【タイ山岳民族の村に暮らす】

チェンマイ南西200キロ。オムコイの地でカレン族の嫁と綴る“泣き笑い異文化体験記”

【お蛇様のご利益】

2011年01月19日 | オムコイ便り
 
 水曜市で買い物を済ませクルマに乗り込もうとしたら、すぐ脇で大音量の音楽が沸き起こり、これまた大音量のマイクで男ががなり立て始めた。

「クンター、蛇のショーが始まるんだって!」

 蛇なんぞ珍しくもないだろうに、ラーは目をぎらぎらさせて私の手を引っ張る。

 仕方なく付き合うと、クルマの向こう側に張ったテントの下に錠をかけたいくつかの木箱が置かれている。

 男の口上には、「オムコイの山奥で捕れたアナコンダだ」だの「チェンマイでは絶対に見られない珍種だ」といった気をそそるセリフが混じっており、まわりにはすぐに人垣ができた。

      *

「あの人が蛇つかいらしいよ」

 ラーの指差した若い男が、まずは「アナコンダ」の箱を開けて、茶褐色の胴体をひきずり出した。



 で、でかい。

 ゴザの上に置かれると鎌首をもたげていきなり襲いかかり、若い男がのけぞって逃げながら尻餅をついた。



 おいおい、大丈夫かあ。

 その「アナコンダ」の勢いの良さに、人垣がどっと揺れる。

 次に引っ張り出されたのは、黒い胴体に黄色い横縞が入っている細めの蛇だ。

 こいつ、病院の救急処置室に貼られた「毒蛇ポスター」ではキングコブラに続くランキング2位の猛毒持ちで、私自身も入院病棟の脇の草むらで、その実物を見かけたことがある。

 だが、「アナコンダ」とは違って、まったく元気がない。

 続いて、ツチノコのようなずんぐりした体形の巨大な奴が2匹引っぱりだれたが、こちらも元気がなく、丸太のようにだらんと転がったままだ。



 ここで、観客のテンションががくんと下がった。

「さあ、いよいよコブラの登場だ!」

 男が場を盛り上げるように、さらに大声を張り上げる。

 引っぱり出されたのは、確かにコブラだが、これもなんだかおとなしい。

 若い男が猫じゃらしのようなもので挑発すると、やっと広げた鎌首を持ち上げたが、それっきり、またへたってしまった。




      *

 マイクの男が立ち上がって胸をそらし、大きく引き延ばした写真を観客に示す。

 どでかい双頭のニシキヘビである。

「さて、いよいよ真打ちの登場だ!この蛇、そんじょそこらの蛇とは違う。なんと、頭がふたつもある霊験あらたかなお蛇様だ。そのご利益は、ほれ、この高僧も認めた折り紙付きだよ」

 そこで、どこぞの寺の老僧らしき写真を引っ張り出す。

 僧と男とのツーショットもある。

 信心深い山の民たちが、「おおっ」というどよめきを発した。

「山奥でこのお蛇様を見つけてから、おいらの運は開けっぱなしだ。毒蛇に咬まれても、死なない。ひどい病気も、すぐに治る。宝くじにも、何度も当たった」

 ここで、宝くじ当たり番号の拡大コピーを示すのだから、芸が細かい。

「だから、300万バーツで買いたいという金持ちが現れても、絶対手放さずに、こうして善良な皆の衆とご利益を分かち合っているという次第だあ」

 すかさず、若い男が太い紐で大きな輪っかを作り、その双頭の蛇が入っているらしい木箱の中でもぞもぞと蛇を縛るような仕草を見せた。

 いよいよ、真打ちの登場か?

 しかし、それからが長い。

 マイクの男がインド風の音楽に乗って大仰に線香に火を付け、木箱の前でお祈りをしたり、その線香を地面の上に意味ありげな形に置いたり、聖水のようなものを木箱に振りまいたり。



 そして、おもむろに取り出した仏像の首飾りを女の助手に渡すと、その助手がそれを持って観客に「指で触って額に当てろ」という仕草をする。

「ラー、こりゃ新手の仏像売りだ。帰るぞ」

「でも、とてもありがたい仏像みたいだから、ご利益をいただいた方がいいよ。それに、二本首の蛇も見たいし」

「・・・」

       *

 長口上に飽いた観客が、ひとり、ふたりとその場を離れていこうとする。

 すかさず若い男が双頭の蛇の首に巻いたらしい紐を手にして、今にも引っ張り出しそうな素振りを見せる。

 そのたびに客足は戻るのだが、マイク男の口上は延々と続くばかり。

 人が去りそうになる。

 若い男が、今にも蓋を開けそうな素振りをする。

 その繰り返しだ。

 ついには、立ちっぱなしの腰が痛くなってきた。

「ラー、帰るぞ。こりゃ、ある程度売れるまで絶対に蓋は開けないよ。しまいには、『仏様のお告げがあって、今日はお蛇さまのご機嫌が悪い』で店じまいするかもしれん」

 未練顔を無理矢理引っ張ってクルマに乗り込むと、案の定、女の助手がさっきとは違う商品らしきものを手にして、観客に売りつけ始めた。

 やれやれ。

 「ショー」の開始から、すでに1時間。

 お蛇様のご利益にあずかるのも、楽じゃない。

 それにしても、双頭の蛇、本当にあの木箱の中にいたのだろうか。

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5 コメント

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Unknown (なかちゃん)
2011-01-19 16:10:15
クンター様

えぇぇぇぇぇ!?
見てないんすかぁ!?

あぁ...また眠れない日々が続く...
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双頭ヘビ? (親戚はタイ人)
2011-01-19 22:46:21
日本でも 双頭のヘビが 新聞に載ったことがありました どこかが ホルマリンに漬けて保存しているはずですが 記憶定かではありません
ここ 2、3年の話です。
返信する
珍商売 (クンター)
2011-01-20 12:25:55
なかちゃん

 私も、最後にどんなオチがついたのか、気になって眠れませんでした。妙なオチを見ていたら、さらに眠れなかったかもしれません。
   
 *

親戚はタイ人さん

 それは、惜しいことをしました。オムコイに持ち込んでいたら、私も珍商売ができたかもしれませんねえ。

返信する
双頭ヘビ?No2 (親戚はタイ人)
2011-01-20 21:21:35
双頭のヘビで検索してみました 下は 写真集で
結構のってました

http://karapaia.livedoor.biz/archives/51687778.html

Karapaiaで 検索できます

ヘビは 双頭の出現率が割りと高く 生存率も高いそうです。 もしかしたら本物だった可能性もありますね 
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相当なもんですねえ。 (クンター)
2011-01-21 17:55:26
親戚はタイ人さん

 うーん、それまた、惜しいことをしました(笑)。私も双頭の蛇の存在は知っていましたが、あのじらし方がどうも気に喰いませんで。なにせ、「ろくろ蛇」や「蛇女」にさんざん騙された世代なものですから。それにしてもいただいたURL、よくもあれだけの写真を集めたものですね。
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