をスクリーンに焼き付ける」ことにこだわった
李相日監督の演出は、欲しい空の色が来るまで何日でも待つ山田洋次監督のよう。
そのこだわりに必死で喰らい付いていった吉沢亮と横浜流星の奮闘があればこそ
「国宝」は歴史に名を残す傑作たり得たのだと思う。

改めて、歴史ある東寺で開催されたジャパンプレミアで
主要キャスト勢揃いの舞台挨拶付きで見ることができたことは僥倖だった。
屋外に設置されたスクリーンで見たあの日の体験は
日が落ちると少し肌寒かったことやパイプ椅子の硬さまで全てを鮮明に覚えている。


64%還元■Kindle:国宝 上 青春篇 (朝日文庫) / 吉田修一
64%還元■Kindle:国宝 下 花道篇 (朝日文庫) / 吉田修一
45%還元■Kindle:国宝 全3巻

2025年8月18日現在、「国宝」の原作小説(Kindle版)が64%の超高額還元セール中。
1冊あたりは約300円、セット購入でも600円は破格中の破格。
映画をご覧になった方も新鮮な気持ちで楽しめる、補完にぴったりの作品。
コミック版の「国宝」も45%還元。



さて、「国宝」が大ヒットしたことで持て囃されているのが
演者ばかりな気がするので、この記事では私の大好きな李相日監督に目を向けてみたい。
私が李相日監督作品を初めて見たのは妻夫木聡と安藤政信の「69 sixty nine」(2004年)で
妻夫木の舞台挨拶付きの試写会だった。
映像とテンポは好みだったのだがさほどインパクトはなく
窪塚洋介x行定勲監督の「GO」(2001年)のラインか、ぐらいの印象だった。
しかしそれから2年後、監督の名前を刻み込む名作と出会う。




配信中■Amazonプライムビデオ:「フラガール」(2006年)
(2025年8月18日現在、Amazonプライムは有料レンタル、U-NEXT、Huluは見放題配信中)

昭和40年、炭坑を主産業として栄えてきた福島県いわき市。
反対むなしく、時代の流れで次々と閉山に追い込まれ
先行きが不安になる男衆を尻目に炭坑に代わる新たな収入源として
市が目を付けたのがハワイアンセンターを作ることだった。
蒼井優、山崎静代(南海キャンディーズ)、富司純子、
豊川悦司、松雪泰子といった豪華キャストを揃えて
常磐ハワイアンセンター誕生までの過程を描いた本作は
キネ旬、報知、日本アカデミー賞など、2006年度の映画賞を総なめにした。

ただ闇雲に反抗するだけで活路を見出せずに愚痴るばかりの男達と、
明日も食わねばならないという現実を前に、一歩踏み出す女達。
都落ちして来たダンス教師の松雪泰子から多くのものを吸収して
一人前のフラガールに成長していく蒼井優、山崎静代など
フラガールの面々が素晴らしい。
後半のフラダンスシーンは圧巻。
特に蒼井優のソロパートは息を呑むほど美しく、
この数分間のためだけにでも観る価値は大アリ。
作品の成否を左右するパフォーマンスシーンへの
執念とも言えるこだわりはこの作品から始まっている。




配信中■Amazonプライムビデオ:「悪人」 (2010年)
(2025年8月18日現在、Amazonプライム、U-NEXT、DMM TVで見放題配信中)

中島哲也監督の「告白」と同じ年に公開された、2010年を代表する傑作。
芥川賞作家であり、「国宝」まで何度もタッグを組むことになる
吉田修一の同名ベストセラーを李相日監督が映画化。
主演は「69 sixty nine」で組んだ妻夫木聡。
共演は深津絵里、満島ひかり、岡田将生、永山絢斗、韓英恵、余貴美子、
光石研、宮崎美子、樹木希林、柄本明など。音楽は久石譲。

世の中では毎日多くの方が人の手によって命を落としている。
けれどその事実は、すぐ近くで発生しない限りほとんど自覚することがない。
テレビのニュースで語られる事件はとても事務的で
順番待ちをしている次のニュースに押し出されるように記憶を素通りしていく。
神の良しと定められた時ではなく、人為的に人生を強制終了されられた方の無念や
止むに止まれず人を殺めてしまった者の後悔など知る由もないし興味もない。
「悪人」で起こるひとつの殺人事件も、ニュースというフィルターを通せば
「痴情のもつれから来た、自己中心的かつ残虐な殺人事件」へと変貌する。
母親から捨てられ、土木作業員として働き、寂れた漁村で暮らす若者。
背景だけを見て「こんな環境で育った奴ならやって当然」と判断する人々。
マスコミに吊るし上げられる加害者の家族、
哀しみのやり場すら持たず苦悩する被害者の遺族。
表層的な部分だけを拾って善悪を判断する私達の同情や義憤は、いつもとても無責任だ。

この作品の凄いところは、加害者を主人公にしていながら
犯行理由にだけスポットを当てた、犯罪者擁護のストーリーになっていないこと。
殺されて当然とすら思える石橋佳乃(満島ひかり)や、
救いようのないバカボン(=馬鹿なボンボン)の増尾圭吾(岡田将生)ですら、
どこかしらに共感し得る部分を持っている。

どんな理由があろうと、人を殺した事実は変わらない。
しかし、私はこの清水祐一という殺人者を、最後の最後までどうしても憎みきれなかった。
むしろ、ギリギリの状況で見せた最後の優しさに涙が溢れて止まらなかった。
法律に「情状酌量」という判断が存在するのは何故なのか、
この映画を観て初めて分かった気がする。

祐一と共に出口のない逃避行に出る女性、光代を演じた深津絵里は
本日、第34回モントリオール世界映画祭で最優秀女優賞を受賞した。
試写会でお見掛けした際、「今からモントリオールに行きますが、
良く知らない国の人よりも、まずはここに居る皆さんに楽しんでいただきたいです」と
言っていたのを思い出す。知名度の割に代表作と呼べるものが無かった彼女なので、
これでようやく大女優の仲間入りだ。
祐一を演じた妻夫木聡も間違いなくキャリア最高の芝居をしている。
原作の大ファンで、読み終えてすぐにマネージャーに版権の行方を調べさせたらしい。
既に東宝が持っていると分かり、諦めかけたところへ
東宝側からオファーがあったのだという。

李監督曰く「テレビドラマの延長線で作ってませんし
油田が爆発するだとか、そういった派手なことは起こりませんが
1本の作品としては決して負けていないと思います」とのこと。
当たり前だ、「THE LAST MESSAGE 海猿」など比較にもならない。
あ、せっかく監督が遠回しに言っているのに「海猿」と書いてしまった。




配信中■Amazonプライムビデオ:「怒り」 (2016年)
(2025年8月18日現在、Amazonプライム、U-NEXT、DMM TVで見放題配信中)

「悪人」で数々の映画賞を獲得した吉田修一原作×李相日監督が再タッグ。
凄惨な殺人事件発生から1年、未だ犯人は逃亡を続けている。
ある日、千葉・東京・沖縄の3箇所に前歴不詳の若い男が現れた。
ひとりは千葉の漁港で働く漁師の父と、やや不安定な娘の前に現れた青年・田代。
(漁師:渡辺謙、娘:宮崎あおい、田代:松山ケンイチ)
もうひとりは東京でサラリーマンをしているゲイの優馬が出会った直人。
(優馬:妻夫木聡、直人:綾野剛)
もうひとりは、母と共に沖縄に移り住んできた泉が出会ったバックパッカーの田中。
(泉:広瀬すず、田中:森山未來)
テレビでは犯人の情報を求める特別番組が放送され、
それぞれの生活にも小さな波風が立ち始める。

吉田修一原作の映画は総じてアタリ率が高いのだが「怒り」はその中でも究極。
これほど打ちのめされることはないというほどにぐったりしたが、
軽薄な作品が溢れ返る中で、映画を観る醍醐味を再確認出来る1本。
中心に据えた渡辺謙は抑え役であり、
若手から中堅が邦画の総力戦かと思うほどの芝居を披露してくれる。
妻夫木と綾野は本物のカップルにしか見えないし
(ん、そういえば綾野剛は「横道世之介」でもゲイ役だったな)、
広瀬すずはこの年齢でここまでやるかの大熱演、
いつまでも可愛いに留年していた宮崎あおいは遂に新境地を開拓し、
森山未來や松山ケンイチまで主要登場人物は皆助演賞モノ。
無理解・無関心・差別・虐待など、様々な環境で怒りを溜め込んできた若者達を
優しく包み込む坂本龍一のスコアは「レヴェナント」よりずっと力が入っている。
141分の長尺ながら途中一度も「長いな」と感じるはことなかった。
力強さと繊細さをテンポよく織り交ぜた演出は李監督の真骨頂。
「フラガール」「悪人」といくつもの名作を送り出してきた
李監督の最高傑作と言って良いのではないか。




配信中■Amazonプライムビデオ:「流浪の月」 (2022年)
(2025年8月18日現在、Amazonプライム、U-NEXTで見放題配信中)

本屋大賞に輝いた凪良ゆうの同名ベストセラーを
「新聞記者」「孤狼の血」と立て続けに話題作に出演する松坂桃李と
「怒り」「海町Diary」の広瀬すずのW主演で映画化したヒューマンドラマ。
女児誘拐事件の被害者と加害者が、事件から15年後に偶然再会したことで
穏やかに過ごしていた二人の生活が再び揺れ始める。
共演は白鳥玉季、横浜流星、多部未華子、趣里、三浦貴大、内田也哉子、柄本明。
脚本・監督は「悪人」「怒り」の李相日。
美術は「キル・ビル」から三谷幸喜作品まで世界的な人気を誇る種田陽平。
撮影監督は「母なる証明」「パラサイト 半地下の家族」のホン・ギョンピョ。
アジアではクリストファー・ドイル以来に登場した名撮影監督として活躍中で
是枝裕和監督の最新作「ベイビー・ブローカー」でも撮影を担当している。

雨の公園で濡れながら本に目を落とす10歳の少女・更紗(白鳥玉季)。
父を亡くし、母が他所に男を作ってしまったことで伯母の家に引き取られるも
そこにも居場所はなく孤独の中で時間を持て余していた。
公園に傘を持って現れたのは、更紗と同じく孤独を抱えた大学生の文(松坂桃李)。
僅かな会話から事情を察した文は、自分の家に来るかと声をかけ二人の共同生活が始まった。
安心して眠れる場所を見つけた更紗と、少しずつ笑顔を取り戻す更紗を黙って受け入れる文だったが
同居生活から2ヵ月経ったある日、文は誘拐犯として逮捕され、束の間の平穏な日々は終わりを告げる。
そこから15年後、更紗(広瀬すず)は恋人の亮(横浜流星)と同棲生活を送っていた。
亮との関係は決して順調とはいえず、狂い始めた歯車の軋む音が更紗にとって次第に重荷になっていた。
相談に乗ってもらうために同僚の佳菜子(趣里)と偶然入ったカフェにいた店主は、紛れもない文だった。

物語は、以前ドラマ化もされた「幸色のワンルーム」によく似ている。
「幸色〜」は年端もいかない少女を連れ去った事件を美化していると批判が殺到し
当初は地上波での放送予定だったものを断念して配信へと切り替えられた。
ほぼ同じプロットの物語に挑んだ李監督は、年の離れた二人の絆の強さを
当事者と部外者双方の心情を配慮した上で、常識や倫理を超えて呼び合ってしまう
二人の関係を描き出すことに成功している。
「当事者にしかわからないこと」と「部外者にしか見えないもの」の狭間で揺れる
二人の少女がどちらも素晴らしく、特に更紗の少女時代を演じた白鳥玉季が放つ
眩しいばかりの透明感と芯の強さがうかがえる眼差しは、
今にも壊れてしまいそうな文の脆さとは対照的で重苦しい雰囲気の漂う本作の一筋の光になっている。

『10歳の少女に大学生が声をかけ同棲生活を送っていた』と聞けば
世間の多くは亮や作中の学生達、レストランで働く同僚と同じ感情を抱くだろう。
二人がどんな気持ちで響き合い、繋がっているのかを吟味する間もなく
更紗と文の年齢差だけをもって「汚らわしい」と決断を下す。
法に従って動く警察はまだしも、感情で動く世間の暴走には歯止めが効かない。
理解できないものを排除し、側から遠ざけようとするのは防衛本能故だろうが
自分達の安息のために、行き場のない二人をさらに孤独に追い込むことには無頓着になっている。
二人の共依存を強固にしているのは、実は自分達の無理解なのだという自覚はおそらくない。

横浜流星はこれまでに見たことのない表情を連発し
李組の洗礼を受けて完全に一皮向けた印象。
この時の好演が「国宝」での大抜擢に繋がったのは間違いない。


★しのびんのほしいもの&いつか買うリスト

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Amazonプライムビデオ「笑ゥせぇるすまん」お子様向けカフェオレ・ユーモア

2025年08月09日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


▼Amazonプライムビデオ「笑ゥせぇるすまん」お子様向けカフェオレ・ユーモア



配信中■邦ドラ:Amazonオリジナル|笑ゥせぇるすまん

藤子不二雄Aの生み出した名物キャラクター・喪黒福造を
ロバートの秋山竜次が演じることで話題を集めていた「笑ゥせぇるすまん」が配信中。
7月18日に最初の4話が配信され、25日、8月1日にそれぞれ4話ずつ追加されて合計12エピソード構成。
脚本を手掛けるのは、宮藤官九郎、マギー、細川徹、岩崎う大(かもめんたる)、
監督は「ワタシってサバサバしてるから」の伊藤征章、「民王」「おっさんずラブ」の山本大輔など。

