起き抜けにコーヒーを飲んでいると、甥っ子のジョーが「病院に行きたい」と言い出した。
昨日から軽い頭痛を訴えていたのだが、今朝になって首筋のあたりが激しく痛みだし、吐き気もしてきたという。
前にも書いたが、彼は滅多なことでは病院に行こうとはしない。
それが、初めて自分から病院行きを口にしたのだから、驚いた。
体温を測ると、平熱である。
しかし、手を額に当てるとかなり熱っぽく、顔も赤い。
頭に浮かぶのは、マラリア、デング熱、そしてカイワッヤイ(新型インフルエンザ)。
すぐに病院に連れて行こうとしたが、朝方は待合室が大混雑で、結局は昼過ぎまで待たされてしまうことが多い。
「午前中は横になっていた方がましだ」という彼の意見を入れて、1時半頃病院に向かった。
*
期待に反して、待合室は相変わらず満杯だ。
体重・身長測定のあとに、血圧と体温を測り、あとはひたすら順番を待つ。
3時になると、たまりかねたジョーが「もう帰ろう」と言い出した。
さっきも平熱だったのだが、やはり額に手を当てると熱っぽい。
「待て待て、ちょっと聞いてくるから」
こうした場合、カレン族の人々は問い合わせることをせず、ひたすら待つ。
診療カードを見せると、係の女性が一瞬「あれっ?」というような顔をしたあとで、「今日は混んでるから、もう少し待ってくださいねえ」と取り繕うようににっこり微笑んだ。
なんだか、ちょっと順番を間違えていた感じ。
結局、それから30分待たされて診察室に呼ばれた。
*
初めて顔を合わせる新任の医師が、問診、胸診、首筋の触診、喉のチェックなどを手早く済ませていく。
そして、診察台に横たわらせて、前後左右への首の動きや腕、膝、足首などの筋力を試した。
ジョーが「何だ、なんだ?」という焦った顔になり、途中からは笑いをこらえながら、その指示に従っている。
「頸椎には問題ないようだし、マラリアにも罹っていないようです。マラリアに罹っていると、筋力が落ちますからねえ。熱や喉の腫れもないから、デング熱やインフルエンザの心配もないでしょう。たぶん、心身のストレスが首にきて、首筋や頭の痛みを発症しているのだと思います。薬を出すので、できるだけリラックスするように心がけてください」
やれやれ。
とりあえず、ひと安心だ。
ジョーは、日本人の私よりも生真面目だし、何かあってもなかなか感情を表に出そうとしない。
牛が病気になれば、自分も眠れなくなるくらいなのだから、ついついストレスがたまってしまったのだろう。
日頃の自分の能天気さを、少しばかり反省した。
*
「クンター、パラーですよ、パラー。2時間も待って、パラーなんてナッケー(困ったもんだ)」
診断にホッとしたのか、ジョーが笑いながら薬を見せた。
パラーセンタモールは、近所の雑貨屋でも手に入る頭痛・解熱剤である。
その他に、消炎鎮痛剤、ビタミン剤、そしてなぜか胃腸薬。
「まあ、しっかり休んで、しっかり食べろということなんだろうなあ」
*
家に帰ると、心配顔のラーと隣家のプーノイが飛び出してきた。
「ストレス?さも、ありなん。クンター、若いもんにはあっちの方のストレスが体に一番悪い。早く嫁を見つけてやらんといかんなあ」
プーノイが、さっそく得意の下ネタで笑わせる。
ジョーも、嬉しそうに病院での筋力テストの様子を再現し始めた。
「だから、あんたは真面目すぎなんだよ。ほら、疲れたなあと思ったらこうして横になって、あたしみたいに昼寝をすればいいんだよ」
日頃、ジョーを顎でこき使ってストレスを溜めさせている張本人が、きわめて安直なストレス解消法を伝授した。
「今日はお祝いのために鶏鍋を作ろうよ」
「何のお祝いだ?」
「ジョーがマラリアでもデング熱でもなかったお祝いだよ」
「ああ、そりゃあいいな」
「ジョー、じゃあ、すぐに安い鶏を探してきて。ウチの黒羽はもったいなくて、食べられないからね。さっきも、近所の鶏をケチョンケチョンにやっつけたんだよ。強いなあ、ウチの黒羽は」
「こらこら、ジョーはまだ病気なんだぞ」
「クンター、マイペンライ(大丈夫です)。もう、頭は痛くなくなったから」
止めるのも聞かずに、飛び出して行った。
パラーよりも何よりも、まわりの能天気さが一番の良薬であるらしい。
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昨日から軽い頭痛を訴えていたのだが、今朝になって首筋のあたりが激しく痛みだし、吐き気もしてきたという。
前にも書いたが、彼は滅多なことでは病院に行こうとはしない。
それが、初めて自分から病院行きを口にしたのだから、驚いた。
