【タイ山岳民族の村に暮らす】

チェンマイ南西200キロ。オムコイの地でカレン族の嫁と綴る“泣き笑い異文化体験記”

【暴れん坊村長の亭主】

2010年08月20日 | オムコイ便り
 家で2日間養生したラーは、大分調子を取り戻したようだ。

 しかし、昨日の朝にはこちらにまた風邪の症状が出てきた。

「親戚や年寄り連中に言われたんだけど、やっぱりこの店にはピー(悪霊)が憑いているんだよ。イエッがデング熱に罹ったのも、ポーがインフルエンザに罹ったのも、そしてあたしが病気になったのも、みんなピーのせい。とにかく、先祖霊が宿っている家をないがしろにするのがいけないんだって。だから、クンターも家で寝た方がいいよ」

 そして、再び“夜中に誰かがガス栓をひねって料理を始める”という話を蒸し返す。

 家では、悪い夢も見ないという。

 とりあえず炊飯器や調理道具を家に持ち帰り、飯は家で作り食べることになった。

       *

 だが、家には建て替え用の材木を置いているので、息子ふたりが寝るスペースしかない。

 ラーは、囲炉裏の脇の狭い空間にふとんを敷いているのだが、そこにふたりでは寝返りも打てやしない。

 一番の問題は、晩飯のあとに本を読んだり調べ物をすることができない、という点である。

 息子たちは子犬のようにじゃれ合うし、親戚連中がやってきて賑やかなこと、この上ないのだ。

 そこで、晩飯を終えると早々に店に引き上げることになる。

 寝がけの読書は寝酒代わりだし、実際に酒も入るから、それからまた家に戻る気にはなれない。

      *

「クンターは店で寝ても、本当に何も感じないの?」

「全然。家だと遅くまで周りから話し声が聞こえるし、4時頃から床下で鶏が騒ぎ出すだろう。だから、店の方がぐっすり眠れるよ」

「うーん、やっぱり日本人だから問題ないのかなあ。でも、あたしはもう怖くて店では眠れないなあ。早く家を建て替えて、クンターも寝れるようにしようか」

 とは言っても、まだ雨季は続くし、材木の数も半端なままだ。

 たとえ家を建て替えたにしても、音が筒抜けの高床式住居なのだから賑やかな環境には変わりがない。

 うーん、どうしたものか。

 考えに耽りつつ眠りについたが、ピーに悩まされることもなく熟睡し、今朝は風邪の症状もすっかり消え去った。

 店に食材を取りにきたラーも、今週から学校に通い始めたポーも元気いっぱいである。

 ともかく、インフルエンザ騒ぎは完全終結したようである。

      *

 朝飯と豚の世話を終えて、今はすっかり私の仕事場と化した店に戻りかけると、村の集会所に人だかりがしている。

 タイ人医師や看護婦が出張ってきて、尿検査を行うのだという。

 健康診断の一環なのだが、一番の目的は阿片中毒のチェックで、尿から該当成分が出てきたものには、阿片を断つための薬が配られる。

 軍人たちが仕切っているのは、このせいである。

 まあ、本当の中毒者は摘発を怖れて山に逃げ込んでしまうから根本的な解決にはならないのだが、軽い中毒者や止める意思のある人にとっては、いい機会であろう。

 軍人時代にこの検査に携わったことのあるラーは、カレン語の通訳も兼ねてさっそく手伝いに加わった。

 こうした人助けが、一番性に合っているようである。

      *

 つい先日は、「村長選に立候補しないか」というとんでもない話も持ち込まれた。

 タイ人村長の時代が長く続いているので、長老たちは賛否の渦を巻き起こすに違いない“暴れん坊”を起用して、村の衆を刺激する作戦に出たらしい。

「万が一当選でもすれば、朝といわず夜といわず村の衆が揉め事や相談事を持ち込んで、大変なことになる。いまのあたしはクンターの世話で、手いっぱい(本当かね)」

 そういう理由をつけて一応は断ったと言うのだが、「どのくらいの人が投票してくれるか、試してみるのも面白いね」と満更でもない様子だ。

 ただでさえ騒ぎの絶えないわが家なのに、よそ様の揉め事にまで巻き込まれたら、それこそ、こちらの身がもたない。

「どこそこで騒ぎがあった」と聞きつけた途端、目の色を変えて飛び出していくのは、目に見えている。

 経営が立ちゆかない“麺屋の亭主”から、物議をかもす“暴れん坊村長の亭主”への転身も面白いといえば面白そうだが、やはり、これは想像の範囲にとどめておいた方が無難なようだ。

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