【タイ山岳民族の村に暮らす】

チェンマイ南西200キロ。オムコイの地でカレン族の嫁と綴る“泣き笑い異文化体験記”

【村の燃料事情】

2009年09月20日 | オムコイ便り
 福岡で暮らす姉から、「秋風が吹き始めた」というメールが届いた。

 さもありなん、すでに9月下旬である。

 ここオムコイは、朝夕は秋、日中は夏、ときおり梅雨という陽気の繰り返しで、日本の季節感とはまったく異なる。

 従って、「ああ、秋になったなあ」といった風情ある感慨などなく、今が何月であるかということも、普段は忘れてしまっている。

 その意味で、ふと気づく時間の経つ早さは日本以上かもしれない。

      *

 そんなわが村でも、これから年末年始にかけてどんどん冷え込んでいく。

 11月に入ると、朝夕には台所の隅にある炉での焚火が欠かせない。

 日本の冬のような厳しい寒さを体験したことのないラーなどは、私よりも寒がりなのである。

 そこで、そろそろ大量の薪を調達する必要が出てきた。

 もっとも、唐辛子を串に刺してあぶったり、ミニ玉葱を灰に埋めて時間をかけて焼いたり、カレン族料理と焚火は切り離せない。

 それに、わが家のようにプロパンガスを併用している家はまだ少ない。

 そこで村の衆たちは、山に行くたびに倒木を割ったり、枯れた木を切り倒したりして背籠にしょって持ち帰り、常に高床の下に薪を常備しているのである。

 だが、腰痛持ちの私と町暮らしの長かったラーには、そんな芸当はできない。

 やむなく、年に数度人を雇って、薪を切り出してもらわざるを得ないのである。

      *

 今日の切り出しには、隣家の次男チョッピーとラーの男友だちの総勢3人が名乗りをあげてくれた。

 日当は、ひとり150バーツである。

 これに、切り出した薪をピックアップトラックで運んでくれる運転手に300バーツ。

 昼食と作業終了後の焼酎代、というところが切り出しの必要経費となる。

      *

 庭に運び込まれた薪は、1ヶ月ほど乾燥させる。

 これを小さく割っていくのは、基本的に女の仕事である。

 ラーにはこの作業も無理だが、次姉や友人のウーポーなどは、刃先の鈍った小型の鉈でこの作業を楽々とこなしていく。

 剣道初段、柔道初段、ブラジリアン柔術および自己流カンフー修業経験ありのこの腕にかけて、私もいちど挑んだことがあるのだけれど、たちまち腰痛が悪化して女たちに笑われてしまった。

 従って、この作業に対しても1日100バーツ程度の日当を払うことになる。

 作業日程は、女たちの気分とおしゃべりタイムの時間次第である。

      *

 焚きつけには、樹脂をたっぷり含んだ松の木のようなものを使う。

 これを細く断ち割り火をつけると、脂をしたたらせながらたちまち燃え上がる。

 だが、切り出した木は乾燥が不充分なので、なかなか火が移らない。

 私も、一時は毎週のように川原でカヌーキャンプを楽しんだことがあり、“焚火奉行”を自負していたのであるが、ラーや村の衆の手際の良さの前では、しゅんとならざるを得ない。

 ところで、庭に積まれた薪の山を眺めていると、この村だけでも一体どのくらいの木が切られていくのだろうかと、ちょっと心配になってくる。

 住宅用の良材が枯渇していることは、先日の【揺れるわが家】にも書いたが、いずれ薪の枯渇も深刻な問題になってくるのではなかろうか。

 だが、伝統に根ざした村の暮らしや一向に改善しない経済状況を眺めていると、人々が薪に頼る生活はかなり将来にわたっても続くことだろう。

 相当の山奥まで伐採が進み、新しい棚田が次々に切り開かれている昨今、この豊かなオムコイの自然はどこまで人間の酷使に耐えることができるだろうか。

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5 コメント

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Unknown (なかちゃん)
2009-09-21 10:38:05
クンター様
僕の住む横浜でも日中はまだ暖かいのですが夜は肌寒く長袖を着ないと凍えそうな風が夏の終わりを感じさせます。
限り無く自然に近いオムコイの生活でさえそれだけの環境破壊(勿論生活の為、必要最少限だと思いますが)がある現実、僕らの暮らす日本等先進国の生活を維持するのにどれだけの環境破壊が必要なのだろうと考えると想像を絶します。
いつもクンターさんの生活を覗かせて頂く度に今の自分の生活にどれだけの『無駄』があるのだろうと考えさせられます。
..だけど煙草だけは止められないんですよねぇ(^.^;)...意思弱ぁ..
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山岳民族の暮らしそのものが (鈴木)
2009-09-21 20:08:36
自然の営みの一部であり、生活に必要な分の薪の消費は環境破壊になりません。
↑のなかちゃんの仰る通り(ちなみに私も横浜在住です)環境を壊したのは我々先進国でありますので、自然再生の義務は私達にあります。
クンターさん
どうか皆様には伝統を守って頂き普段通りの生活をしてほしいです。
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ゴミ問題も。 (クンター)
2009-09-21 23:40:53
なかちゃん、鈴木さん

 コメント、ありがとうございました。「燃料問題」の次ぎに気になるのが「ゴミ問題」です。最近、やっと地区行政事務所が家庭ゴミの回収を始めましたが、まだほとんどの家が庭で燃やしたり、川辺に捨てたりしています。特に、プラスチックやビール瓶の散乱がひどく、割れた瓶で川で足を切る人も増えています。
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ゴミ問題 (鈴木)
2009-09-22 08:47:09
ゴミの問題も何度か調べた事があります。
確かオムコイまでは、公共のごみ収集が来ていたと思うので、ちゃんと集積場所に出す習慣をつけるしかないですね…
でも、タイのごみ処理事情は劣悪で公的な最終処分場(と言っても空地にそのままポイ!国際的な環境基準を満たした処分場は数か所しかありません)も満杯状態、民間の処分業者への委託がほとんどです。
で、民間の処分場は…悲しいかな山岳地帯なのです。私達も山岳を訪れた時、持ち込んだゴミはチェンマイまで持ち帰り処分しますが、その内60%が山岳部へ逆戻りしている現状を知りました。
ゴミ収集の無い上流の村々でも同じくゴミは、谷間にポイ!(それでもかつては、道端にポイ!だったので良くなった)なので、河川の汚染が年々広がっています。ちょっと嫌な話ですが、川の水は長期の飲用に適さない値まで汚染物質が含まれていました。
自給自足のエコ生活を奪われ、貨幣経済にのみ込まれた以上、消費は仕方ありません。金属・ビニール・紙などは専門の回収業者が行ってると思いますので、そこへ出す事が当面の解決策かと思います。
私のブログの「環境プロジェクト」で、調べた事は記事にしております。
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ごめんなさい (鈴木)
2009-09-22 08:48:40
クンターさんのコメントに収集始まったとありましたね…
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