▼【祝・『国宝』100億突破記念】李相日監督作品をもっと多くの方に知って欲しい
映画「国宝」興行収入100億円超え、東宝配給 実写邦画22年ぶり( https://t.co/8tiwckyUNG )実写の邦画で興行収入が100億円を超えたのは2003年公開の「踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」以来、22年ぶり。6月6日の公開から73日間で観客動員数は747万人に達した。
— 忍之閻魔帳 (@sinobintage) August 18, 2025
映画「国宝」の興行収入が100億円を突破した。
73日間での100億突破は、比較的近い推移となっている
洋画「ボヘミアン・ラプソディ」(累計134億)の100億突破よりも早いペースで
8月18日現在も動員に翳りが見えないところを見ると、累計でも上回る可能性が高い。
さすがに「踊る大捜査線2」を超えるのは厳しいとしても
邦画界の悪しき慣習とは距離を置いた作品がこれほど多くの人に受け入れられたのは
歴史的な快挙と言っていいだろう。
映画「国宝」は原作・演出・美術・演者(エキストラまでも含む)と、
作品に関わる全員が心一つにして打ち込めば必ず届くんだという熱量が
異様なまでに高く、スクリーンが熱を帯びているような錯覚にすら陥る。
歌舞伎のシーンの撮影では、劇場に招かれた満員のエキストラを前に
丸一日かけてほんの数カットしかOKが出なかった日もあったという。
「美しいものの、最も美しい瞬間をスクリーンに焼き付ける」ことにこだわった
李相日監督の演出は、欲しい空の色が来るまで何日でも待つ山田洋次監督のよう。
そのこだわりに必死で喰らい付いていった吉沢亮と横浜流星の奮闘があればこそ
「国宝」は歴史に名を残す傑作たり得たのだと思う。
改めて、歴史ある東寺で開催されたジャパンプレミアで
主要キャスト勢揃いの舞台挨拶付きで見ることができたことは僥倖だった。
屋外に設置されたスクリーンで見たあの日の体験は
日が落ちると少し肌寒かったことやパイプ椅子の硬さまで全てを鮮明に覚えている。





2025年8月18日現在、「国宝」の原作小説(Kindle版)が64%の超高額還元セール中。
1冊あたりは約300円、セット購入でも600円は破格中の破格。
映画をご覧になった方も新鮮な気持ちで楽しめる、補完にぴったりの作品。
コミック版の「国宝」も45%還元。
さて、「国宝」が大ヒットしたことで持て囃されているのが
演者ばかりな気がするので、この記事では私の大好きな李相日監督に目を向けてみたい。
私が李相日監督作品を初めて見たのは妻夫木聡と安藤政信の「69 sixty nine」(2004年)で
妻夫木の舞台挨拶付きの試写会だった。
映像とテンポは好みだったのだがさほどインパクトはなく
窪塚洋介x行定勲監督の「GO」(2001年)のラインか、ぐらいの印象だった。
しかしそれから2年後、監督の名前を刻み込む名作と出会う。

配信中■Amazonプライムビデオ:「フラガール」(2006年)
(2025年8月18日現在、Amazonプライムは有料レンタル、U-NEXT、Huluは見放題配信中)
昭和40年、炭坑を主産業として栄えてきた福島県いわき市。
反対むなしく、時代の流れで次々と閉山に追い込まれ
先行きが不安になる男衆を尻目に炭坑に代わる新たな収入源として
市が目を付けたのがハワイアンセンターを作ることだった。
蒼井優、山崎静代(南海キャンディーズ)、富司純子、
豊川悦司、松雪泰子といった豪華キャストを揃えて
常磐ハワイアンセンター誕生までの過程を描いた本作は
キネ旬、報知、日本アカデミー賞など、2006年度の映画賞を総なめにした。
ただ闇雲に反抗するだけで活路を見出せずに愚痴るばかりの男達と、
明日も食わねばならないという現実を前に、一歩踏み出す女達。
都落ちして来たダンス教師の松雪泰子から多くのものを吸収して
一人前のフラガールに成長していく蒼井優、山崎静代など
フラガールの面々が素晴らしい。
後半のフラダンスシーンは圧巻。
特に蒼井優のソロパートは息を呑むほど美しく、
この数分間のためだけにでも観る価値は大アリ。
作品の成否を左右するパフォーマンスシーンへの
執念とも言えるこだわりはこの作品から始まっている。

