【タイ山岳民族の村に暮らす】

チェンマイ南西200キロ。オムコイの地でカレン族の嫁と綴る“泣き笑い異文化体験記”

【家庭内強制隔離】

2010年08月18日 | オムコイ便り
「体の中が寒い、全身の骨が痛い感じ」

 熱はないものの、昨日の朝もラーの不調は相変わらずだ。

「とにかく、病院に行こう。きっと、ポーのインフルエンザが移ったんだよ。今は体力で熱を抑え込んでいるんだろうけど、放っておくとひどいことになるかもしれんぞ」

 しかし、答えは同じである。

「病院に行くと、もっと病気がひどくなる。あたしは、自分で治してみせる」

「そう言いながら、もう3日も寒い、痛いって言い続けているじゃないか。いい加減にしろ!」

 イライラが募って、つい語調がきつくなった。

「クンターに病気が移るといけないから、あたし家で休むよ。焚き火で体を温めて、プーノイに相談してみる」

 プーノイは、隣家のモーピー(霊医)である。

 ラーは子供の頃から、軽い病気は彼の祈祷で治してもらってきた。

「風邪ならともかく、インフルエンザやデング熱はプーノイでも治せないよ。つべこべ言わずに、病院に行くぞ」

 強制連行しようとすると、それまでぐったりしていたくせに、素早く立ち上がって逃げ出した。

「病気が移るといけないから、家には絶対に来ないでね。自分で治してみせるから!」

 どうにも、困ったもんだ。

      *

 夕方になって、冷凍していた到来もののサヨリをさばいていると、甥っ子のジョーが店にやってきた。

「叔母さんはまだ調子が悪いので、クンターの晩ご飯を作るように言われてきました」

「いや、大丈夫だよ。魚の塩焼きならラーも食べられるかと思って、今さばいているところなんだ」

「じゃあ、七輪に火を熾しましょう」

「ああ、悪いな」

 そこへ、ラーから電話がかかってきた。

「クンター、何食べるの?」

「サヨリの塩焼き。お前さんも食べるだろう?」

「あたしは、もうマーマ(インスタントラーメン)を食べたから」

 唐辛子をたっぷり入れたマーマはラーの好物で、体調が悪いときにはよくこれを食べる。さらに食欲が落ちると、炊いた米にお湯を少しかけて塩を揉み込んだ“カレン式塩粥”だ。

「それじゃ栄養が足りない。塩焼きを持っていくから」

「絶対に来ないで。病気が移るから」

「そんなら、なんで病院に・・・」

「病院で働いている友だちに電話したら、今日も満室で廊下に寝るしかないって。だから、病院には行かないよ」

「とにかく、医者に診て・・・」

「あ、これからプーノイのお祈りが始まるから。じゃあね」

 電話を切った。

 まったく。

     *

 熾き火でこんがりと焼き上がった塩焼きをおかずに、ジョーとふたりで晩飯を食べた。

「いくら言っても、病院に行こうとしないんだ。どうしたもんかなあ」

「大丈夫ですよ、いつものことだから。今夜は僕が火を焚き続けて、叔母さんの面倒をみます」

 ジョーも、病院には死んでも行かない口である。

「じゃあ、魚を持って様子を見にいくか」

「駄目ですよ、叔母さんに絶対にクンターを連れてきちゃ行けないって言われているんだから。ポーもまだときどき咳をしているし、クンターまで病気になったらどうしようもなくなります」

「・・・」

      *

 今朝になって、ラーが店に戻ってきた。

「具合はどうだ?」

 熱を測ろうとすると、近づくな、喋るなという身振りをする。

 そして、ご飯をビニール袋に詰めて、すぐにバイクにまたがった。

「大分よくなったから。今日も、焚き火で体を温めるから」

「おい、病院・・・」

「近づいちゃ駄目だよ!じゃあね」

 行ってしまった。

 どうやら、“強制隔離”を喰らったのは私の方らしい。

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