1-4話
「たのもしい顔」山本耕史
「シーソーゲーム」斉藤由貴 / 千葉雄大
「ソックリさん」本郷奏多 / あの
「決断ステッキ」黒島結菜

5-8話
「夢の一発屋 モグリズム」石田重廣 / 保科有里
「デトックスヒロイン」井桁弘恵
「地下アイドル モグリズムII」髙嶋政伸 / OCHA NORMA
「借りパクの泉」中川大志

9-12話
「イン主婦エンサー」仲間由紀恵
「海馬ガム」國村隼
「ホワイト上司」勝地涼
「サブスクおじいちゃん」濱田岳 / 小日向文世




「笑ゥせぇるすまん」が最初にアニメ化されたのは
TBSで放送されていた「ギミア・ぶれいく」というバラエティ番組内のワンコーナーだった。
同番組のレギュラー出演者でもあった藤子不二雄Aが受け持つコーナーという位置付けで
同じくレギュラーを務めていた石坂浩二、ビートたけし、関口宏、糸井重里ら名だたる顔ぶれの
コーナーを押し退けてズバ抜けた人気を誇り、総合司会の大橋巨泉をして
「ここだけポーンと数字(視聴率)が上がるんだよ」と認めるほどだった。
かくいう私も、ほぼ「笑ゥせぇるすまん」が目当てだったと言っていい。

「ギミア・ぶれいく」のコンセプトは、レギュラーメンバーを見てもわかる通り
「大人が楽しめる、大人のためのバラエティ」だった。
ゴールデンタイム(21時からの2時間番組)に深夜番組のノリを持ち込んだ野心的な番組で
糸井重里は制作費をジャブジャブ使って埋蔵金を掘り、ビートたけしは「使えるオカマ語」など
今ではコンプラ的に放送の難しいコーナーもあったように記憶している。
その中に「笑ゥせぇるすまん」が組み込まれたのは、
大人の鑑賞に耐え得るブラックユーモアを持っていたからだろう。
(ちなみに喪黒のデザインは「11PM」でMCを務めていた頃の巨泉がモチーフになっている)
喪黒福造にチャンスをもらった人々が、結局は欲に駆られて自滅するのが定番で、
コーナー終了後に画面が切り替わると、巨泉が「悪い奴だよなぁ、ウッシッシ」と笑い、
それを藤子が満足そうに見ているのがお決まりの光景になっていた。

Amazonプライム版は、伊東四朗が喪黒を演じた1999年のテレビ朝日版以来の実写化。
原作にあるエピソードは全12話中5話で、7話がオリジナル脚本である。
斉藤由貴が演じた肌野羽里世(はだのはりよ)や千葉雄大の庵地英治(あんちえいじ)など
オリジナルながらクドカンの執筆した作品に登場するキャラクター名には
原作へのオマージュを感じるが、ロバート秋山演じる喪黒福造が
どうやっても面白くなってしまうために「ロバート秋山のクリエイターズ・ファイル」の
新作のように見えてしまうのが最大の難点。
大平透の口調を驚くほど精巧に真似てはいるものの、喪黒福造という人物が持っている
怪しさや不気味さは出せておらず、大人向けのブラック・ユーモアには程遠い、
お子様向けのカフェオレ・ユーモアといった感じ。
それでいて「決断ステッキ」のような、割と残酷なオチの作品も取り上げているために
ドラマの空気とストーリーが乖離してしまっている。
特に1話の「たのもしい顔」は脚本も演出もダメダメな方向にアレンジされていて
なぜこれを掴みである1話に持ってきたのか理解に苦しむ。
「FIRST TAKE」を模したエンディングや梅宮辰夫から公認をもらった腹芸、
丸山礼や関口メンディーを秋山のドッペルゲンガーとして登場させるなど、
ふんだんに埋め込まれた遊び心が作品の世界観とどうしても馴染まないのだ。
「ふざけているようで実は恐ろしい」のが喪黒福造であり
「ふざけてふざけてふざけ倒している」のは、もうロバート秋山でしかない。

25日に追加された5-8話は、もはや「笑ゥせぇるすまん」でも
「ロバート秋山のクリエイターズ・ファイル」でもない、
「ロバート秋山による笑ゥせぇるすまんのパロディ」になってしまっている。
特に夢グループの石田重廣・保科有里を招いた「夢の一発屋 モグリズム」に至っては
完全なバラエティ番組のノリで、アドリブで収録したのであろうレコーディングシーンの掛け合いに
爆笑しつつも、ふと我に返って「でもこれは喪黒福造じゃないよな」と冷めてしまった。

もうここで見るのを止めようかと思いつつ、どうせここまで見たのだからと再生した
9-12話の4エピソードは、前週から打って変わってかなり原作に近い雰囲気。
仲間由紀恵、國村隼、濱田岳の3人もそれぞれに良いが
「ホワイト上司」の勝地涼は他の11エピソードの登場人物達を圧倒する振り切り芝居で、
藤子Aの世界観を余すことなく体現している。前髪クネ男以来の快演と言っていいのでは。

最後の4エピソードのおかげで何とか体裁は保ったものの
全体的には飛び道具多めというか、飛び道具だらけの作りになっていて
期待が大きかった分、失望も少なくない微妙な仕上がりだった。
ただこれは、「ギミア・ぶれいく」で初めて喪黒と出会って以来、
かれこれ36年ほどの付き合いになる私だから感じている違和感かも知れず
本作で初めて「笑ゥせぇるすまん」に触れた方ならそれほど気にならないのかも知れない。
このドラマが初めて見る「笑ゥせぇるすまん」だった方は、ぜひアニメにも触れてみてほしい。
原作ファンが見るなら、2、9、10、11、12話だけでOK。

Amazonプライムビデオ「笑ゥせぇるすまん」は現在配信中。


配信中■Kindle:笑ゥせぇるすまん
配信中■Amazonプライムビデオ:笑ゥせぇるすまん 関連作品一覧

1989年放送のアニメ版「笑ゥせぇるすまん」は、Amazonプライムビデオでは有料レンタル。
U-NEXT、Hulu、dアニメでは見放題配信中。

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映画「星つなぎのエリオ」独りじゃないと知ること|「リメンバー・ミー」「ソウルフル・ワールド」も再紹介

2025年07月29日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


▼映画「星つなぎのエリオ」独りじゃないと知ること



08月01日公開■洋アニ:星つなぎのエリオ

ディズニー&ピクサーの名コンビによる新作「星つなぎのエリオ」が8月1日より公開。
両親を失った地球の少年が、同じく孤独を抱えたエイリアンの少年と友情を育み
二人で手を取り合って宇宙の危機を救うファンタジー。
声の出演はヨナス・キブレアブ、ゾーイ・サルダナ、渡辺直美、レミー・エジャリー。
脚本は「ソウルフル・ワールド」のマイク・ジョーンズ、「私ときどきレッサーパンダ」のジュリア・チョー。
監督は「私ときどきレッサーパンダ」のドミー・シーと本作が長編デビューとなるマデリン・シャラフィアン、
「リメンバー・ミー」の共同監督を務めたエイドリアン・モリーナの3人体制。
日本版エンドソングはBUMP OF CHICKENの名曲「リボン」。

ピクサーといえば、その名を見た時点で
一定以上のクオリティが約束されている大安定のトップ・ブランドであり
特に本作は私の大好きな「ソウルフル・ワールド」の脚本家と
「リメンバー・ミー」の脚本&共同監督のタッグということで期待も大きかった。
宇宙に憧れを持つ少年が両親を失くし、世界で独りぼっちになってしまったと
落ち込んでいる時、遥か遠くの星の住人と無線で繋がり、
予想もしていなかった刺激的な出会いと大冒険を経て生きる力を取り戻す。
この優れたプロットを、製作陣が100%生かせていたかと言われると
残念ながら従来のピクサー作品に比べて甘いと言わざるを得ない。
マーベルやディズニーでは当たり前になっているチーム形式による脚本や演出が、
本作においてはテーマの軸をぶらし、キャラクターの心理描写を薄くしてしまったような気がする。

「リロ&スティッチ」のような異世界の住人との友情物語にしたかったのか、
「リメンバー・ミー」のような故人を悼む心を描きたかったのか
伸ばした枝葉がそれぞれの先で大きな花を咲かせるには至らず、
大団円に向かってひとつに集約されていくようなダイナミックさもない。
シーン単位で見ればそこそこ良い話なのだが、
1本の映画としてまとまっていかないもどかしさがある。

「宇宙のどこかに私たちとは違う生物がいて、彼らとコミュニケーションが取れたなら」

少年の夢が現実のものとなっているのに、物語が喜びや興奮や人種を超えた友情よりも
少年の吐いた嘘にフォーカスし、説教臭くしてしまったのも失敗だったのではないか。

この世を去った愛しい人々が、自分のことを今もどこかで見守ってくれていると信じ
今日を生きていくのが「リメンバー・ミー」の教えであるのに対し、
愛しい人々が居なくなった世界でも、あなたは決して独りぼっちではないんだよと
語りかけるのが「星つなぎのエリオ」の教え。
哀しみに捉われるあまり、見落としてしまっている身近な愛情や友情に
目を向けようという視点は温かく共感するが、
ならばこの物語で少年の孤独を埋めるのは、血縁者である叔母ではなく
無線仲間だったのではないだろうか。(彼らもサポートはしているが脇役)
遠い星に住む友人との対比という意味でも、その方がしっくりくる。

ピクサー作品でなければもっとニュートラルに楽しめたと思うので
劇場で観る予定の方は、まずは期待値を少しだけ下げておくことをお勧め。

映画「星つなぎのエリオ」は2025年8月1日より公開。




発売中■Blu-ray/DVD:ソウルフル・ワールド
配信中■Amazonプライムビデオ:ソウルフル・ワールド

ジャズミュージシャンになるという夢が叶う瞬間に
不幸な事故で命を落とした音楽教師のジョーが、迷い込んだソウルの世界から地上に戻るため
人間界に何も期待しないこじらせソウルの22号と協力しながら奮闘する物語。
ジョー役には「ドリーム・ガールズ」ジェイミー・フォックス。
22番役には「デート&ナイト」のティナ・フェイ。
監督は「カールじいさんの空飛ぶ家」「インサイド・ヘッド」のピート・ドクター。
印象的な音楽を担当しているのはNetflix「Mank / マンク」や
A24制作映画「WAVES/ウェイブス」のトレント・レズナー&アッティカス・ロス。

NHKのバラエティ番組「チコちゃんに叱られる!」の中で
「大人になると一年が早く感じるのはなぜ?」という疑問を取り上げたことがあり、
チコちゃんの回答は「年を取ると、人生にトキメキがなくなるから」だった。
子供の頃には、食事ひとつ取っても知らない食材との出会いなどのトキメキがあるが
大人になると食事は空腹を満たすだけの行為になる。
時間経過はトキメキの数が多いほとゆっくりになり、少ないほど早いというものだった。
一年どころか十年前の出来事も最近に思える私には、非常に納得のいく話だった。

本作に登場する通称『22番』は、まだこの世に生まれていないソウルである。
これから世界に生まれ、多くのトキメキを吸収して成長するはずが
多くの偉人とのコミュニケーションを通じて世の中の清濁を見過ぎたせいで
すっかりこじらせ女子と化し、物事を斜に構えて見るクセがついてしまった。
ジャズプレーヤーになる夢を諦めきれないまま音楽教師をしていたジョーは
ついに回ってきたチャンスを手にした瞬間に不幸な事故に巻き込まれてしまう。
生まれたくない22番と、もう一度現世に戻りたいジョー。
まだ生まれ来ぬソウルと、ソウル(ミュージック)を愛する音楽家の道中には
私たちの生活にもあてはまる喜びや悩みに満ちていて、その全てが眩しく愛おしい。
22番が初めてピザを食べてトキメキを覚えるシーンでは
私が幼い頃に初めてハンバーガーを食べた時の感動を呼び起こしてくれた。

ジョーの母親は、夢を諦めて実直に働けという。
幼い頃には「何になりたいか」を問い、それが何にせよ夢があるのは良いことだと
無条件に背中を押してくれたはずが、いつしかレールから踏み外さない生き方をしろと諭されるようになる。
夢が叶おうが夢に破れようが時間は変わらぬ速度で進み人生は前に前に進んでいく。
人生は有限だと気付かされた時に、人はトキメキを感じる余裕を失ってしまう。
チコちゃんは「大人になるとトキメキが減るから」といった。
しかしトキメキとは、日々の生活に無数にあるものではないのかな?とこの映画は語りかける。
大きなイベントが起こらない代わりに、無数の小さな喜びを物語中に配置し
22番がトキメキを感じると同じ歩幅で、見ている私の価値観も書き換えられていく。
夢も大事だけど、命ある一瞬を大切に、ただ生きていればいい。
毎日こなすルーティーンの中にもきっとトキメキは隠れている。それを探していこうよと。
この作品がコロナ禍の2020年に世に発表されたことは奇跡にも思える。




発売中■Blu-ray/DVD:リメンバー・ミー
配信中■Amazonプライムビデオ:リメンバー・ミー
配信中■Amazonプライムビデオ:ピクサー ディズニー 関連作品一覧

