数日前、オムコイの町でドイツ人男性に声をかけられた。
彼は、オムコイからさらに奥まった村に住んでいるという。
年の頃は、60代初め。
まあ、欧米人は老けて見えるからして正確なところは分からない。
それにしても、どこかで見たような顔である。
「前に会いましたか?」
「もう2年近くも前になると思うけど、チェンマイ行きのミニバスで一緒だったよ。あんたは、若い娘さんと一緒だったじゃないか」
若い娘?
ドキッとした。
だが、オムコイの町で公然とそんな危ないことをするわけがない(もとい、どこにおいても、です)。
*
つらつら考えてみるに、チェンマイ行きのミニバスに一緒に乗った女類といえば、むろんラーだけである。
彼の記憶する髪形やジーンズなどの服装からすれば、やはりラーに間違いないようだ。
「む、むすめえ?あれはわが嫁で、40歳を超えたクンヤーイ(婆様)だよ」
「そ、それは失礼。若く見えたから、てっきり娘さんかと思ってしまった」
このやりとりを、彼の妻らしい女性(おそらくカレン族だろう)がニコニコしながら眺めている。
年齢は、おそらく40代半ば。
ラーよりもずっと落ち着いて見えるが、年齢差からすれば、われわれとさほど違いはないだろう。
そして、このふたりは確かに夫婦に見える。
*
それにしても、ショックである。
40過ぎの嫁をつかまえて、事もあろうに娘とは何たることか。
むろん、こちらはすでに髪は真っ白、ラーの方はまだ真っ黒とはいえ、ふたりの仲睦まじさ(見栄です、見栄)からすれば、娘に見えるわけがない。
いや、待てよ。
ラーは私のことを、辺りはばかることなく「クンター(爺様)」と呼ぶ。
だから、傍からみれば、その仲睦まじさは世話焼きの孝行娘がよぼよぼの父親をいたわるような姿に見えたのではあるまいか。
ああ、嫌だ、イヤだ。
*
こうした誤解を防ぐには、まずは見た目を変えるしかない。
私は髪の毛を黒く染め、お肌の張りを取り戻す美容整形を行う。
ラーには、もっと苦労をかけて急激に白髪を増やし、年相応の地味で落ち着いた服装や態度を心がけさせる。
そして、私のことは「クンター」ではなく「ダーリン」(ダクリン=猿の尻ではない)と呼ばせる。
そうすれば、誰が見ても夫婦である。
そんな莫迦なことを考えていると、ラーが若い娘がはくようなジーンズの半ズボンを履いている。
「こらこら、またガキみたいな格好をして。それに、そのピラピラした透けたみたいな上着はなんだ?年を考えろ、年を」
「だって、年をとればとるほどお洒落をしないと、人生楽しくないでしょ。それに、何かあった場合は、半ズボンの方が蹴りが出しやすいんだから」
「麺屋に、なんで蹴りが必要なんだ?」
「人生には何が起こるか分からないって言ったのは、クンターでしょ。さあ、そんな穴の開いたシャツなんか脱いで、もっとお洒落をしてよ。クンターったら、まるで、カレン族みたいに身なりを構わないんだから。ついでに床屋に行って、もっとハンサムになってきてちょうだい
「・・・」
鏡を見ると、無精ヒゲも伸びて、確かにむさ苦しい。
なんだか、いつの間にか丸め込まれて、とぼとぼと床屋に向かった。
「クンター、背中が曲がってるよ。背筋を伸ばして!」
は、はい!
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思い切りのろけちゃったりして
でもなんかいいよねぇ
この路線をもうすこし続けてもユルシマス
タイが大好きでこちらのブログを拝見させてもらってます
カレン族の女性って強そうですね^^
だって、年をとればとるほどお洒落をしないと、人生楽しくないでしょ。
って奥様が言われたこと確かになぁって思いました。
オムコイに行ってみたくなりました!
お言葉に甘えて、ブログタイトルを次回より『オムコイおのろけ便り』に変更させていただきます。ん?
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maicoさん
初めまして。確かに、強いです。夫婦喧嘩で目に青あざをつくるのは、旦那の方です。このブログはかなり美化されておりますから、現実とのギャップに驚愕されるかもしれません(笑)、機会があったらぜひおいでください。