【タイ山岳民族の村に暮らす】

チェンマイ南西200キロ。オムコイの地でカレン族の嫁と綴る“泣き笑い異文化体験記”

【3男ポーの大反撃】

2011年01月18日 | オムコイ便り

 15歳の次男は豚の餌やり、12歳の3男は食器洗い。

 ふたりとも、家の外で晩飯前の手伝いをしているはずだった。

 ところが、なにやら甲高い言い争うような声が聞こえ、それに泣き声も混じり出した。

 ラーが囲炉裏端の薪ざっぽを手に飛び出して行く。

 ふだん子供の喧嘩には構わないのだが、放っておけばこの母親、何をしでかすか分からない。

 私も庭に飛び出すと、次男が3男を追いかけ、その次男を薪を手にしたラーが追いかけるという構図になっている。

「こらあ!何やってんだ!」

 日本語で怒鳴ると、3人の動きがぴたっと止まった。

      *

「お前は図体が大きいくせに、なんで体の小さいポーを泣かせてばかりいるんだ?」

 次男のイエッをつかまえて叱ると、どうも様子がおかしい。

 いじめたはずの彼が手首を抑えて、泣きじゃくっているのである。

 振り返ったポーも、泣き顔である。

 次男の手首を見ると、骨の突き出た部分に傷があり、ぷっくりと腫れ上がっている。

「ラー、お前さんが薪で叩いたのか?」

「違うよ、あたしはただ追いかけただけだよ」

 ん?

 いったい、どうなってるんだ?

     *

 3人を落ち着かせて話を聞くと、ふざけているうちに言い合いになり、まずは次男が3男にゲンコツをかませ、足に蹴りを入れた。

 次男が怒ったのは、言い合いで劣勢になった3男が「お前の彼女はサンモンペイ!」と叫んだかららしい。

 「サンモンペイ」というのは近所の老婆の名前で、泣かされ役のポーが放つ最後の切り札である。

 これを言われると、思春期に入った次男はとても傷つくらしい。

 そこで思わず、手と足が出てしまった。

 ところが、いつもはここで勝負が決するのだが、今日はポーが思わぬ反撃に出た。

 勝負はついたと見て豚の餌を水でこね出した次男の手に、そこいらにあった石を拾って叩き付けたのだという。

 しかも、2撃。

 そこで、まだ泣きじゃくっている次男の左手を調べ直すと、人差し指の爪が半分ほど紫色になっている。

 あちゃーっ、こりゃ痛いわなあ。

     *

 とりあえず、バンドエイドと消炎鎮痛剤を貼って応急処置をした。

 幸い、指先は普通に曲げられるから、骨に異常はないのだろう。

 そこで晩飯の支度を再開すると、ふたりが適当な距離をとりながら、また言い合いを始めた。

「こら、これ以上騒いだら、ふたりともゲンコツをかますぞ!」

 喧嘩両成敗が一番手っとり早いが、ふたりとも、もう充分痛い目にあっている。

「よし、ふたりともこっちに来い。怪我するような喧嘩をして、いったい誰が得するんだ?お前たちふたりもメー(母ちゃん)もみんな泣いてるじゃないか。みんなニコニコしてご飯を食べた方が、よっぽど楽しいだろう?違うか?」

「・・・」

「イエッ、もう何度も言うけど、お前とポーの体を較べてみろ。喧嘩したら、お前が勝つに決まってるんだ。勝つと分かってる相手を泣かして、何が面白い?『お前の彼女はサンモンペイ』と言われるのが悔しかったら、もっと可愛い彼女を家に連れてこい」

 あれ、俺、何を言ってんだ?

「ともかくなあ、お前がポーを構いすぎるからいつも喧嘩になるんだろ。弟なんか構う暇があったら、かわいい女の子を構えよ。つまりだなあ、ほれ、もう15歳なんだから、もっと大人になれっていうことなんだよ。お前、俺のシェイバーをこっそり使って、髭だって剃ってるじゃないか。ちゃんと、知ってんだぞ」

 どうも、話がピリッとしない。

「それから、ポー。図体のでかい兄ちゃんに叩かれて悔しいのは分かるけど、石は使っちゃいかんなあ、石は。見てみろ、兄ちゃんは左利きだから、これじゃあ鉛筆も握れないぞ。目にでも当たったら、大変なことになるんだから。とにかく、きっかけがどうあれ、今日はどっちも悪い。だから、お互いにごめんなさいを言って、おあいこにしよう。分かったな?」

 3男は素直にうなずいて謝ったが、次男は渋々という感じだ。

 怪我の痛みもそうだが、泣き虫の弟に思わぬ反撃を喰らって自分が泣いてしまったことに、兄の威厳も誇りも粉々に砕けたという風情である。

     *

 “おあいこ”とは言ったものの、今日の勝負はポーの圧倒的な勝利に終わったようだ。

 手打ちのあとは涙を潔く拭って、鼻歌を歌いながら香辛料搗きを手伝い、飯ももりもり食べる。

 片やイエッは、いくら言っても飯を食べようとせず、いつもは見向きもしない教科書をわざとらしく開いて勉強する振りなどしている。

 鼻水を啜り啜り、砕けたプライドを懸命に取り戻そうとでもいうように。

 そんな次男の姿を、飯をかきこみながらも3男はチラッチラッと振り向いて気にかけている様子だ。

 兄貴としては、いたたまれない気持ちだろうなあ。

 そこへ、さっきの一部始終を傍でみていた親戚の子が、「イエッ、ウチでご飯を食べなよ」と勝手口からこっそり誘いに来た。

 お、いいタイミング、さすが村社会である。

 次男が、嬉しそうな顔で飛び出していった。

 これで、ちっとは気が紛れるだろう。

 晩飯を終えると、なぜか3男は突如として、今までやったこともない飲み水容器の清掃を始めた。

 子供という生き物、厄介ながら、なかなか面白い。

*写真は、今朝開花した蘭の花。10℃以下まで冷え込んだというのに、オムコイにも「春」がやって来つつあるのだろうか。

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2 コメント

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誤解されたら泣きますよ。 (ジェ)
2011-01-21 00:10:15
次男が泣いた事は自分自身今度はそんなに悪い事してなかったのに父さんから悪い子にされてるからだと思いますが。。。
俺もこんな事がよくあったので今まで両親に憾みが残っています。
"今度は俺じゃないのに、なんで分かってくれないの??"て。。。
ちょっと慰めてあげたら良い子になるはずです。俺のことを考えて見ると。
ポーは自分が悪かったってこと良く知ってますね。。言わなくても掃除か。。ははは。
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なるほど。 (クンター)
2011-01-21 17:59:50
ジェさん

 うーん、少年のころの悔しい思いが今も残っていますか。まあ、先に手を出した方をまずは叱らねばなりませんが、なにせ日本語と英語とタイ語がチャンポンなので、混乱するかもしれませんね(笑)。おっしゃる通り、ポーの方がずっと“おとな”なのは、どういうわけでしょうねえ。
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