世界中どこで暮らす人にも等しく訪れる「死」をテーマに、
ふとしたきっかけで死者の国に迷い込んだ少年の冒険を描く。
監督は「トイ・ストーリー3」のリー・アンクリッチと、
本作が監督デビューとなるエイドリアン・モリーナ。
主人公の少年ミゲルの声はアンソニー・ゴンザレス。
ヘクターにはメキシコのNo.1人気俳優ガエル・ガルシア・ベルナル。
ハリウッド進出する必要があったのだろうかとずっと思っていたガエルが
まさかのディズニー作品に出演するとは予想外の喜び。

人は死んだらどこに行くのだろう。
宗教や霊的な存在を信じる・信じないに関わらず、そのことを考えない人はいないだろう。
いつもすぐ側にいると言う者もいるし、天国にいると教える者もいる。
ペットには虹の橋という概念もある。
死後の世界があるのか無いのかは、結局のところ誰にも分からない。
しかし命の灯が消えた瞬間に、全てが無かったことになるのは寂しい。
この「死んだらそれで全て終わりでは寂しい」と想う気持ちが
死後の世界を「あって欲しい場所」とし、今を生きる私達の心の拠り所になっている。
賑やかに葬る国もあればしめやかに葬る国もあったりと、
国によって葬り出す方法は様々だが、
「安らかに眠って欲しい」「もう一度逢いたい」と願う気持ちは世界共通だ。

「リメンバー・ミー」は誰もがおぼろげに抱いていた
「死後の世界」を描いたファンタジーである。
メキシコの風習である「死者の日」は、日本に置き換えればお盆。
墓参りや墓参の祈りが何故あるのか。
その日だけ帰ってくると言われる死者の日やお盆に故人が本当に来ているのだろうか。
いや、来ていて欲しい。
そんな淡い期待を込めて写真に話しかけている私達にとって
この映画はこの上ない癒しであり、教えにもなる。

人は二度死ぬと言われる。
一度は命の灯が消えた時、そしてもう一度は人々から完全に忘れ去られた時だと。
人づてや映画、ドラマで幾度となく聞いてきたこの言葉の意味が
これほど上手に、かつ満点の娯楽作品としてビジュアル化されたことは過去になかった。
エンドロールに出てくる一文と大量の写真に思わず涙が溢れた。
この精神で作っているから、ディズニー作品はいつでも素晴らしいのだ。

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「あさイチ」のホラー大年表が大反響だったのでホラー好きから少しだけ補足させてくだ祭

2025年07月10日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


▼「あさイチ」のホラー大年表が大反響だったのでホラー好きから少しだけ補足させてくだ祭



Twitterを始めてかれこれ15年ほど経つが、初めて「バズる」という経験をした。
2025年7月10日現在も延々とリポストといいねが続いており
インプレッション数は372万、いいね5万、リポスト1.4万という数字に
少しだけ恐怖を感じつつ、「世の中にこんなにホラー好きがいたのか」という嬉しさもある。

私の幼少期から思春期にかけては、映画もドラマも横溝正史の大ブーム、
マンガは楳図かずおや古賀新一(エコエコアザラク)や藤子不二雄A(魔太郎がくる!!)、
アニメは「ゲゲゲの鬼太郎」や「妖怪人間ベム」や「デビルマン」、
テレビ番組では「あなたの知らない世界」を始めとする心霊番組が量産されていた時代で、
わざわざホラー系のコンテンツを探さなくとも生活圏に「怖いモノ」が溢れていた。
このリストを作成された方は、おそらく私とほぼ同世代なのだと思う。
「怖い」にまつわるコンテンツを、どういった切り口で選別したのかが
なんとなく想像できてしまうほど好みが似ている。
ホラーの歴史に新しいジャンルを開拓したり、違う切り口で攻めた作品、
怖いだけじゃない、実はとても懐の深いホラーというジャンルに
多くの人に触れて欲しくて選んだ(と思しき)作品がいくつも見受けられる。

このポストに反応した多くの方がそれぞれに思い入れのある作品をあげていて
それを読んでいるだけでも楽しい。
というわけで、私も「これも入れて欲しかった」と思う作品を
思いつくままに書いてみたい。過去ログや資料を使うともっと作品が増えて
収拾がつかなくなりそうなので、ぶっつけ本番で思いついたものだけを羅列する。





まずは今年ディズニープラスで第2シーズンが配信され完結した「ガンニバル」。
閉ざされた村社会を舞台にしたM・ナイト・シャマランげな設定で、
警察官・阿川大悟が赴任してきた村に流れる「ここでは人を喰っている」との噂の真相に迫る。
監督は単館系で公開された「岬の兄妹」が絶賛され、今最も映画界から注目を集めている片山慎三。
脚本家には「ドライブ・マイ・カー」大江崇允。
共演は笠松将、吉岡里帆、六角精児、中村梅雀、倍賞美津子など。

田舎町特有の閉塞感や新参者を嫌う村意識の厄介さは
実際に経験したことのある方ならトラウマを掘り返されかねないレベルにリアリティがあり
そこに「人を喰って自らの血肉とし、共に生きる」との奇習に倣い故人を葬う村人達の
異様な瞳のギラ付きが加わって、何か起こらなくても十分ホラーな空気が充満している。
美しい山々の風景と、どこからか漂ってくる死と血の匂い。
静の恐怖を描いたシーズン1から一転し、シーズン2ではスラッシャームービーのような
エンターテイメント性を爆発させているのも上手い。
ホラー好きならば、このドラマを見るためだけにディズニープラスに加入しても損はない。





ホラー大年表に寄せられた声の中で多かったのが「楳図かずおの作品がなぜないのか」。
私も一番最初にそう思った。
しかしすぐに、「楳図かずお大年表」が作れてしまうからだと自己解決した。
「漂流教室」が与えたスペクタクルとサバイバル、「わたしは真悟」や「14歳」が残した未来への提言、
純粋な恐怖を追求した「神の左手 悪魔の右手」など、名作しかないので絞りようがない。
それでも敢えて、この年表に入れるならばという条件で私が挙げたいのが「洗礼」。


配信中■Kindle:わたしは楳図かずお マンガから芸術へ
配信中■Kindle:洗礼 / 楳図かずお

自身の若さを手に入れるため娘の若さを利用しようとする母親の執念と、
母の脳を移植され幼い体に老婆を宿した娘の無邪気な邪悪さ。
あっと驚く結末まで、数冊で完結する短編でここまでの完成度を誇る作品はなかなか無い。
未読の方がいたら、ぜひともお読みいただきたい。




配信中■Amazonプライム:HOUSE ハウス
配信中■Blu-ray/DVD:HOUSE ハウス

「時をかける少女」や「さびしんぼう」などいくつもの傑作を手がけてきた
巨匠・大林宣彦監督が1977年に発表した名作ホラー映画。
それまでの日本映画にはなかったヴィヴィッドな色使いは「映像の魔術師」と言われ、
当時ポップミュージックの旗手であったゴダイゴを
サウンドトラックに起用する大胆なアイディアでもファンを驚かせた。
2021年にはレストア版が発売され、
叔父に連れられて初めて劇場で見た時のインパクトが蘇るほどの美麗さで大満足。
南田洋子のおばちゃまの怖さ、池上季実子の美しさ
大場久美子の音痴&大根さ、今やDHCの顔となった神保美喜のへなちょこカンフー、
全編が見どころと言っても過言ではない。
この流れが角川全盛期の「ねらわれた学園」などに受け継がれてゆくわけで
日本のホラー史を語る上では外せない作品でもある。




配信中■Amazonプライムビデオ:イット・フォローズ
発売中■Blu-ray/DVD:イット・フォローズ

解釈を巡って海外で非常に活発な議論が交わされたこともあり、
ひねりの効いたテーマと静かな演出が今も妙に記憶に残るホラー。
監督はデヴィッド・ロバート・ミッチェル。
本作から4年後に、こちらも私の大好きな「アンダー・ザ・シルバーレイク」を撮っている。

「セックスをすると取り憑かれるお化け」とは
冗談かと思うほどふざけた設定だが、本人達は本気も本気、
絶叫を上げて逃げ惑うのだからスクリーンの向こうとこちらの温度差はかなりのもの。
シニカルな笑いと示唆に富むマニアックな作りは
スカーレット・ヨハンソン主演の「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」に近い。
呪いのシステムは「リング」的だが、他人に見せれば無罪放免だった「リング」と異なり
こちらは見せた相手が死んでしまうと再び自分に戻って来てしまうのがポイント。
そして感染させるための手段はセックス。
殺されないためには、「桃鉄」に登場する貧乏神のように、
永遠になすり付け合いながら逃げ回るしかない。

このことからタランティーノを始め多くの方が
「これは性生活の乱れた現代の若者に向けたセーフセックス推奨映画だ」と
解釈したようだが、私はちょっと違う。
呪いが性病のメタファーであることは間違いないとしても、
「だから決まった人とだけセックスするんだよ、ゴムも忘れずにね」で済むなら
不特定多数と次々にセックスしなければ逃れられないシステムにするはずがない。
「遊び人は勝手にうつし合って全滅しろ」と言っているようにも思えない。
私なりの解釈として、間違っていても構わない覚悟で書くが
「どうせやるなら好きな人と愛のあるセックスをしなさいよ」ではないか。
本作における呪いとは、動物的な欲求に流されてヤッてしまった時に抱く
背徳感(精神)や性病(肉体)の象徴であり
だからこそ「何者か」の存在が常に本人の顔見知り(家族等)なのだと思う。
「性病は怖いんだぞ、気をつけろよ」よりも
ずっと青臭く、そしてピュアなメッセージ。若いって素晴らしい。




配信中■Amazonプライムビデオ:貞子3D 2
発売中■Blu-ray/DVD:貞子3D 2

「ホラー映画のあり方」を問うた作品として、クオリティよりもそのチャレンジ精神を
高く評価したいのが「貞子3D 2」のスマ4Dバージョン。
『スマホの電源を入れ、音量も最大にしたまま持ちながら鑑賞する』という
映画の常識を根底から覆すもので、スマホを使って劇場を
体験型アトラクションの空間に変えてしまう鑑賞スタイルは今でも思い出すほど楽しかった。
鑑賞前(できれば前日)に専用の無料アプリをインストールしておき
「機内モードにする」「マナーモードをOFF」「ボリュームを最大」で準備はOK。

スマホを使った遊びと言っても、せいぜい突然電話が鳴ってくる程度のものだろうと
タカを括っていた私を次々に驚かせる仕掛けが満載。
カメラも使う、フラッシュ機能も、アドレス帳も、電話も、タッチパネルも
スマホに備わった機能を片っ端から使って観客を楽しませようとする心意気には感服する。
スクリーンの中で誰かが電話をしている時、手元のスマホを耳にあてると
先方(話し相手)の声が聴こえてきたり、突然大音量でサイレンが鳴り響いたり、
事件現場をカメラで撮影したり、映画の中に入り込ませる仕掛けが随所に盛り込まれている。
何か起こる度に場内が悲鳴と笑いで包まれる一体感は
これまでの映画館では味わえなかった楽しさ。
私の隣の女性はびっくりし過ぎて携帯を放り投げていた。

残念なのは、このシステムを受け継いだ作品が
(ジャンルをホラーに限定しなくても)続いていないこと。
革新的な遊びだと思ったのだが、なぜ続かないのだろう。
3D映画はすっかり廃れてしまったが、スマ4Dを「貞子3D」だけで終わらせるのは惜しい。






配信中■Amazonプライムビデオ:ミッシング・チャイルド・ビデオテープ

テレ東が不定期で制作しているモキュメンタリーシリーズで演出を手掛けた近藤亮太が長編映画を初監督。
オリジナルは2022年の第2回日本ホラー映画大賞で大賞を受賞した短編映画で
監督自らの手でストーリーを膨らませて長編化した。
主演を務めるのは、当BLOGでも紹介した稲垣吾郎主演の「半世界」で息子役を演じて注目を集め
その後も「福田村事件」「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」「ガンニバル2」など
こだわりの強い監督の作品への出演で着実に実力を伸ばしてきている杉田雷麟。
共演は「アルプススタンドのはしの方」の平井亜門、「サユリ」の森田想、塚本哲也など。
プロデュースは清水崇。

長編映画が初とは思えない落ち着きと、血飛沫や大音量を一切使わない
「良質な恐怖」(@「リング」の鈴木光司が「仄暗い水の底から」の映画について
舞台挨拶でそう評価していた)を貫いた良作。
モキュメンタリー風の映像だが、記憶を辿るミステリー要素と
田舎町の因習を絡めたストーリーは良く出来ている。
結末の解釈に幅を持たせているのも上手い。
ビデオテープをキーアイテムとして使う、おそらく最後のホラーになるはず。
輪郭がはっきりしたストーリーと、わかりやすく怖がらせてくれる演出の
ホラーが好きな人には不向き。マニアの域に達したホラー好きならお勧め。



・「スウィートホーム」(邦画)
・「回路」(邦画)
・「アザーズ」(洋画)
・「屋敷女」(洋画)
・「残穢」(邦画)
・「永遠のこどもたち」(洋画)
・「ぼくのエリ 200歳の少女」(洋画)
・「ショーン・オブ・ザ・デッド」(洋画)
・「アンダー・ザ・スキン」(洋画)
・「サユリ」(邦画)
・「先生!口裂け女です」(邦画)
・「ミッシングチャイルドビデオテープ」(邦画)
・「光が死んだ夏」(日本のアニメ)

