バンマスの独り言 (igakun-bass)

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ブラームスの「バラード」をグールドで

2013年03月21日 | 音楽:クラシック系
先週末の夜、一ヶ月ぶりにバンドの練習がありました。

来月14日に行なわれるライブのためのものですが、メンバーの一人が単身赴任をしている関係で以前のように頻繁にスタジオに入れないのです。
それはそれとして、その時、メンバーの鍵盤姫(キーボード担当)から思いがけないプレゼントをもらったのでした。

グレン・グールド(Pf)のCD。それも渋~いブラームスのアルバムでした。

グールドというピアニストはその特異な演奏スタイルと解釈で一般的に人気が高く、かく言う僕もけっこうなファンなのですが、聴いているほとんどがバッハだったせいもあって意外にも彼のブラームスは聴こうとも思わないで今まできたのです。
グールドのバッハを昔から僕が聴いていることを知った彼女はほとんど唐突にブラームスを紹介してくれたわけです。

あの夜、スタジオから帰宅し、風呂に入った後、寝る前にちょっとウイスキーなど飲んで(至福の時間です)何気なくプレゼントされたCDをかけてみたのでした。

ブラームス作曲「4つのバラード 作品10」から第1曲 二短調 俗に「エドワード」とも呼ばれる7分弱のピアノの小品、が薄暗闇の部屋の中に流れだしました。

最初のわずか3小節程度で僕はウイスキーグラスをCDプレーヤーの脇に思わず置き、衝撃とともに聴き入ったのです。

ブラームスがまだ二十歳前後に作った10番目の作品。若い情熱と感傷が入り混ざった作品で僕は自分のコレクションの中にミケランジェリとルービンシュタインのCDをすでに持っていました。
ところがプレゼントされたグールド盤を聴いて僕は頭をハンマーで殴られたような強烈な違和感と新鮮さ、そして地獄のような恐ろしい風景を感じたのでした。

作品10-1は確かに暗めの音楽なのかもしれません。がしかし、ルービンシュタインもミケランジェリもピアノの音が明るいしタッチも明快。希望に満ちた音の風を彼らの演奏から感じていたものですから、それとは対極にあるようなグールドの演奏には、例えて言うなら、どんよりと雨雲が垂れこめる枯れススキが冷たい風になびいている殺伐としたひと気のない草原に独りたたずむって感じでしょうか。

作品番号がこんなに若いのにも関わらず、この枯れ切った渋さと絶望的な音楽の様子はまさしくグールドだけの世界です。(いくらブラームスでもここまで枯れてはいないでしょう)
非常にヤバイ感じで、演奏者によってこれほど音楽の表情が変わるのか!あらためて驚き、一方で同曲異演のクラシック音楽の面白い部分をしっかりと感じ取ったわけです。

グールドの演奏には拍節感があまり感じられず(4拍子でも1,2,3,4と数えにくい)ひたすら音符の持つ意味を探り続け、左手・右手の強弱を微妙に変化させて独特なディテールを描きます。
中間部のAllegroでは(他の演奏者によれば)輝かしいはずの3連符の最初の音が重く、左手の副旋律が強く弾かれ、8分3連と8分音符がぶつかり合う様が強調されています。

後半は次第に鎮静化していきますが、テーマが弾かれるとそこにはもはや力なくたたずむ主人公が孤独の暗闇の中に立ちつくす、というこれ以上無い絶望的な終わりとなります。


他の演奏者によるこの曲に対する僕のイメージがこの夜、静かに崩れ去ってしまいました。
正直、ここまで壊されると、新たな世界を垣間見られたようで爽快な気分にさえなりました。

このグールドの演奏を若き日のブラームスが聴いたらどんな感想を述べるでしょうか?
涙を流すか、烈火のごとく怒るか・・・同一の楽譜から多彩な演奏が生まれる、再現芸術とはなんと面白いものなのでしょうか!

鍵盤姫、新しい世界をのぞかせてくれて・・・感謝してます。

グールド盤の数々

これがグールドの演奏!



参考までに(ミケランジェリの演奏)


(グールドの演奏YOUTUBEを追加しました 2013.3.31.)


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4 コメント

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ヨカッタです! (鍵盤姫)
2013-03-22 15:31:25
バンドでのROCKももちろん楽しいけど
バンド仲間とクラシックの話をすると
なかなか勉強になります。

また、igakunに喜んでいただけるよう
「音源」探しま~す
うひひ。
グールド (山田のや)
2013-03-31 12:48:29
ひさびさにこんにちは。
グールド。
リトルバッハブックがお気に入りです。まだまだ聴いてないものも沢山なので
ブラームス、気になりました!
また探して聴いてみます。
また驚かせてください (バンマス@発行人)
2013-03-31 14:51:33
>鍵盤姫 さま

返事が遅くなりました。
すでに個人的に連絡を取っていたので、気を抜いてしまったのです。

ハードロックをやっている時の爽快さは確かに人生の喜びですが、他方、音楽には色々な世界があって一度それを知ってしまうとジャンルにこだわれなくなっていきます。

思いっきり暗~い音楽を聴きたくなったり、開けっぴろげなラテンを聴きたくなったり、不思議な気持ちになる純邦楽を聴きたくなったり・・・人生忙しいです。
再訪感謝です! (バンマス@発行人)
2013-03-31 15:11:02
>山田のや さま

またこうしてお話が出来ること、本当にうれしく思います。ありがとうございます!

前回のコメントの中でグールドをお聴きになっていることを知りましたが、今回取り上げたブラームスも僕の好みの演奏となりました。
そしてその新鮮な感動を書き残したくてこのブログで話題にしたのです。

のやさんがこのブラームスをペルトのように感動を持って聴いていただけるかは分かりませんが、取り上げたop10-1は恐ろしい寂しさを感じさせる音楽(演奏)でした。やりきれない絶望感が漂っていて、これがグールドの魔力なのでしょう。

これを聴いた後にペルトを聴くと救われるような気がします。面白いことです。

今日、ブログの該当ページにグールドの演奏を追加しました。(YOUTUBEにあったので)
簡単に聴き比べができるかと思います。

近いうちにフィンチという作曲家の音楽を紹介します。またおいで下さい。

(バンドのライブが4/14にあり、今はロック・モードに入りつつあります)

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