体温を測ると、平熱である。
しかし、手を額に当てるとかなり熱っぽく、顔も赤い。
頭に浮かぶのは、マラリア、デング熱、そしてカイワッヤイ(新型インフルエンザ)。
すぐに病院に連れて行こうとしたが、朝方は待合室が大混雑で、結局は昼過ぎまで待たされてしまうことが多い。
「午前中は横になっていた方がましだ」という彼の意見を入れて、1時半頃病院に向かった。
*
期待に反して、待合室は相変わらず満杯だ。
体重・身長測定のあとに、血圧と体温を測り、あとはひたすら順番を待つ。
3時になると、たまりかねたジョーが「もう帰ろう」と言い出した。
さっきも平熱だったのだが、やはり額に手を当てると熱っぽい。
「待て待て、ちょっと聞いてくるから」
こうした場合、カレン族の人々は問い合わせることをせず、ひたすら待つ。
診療カードを見せると、係の女性が一瞬「あれっ?」というような顔をしたあとで、「今日は混んでるから、もう少し待ってくださいねえ」と取り繕うようににっこり微笑んだ。
なんだか、ちょっと順番を間違えていた感じ。
結局、それから30分待たされて診察室に呼ばれた。
*
初めて顔を合わせる新任の医師が、問診、胸診、首筋の触診、喉のチェックなどを手早く済ませていく。
そして、診察台に横たわらせて、前後左右への首の動きや腕、膝、足首などの筋力を試した。
ジョーが「何だ、なんだ?」という焦った顔になり、途中からは笑いをこらえながら、その指示に従っている。
「頸椎には問題ないようだし、マラリアにも罹っていないようです。マラリアに罹っていると、筋力が落ちますからねえ。熱や喉の腫れもないから、デング熱やインフルエンザの心配もないでしょう。たぶん、心身のストレスが首にきて、首筋や頭の痛みを発症しているのだと思います。薬を出すので、できるだけリラックスするように心がけてください」
やれやれ。
とりあえず、ひと安心だ。
ジョーは、日本人の私よりも生真面目だし、何かあってもなかなか感情を表に出そうとしない。
牛が病気になれば、自分も眠れなくなるくらいなのだから、ついついストレスがたまってしまったのだろう。
日頃の自分の能天気さを、少しばかり反省した。
*
「クンター、パラーですよ、パラー。2時間も待って、パラーなんてナッケー(困ったもんだ)」
診断にホッとしたのか、ジョーが笑いながら薬を見せた。
パラーセンタモールは、近所の雑貨屋でも手に入る頭痛・解熱剤である。
その他に、消炎鎮痛剤、ビタミン剤、そしてなぜか胃腸薬。
「まあ、しっかり休んで、しっかり食べろということなんだろうなあ」
*
家に帰ると、心配顔のラーと隣家のプーノイが飛び出してきた。
「ストレス?さも、ありなん。クンター、若いもんにはあっちの方のストレスが体に一番悪い。早く嫁を見つけてやらんといかんなあ」
プーノイが、さっそく得意の下ネタで笑わせる。
ジョーも、嬉しそうに病院での筋力テストの様子を再現し始めた。
「だから、あんたは真面目すぎなんだよ。ほら、疲れたなあと思ったらこうして横になって、あたしみたいに昼寝をすればいいんだよ」
日頃、ジョーを顎でこき使ってストレスを溜めさせている張本人が、きわめて安直なストレス解消法を伝授した。
「今日はお祝いのために鶏鍋を作ろうよ」
「何のお祝いだ?」
「ジョーがマラリアでもデング熱でもなかったお祝いだよ」
「ああ、そりゃあいいな」
「ジョー、じゃあ、すぐに安い鶏を探してきて。ウチの黒羽はもったいなくて、食べられないからね。さっきも、近所の鶏をケチョンケチョンにやっつけたんだよ。強いなあ、ウチの黒羽は」
「こらこら、ジョーはまだ病気なんだぞ」
「クンター、マイペンライ(大丈夫です)。もう、頭は痛くなくなったから」
止めるのも聞かずに、飛び出して行った。
パラーよりも何よりも、まわりの能天気さが一番の良薬であるらしい。
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何か皆さん病気づいていますねぇ.
病は気からといいますし,ここは盛大な(お祓い兼)宴会が有効なのでしょうね(^o^).
ちなみに,東京は暑くて脳が溶けそうな天気です.病気になりそう.
連日の宴会も、なかなか「厄払い」にはならないようです。
ところで、オムコイの朝方は20℃を切るようになりました。
毎朝、火を熾してコーヒーを飲んだり、調理をしています。
夕方の水浴びをすると、冷たくて「ヒヘーッ」という情けない声が出ます。
今日お昼の気温は、25℃。
暑い日本が、懐かしいなあ。