思いついたけれど我慢した作品を最後にまとめて紹介。
「光が死んだ夏」はまだ初回しか見ていないが「寄生獣」と「セトウツミ」を
ミックスしたような感じで今後に期待。Netflixで視聴可能。



▼gooブログのサービス終了と今後について 続報(不定期)

長時間座っていることが困難な状態が続いていて
過去ログのテキスト保存速度も急激に鈍化中の2025年7月。
9月30日には新規記事の投稿終了、11月18日のサービス終了まであっという間にもう2ヶ月と少し。
4月に発表になったっときは半年もあればとタカを括っていたら
まさかの腰痛でこんなことになるとは予想もしていなかった。
どうせならアメブロの過去ログも含めて全部保存して
一括で引っ越すかなどと気楽に考えていた計画も今となっては夢物語になってしまった。
3ヶ月ごとにやっていたTwitterまとめも気がつけば今回か、早めにやったとして次回が最後になりそう。

というわけで、まだまだ思案中。
サービス終了の前倒しなど、不測の事態が起こらないとも限らないので
Xだけでもフォローしておいていただければ。

https://x.com/sinobintage


★しのびんのほしいもの&いつか買うリスト
腰痛グッズを追加中(笑)

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映画『国宝』|可憐と業の狭間に、化け物は生まれる|【ネタバレあり】原作を使って物語の行間を補完してみる

2025年06月06日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


▼映画『国宝』|可憐と業の狭間に、化け物は生まれる



2025年06月06日公開■邦画:国宝

第69回芸術選奨文部科学大臣賞、第14回中央公論文芸賞を受賞した吉田修一の同名小説を、
「悪人」「怒り」など吉田作品の映像化を手がけてきた李相日監督が映画化。
幼くして父を亡くしたヤクザの息子が、余興で披露したパフォーマンスに
天賦の才を見抜いた歌舞伎役者の家に引き取られ、史上最年少で人間国宝を受賞するまでの
約50年に渡る人生を描いた波乱万丈の物語。
主演に「キングダム」「東京リベンジャーズ」の吉沢亮。
2020年頃から企画をスタートさせた李監督が
「吉沢が受けてくれなければこの企画は終わり」とまで見込んでのキャスティング。
吉沢と共に厳しい芸道を歩む御曹司役には「流浪の月」に続き2度目の李作品となる横浜流星。
その他の共演者は高畑充希、寺島しのぶ、田中泯、渡辺謙。
少年時代のキャストに「怪物」の黒川想矢、「ぼくのお日さま」の越山敬達と
将来有望な二人を揃えているのもさすがの李監督。
脚本は「しゃべれどもしゃべれども」「八日目の蝉」、アニメ版「時をかける少女」の奥寺佐渡子。
舞台美術は「キル・ビル」などのハリウッド作品も手がける種田陽平。
音楽は「流浪の月」「ロストケア」の原摩利彦、ボーカルゲストにはKingGnuの井口理。




配信中■audible:国宝 上 青春篇(ナレーション:尾上菊之助)
配信中■audible:国宝 上 花道篇(ナレーション:尾上菊之助)

吉田修一の原作小説は、軽妙な語り口を使い、
境遇の異なる青年の人生を「青春篇」「花道篇」の上下巻で描いた大長編。
ヤクザ者の息子・喜久雄と、伝統ある梨園の御曹司・俊介。
同じ年頃の二人がひとつ屋根の下で暮らすこととなり、兄弟・友人・ライバルとして
互いに切磋琢磨しながらスターへの階段を駆け上がっていく物語である。
恵まれた環境の秀才・俊介(横浜流星)と、恵まれぬ環境の天才・喜久雄(吉沢亮)という構図は
「ガラスの仮面」や「エースをねらえ!」を引き合いに出すまでもなく
頂点を目指して競い合うライバルを描く作品では定番中の定番で、この小説そのものが古典とも言える。
Amazonレビューで知ったのだが、本作のaudible版は尾上菊之助がキャスティングされており
本編終了後には劇中に登場する舞台を再現した尾上菊之助の「特別音声版」も収録されているとのこと。
何とも贅沢だ。



原作を読み終えてから試写会に臨んだこともあり
十二単から七、八枚は減らしたかというほどの軽装で
駆け足に進むこの映画版も、脳内で補完しながら楽しむことが出来た。
しかしもし、未読で臨んでいたらどうだったろうかと考えると、
線を使わず、点と点のみを繋げた荒っぽい脚本では、
『国宝』という作品の全体像を理解するのは難しいのではないかと思う。
薄味になってしまった物語を補ってあまりある吉沢亮と横浜流星の、
それこそ血の滲むような努力をしたであろう女形(手先、視線、発声の全てが圧巻)の前に
希釈された物語までもが背景と化してしまった。
間違いなく俳優・吉沢亮の代表作として後々まで名を残すだろうが
歌舞伎のシーンが美しければ美しいほど、波乱に満ちた二人の生き様が覆い隠されてしまう皮肉。
演者のせいではなく、これは偏に本が悪い。

血を分けた自分より部屋子を選んだ父への嫉妬から
袂を分かった二人の人生が、紆余曲折を経て再び手を取り合う。
小説版「国宝」には、二人の人生を陰日向から支えた多くの人々の、様々な形の愛が描かれている。
物心ついた時から役者になることが決まってた俊介も、
荒くれ男達に守られて幼少時代を過ごした喜久雄も、
歌舞伎を取り上げれば何も残らない、舞台の上でしか「生」を感じられない生粋の芝居バカ。
だからこそ、二人の周りには甲斐甲斐しく世話を焼く人々が溢れている。
しかし映画版では、スポットライトは二人(しかも7割方が喜久雄)にしか当てられず
生涯をかけて芸を磨き続けた二人の「歌舞伎への愛」は十二分に伝わるも、
喜久雄のお目付役的な存在である徳次、喜久雄の育ての母・マツ、
喜久雄の子を産み育てる藤駒ら、原作では忘れ難い名脇役であった人物が、
映画版ではいないも同然の「その他大勢」へと格下げになっている。

グラビア映画になる寸前まで物語を端折ったことで
本作は「舞台裏にも少しだけカメラが入ったシネマ歌舞伎」として画期的な作品にはなった。
「こんな特等席(近く)で曽根崎心中を演る吉沢亮(横浜流星)が見られるなんて贅沢」と、
二人のファンならずとも、思わず溜息を漏らすほどの美しい姿を拝めるが
生憎これは「映画」なのであって「情熱大陸」や「映画館で見る歌舞伎」ではないのである。
3時間の尺に収めるにはこの方法しかなかったと言われればそれまでだが
ならばいっそ原作通りに「青春篇」と「花道篇」の前後編に分けるか、連続ドラマでやってほしかった。



半次郎(喜久雄)の光源氏には滲み出る色香が
半弥(俊介)の光源氏は青年の色欲が匂い立つ(原作より)


俊介が欲しかったものは喜久雄が持つ天性の色香であり、
喜久雄が欲しかったものは、どれだけ稽古を積んでも手に入らない血筋という看板。
血は水より濃くとも、芸道において血とは、優先される条件なれど絶対ではない。
花井半二郎(渡辺謙)が舞台に穴を開ける事故を起こした時、
代役として指名したのが、実の息子の俊介ではなく喜久雄だったことから
足並みを揃えて精進してきた二人の道は、それぞれに過酷な方向へと進み始める。
喜久雄の才能に嫉妬した俊介は、血筋に見合う結果を出せない己の力不足に苦しみ、
俊介を羨んでいた喜久雄は、姿を消した俊介の代わりに舞台も家も背負う覚悟を決める。
「水が澄んだ時こそ底の泥を見よ」の言葉通り、晴れやかな舞台には魔物が付き物。
二人を襲う数々の苦難は、芸を高めるための試練としてもあまりに過酷で
見ていて息苦しくなるほどだが、そこをくぐり抜けた者だけが見える景色というのも
あるのだろうと、血の涙を流しながら舞う二人の姿を見て想像するしかない。

雪景色の中でゆっくりと崩れ去った父の姿を見たあの日から、
人生の大半を舞台に費やしてきた喜久雄。
迫り上がる舞台から眼前に広がる客席の海は、客席からは絶対に見られない景色。
当代随一の女形に贈られる万雷の拍手は、白虎(襲名後の名前)を孤高の地位へと押し上げる。
親しい人を幾人も見葬り、残された者の務めとして歌舞伎界を背負った喜久雄の
ひたすら芸に打ち込む姿は、次第に人を遠ざけてしまう。
月のうち二十五日を舞台で過ごし、残り五日で次の舞台の稽古と準備。
「舞台を降りること」を許されないまま過ごした五十年余の役者人生で手に入れた栄誉は、
彼を幸福にしたのだろうか。

色々と注文をつけてしまったが、年に何本も観られる作品ではなく
演者の熱量を浴びる目的だけでも、劇場に足を運ぶ価値は大アリ。
吉沢亮・横浜流星の二人は言うに及ばす、少年時代の二人を演じた黒川想矢と越山敬達も、
肉体的・精神的にギリギリまで追い込まれての撮影だったと推察する。
私的には、四人揃って最優秀を差し上げたいぐらいの感動だった。
一本の作品に俳優がどこまで身を削れるかの究極が見られる作品。

映画「国宝」は2025年6月6日より公開。


配信中■Kindle:国宝 上 青春篇 (朝日文庫) / 吉田修一
配信中■Kindle:国宝 下 花道篇 (朝日文庫) / 吉田修一
配信中■Amazonプライムビデオ:李相日 関連作品一覧
配信中■Amazonプライムビデオ:吉沢亮 関連作品一覧
配信中■Amazonプライムビデオ:横浜流星 関連作品一覧


【ネタバレあり】原作を使って物語の行間を補完してみる



三時間の長尺にも関わらず、映画版は拙速な脚本のために消化不良を起こしている部分が多い。
そこで、原作を読んだ私なりに(一部おぼろげではあるが)映画と小説の両方を思い出しながら
説明不足の部分を補完してみたい。映画を観終わった方の疑問が少しでも解消され、
これから観る方の予習として活用していただければ幸い。
(*映画版のネタバレになる部分も含まれているため、読みたくない方はここで止めるのを推奨)

<万菊の散り際>

女形というものは、男が女を真似るのではなく
男が一旦女に化けて、その女をも脱ぎ去った後に残る形である


何と言っても書いておきたいのが、映画版では田中泯が演じていた万菊。
老齢に差し掛かりつつも現役で舞台に立ち続ける女形であり、
その妖艶さを目の当たりにした二人は

喜久雄「こんなもん、女ちゃうわ、化けもんや」
俊介「確かに化け物や、せやけど、美しい化け物やで」


と洩らしている。
映画ではところどころ登場し、その都度強烈な印象を残す万菊だが
小説版では復活後の俊介を引き取り面倒を見るなど
もっと大きな役所を担っている。
女形に人生をかけている二人にとって、万菊は手が届かないほど遠くで輝く巨星であり
いつか追い抜きたい偉大な先輩でもある。

映画版では万菊が余命幾許もないとの知らせが入り、喜久雄が会いに行くシーンが登場するが
試写会の帰り道に「万菊はなんであんな急に落ちぶれた生活をしてたんだろう」という声が
あちこちから聞かれた。確かに小説を読んでいなければ、多くの方がピンと来ないだろう。

万菊が安アパートで最後を迎えたのは、決して落ちぶれたわけではない。
生涯をかけて美しいものを追い続けた万菊だからこそ、長年の重責から放たれ、
「美しいものがひとつもない場所」、若かりし頃に過ごしたドヤ街を死場所と決めたのである。
関係者には何も告げず行方を眩ました万菊は、安宿で夜な夜な粗雑な男衆と酒を酌み交わし
程よく酔ったところで化粧もせず踊りを披露してはウケていたという。
ある日、前夜も遅くまで飲んでいた男たちが昼になっても起きてこない万菊を不審に思い
部屋を開けてみると、そこには美しく化粧を施した万菊が眠るように横たわっていたという。

<徳次>

徳次は、映画でも少年時代の喜久雄とともに冒頭の余興で共演しているが
原作小説では花道篇の最後まで出てくる重要人物である。
喜久雄の危なっかしさを知りながら、覚悟を決めたと見ればトコトンまで付き合い、
時に尻拭いをし、時に体を張って守り、盾となり鉾となり喜久雄をサポートする。
ヤクザ者の息子だからこそ、裏の力を借りずに解決したい喜久雄の生き様と、
それを理解する徳次との関係が描かれなかったことは残念。
俊介が無二の親友であるなら、徳次は血の繋がらない兄のような存在なのだが
徳次の筋の通し方が任侠道のそれであるために、映画では退場を命じられたような気がする。

<興行とスポンサー>

徳次の件と連動しているのだが、映画版では興行というものが
スポンサーの存在なくしては成り立たないことをほぼスルーしている。
この場合のスポンサーとは即ち反社組織であるが
小説版では時代の変化に対応し、形態を変え企業として生き延びている。
そしてそこで働くのが、映画版にも出てくる竹野である。

<竹野>

映画では三浦貴大が演じている竹野もキーパーソンのひとり。
出会った時には、希望した部署と違う歌舞伎に一ミリも興味を示さなかった竹野だが
舞台を観劇するごとに歌舞伎の世界に惹き込まれ、いつしか売れっ子のプロモーターへと成長する。
映画版では端折られていたが、喜久雄の前から姿を消した俊介を
地方巡業先で発見し、復活のお膳立てをしたもの竹野である。
出自や隠し子の存在を暴かれた喜久雄が舞台を追わされた時には、
「ヤクザ者の息子が実子を追い出した」という筋書きでマスコミに触れ回り、
喜久雄を悪者に仕立てることで俊介の復活を後押しした。
喜久雄の復活を手助けしたのもまた竹野であり、俊介と喜久雄の久しぶりの舞台共演や、
同じ題材を別の場所で上演させるという競演を仕掛けるなど、
竹野の手腕があってこそ歌舞伎界が盛り上がった場面がいくつも登場する。

