「来年4月になったら、家を建て替えたいなあ」
このところ、ラーがしきりにこう漏らすようになった。
4月はもっとも暑い時季で、このオムコイでも雨が降ることは滅多にない。
だから、家づくりにはもっとも適しているのである。
*
私たちがいま住んでいる高床住居(傾斜地だから正確には半高床)は、ラーの亡夫が存命中、およそ20年前に建てられたもので、かなり傷みがひどい(8月28日付け【わが家はアウトドア】参照)。
足脂で黒光りする床板はまだしっかりしているが、カレン族独特の割竹壁には大きな隙間があき、台所の割竹床は用心しないと踏み抜きそうになる。
ことに、家全体を支える13本の柱の劣化が激しく、歩くたびに家全体がゆらゆらと揺れる。
つい最近、妙に蟻が多いなと思ってその出所を突き止めたところ、1本の柱を埋め込んだ土中に蟻の巣ができており、根元の部分がボロボロに喰われてしまっていることが判明した。
「クンター、そのうちに家が倒れてしまうんじゃない?」
ラーが震え上がったのも、無理はない。
*
日本人がタイの女性と結婚してチェンマイなどの都会に住む場合、土地や家、あるいはコンドミニアム(日本でいうマンション)を購入する、あるいは賃貸するという手順が必要になるのだろうが、幸いオムコイの村には亡父から受け継いだラーの土地があり、粗末ながらも雨露をしのげる家があった。
私はむしろ、この粗末な家での昔ながらの暮らしが気に入ってすぐに順応したのであるけれども、ラーの方は、隣家のモーピー(霊医・霊媒師)から「亡夫のピーが憑いて災いをもたらす」と宣告されたこの古い家を取り壊し、気分を一新したいという思いが強かったようだ。
そこで、住み始めた直後から建替用の材木を少しずつ買い溜めてきたのであるが、タイでは森林保護のために伐採禁止令が打ち出されており、なかなか思うように事が進まない。
森林警備隊の摘発を免れるためには、いちいち村長に届け出をしなければならず、許可が出てもそれなりの袖の下が必要だ。
それに、伐採禁止以前は驚くほどの安価で良材を豊富に使えたのだが、最近では値上がりする一方である。
そんなこんなで、ついつい面倒になり、中途半端な数の材木を床下に眠らせたまま今日まできたのであるが、肝心の柱の惨状を目の当たりにした以上、このまま放置することもできないようである。
バンコク国際空港閉鎖事件以降打ち続くタイ経済不況の中(関係あるのかね)、わが家の経済状況も厳しさを増すばかりだ。
現金収入が得難いこの山奥で、さて、建替費用をどう捻出するか。
頭の痛い昨今である。
☆応援クリックを、よろしく。