【タイ山岳民族の村に暮らす】

チェンマイ南西200キロ。オムコイの地でカレン族の嫁と綴る“泣き笑い異文化体験記”

【“のんびりピー”の恐怖】

2011年01月12日 | オムコイ便り
 ピー様の話を書いた祟りか、わが店にも奇妙な超常現象が起き始めた。

 満タンにしておいた水浴び場水槽の水位が、朝になると決まって30センチ近くも下がっているのである。

 村の言い伝えによると、“水呑みピー”が現れると、まずは水浴びの水槽に棲み着くという。

 そして、水槽の水をがぶがぶと飲み干す。

 おそるおそる水槽の中を覗き込むと、大口を開けた何かが水面を割ってガバと飛びかかってきた。

 ギャーッ!

     *

 莫迦なことを書いていると、本当にピー様の怒りに触れかねない。

 そこで、水槽の周りを見回してみたのだが、水漏れの様子はない。

 排水口の緩みかと思い外に出てみたのだが、そちらの水漏れもない。

 ただ、壁の外まわりの土が水をたっぷり吸って、一部がえぐられたように口を開け、基礎部分を覗かせている。

 ひえっ。

 水呑みピー様は、水槽下の土中に棲み着いてコンクリート水槽を齧り始めたのだろうか。

     *

 尻をからげてモーピー、じゃなかった、家主の雑貨屋のもとに駆け込むと、しばらくしてハンサム旦那がのんびりした顔でやってきた。

 いくらタイでも、こういう場合は場を盛り上げるために、もっと必死の形相で駆けつけてほしいものだ。

「クンター、どうしたのお?」

「水が、水が・・・」

「ああ、減っちまってるねえ。どれ、どれ。水漏れはないみたいだけど」

 あくまでも、のんびりと水浴び場の中を点検する。

「あ、これだねえ。壁の角に立てヒビが入ってるわ」

 指差す方を見ると、確かに細い亀裂が走っている。

「ということは、外壁も割れちまったのかなあ」

 さらにのんびりとした風情で、外に出て行こうとする。

 一向に盛り上がらないので、駆け足で先に立って覗きかけた基礎のあたりを指差した。

「ほ、ほら、ここが大変なことに・・・」

「あ、やっぱり壁が割れてるわ」

 旦那は私の言葉をさえぎるように外壁の亀裂を指差してにっこりと微笑み、亀裂の下に指をつけた。

「ほらね、ここから水が漏れてんだよ」

「なあんだ、つまらない」

 とは、言えない。

 私も薄く苔のむした亀裂に指をつけて、水漏れを確認した。

      *

「まあ、今日はどうにもならんから、そのうちに修理させるよ」

「あさって友だちがここに泊まる予定なんだけど、それまでに直るかなあ?」

「うーん、そりゃあ分からんけど、まあ、そのうちにね」

 ニコニコしながら、去っていった。

 ということは、絶対に無理だということである。

 昨年秋、この店の竣工予定が遅れに遅れて、2ヶ月以上も麺屋の開店を延ばしたのである。

 そのときの返事も、「まあ、そのうちにね。ニコニコ」ということであった。

      *

 それにしても、竣工後わずか1年と2ヶ月あまりだというのに、壁に水漏れするほどの亀裂が走るとは、一体どういうことだろうか。

 などと深刻な顔をしても、仕方がないのである。

 私が机を置いている脇の窓まわりには、竣工半年にして太い亀裂が走り始めたし、洗い物専用の水タンクを置いた裏庭側では、すでに10センチに近い地盤沈下が起きて基礎部分が顔をのぞかせている。

 さらにいえば、竣工直後から窓の開閉やドアの立て付けには悩まされっ放しだ。

 そして、すべては「そのうちにね、ニコニコ」なのであった。

 今度の水漏れで、私が机を置いている背後の水浴び場外回りの地盤沈下はさらに進んだ。

 このまま水漏れが進んでどっと地盤が崩れてしまえば、ある日突然後ろにひっくり返りかねないのである。

 それでも、やっぱり「まあ、そのうちにね。ニコニコ」となるに違いない。

     *

 ああ、恐ろしや。

 “水呑みピー”も怖いが、もっと怖いのは、村の衆の心に棲み着く“のんびりピー”に他ならない。

*写真は、久しぶりに咲いた蘭の花。開花に気づいたのは昨日なのだが、すでに花は散りかけており、おそらくかなり前に咲いたのに違いない。鉢が着木の陰に隠れていたとはいえ、人様のことはとやかく言えないのであった。

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4 コメント

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そち、寒くないんですか? (ジェ)
2011-01-13 02:26:32
ビー?まじ本当??かと思ってたのに。。。ははは

その水槽の修理はご自分で処置してから費用を家主から貰うのが早いじゃないんですか? 
まあ、簡単に出来る程の状態なら。

本当に'のんびりビー’はナッケですね。
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修理はお任せします。 (クンター)
2011-01-13 12:40:50
ジェさん

 今朝はかなり冷え込んで、7時の気温は7℃くらいでした。チェンマイは、いかがですか?

 “のんびりピー”は、家主だけじゃなく私にも取り憑いてしまったので、修理はすぐにはできそうもありません。

 こうなったら、ジェさんにオムコイに出張してもらうしかないようです。かわいい“水呑みピー”にもご紹介しますよ。
 
返信する
あ・い・う・え・お (朴念仁)
2011-01-13 19:13:27
有ります、居ます、うちの中、縁の下にも、屋外にも・・・。古い話は46年前の富士登山で。かなりの速さで9合目まで辿り着き同伴の仲間二人を待つも1時間以上待てどもやって来ない。預けておいた私の弁当が心配で下山する事に・・・。下りかけたその時、軍服の日本兵が私の顔を覗き込むように振り向きながら追い越して行った。その時間帯、下山する人はまだ居ないのに???。その軍人に誘われる様に後を着いて行ったが一瞬でその姿が無くなりました。気が付けば瓦礫の急斜面に足を取られ、もんどりうって落下。8合目までは数秒の地獄劇。次回はカリフォルニアの幽霊。
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危なかったですねえ。 (クンター)
2011-01-14 11:40:50
朴念仁さん

 書き出しが、実に見事な「あいうえお」の韻を踏んでいるので感心しました。
 そうですか、富士山に日本兵が現れましたか。かなり、危ないお誘いだったようですね。カリフォルニア編も、楽しみにしております。
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