<幸子とマツ、二人の母>

映画版では俊介の母親・幸子を寺島しのぶが、
喜久雄の母・マツを宮澤エマが演じているのだが
まだ少し出番のある幸子はさておき、マツは少年時代にほんの少ししか登場しない。
小説版では、境遇の全く異なる幸子とマツが、俊介と喜久雄のような母性のコントラストを見せている。
マツは喜久雄の実の母親ではなく、病弱な実母の身の回りの世話をさせるために
父・権五郎(映画版は永瀬正敏)が雇った家政婦であるが、
いつしか二人は恋仲になり、実母は二人の関係を知り認めた上で
「喜久雄を頼む」と言い残して亡くなる。
マツは喜久雄のことを本当の子供のように可愛がっており
半二郎のもとに送り出した後も、「向こうの家で肩身の狭い思いをしないように」と
組長を失って傾く組の台所事情をひた隠しにしながら毎月十分な養育費を送り続ける。

一方の幸子は、部屋子である喜久雄の才能を認めつつも、
我が子可愛さから俊介の失踪後に怪しげな宗教を頼ってしまう弱さも持っている。
俊介が春江を連れて戻ってきたのをきっかけに縁を切り、平穏な生活を手に入れる。

<藤駒と綾乃>

見上愛が演じていた芸妓の藤駒と、
瀧内公美が演じていた喜久雄との間に生まれた娘・綾乃。
映画では藤駒はほとんど登場せず、娘の綾乃も終盤に登場して
積年の恨み言を喜久雄にぶつけるのだが、小説ではもっと親子仲について描かれてる。
隠し子だった綾乃のところには定期的に徳次が様子を見に訪れており
綾乃が出版社勤務になったのも本好きな徳次の影響である。
しかし喜久雄も決して悪い父親ではなく、満点はもらえないまでも
及第を取るべく何かにつけ心は砕いていた。
綾乃も藤駒もそれは承知していて、綾乃が結婚を決めた時には喜久雄に連絡を入れて
食事の場を設け、結婚相手の相撲取りと顔合わせもした上で
「半二郎の娘として嫁ぎたい」と式への出席を依頼している。
孫が生まれた時にも「七五三に付き合ってくれ」と連絡を入れており
映画版で描かれているほど放ったらかしではなかったのだ。

<春江>

映画版で高畑充希が演じている春江は、喜久雄から俊介へと乗り換えた女性なのだが
映画版だけ見ると何故俊介の出奔に付き合うことにしたのかが良くわからない。
春江は長崎時代には喜久雄と付き合っており、お揃いの墨を入れ将来を誓い合う仲だったが
芝居に打ち込み高みへと上がって行く喜久雄に一抹の寂しさを感じてもいた。
そんな折、同じく寂しさを感じていた俊介に絆されて付いていったのは
情に厚い春江らしい決断でもあった。
俊介と全国を転々としている間に長男の豊生を授かるも
経済的に困窮していたこともあり幼くして亡くしてしまう。
竹野の力を借りて復活した俊介がほどなく糖尿病を発症し
片足切断との診断(原作では両足)を受けた時も気丈に支えようとするが
半狂乱となった俊介を受け止め切れず、耐えかねて喜久雄に助けを求める。
喜久雄・俊介・春江の三人は、男女の関係としては変化したが絆の強さは変わらないままだった。

<彰子>

映画版では森七菜が演じていたのが彰子。
映画では突然登場し、表舞台への復活を目論む喜久雄が
権力者の千五郎(中村鴈治郎)の力を借りるために色を仕掛けたように描かれている。
きっかけは確かにそうなのだが、小説版での彰子はそんなヤワな女性ではない。
ゆくゆくは喜久雄の個人事務所の社長にまで上り詰め、千五郎と喜久雄の和解の手助けもし
藤駒や綾乃とも懇意にする懐の深さもある。
出会いは下心だったかも知れないが、喜久雄も彰子を信頼しており夫婦仲は決して悪くない。

<一豊>

小説ではかなり重要な人物である一豊は俊介と春江の間に生まれた次男であり、
長男を早くに亡くした二人にとって何が何でも守りたい存在である。
俊介と一豊の親子同時襲名披露は、二十年前に父と喜久雄が立った舞台の再現であり
選ばれなかった苦い記憶がかすめつつも、晴れの場の口上に並んで欲しいと喜久雄に頼む。
喜久雄はこれを二つ返事で受け、喜久雄・俊介・一豊の三人揃い踏みが実現。
俊介は感謝を述べる途中、本来ならばその場にいるはずだった長男を思い舞台上で嗚咽する。

足の切断をし休業を余儀なくされた時にも
俊介は一豊を預かって欲しいと喜久雄に頼み、喜久雄は無事に育てて見せると約束を交わす。
喜久雄の厳しくも深い愛情を受けた一豊は、(途中色々とあれど)歌舞伎役者として成功を収める。

吉田修一は本作を書き上げた後のインタビューで、
「書き始めた時と終わった時で主人公が入れ替わっていた」と答えている。
言葉通りに受け止めるなら、最初は俊介を主人公に想定して書き始め
書き終わる頃には喜久雄が主人公になっていた、ということだろう。
それほどに原作は「歌舞伎に命を燃やした二人の男の物語」なのだが
映画版は最初から主演・吉沢亮になっていて、俊介の扱いが明らかな二番手になっているため
一豊や春江の物語が薄められてしまった。

<喜久雄>

小説を読むと、喜久雄はあらゆる責任から逃れて人間国宝を手に入れたわけではないと分かる。
様々な人達の力を借りつつではあるが、誰も取りこぼさずに生き抜こうと必死に駆け抜けたように思う。
映画版では、「悪魔との契約」のエピソードを悪い方に拡大解釈(or 誤訳)して
全てを手放す代わりに成功を手にした男のように描かれているが、これはそんな単純な物語ではない。

それぞれの人がそれぞれの場所で一応の安息を手に入れたとわかったところで
役目を終えたと自覚した喜久雄は、「小さな水槽に閉じ込められた錦鯉が、広く澄み切った川を想像し、
空想の川に泳ぎ出すように」(小説より)劇場を出ていったのかも知れない。



▼併せて観たい作品2本


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「赤い文化住宅の初子」「百万円と苦虫女」「ふがいない僕は空を見た」と
繊細かつ大胆な演出で女性の心理を抉り出すタナダユキ監督が落語の世界を舞台にした人間ドラマ。
累計200万部を突破した雲田はるこの人気コミックの実写化で、
アニメも2期放送済みという難関に敢えて挑んだ製作陣の気概を感じる逸品。
出演は岡田将生、竜星涼、成海璃子、大政絢、平田満、篠井英介、山崎育三郎。
脚本は朝ドラ「マッサン」の羽原大介、音楽は村松崇継。

どういった経緯でキャスティングが決まったのかは不明だが
とにかく岡田将生の役への没入度がハンパではなく、所作から台詞回しまで、
凛とした佇まいの中にも艶やかさを併せ持つ菊比古と完全に一体化していたように思える。
落語の勉強も相当したに違いない。
若かりし頃の「死神」が、中年期、老齢期と時を経てちゃんと進化している。

幼少期から晩年まで、愛憎入り乱れる波瀾万丈の人生で落語に執念を燃やしながら
孤独を引き受けて生きてきた八代目・有楽亭八雲の生き様に涙した。
成海璃子との父娘関係、竜星涼との師弟関係、大政絢との恋模様、
そして山崎育三郎との友情を超えた繋がりと全てのエピソードが
最終回に向かって解決していく作りはもはや匠の業。

映画で観たかったとも思うが、この物語を2時間にまとめるのは至難の業であろうし
騒々しいCMの入らないNHKでのドラマ化が最も良い方法だったのかも知れない。
文句なしに2018年放送の連続ドラマNo.1。




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公開30周年を迎え2023年に一部劇場で再上映されるや、
熱狂的なファンが連日押し寄せて満席の回も続出したアジア映画の最高峰。
レスリー・チャン(張國榮)の没後20年特別企画として制作された4K修復版は
オリジナル版の美しさをさらに極めた映像美で、名匠チェン・カイコー(陳凱歌)の冴え渡る演出によって
京劇俳優の愛憎劇が鮮やかに蘇る。
1993年開催の第46回カンヌ国際映画祭にて、中国語映画では史上初のパルム・ドール賞を受賞した名作だが
なぜか日本ではパッケージ化がDVD以降されておらず、中古市場でも数万のプレミア価格になっていた。
高値で手が出ないと思っていた方にとっては、4,000円台で4Kバージョンが手に入るのは安過ぎるぐらいだろう。

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映画「We Live in Time この時を生きて」色褪せない想い出の中で生きる

2025年05月27日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


▼映画「We Live in Time この時を生きて」



若き天才シェフとして将来を嘱望されているアルムートと、妻と離婚したばかりで落ち込んでいるトビアス。
自由奔放に生きるアルムートと、石橋を叩いて渡るトビアスはある日運命的な出会いを果たし、
気がつけば共に暮らし、やがて愛娘を授かって三人家族となった。
しかし幸せな日々は長くは続かず、ある日、アルムートが余命幾許もない病に冒されていることが発覚。
残された時間を家族で一緒に過ごしたいトビアスと、与えられた時間で生きた証を遺したいアルムート。
価値観の異なる二人の姿を通して「限りある時間を、誰とどのように生きるか」を描くラブストーリー。
妻のアルムートには「ミッドサマー」フローレンス・ピュー、
夫のトビアスは「アメイジング・スパイダーマン」シリーズのアンドリュー・ガーフィールド。
脚本は「ベロニカとの記憶」のニック・ペイン。
監督は「ブルックリン」「ザ・ゴールドフィンチ」のジョン・クローリー。
製作総指揮には、名優ベネディクト・カンバーバッチが名を連ねている。


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あの日 あの時 あの場所で 君に会えなかったら 僕等は いつまでも 見知らぬ二人のまま
(*「ラブ・ストーリーは突然に」小田和正より)

シェイクスピアは「人生は選択の連続である」(「ハムレット」)と書いた。
かけがえのない家族、生涯の友、馴染みの店、人生の大切なパートナーである愛犬。
私たちは日々無数の選択をし、選択の結果が生む奇跡の中で生きている。
一瞬が一日を作り、一日が折り重なって一年になる。
あの日の映画を見ていなければ、あの日一本早い電車に乗っていたら、
あの日ペットサロンに立ち寄らなければ、今の私はここにいないかも知れないし、
見知らぬ土地で見知らぬ人と暮らしていたかも知れない。

この映画は、無数の奇跡をくぐり抜けて出会い、「二人」になった一人と一人の物語である。
子を授かり三人家族になった瞬間に訪れた試練はあまりにも過酷なものだった。
限りなく勝率の低い闘いを前に、それでも立ち向かうか、有意義な時間を過ごすか。
三人で過ごした時間はまだあまりにも短い。
夫は少しでも多く三人の思い出を刻みたいと願い、余命を宣告された妻は
残された時間の中で「最高に輝いているママ」を子に見せたいと願った。
二人の選択はきっとどちらも正しい。
映画は「あなたならどうですか?」とずっと問いかけてくる。
治療法の選択や家族の心得について、私も過去に似たような経験をしているだけあり
アルムートの怒りや焦りも、「自分が泣いてはいられない」と
必死に笑顔を作るトビアスの苦しみもよくわかる。

記憶とは気ままなもので、印象深い想い出や最高の瞬間を特別扱いするように出来ている。
この映画も同様に、二人の歴史を時間軸を交錯させながら走馬灯のように描いている。
初めのうちは面食らったが、思い出とはお行儀よく時系列順に蘇るものではないことを表す
効果的な手法であると段々わかってくる。
出産手前の二人、告知を受けた時の二人、出会った頃の二人、、、
トビアスとアルムートにとって、人生で最も濃密だった数年間の記憶が
次から次にシームレスに描かれるのは、きっとこの映画がトビアスの記憶に基づいた
「娘に聞かせるお母さんとの話」だからなのかなと私は解釈した。

亡くなった人との想い出は増やすことが出来ない。
だからこそ、アルムートは「あの時のお母さんカッコ良かったよね」と
自分のいなくなった後の世界で二人に思い出してもらいたかったのではないか。
現実的に側に居られないなら、せめて記憶に棲みたいという切なる願い。
卵を割る時のコツは、トビアスにとってはアルムートとの大切な思い出であり、
娘にとっては、これから刻まれていく父との思い出のひとつになる。
娘の中で、確かにアルムートは生きていくのだ。

「泣ける感動作」然とした演出ではないので
さぁ泣くぞと思って劇場に足を運んだ方は拍子抜けしかねないが
時間が経つほどに、しみじみと余韻が胸に広がる良作。
(私の中では、そろそろ人生のベスト20入り目前)

映画「We Live in Time この時を生きて」は2025年6月6日公開。



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▼今日のエンディング・特別編


Jess Glynne - Hold My Hand [Official Video]