配信中■Amazonプライムビデオ:「悪人」 (2010年)
(2025年8月18日現在、Amazonプライム、U-NEXT、DMM TVで見放題配信中)
中島哲也監督の「告白」と同じ年に公開された、2010年を代表する傑作。
芥川賞作家であり、「国宝」まで何度もタッグを組むことになる
吉田修一の同名ベストセラーを李相日監督が映画化。
主演は「69 sixty nine」で組んだ妻夫木聡。
共演は深津絵里、満島ひかり、岡田将生、永山絢斗、韓英恵、余貴美子、
光石研、宮崎美子、樹木希林、柄本明など。音楽は久石譲。
世の中では毎日多くの方が人の手によって命を落としている。
けれどその事実は、すぐ近くで発生しない限りほとんど自覚することがない。
テレビのニュースで語られる事件はとても事務的で
順番待ちをしている次のニュースに押し出されるように記憶を素通りしていく。
神の良しと定められた時ではなく、人為的に人生を強制終了されられた方の無念や
止むに止まれず人を殺めてしまった者の後悔など知る由もないし興味もない。
「悪人」で起こるひとつの殺人事件も、ニュースというフィルターを通せば
「痴情のもつれから来た、自己中心的かつ残虐な殺人事件」へと変貌する。
母親から捨てられ、土木作業員として働き、寂れた漁村で暮らす若者。
背景だけを見て「こんな環境で育った奴ならやって当然」と判断する人々。
マスコミに吊るし上げられる加害者の家族、
哀しみのやり場すら持たず苦悩する被害者の遺族。
表層的な部分だけを拾って善悪を判断する私達の同情や義憤は、いつもとても無責任だ。
この作品の凄いところは、加害者を主人公にしていながら
犯行理由にだけスポットを当てた、犯罪者擁護のストーリーになっていないこと。
殺されて当然とすら思える石橋佳乃(満島ひかり)や、
救いようのないバカボン(=馬鹿なボンボン)の増尾圭吾(岡田将生)ですら、
どこかしらに共感し得る部分を持っている。
どんな理由があろうと、人を殺した事実は変わらない。
しかし、私はこの清水祐一という殺人者を、最後の最後までどうしても憎みきれなかった。
むしろ、ギリギリの状況で見せた最後の優しさに涙が溢れて止まらなかった。
法律に「情状酌量」という判断が存在するのは何故なのか、
この映画を観て初めて分かった気がする。
祐一と共に出口のない逃避行に出る女性、光代を演じた深津絵里は
本日、第34回モントリオール世界映画祭で最優秀女優賞を受賞した。
試写会でお見掛けした際、「今からモントリオールに行きますが、
良く知らない国の人よりも、まずはここに居る皆さんに楽しんでいただきたいです」と
言っていたのを思い出す。知名度の割に代表作と呼べるものが無かった彼女なので、
これでようやく大女優の仲間入りだ。
祐一を演じた妻夫木聡も間違いなくキャリア最高の芝居をしている。
原作の大ファンで、読み終えてすぐにマネージャーに版権の行方を調べさせたらしい。
既に東宝が持っていると分かり、諦めかけたところへ
東宝側からオファーがあったのだという。
李監督曰く「テレビドラマの延長線で作ってませんし
油田が爆発するだとか、そういった派手なことは起こりませんが
1本の作品としては決して負けていないと思います」とのこと。
当たり前だ、「THE LAST MESSAGE 海猿」など比較にもならない。
あ、せっかく監督が遠回しに言っているのに「海猿」と書いてしまった。

配信中■Amazonプライムビデオ:「怒り」 (2016年)
(2025年8月18日現在、Amazonプライム、U-NEXT、DMM TVで見放題配信中)
「悪人」で数々の映画賞を獲得した吉田修一原作×李相日監督が再タッグ。
凄惨な殺人事件発生から1年、未だ犯人は逃亡を続けている。
ある日、千葉・東京・沖縄の3箇所に前歴不詳の若い男が現れた。
ひとりは千葉の漁港で働く漁師の父と、やや不安定な娘の前に現れた青年・田代。
(漁師:渡辺謙、娘:宮崎あおい、田代:松山ケンイチ)
もうひとりは東京でサラリーマンをしているゲイの優馬が出会った直人。
(優馬:妻夫木聡、直人:綾野剛)
もうひとりは、母と共に沖縄に移り住んできた泉が出会ったバックパッカーの田中。
(泉:広瀬すず、田中:森山未來)
テレビでは犯人の情報を求める特別番組が放送され、
それぞれの生活にも小さな波風が立ち始める。
吉田修一原作の映画は総じてアタリ率が高いのだが「怒り」はその中でも究極。
これほど打ちのめされることはないというほどにぐったりしたが、
軽薄な作品が溢れ返る中で、映画を観る醍醐味を再確認出来る1本。
中心に据えた渡辺謙は抑え役であり、
若手から中堅が邦画の総力戦かと思うほどの芝居を披露してくれる。
妻夫木と綾野は本物のカップルにしか見えないし
(ん、そういえば綾野剛は「横道世之介」でもゲイ役だったな)、
広瀬すずはこの年齢でここまでやるかの大熱演、
いつまでも可愛いに留年していた宮崎あおいは遂に新境地を開拓し、
森山未來や松山ケンイチまで主要登場人物は皆助演賞モノ。
無理解・無関心・差別・虐待など、様々な環境で怒りを溜め込んできた若者達を
優しく包み込む坂本龍一のスコアは「レヴェナント」よりずっと力が入っている。
141分の長尺ながら途中一度も「長いな」と感じるはことなかった。
力強さと繊細さをテンポよく織り交ぜた演出は李監督の真骨頂。
「フラガール」「悪人」といくつもの名作を送り出してきた
李監督の最高傑作と言って良いのではないか。

