幸由子(さよこ)さんは、東京の人。
デザインの仕事をしているそうだ。
初めてタイにやってきたのは、16歳のとき。
それからたびたび訪れているものの、北タイまで足を伸ばしたのは10数年ぶりのことだそうである。
今回はバンコクからアユタヤに回り、夜行バスでチェンマイへ。
一泊後、朝のバスでオムコイに向かった。
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2週間の旅とはいえ、驚くほど荷物が身軽な格好だ。
小振りのバッグに紙袋がひとつ。
その紙袋から飛び出してきたのは、「獺祭(だっさい)」という純米大吟醸酒とツマミ各種である。
人気の高い酒で、なかなか手に入らないのだという。
このずっしりと重たく貴重なお土産を、わざわざアユタヤ経由で運んできてくれたのかと思うと、思わず番頭さんの目に涙が滲む(単なる飲んべえの嬉し涙という節もあり)。
訊けば、当ブログはもとより拙著『「遺された者こそ喰らえ」とトォン師は言った』(晶文社)も読んでくれたそうで、お土産は酒にしようか焼酎にしようかと悩んだというのだから、ますます涙腺がゆるむ番頭さんであった。
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晩飯は、野菜たっぷりのキノコスープ。
このところ雨がほとんど降らず、わが村ではまだキノコが採れない。
やむなく市場で仕入れたものなのだが、 幸由子さんが到着した直後に他村まで遠征した友人がキノコの売り込みにきたために、急遽こちらの蒸し料理も加えてキノコ2種がカントーク(タイ式卓袱台)に並ぶことになった。
幸いなことに、 幸由子さん、キノコが大好きなのだそうである。
彼女のリクエストで、村の薬草入り焼酎も準備してある。
彼女は焼酎、番頭さんはお土産の大吟醸で乾杯。
幸い(?)なことに、女将のラーは禁酒中である。
ぐい呑みを、文字通り「グイ!」とあおった幸由子さん。
「あ、おいしい!」
立て続けに、2杯、3杯。
お土産から想像していた通り、かなりの飲んべえらしい。
そうでない(本当です)番頭さんは、ちびりちびり。
大吟醸らしい薫りとふくらみだが、最後に芯のような強い旨味が舌を包む。
とか言いながら、残念なことに番頭さん、いまだに嗅覚が万全ではないのであった。
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ご飯を食べたあとも、 幸由子さん、ゆっくりと焼酎を飲み続けている。
ついには、2本目に突入。
小瓶とはいえ、かなり強い焼酎である。
薄雲の間にのぞく星や庭に舞う蛍を眺めつつ、旅や仕事や村の暮らしの話など。
気がつくと、とうとう2本目も空になった。
「ちょっと酔っ払ったような気がします。でも、とっても気持ちのいい酔い方です。チェンマイとは違って、この涼しい風がいいですねえ」
もしも女将が禁酒中でなかったら、とんでもないことになったかもしれない。
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