「We Live in Time この時を生きて」は、フローレンス・ピューの芝居が節々に
バイセクシュアル、またはパンセクシュアルを匂わせているのは冒頭から気づいていたのだが、
アルムートが同性の弟子と単なる師弟関係を超えた強い信頼関係で繋がり、
ついに国を背負っての大会に出場した時、入場のシーンで流れたのが
ジェス・グリンの世界的大ヒット曲「Hold My Hand」だったことでストンと胸に落ちた。
(ジェス・グリンは2015年にバイセクシャルであることをカミングアウト済み)
映画の中でアルムートのセクシャリティについて語るシーンはワンカットも出てこない(こなかったと思う)が、
性自認について敢えて触れないことで「改めて問うまでもないこと」とのメッセージを含ませ、
トビアスとアルムートの二人の物語として描き切ったことが素晴らしかった。
「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」でマイノリティを演じた
ベネディクト・カンバーバッチが製作に加わっているのも、本作の物語に何かしら感じるところがあったのかも知れない。

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【Maxxxine マキシーン 公開記念】「X エックス」「Pearl パール」3部作のこれまでを振り返る

2025年05月22日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


▼【Maxxxine マキシーン 公開記念】「X エックス」「Pearl パール」3部作のこれまでを振り返る



純粋で残虐なヒロイン・パールの人生を描くタイ・ウェスト監督の三部作が
2025年6月6日公開の「Maxxxine マキシーン」でいよいよ完結する。
1918年の少女時代(「Pearl」)から1979年の老婆(X エックス)まで
約70年に渡るパールの人生と、1作目で起こる事件の唯一の生き残りである
女性・マキシーンの二人の物語をミア・ゴスがひとりで演じきる話題作。
時系列では第1作目の「X エックス」が1979年、2作目の「Pearl パール」は1918年、
3作目の「Maxxxine マキシーン」は「X エックス」の6年後、1985年のロサンゼルスが舞台となっている。
狂気と愛に彩られたパールの人生は、どんな形で幕を下ろすのだろうか。



▼映画「X エックス」3部作の第1作目は、続く「Pearl パール」への導線として完璧



1970年代のテキサスを舞台に、タイ・ウェスト監督が贈る3部作構成のホラー第1弾。
AV撮影のために田舎の農場を訪れた男女6人が殺人鬼に襲われる
スラッシャームービーのお手本のような展開を、往年の名作へのオマージュを盛り込みながら描く。
主演は「ニンフォマニアック Vol.2」「サスペリア」のミア・ゴス。
共演にジェナ・オルテガ、マーティン・ヘンダーソン、ブリタニー・スノウ、スコット・メスカディ。
私の大好きなA24制作。


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事件は1979年に発生する。
1974年に「悪魔のいけにえ」、1977年に「サスペリア」、1978年に「ゾンビ」、1980年に「13日の金曜日」と
花盛りとも言える1970〜80年代の名作ホラー群が当時の若者に与えた影響は大きい。
(私が大林宣彦監督の「HOUSE ハウス」の洗礼を受けたのも1977年だった)
「悪魔のいけにえ」が始まったのかと思うほどコンパチな冒頭の車中シーンから
まんま「シャイニング」なカットまで、映像面でのオマージュも相当な数だが
当時の世相を反映した台詞もたくさん出てきて、目にも耳にも懐かしい古典ホラーの佇い。

PCもDVDもアダルトコンテンツが初期の普及を牽引したように
本作でもストーリー性のあるアダルト映画で存在感を示そうとする若者たち。
時に道を踏み外す(身体を合わせる相手をパートナーにこだわらない)こともあれど
快楽の追求に素直で奔放な彼らを、少し遠くから見つめている老夫婦。
心臓を悪くし、もうかつてのように妻を抱くことのできなくなった夫と
まだまだ愛されたいと願う妻の行き場のない欲望との温度差は広がるばかり。
若さを武器に生(性)を謳歌する若者への羨望は、いつしか嫉妬に変わり嫉妬は憎悪へと移行する。

事件の成り行きだけを記録としてまとめれば、本作はいわゆるシリアルキラーものであり
凶行に及ぶ老婆パールの形相はジェイソンからエスターまで
ホラー映画の歴史で数多登場した名物キャラクターと比較しても遜色ないインパクトを持っている。
しかし、私はこのパールの姿を単なる『キ印婆さん』として面白がることは出来なかった。
それは、若者に嫉妬し、やり場のない疼きに耐えながらも
求める相手を夫以外に向けなかった純粋さが根底にあるからかも知れない。

もう随分と前の話だが、60代から70代ぐらいまでの女性に囲まれて食事をする機会があった。
私以外に男性がいなかったということもあるのだろうが、話題に上がるネタのほとんどは色恋についてで
全国を旅をする一座の花形に惚れ込んで、給料を全てつぎ込んで追いかけている話、
同じ飲食店で働く一回り以上年下の若い板前と不倫関係に落ちた話など
その場にいたメンバーが次々とコイバナに花を咲かせていたとき
一番物静かで一番の年長者だった70代後半の女性が
「私は夫しか知らないからそういった話はないの。でも先週も夫としたわ」と破壊力抜群の爆弾ネタを投下し、
メンバー全員が「ええええええ!羨ましい!」と叫びにも近い声をあげたのを覚えている。

日本人は特にその傾向が強いように思うが、年を重ねるとパートナーを求めることが
「ありえないこと」になってしまう。しかしパールは違う。
心臓のことは心配だが、それでも叶うのであればもう一度夫と...と願っている。
そして本作は、パールの願望や老夫婦の行為を、おそらくは意図的に「醜いもの」として描いている。
爺さんと婆さんのセックスシーンなんてそれだけでホラーだろ?と言わんばかりの演出をしているが
不思議なことに私はこのシーンを、なんだか少し感動的な気持ちすら抱きながら見ていた。

若い女性を羨み妬むあまりに武器を手にとったパールと、パールのようになりたくない若い女性マキシーン。
パールが「彼女だけは特別」と語ったマキシーンは、セクシャリティを売りにする仕事に就いている
薬物使用の常習者という、世間的には「堕ちた生活を送る女」なのだが
本人はそういった声を聞いてか聞かずか「私はセックスシンボルだ、私は素晴らしい」と鏡に向かって言い聞かせている。
マキシーンがパールを忌み嫌うのは、このままの人生が続けば自分の行く先はパールだと悟っての
拒否反応だったのかも知れない。そしてパールは、マキシーンの中に昔の自分を見ているのだろう。
敵対しながらどこかで通じてしまっている二人の結末は予想通りではあったが、やはり少し哀しかった。

唯一の難点は2時間弱の尺で前半の1時間はほぼ何も起こらないこと。
これはラース・フォン・トリアーの「ドッグ・ヴィル」あたりを意識した
スローペースな種撒きと私は解釈したが、序盤からテンポ良く絶叫が入る
近代ホラー映画を期待していると、ちょっと退屈に感じてしまうかも知れない。
ただ、この序盤があってこその後半なので、オマージュを見つけるなど楽しみを見出しつつ
途中でリタイアせず最後までご覧いただきたい。



▼映画「Pearl パール」純情愛情過剰に異常



シリーズ2作目の「Pearl パール」は、1918年に時代を巻き戻して
要介護の父と厳格な母と共に農場で暮らしていた、若かりし頃のパールの物語。
結婚したばかりの夫が戦地へと旅立ち、田舎でのルーティーンに辟易していたパールは
都会への憧れだけが膨らみ続けている。
そんな彼女の元に、各地を回るツアーに出演するダンサーオーディションの話が舞い込むのだが...。


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パールの奥底に眠る純粋無垢な狂気の根元が描かれるエピソード0だけあり、
他罰的思考に基づいた凶行(だってあなたが●●したのだから仕方がないでしょ)がより鮮烈。
なんの躊躇もなく人に刃を向ける直情型のパールだが、その言動の節々からは
戦争とスペイン風邪に挟まれ、一度きりの青春時代を浪費せざるを得なかった時代が生んだ
モンスターなのではと思わせる悲しみが染み出していて、やはりどうしても憎みきれない。
「X エックス」にも出てきた「私たちが探しているのはXファクター(特別な才能)なのだ」という言葉を
審査員が口にした時、この3作に渡る壮大なサーガが
「私は特別なはずだ」と信じながら、それを認めない世の中に苦しみもがく
二人の女性の物語であることに気づかされる。
若い日のパールに映写技師の男にポルノを見せ「いつか大衆が求める日がくる」と予言し、
数十年後にポルノ女優であるマキシーンが目の前に現れたのも、
パールがマキシーンを「あの子は私に似ている」と言っていたのも
ミア・ゴスが二役を演じているのも、全て計算づくなのだ。恐るべしタイ・ウェスト。

ミア・ゴスはパールを「理解不能の狂人」にはしたくなかったのだと思う。
歴代のホラー映画に登場するシリアル・キラーは、ほとんどの場合感情がない。
しかしパールは、子供のように声をあげて泣くし、一度きりの過ち(不貞)を悔いているし、
熱意と努力だけでは手に入れられない夢のチケットを手にした友人を妬ましく思っている。
彼女を苦しめる自責の念や悲しみは、誰しも経験のあることばかりだ。
長い長い独白のシーンや、喜怒哀楽をごちゃ混ぜにしたエンドロールの視線からは
抑えたくても抑えられない感情に自分自身も苦しんでいるのだという
パールの心の叫びが込められているように感じた。

(この書き方が妥当かはわからないが)「まともな世界」と「まもとじゃない世界」は
薄い扉一枚で隔てられていて、人間関係や職場環境など様々な要素が絡み合った時に
簡単に破られてしまう。人が凶行に及ぶきっかけなど、いつだって些細なことなのかも知れない。



▼映画「Maxxxine マキシーン」2025年6月6日公開



数々の名作ホラーへのオマージュを込めた作品だからなのか、公開日がオーメンっぽく6月6日というのも面白い。
1985年、ハリウッド。
6年前の事件(1979年の「X」での殺人事件)で唯一生き残ったマキシーンは
ついに主演の座を射止め、ポルノスターからハリウッドスターへの階段を上ろうとしている。
しかしそんな彼女の元に、謎の連続殺人鬼や、彼女の過去を探る私立探偵、FBIまでもが立ちはだかろうとしていた。
3作かけてパールとマキシーン二人の人生を駆け抜けたミア・ゴスはオスカーものの大奮闘。




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2025年5月現在、「X エックス」はAmazonプライムビデオ、Huluで見放題配信中。
続編の「Pearl パール」はAmazonプライムビデオ、U-NEXT、Huluで見放題配信中。




★しのびんのほしいもの&いつか買うリスト

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【最新作公開記念】映画「パディントン」の素晴らしさを知って欲しいので1・2をまとめて紹介

2025年05月05日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


▼【最新作公開記念】映画「パディントン」の素晴らしさを知って欲しいので1・2をまとめて紹介

世界中に溢れる「kawaii」の中でもトップクラスの可愛さを誇る
パディントンの最新作がいよいよ2025年5月9日より公開。
前2作も好みど真ん中だった私は「とにかく見て!」とあちこち布教活動をしていたのを思い出す。
しかし「2」ですらもう7年前と知り、シリーズ未見の方も増えてきたはずなので
公開目前の応援企画として、過去2作の公開当時の紹介記事を1本にまとめて以下に再掲する。(一部加筆・改稿済み)
シリーズ初心者の予習と、シリーズファン向けの復習に役立てていただければ。



▼1年分の”可愛い”を凝縮した映画「パディントン」(2016年1月)


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マイケル・ボンドの児童小説を実写映画化した家族向けのコメディが「パディントン」。
人間の言葉を話す紳士的なクマを主人公にした心温まる作品で
出演はヒュー・ボネヴィル、サリー・ホーキンス、ジュリー・ウォルターズ、ジム・ブロードベント。
パディントンを剥製にせんとする悪役にはニコール・キッドマン。
パディントンの声には「007 スペクター」で一躍世界からも注目されたベン・ウィショー。
日本語吹き替え版では松坂桃李が担当している。

私ぐらいの年齢になると「kawaii」に対するアンテナ感度は鈍くなっていて少々のことではビクともしない。
むしろ見え透いた手段で「kawaii」を多用した作品を観ると不快感を覚えるぐらいに歪んでいる。
そんなひねくれ世代を取り込むには、毒舌xテディ・ベアの「テッド」のような変化球が有効だった。
真っ直ぐ飛んで来る「可愛い」をしっかりと受け止めるには、私は歳をとり過ぎたとばかり思っていた。

どうしてくれようか、このパディントンの可愛さ。

一挙手一投足、全てが「kawaii」に満ちている。
両手の指をしっかりと組み、瞳に星を散りばめながら
「可愛いぃー!」と言ってしまいそうなほどの愛らしさに開始5分でノックアウトされてしまった。
なんだこの生き物は。
最新技術がパディントンの可愛さ増幅のためだけに注がれていて、眺めているだけで幸福感に包まれる。

同じ人間の言葉を話すクマでも、「テッド」は「ブライズ・メイズ」や
「ハング・オーバー」に繋がるアメリカ製の笑いであり、
「パディントン」は「ペネロピ」や「ミス・ポター」のラインに属するイギリス製の笑い。
どちらのタイプが好みかは個人差によるもので優劣はないが私の好みは圧倒的に後者である。

