感染症疫学の風

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注射薬の無菌調製にまつわる事件 レビュー編

2010年08月05日 | 疫学
海外の注射薬の汚染による患者さんへの健康被害の事例について、興味深いレビューがあります。

注射薬へのコンタミネーションの機会としては、工場での製造過程、病院薬剤部あるいは調整過程、病棟あるいは施行過程の3カ所が考えられます。

2007-2008年にかけて、米国において製造工程でのSerratia marcesensのコンタミネーションのためプレフィルドヘパリンが回収されたという報道もありましたが、一般的には、院内での調整時あるいは施行の過程でのコンタミネーションが問題となることが多いでしょう。

2007年にコンタミネーションに関連した病院内感染についての調査に関する論文が出ています。Vonbergさんらのシステマティックレビューによると、1990年以降のコンタミネーションによる院内感染に関する論文は128件であり、合計2250人の感染者が報告されていました。



製剤別では、血液製剤とヘパリン、生理食塩液に関連するものが最も多かった、となっています。

死亡率の高かった汚染源は、血液製剤、高カロリー輸液(Total Parenteral nutrition: TPN)やプロポフォールなどの脂肪製剤であり、脂肪製剤に関連する死亡率は22.6%と、脂肪製剤以外のコンタミネーションに関連する死亡率9.7%に比して高かったことがわかります。

もっとも危険なのはTPNバッグであり、ひとたびコンタミネーションが起これば高い死亡率につながることも、明らかになりました。

このレビューには、もう一点、重要な指摘があります。
検索された論文の49.2%にマルチドーズバイアル(多用量バイアル製剤)の使用が記載されていました。

マルチドーズバイアルの使用に関連した感染症は、敗血症、肝炎、軟部組織炎と呼吸器感染症などであり、592件の回避可能であった感染症が発生し62名の死亡に関連していた、とあります。


院内感染管理の質を保つためにはガイドラインの遵守、TPN調整に当たるスタッフの定期的な教育が必要です。


先日訪問したいくつかの病院では、マルチドーズバイアルは、薬剤部の製剤室のクリーンベンチ内でのみの使用に限定し、開封時にあらかじめ製薬会社が指定している開栓後の期限(通常28日)の日付をシールして使っていました。

プロポフォールは一番小さい容量、とはいっても20mLですが、を購入し、1患者のみの使い、残りは廃棄しているようでした。この背景には、医療保険が1本分で支払われる、こともありました。

Vonberg RP, Gastmeier P., Hospital-acquired infections related to contaminated substances.
J Hosp Infect. 2007 Jan;65(1):15-23. Epub 2006 Dec 4.



次回は、個別の事例についての論文を紹介します。

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1 コメント

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シェアさせて下さい。 (南の島のただの主婦)
2015-10-07 10:29:21
最近シンガポールの病院で起きたC型肝炎の院内感染と関連して、あなたの記事をシェアさせていただきました。公開は友人の範囲です。
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