ラーは、昨夜も家に泊まった。
昨日が父の命日だったので、3日間は家に泊まり込んで、バンタブルッ(先祖供養)のお祈りを捧げるのだという。
ちなみに、彼女の父親はマラリアにやられ、庭のマンゴーの木の下で絶命した。
そこで、お祈りはその木に向けて行われる。
*
さて、今日は絶好の茸狩り日和である。
明け方まで雨が降って、空は薄曇り。
風は生温く、こんな朝は茸が一斉に生え出す。
そこで、村の衆は早朝から競うように山に入っていった。
ところが、いつもなら真っ先に飛び出して行くはずのラーは、遅めに店に戻ってきて、のんびりと茸料理を始めるではないか。
「なんだ、行かないのか?」
「うん、とにかく朝ご飯を食べなくちゃ」
*
珍しいこともあるもんだと思いつつ、ザルの茸を点検していると、見たことのない黄色い茸が混じっている。
「これ、大丈夫かな?」
「うーん、あたしも初めて見るんだけど、友だちはおいしいって言ってた。でも、ちょっと心配だね。よし、あとでマンジョーに確かめてみよう」
従兄のマンジョーは、茸に詳しい。
しかし、彼は煙草は吸わずに「食べる」人だし、村人が敬遠するような苦い葉っぱもつまみにするから、われわれとは胃腸と抵抗力の強度が違う。
「とにかく、これは食べないでおこう」
味付けはラーに任せて机に向かっていると、ラーが調理用のスプーンに炊いた米を少し載せて手招きした。
「クンター、いいことを思い出したよ。以前、年寄りに聞いたんだけど、茸を料理したらそのスープにご飯を浸してみて、赤くなったら毒があるんだって」
そう言いながら、スープに米を浸した。
「あ、大丈夫。赤くならないから、食べられるよ」
「ということは、さっきのよけた茸も鍋に入れたのか?」
「うん、マンジョーに聞きに行くのは面倒だから」
「・・・」
*
古老たちの間に伝わる言い伝えは、長年の蓄積にもとづいているから傾聴に値しよう。
しかし、何度も言うが、やはり村の衆とは胃腸と抵抗力の強度が違う。
それに、茸に含まれた毒素が、すべて炊いた米を赤く染めるものかどうか。
おそるおそるスープを口に含んでいると、折りよくひとりの老婆が通りかかった。
「ああ、それは“蜜キノコ”といって、卵のような甘い味がするんだよ。心配せずに食べなさい」
ふーん、蜜キノコか。
なかなか、洒落た名前だ。
口に含むと、確かにとろんと口の中に甘みが広がっていく。
*
後片付けを終えると、ラーが何か言いたげな顔ですり寄ってきた。
「なんだ、やっぱり茸狩りに行きたいんだろう」
「ううん、ちょっと背中を揉んでくれる?」
ははーん、そういうことか。
昨日の午前中は、茸狩り。
午後は、魚捕り。
夢中になると加減ができないから、いつもこういうことになる。
「駄目だ。お前さんの茸狩りと魚捕りは遊びも兼ねているんだから、マッサージはしないって約束だろ?」
「だって、昨日の晩ご飯は川魚料理、今朝は茸料理で、おかず代は1バーツもかかっていないんだよ。これは、立派な仕事です」
うーん。まあ、仕方がないか。
*この見分け方は、あくまでカレン族の言い伝えです。危険ですから、真似はしないでくださいね。実は、さっきから、ちと腹具合がおかしい・・・。
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