配信中■Amazonプライムビデオ:「流浪の月」 (2022年)
(2025年8月18日現在、Amazonプライム、U-NEXTで見放題配信中)
本屋大賞に輝いた凪良ゆうの同名ベストセラーを
「新聞記者」「孤狼の血」と立て続けに話題作に出演する松坂桃李と
「怒り」「海町Diary」の広瀬すずのW主演で映画化したヒューマンドラマ。
女児誘拐事件の被害者と加害者が、事件から15年後に偶然再会したことで
穏やかに過ごしていた二人の生活が再び揺れ始める。
共演は白鳥玉季、横浜流星、多部未華子、趣里、三浦貴大、内田也哉子、柄本明。
脚本・監督は「悪人」「怒り」の李相日。
美術は「キル・ビル」から三谷幸喜作品まで世界的な人気を誇る種田陽平。
撮影監督は「母なる証明」「パラサイト 半地下の家族」のホン・ギョンピョ。
アジアではクリストファー・ドイル以来に登場した名撮影監督として活躍中で
是枝裕和監督の最新作「ベイビー・ブローカー」でも撮影を担当している。
雨の公園で濡れながら本に目を落とす10歳の少女・更紗(白鳥玉季)。
父を亡くし、母が他所に男を作ってしまったことで伯母の家に引き取られるも
そこにも居場所はなく孤独の中で時間を持て余していた。
公園に傘を持って現れたのは、更紗と同じく孤独を抱えた大学生の文(松坂桃李)。
僅かな会話から事情を察した文は、自分の家に来るかと声をかけ二人の共同生活が始まった。
安心して眠れる場所を見つけた更紗と、少しずつ笑顔を取り戻す更紗を黙って受け入れる文だったが
同居生活から2ヵ月経ったある日、文は誘拐犯として逮捕され、束の間の平穏な日々は終わりを告げる。
そこから15年後、更紗(広瀬すず)は恋人の亮(横浜流星)と同棲生活を送っていた。
亮との関係は決して順調とはいえず、狂い始めた歯車の軋む音が更紗にとって次第に重荷になっていた。
相談に乗ってもらうために同僚の佳菜子(趣里)と偶然入ったカフェにいた店主は、紛れもない文だった。
物語は、以前ドラマ化もされた「幸色のワンルーム」によく似ている。
「幸色〜」は年端もいかない少女を連れ去った事件を美化していると批判が殺到し
当初は地上波での放送予定だったものを断念して配信へと切り替えられた。
ほぼ同じプロットの物語に挑んだ李監督は、年の離れた二人の絆の強さを
当事者と部外者双方の心情を配慮した上で、常識や倫理を超えて呼び合ってしまう
二人の関係を描き出すことに成功している。
「当事者にしかわからないこと」と「部外者にしか見えないもの」の狭間で揺れる
二人の少女がどちらも素晴らしく、特に更紗の少女時代を演じた白鳥玉季が放つ
眩しいばかりの透明感と芯の強さがうかがえる眼差しは、
今にも壊れてしまいそうな文の脆さとは対照的で重苦しい雰囲気の漂う本作の一筋の光になっている。
『10歳の少女に大学生が声をかけ同棲生活を送っていた』と聞けば
世間の多くは亮や作中の学生達、レストランで働く同僚と同じ感情を抱くだろう。
二人がどんな気持ちで響き合い、繋がっているのかを吟味する間もなく
更紗と文の年齢差だけをもって「汚らわしい」と決断を下す。
法に従って動く警察はまだしも、感情で動く世間の暴走には歯止めが効かない。
理解できないものを排除し、側から遠ざけようとするのは防衛本能故だろうが
自分達の安息のために、行き場のない二人をさらに孤独に追い込むことには無頓着になっている。
二人の共依存を強固にしているのは、実は自分達の無理解なのだという自覚はおそらくない。
横浜流星はこれまでに見たことのない表情を連発し
李組の洗礼を受けて完全に一皮向けた印象。
この時の好演が「国宝」での大抜擢に繋がったのは間違いない。
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