ファミリー向けの作品と思わせておいて、家の壁に描かれた桜の木や
ハットに隠された秘密とサンドウィッチ、姉が語学力に長けていることや
父親の職業まで全てに伏線があり、わずか90分ほどの本編でそれら全てを回収する脚本。
家族全員が絶妙な連携プレーを見せつつ、ひとりひとりにきっちり見せ場まで用意されては
ブラッド・バード(「Mr.インクレディブル」)も形無しであろう。
ディズニーとしても、アトラクションを映画化した「カントリー・ベアーズ」が
この監督とならもっと上手くやれたのにと歯ぎしりしているに違いない。
この脚本は一体誰かと調べてみたら、何と監督と兼任だった。
ポール・キングの名は今後しっかりと覚えておかなくてはならない。

パディントンの愛らしさを増幅させる最終兵器はベン・ウィショー。
彼の持つ繊細さ、そこはかとなく漂う品格、茶目っ気がパディントンと重なって
屈指の名キャラクターに押し上げたことは間違いない。
やり過ぎなほどの悪戯やミステイクを笑って許せてしまうのは、彼の穏やかな声色があればこそ。
日本語吹き替え版は観ていないのだが、松坂桃李はいいところから持ってきたなと思う。
時間があれば吹き替えでも観てみたい。

大の大人をも悶絶させる「パディントン」。
実写もアニメも含めた「しゃべる動物の映画」の中でもトップクラスの出来映え。
赤い帽子と青のダッフルコートを着たクマが、まだ始まったばかりの
2016年の「可愛い」を1年分先取りしてしまった。
デートムービーとしてはもちろん、同性の友達同士でも、ファミリーでもどんと来い。
ありとあらゆる組み合わせで楽しめる傑作だ。

映画「パディントン」は2025年5月現在、Amazonプライムビデオ、U-NEXT、Netflix、Hulu、TELASAで見放題配信中。



▼映画「パディントン2」観た人全てを幸せにする魔法(2018年1月)


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2016年公開映画で「忍的カワイイ大賞」を受賞した映画「パディントン」の続編。
人間の言葉を話すパディントンが活躍するコメディで、『良心の塊のようなテッド』とも言うべき心温まる作品。
ロンドンでの生活にも慣れ、街の住民達とも交流を深めていたパディントンが
思わぬ犯罪に巻き込まれ投獄されてしまう展開。
パディントンの声は引き続きベン・ウィショー(松坂桃李)。
他の出演者はサリー・ホーキンス、ヒュー・ボネヴィル、サリー・ホーキンス、
ジュリー・ウォルターズ、ジム・ブロードベント。
落ちぶれたスターを演じるのはヒュー・グラント(斉藤工)。
強面のシェフにはブレンダン・グリーソン。監督は引き続きポール・キングが務める。

前作は私の好みど真ん中だったので、続編に対する期待は半端なかった。
それでも、本作はその期待に120%応えてくれた。
いや、150%ぐらいかも知れない。いやいや、200%か。
『映画を観る』ことの効能が『幸せな気分になる』だとすれば
本作を超えるものはディズニー作品でもなかなか見当たらない。
この年のおっさんが薄暗がりの劇場で「あはは」と声を出して笑い
ハンカチを取り出すほど泣ける映画など、年に何本もは巡り会えない。
「トイ・ストーリー2」も感動した。
「ベイマックス」には興奮した。
「ズートピア」には舌を巻いた。
しかし、「パディントン2」は全部入りである。

パディントンの愛らしさは言わずもがな、嬉々として悪役を演じるヒュー・グラントがいい。
落ちぶれたスターのフェニックス・ブキャナンはヒューを当て書きして生まれたキャラクターらしく、
台本を受け取った彼は大笑いしながらオファーを快諾したという。
その”ノリノリ”な空気が、役柄をさらに魅力的にしている。

好きなところを挙げ始めるとキリがないのだが、「パディントン」シリーズが素晴らしいのは
人を説得したり改心させたりしないことだ。パディントンはいつも人に「寄り添う」。
どんなに嫌がられても疎ましがられても、人間を信じている。
欲望や裏切りで荒んでしまった心の壁を叩き割るのではなく
ぶ厚いドアの向こうから、光が射すまで何度も語りかけるのである。
つぶらな瞳で、「僕があなたが大好きです」と伝え続けるのだ。
アメリカ的な解決法は「悪い奴には死を」だが、パディントンは決して厳罰を望まない。
自分に降り掛かった困難が解決すれば、あとは全て許してしまう。
彼の寛容さを見習わなければならないのは、私達人間の方だろう。

前作から凝っていた映像のセンスはさらに磨かれて最早アートの域。
おばさんを連れて飛び出す絵本のロンドンを旅するシーンはミシェル・ゴンドリーも真っ青のファンタジーで、
追走劇におけるカット割やテンポ、色使いはウェス・アンダーソンを彷彿するスマートさ。
さらっと見るだけでも楽しいが、細かく見るほど大人の鑑賞に耐えうるセンスと技術が詰まっている。

冒頭とエンディングを繋ぐシナリオ運びの上手さといい
最初から最後まで加点要素しかないので減点のしようがない。
日本でのオープニング興収は土日の2日間で動員9万3000人、興収1億1700万円で4位だったと聞く。
有り得ない。喰わず嫌いならぬ観ず嫌いが多過ぎるのではないか。
本気で言うが、本作は50億クラスのヒットでも何ら不思議ではない。

映画「パディントン2」は2025年5月現在、Amazonプライムビデオ、U-NEXT、Netflix、Huluで見放題配信中。



▼最新作「パディントン 消えた黄金郷の秘密」2025年5月9日公開



2025年05月09日公開■洋画:パディントン 消えた黄金郷の秘密

そしてシリーズ最新作が今週末より公開。
育ての親であるルーシーおばさんに会うために、ブラウン一家の家族旅行も兼ねて
ペルーに帰ってきたパディントンが、懐かしの故郷で思わぬ大冒険に巻き込まれる様子を描く。
パディントンの声は引き続きベン・ウィショー。
共演にはヒュー・ボネヴィル、ジュリー・ウォルターズ、ジム・ブロードベントなど続投組に加え
本作よりアントニオ・バンデラス、オリヴィア・コールマンが参加。
監督は本作が長編デビューとなるドゥーガル・ウィルソン。
7年振りでもベン・ウィショーが声を演ってくれたことは嬉しい。


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【ウィキッド ふたりの魔女 公開記念】映画「ジュディ 虹の彼方に JUDY」ステージでしか生きられなかった大スター

2025年03月03日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


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▼【ウィキッド ふたりの魔女 公開記念】映画「ジュディ 虹の彼方に JUDY」ステージでしか生きられなかった大スター



全世界で愛され続けている名作小説「オズの魔法使い」に登場する
悪い魔女・エルファバと善い魔女・グリンダを主人公にしたミュージカルを
映画化した「ウィキッド ふたりの魔女」が2025年3月7日より劇場公開される。
梅田の四季劇場で劇団四季版の生の舞台を観て圧倒されてから早何年経っただろうか。

幾度かの実写映画化、アニメ化もされている「オズの魔法使い(オズの魔法使)」だが
1939年のミュージカル映画「オズの魔法使」で主役のドロシーに抜擢されてアカデミー子役賞を受賞し
一躍スターになった伝説のミュージカル女優ジュディ・ガーランドを題材にした伝記映画があるのをご存知だろうか。
今回は、【ウィキッド ふたりの魔女 公開記念】として
2020年に公開された映画「ジュディ 虹の彼方に JUDY」の紹介記事を元のアメブロ版に加筆・改稿して再掲する。



「ブリジット・ジョーンズの日記」シリーズで人気女優となり
「シカゴ」「コールドマウンテン」「ミス・ポター」など演技派としての魅力も開花させた
レネー・ゼルウィガーが伝説のミュージカル女優ジュディ・ガーランドの晩年を演じた伝記ドラマ。

「オズの魔法使」でハリウッド・スターの仲間入りを果たすも、金に取り憑かれた大人達の思惑によって
ショー・ビジネスの世界で肉体も精神もギリギリまで追い込まれ、
47歳の若さでこの世を去ってしまったジュディ・ガーランドの知られざる晩年を描く。
監督は舞台演出家であり、映画は本作が2作目の長編となるルパート・グールド。
レネーは本作でアカデミー賞の主演女優賞も獲得した。

1968年。
「オズの魔法使」で輝かしい成功を収め、大スターとなったジュディ・ガーランドも今では47歳。
若かりし頃より薬漬けの生活を送っていたジュディの体はもはやボロボロだった。
睡眠障害とアルコール依存により、約束事を守ることができなくなった彼女に
オファーが届くはずもなく、寂れた小屋を回っては日銭を稼ぐ生活を送っていた。
愛する二人の子供を連れての巡業暮らしも限界に達し、止むを得ず元夫に預けたことでいよいよ独りきりになってしまう。
そんな彼女の元に、起死回生のチャンスとなるオファーが舞い込んだ。
未だ人気の根強いロンドンで長期公演に出ないかと言うのだ。
子供と別れ、単身で渡英したジュディは再び輝きを取り戻すことができるのだろうか。




歴史に名を残す大スターは短命なことが多いが、
ジュディ・ガーランドの場合は破天荒な生き方故の早逝というより「ショービズが殺した」と言った方が近いのかもしれない。
17歳でドロシーを演じ世界のアイドルとなったジュディは丸一日の休みどころかゆっくりと眠る時間すら与えられず、
肥満防止のため当時ダイエット薬として使用されていた覚醒剤(アンフェタミン)を常用する生活を送っていた。

薬を飲んではステージに立ち、少しで良いから眠らせてくれという
ささやかな願いすら却下されながら疲弊していったジュディは幾度もの自殺未遂を繰り返し、
やがて大手スタジオは使い捨てのボロ雑巾のように彼女を突き放した。
ジュディが生涯で5回もの結婚と離婚を繰り返したのは、絶望から救い出してくれる強い光を求め続けた結果なのだろう。
重度の薬物依存だった彼女を丸ごと受け止める度量の男などそうそう見つかるはずがない。

本作では、国内で活躍の場を失ってしまっていたジュディが
単身で訪れたロンドンで、人生最期の輝きを取り戻した瞬間を映画化している。
千載一遇のチャンスですらフイにしてしまいそうな彼女を粘り強く支え続けるスタッフ達と、
ふとしたきっかけでジュディと親交を持つひと組のゲイカップル。
2019年末の紅白でMISIAのステージ上を飾ったレインボーフラッグは
「オズの魔法使い」でジュディが歌った「虹の彼方に」から着想を得たと言われているそうだが、
なるほど確かにこのカップルが物語に絶妙なアクセントを加えている。

ジュディはステージ上でファンと語らう時が一番楽しそうだった。
遊びたい盛りに仕事を覚え込まされ、最初はそれが強制であったはずなのに
いつしかそこ(ステージ)でしか生きられなくなっていたのだと思う。(それを象徴するような回想シーンもある)
ステージを降りたところで、手にするのは薬かアルコール。
信頼できるパートナーもなく、愛する我が子すら手から離れてしまった彼女は
ステージでファンと交流することでかろうじて生き長らえていたのかも知れない。

伝記ドラマとして見れば、至極まっとうな作りで特段の面白味はない。
気難しさで言えばマリア・カラスの方が厄介な人に思えるし、
命を削りながら歌う、鬼気迫る生き様はエディット・ピアフの方が上だ。
しかし、だからこそ私はジュディを愛さずにいられない。
最期までささやかな幸せを追い続けた、幼子のように笑うジュディを抱きしめたくなる良作。


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2025年03月07日公開■洋画:ウィキッド ふたりの魔女

全世界で愛され続けている名作小説「オズの魔法使い」に登場する
悪い魔女・エルファバと善い魔女・グリンダを主人公にしたミュージカル映画「ウィキッド ふたりの魔女」は3月7日公開。
善と悪、何もかもが対照的なエルファバとグリンダが友情を育み、袂を分かつまでを2部作で描く。
主演は「ハリエット」のシンシア・エリヴォと世界の歌姫アリアナ・グランデ。
共演にジョナサン・ベイリー、ミシェル・ヨー、ジェフ・ゴールドブラム。
監督は「クレイジー・リッチ!」「イン・ザ・ハイツ」のジョン・M・チュウ。


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映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』先駆者に苔は生えない&お薦めのミュージシャン伝記映画まとめ

2025年02月27日 | 作品紹介(映画・ドラマ)


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▼映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』|先駆者に苔は生えない



1960年代の米ニューヨークの街角に彗星のごとく現れた若干19歳の天才ボブ・ディラン。
ギターを片手に次々と名曲を生み出し、時代の寵児としてスターダムを駆け上がっていくディランを
「君の名前で僕を呼んで」「DUNE/デューン 砂の惑星」のティモシー・シャラメが演じる伝記映画。
本年度のオスカーでも作品賞・監督賞・主演男優賞・助演男優賞・助演女優賞など8部門にノミネートされている。
共演にはエドワード・ノートン、エル・ファニング、モニカ・バルバロ、ボイド・ホルブルック、ダン・フォグラー、
ノーバート・レオ・バッツ、スクート・マクネイリーなど。
監督は「フォードvsフェラーリ」のジェームズ・マンゴールド。



ディランのアルバムを1枚も持っていなくても、彼の書いた曲は世界中の誰もが耳にしたことがあるだろう。
本作は、年齢性別国籍を軽々と飛び越えて心を掴む名曲をいくつも生み落としてきたボブ・ディランが
アメリカの音楽シーンに登場した1961年からの数年間を追ったもので、
50年以上に渡る彼のキャリアで言えばほんの序章に過ぎない。
ミュージシャンの伝記ドラマの多くが数十年間の出来事を2時間ほどにまとめた走馬灯方式で作られるが
本作はデビューからの数年に焦点を絞ることで、ディランの登場が当時の音楽シーンに与えた
インパクトの大きさを強く印象付けている。

類い稀な音楽センスを持った天才の登場に興奮を抑えきれないフォークシンガーのピート・シーガー(エドワード・ノートン)や
既に確固たる地位を築いていた女性フォークの旗手ジョーン・バエズ(モニカ・バルバロ)らを巻き込み
フォーク界の新星として祭り上げられる展開は非常にドラマティック。
当時ディランと交際していたスーズ・ロトロをモデルにしたシシルヴィ・ルッソ演じるエル・ファニングと、
音楽上のパートナーであると同時にプライベートでも親密になってゆくモニカ・バルバロとの三角関係にもヤキモキする。
プライベートの充実が仕事に好影響を与え、仕事の不調がプライベートにも陰を落とすのは
天才でも何でもない私にも身に覚えがあり、ほんの少し胸の奥がチクりとする。


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ちなみにジョーン・バエズを演じるモニカ・バルバロは
浅川マキが日本語詞をつけた「朝日楼(朝日のあたる家)」を劇中で披露しており、
クオリティの高さに度肝を抜かれた。その後のパフォーマンスも全て素晴らしく
全編吹き替えなしで挑んだというティモシー・シャラメのディランがどれほど凄いのかと期待をして観たら
エドワード・ノートンもモニカ・バルバロも期待を遥かに超えるパフォーマンスで、
助演男優&女優にWノミネートされたのも納得。
もちろん、ティモシー・シャラメもオファーから5年をかけてディランを研究し尽くしたというだけあって
話し方からギター演奏、ボーカルまで良くぞここまでの憑依ぶりでお見事と言うしかない。

レコードの売り上げが急増し、ライブの動員もうなぎ上りだったディランは
ピート・シーガーが掲げるフォークソング・リバイバル運動へと組み込まれ、
お仕着せのアイコンと自身が追い求める音楽との齟齬に葛藤するようになる。
名声と引き換えにするにはあまりに息苦しい環境の中でディランの創作意欲はさらに燃え滾り、
伝説と語り継がれる1965年のニューポート・フォーク・フェスティバルへと繋がっていく。
「優れた楽曲には電子楽器もドラムも要らない」とするフォークの美学に反旗を翻し
聴衆の望む曲を永遠に繰り返すだけの生活からもはみ出してエレキ・ギターを掻き鳴らす姿は
まさに「ボブ・ディラン第二章」の幕開けと言えるだろう。
怒号と歓声が入り混じる当時の空気も含めて、歴史の変わる瞬間に立ち会えた人が羨ましい。
ジャンルの垣根を取っ払う先駆者に批判は付き物で、壁を突破した先に新たな地平が広がる。
(もちろん、ここと決めたジャンルをとことん追求し高めていくのもまた尊い)

ここからは少し余談を。
はっぴいえんどの登場で日本の音楽シーンに変革の種が撒かれた時にも
絶賛と同じぐらいの反発があったと松本隆や細野晴臣のインタビューで読んだことがある。
ほんの半世紀ほど遡るだけでまだ音楽には『ジャンル』という高く分厚い壁があり、
そこを飛び越えて違うジャンルに挑戦することは、各ジャンルのトップランナーや業界関係者、
何よりもリスナーが受け入れない堅苦しさがあった。
現代でもアイドルや声優などの一部ジャンルには堅苦しさが若干残っているが
サザンオールスターズがジャズピアニストの八木正生との出会いを経てジャズのエッセンスを吸収し
音楽性を高めてきたように、音楽とは本来自由な精神で伸びていくものだと私は思う。
中島みゆきが、メインのアレンジャーに後藤次利を起用して作ったアルバム「miss M.」をリリースした時に
インタビューでこう答えていたことがある。
「博物館をやっているか、反感を買ってでも博物館を出ていくか迷ったけど、出ていくことにした」
反感を買うことも事前に予想した上で、新たな世界に踏み出す行動力はディランに通じているかも知れない。


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映画の舞台である1964年頃には、ディランは大麻やLSDなどの薬物に手を出しており
その影響がコンサートやレコーディングにも現れているが、作中では薬物についてはほとんど言及していない。
それは、本作が「ボブ・ディランが何と闘い、何を得たのか」に力点を置いているからだろう。
同じジェームズ・マンゴールドが監督を務めた2006年の映画「ウォーク・ザ・ライン 君につづく道」は
本作にも登場するジョニー・キャッシュの伝記映画で、私も何度となく当BLOGで取り上げてきた名作。
こちらは劇中でホアキン・フェニックス演じるジョニー・キャッシュが重度の薬物やアルコール依存症に
悩まされていたことも描かれており、ボイド・ホルブルック演じる「名もなき者」版のジョニー・キャッシュも
駐車場で酩酊状態のジョニーが車を衝突させる場面が挿入されている。
直接的には物語に関係していないジョニー・キャッシュが頻繁に登場するのは
ジェームズ・マンゴールドの中で「名もなき者」と「ウォーク・ザ・ライン」の2作は連作という位置付けなのではないだろうか。

パフォーマンスの素晴らしさもさることながら、やはりジェームズマン・ゴールドの撮る伝記映画は
ほぼミュージカル映画と化した類似作品とは一線を画す重厚さがある。
少々不安だった140分という長めの尺も、観終わればあっという間だった。
是非とも音響の良い劇場でご覧いただきたい。
そして、できれば「ウォーク・ザ・ライン」の予習or復習をお勧め。

映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』は2025年2月28日より公開。


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▼お薦めのミュージシャン伝記映画まとめ

お薦めしたい作品をいくつかピックアップしたい。
本数が多過ぎるので今回はミュージカル、ドキュメンタリーは除外した。
紹介順とクオリティには関係がなく、強いて言うなら作曲家、
ソウルシンガー、女性シンガー…といった大まかな括りにしている。


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【関連記事】映画「ボヘミアン・ラプソディ」”らしさ”を貫いたロックスターより抜粋。

世界最大のロックグループ・クイーンのメンバーであるブライアン・メイとロジャー・テイラーの全面協力により
バンド誕生から絶頂期、そして「ライヴ・エイド」での奇跡の復活劇までクイーンの活動を表と裏の両面から描いた伝記映画。
主演はラミ・マレック。共演にルーシー・ボーイントン、グウィリム・リー、ベン・ハーディ、ジョセフ・マッゼロ。

私が洋楽にかぶれ始めた時期とクイーンの黄金期はけっこう被っていて、
しかも私はどちらかと言えばポップス寄りだったのでロックはそれほど詳しくなかった。
ヴァン・ヘイレンとブルース・スプリングスティーンとクイーンの楽曲がごっちゃになったことも何度もある。
ロックに関しては歌詞の意味はあまり気にせず、和訳された歌詞をさらっと流し見だけして
あとはメロディの好みだけでどのアルバムをカセットに残すか決めていた(当時はレンタルレコードの全盛期)。
そんな私ですら映画を観てほとんどの曲は知っていたし、何よりも驚かされたのが繊細な歌詞世界だった。
拳を振り上げるパフォーマンスからは想像もつかない、思春期の少女のような清廉さ、
失われない少年性こそが彼の魅力だったのだと数十年の時を経てようやく気付かされた。
映画で描かれているのは世界中に愛されたロックスターのサクセスストーリーではなく
秘密を抱え、孤独と闘い、愛と安らぎを求めながら45年の生涯を駆け抜けたひとりの男性の姿であり、
しばしば顔を出す独善的な振る舞いやエキセントリックな言動は男性アーティストの伝記映画ではなく
マリア・カラスやエディット・ピアフの映画を観ているようだった。

21分にも及ぶ圧巻のパフォーマンスが披露されたライヴエイドは
当時私も中継で見たことをおぼろげに覚えている。
正直な話、あの頃の私はクイーンよりもフィル・コリンズやハワード・ジョーンズ、
デヴィッド・ボウイ、ジョージ・マイケルなどの名前に惹かれていた。
あの日のあのステージにこんな想いが込められていたことを、33年も経ってから知ることになろうとは。


発売中■DVD:ビヨンド the シー 夢見るように歌えば

戦後のアメリカのショービズ界で活躍した
作曲家ボビー・ダーリンの生涯を描くケヴィン・スペイシーの監督・主演による伝記映画。
大ファンだと公言するだけあり、そのなりきり度は相当なもの。
歌唱シーンも素晴らしいし、ドラマとしてもかなり良く出来ている。
ちなみにタイトルの「ビヨンド・ザ・シー」は「ファインディング・ニモ」にも使われた
あの名曲のことを指していて、ボビー・ダーリンの作曲である。
私はDVDを所有しているが、Blu-ray化もされておらずサブスク配信もないのは勿体無い。


発売中■Blu-ray/DVD:最後のマイ・ウェイ

フランスで絶大な人気を誇ったシンガー、クロード・フランソワの生涯を描いた伝記ドラマ。
フランク・シナトラの歌唱で知られる永遠の定番「マイ・ウェイ」は彼の作曲である。
厳格な父とギャンブル狂の母親という複雑な家庭環境で育ちながら
若干39歳という若さでこの世を去ったクロードは、
天才にはつきものの感情の降り幅の大きさや自信過剰なところを隠そうともしない。
ヒットを出しても認めてくれない父親と、金を無心するしか能のない母親に
嫌気がさしながら、しかし切り捨てることも出来ない彼の心には
「いつか僕を認めて欲しい」という想いがずっとあったのだと思う。
泣くことでしか想いを伝えられない赤ん坊のように、尊大に振る舞うことが彼なりのアピールだったのではないか。
人を惹き付けるスター性と甘えん坊なオトナコドモをきっちり表現してみせたジェレミー・レニエが素晴らしい。


配信中■Amazonビデオ:Ray/レイ

ソウルのレジェンドであるレイ・チャールズの伝記映画。
「ドリーム・ガールズ」でも名演を見せたジェイミー・フォックスの主演。
監督が本人に直接聞き取りをしただけあり、エピソードはかなり忠実で嘘がない。
レイがここまであけすけに自分の人生を語ったのは
自身の死期を悟っていたのだろうか。2時間半を越える長尺だが観て損なし。


配信中■Amazonビデオ:ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル) を持つ男

【紹介記事】映画「ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~」より抜粋。

アメリカ南部に生まれ、不遇の幼少時代を送ったJBことジェームス・ブラウンが
ゴスペル音楽と出会い大スターへの階段を駆け上がっていく様子を描く伝記映画。
JBの破天荒な面を余すことなく描くことで、
人間味溢れる大スター、ジェームス・ブラウン像を浮かび上がらせる手法。
ライバルに敵愾心を剥き出しにする攻撃性、仲間への厳しさと優しさ、
ファンと接する時の誠実さ、金勘定のルーズさ、どうしようもないスケべさ。
その全てが一体となってあれほどのパワーを生んでいるのだと分かる。

監督が「ヘルプ」のテイト・テイラーだけあり、
JBの音楽活動が黒人差別との闘いでもあったことに言及している。
見た目は似ても似つかないチャドウィックだが、台詞回しや振る舞いはJBそのものに見える。
JBの見た目ではなく”ソウル”を再現しているからだ。


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詩人であり、ロックスターでもありと多くの顔を持つ
ボブ・ディランという人間の魅力を複数の俳優を使って描き出す異色の伝記ドラマ。
ケイト・ブランシェット、リチャード・ギア、ヒース・レジャー、
クリスチャン・ベールに加えて、当時はまだ駆け出しだった
ベン・ウィショーが大抜擢されているあたりが、さすがはトッド・ヘインズ監督。
女性でありながらケイトのカッコ良さが群を抜いている。
若干アート志向の強い作品なので万人にはお薦めし辛いが
ふと思いつくと見返してしまうフェイバリット作品。


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ボブ・ディランにも多大な影響を与えたと言われている
カントリーの大御所ジョニー・キャッシュの伝記映画。
キャッシュ本人の人生を辿る伝記ドラマとしてはもちろん、
ジューン・カーターとの関係に重きを置いた夫婦のドラマにもなっている。
オスカー受賞は妻役のリース・ウィザースプーンのみだったが
私としては気難し屋で寂しがりのキャッシュを演じたホアキン・フェニックスがとにかく素晴らしかった。
歌唱・演奏シーンも全て吹き替え無しというのにも拍手喝采。


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日本でも幅広い層から愛されている「愛の賛歌」や「バラ色の人生」など
数々の名曲を持つシャンソン歌手、エディット・ピアフの伝記ドラマ。
47年に渡る波瀾万丈の生涯を、歌に捧げ愛に生きたピアフの20歳から晩年までを
一人で演じきったマリオン・コティヤールはオスカーを受賞した。
「死ぬことは孤独でいることよりはマシ」と浜辺でのインタビューで
淋しげに語る晩年のシーンが今も忘れられない。
伝記映画の中でもトップクラスに好きかもしれない。


発売中■Blu-ray/DVD:永遠のマリア・カラス

誰もが跪くほどの美貌と神に祝福された声を持つと言われ
オペラ界の頂点に君臨していたマリア・カラスの晩年を描いた伝記ドラマ。
激情家で知られるカラスの深い孤独と、再起にかける執念を
私も大好きな名女優ファニー・アルダンが熱演。
歌唱シーンは上で紹介したピアフと同じくカラス本人の歌声を使用しており
「ボヘミアン・ラプソディー」と同じ演出法。



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