バンマスの独り言 (igakun-bass)

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悲歌のシンフォニー

2010年11月16日 | 音楽:クラシック系
前回ちょっと書いたように今あまり気分が上々とは言えないのですが、二日前に報道でポーランドの作曲家ヘンリク・グレツキが76歳の生涯を終えたとの報に接し、彼の第3シンフォニーをこよなく愛する僕としてはこのタイミングを逃せないと思い、今日は書かせてもらいます。



ポーランド南部のチェルニツアに生まれ、50年代に前衛音楽の旗手として活躍していたグレツキはその後ナチス・ドイツの秘密警察収容所の壁に収容者が刻んだ言葉を盛り込んだ交響曲第3番「悲歌のシンフォニー」(1976)を作曲したのです。

それまでの難解な音世界から一転して平易で耳ざわりの良い音楽となったこの曲は20世紀後半を代表する交響曲と評価され90年代にベストセラーとなったクラシック作品なんです。


CD:ドーン・アップショウ(sp)デイビット・ジンマン(指揮)/ロンドン・シンフォニエッタ


だいぶ以前の話ではありますが、ある年にイギリスのFMラジオでこの曲がオンエアされるやいなや、カーラジオを聞いていたドライバーたちが一斉にこの曲の第2楽章に聴き入ったために道路が大渋滞したというエピソードを持つ、地味な存在にもかかわらず癒しブームの中で超有名曲の仲間入りをした悲しく美しい曲です。

作曲者ヘンリク・ミコワイ・グレツキ(1933~2010.11.12)は幼少の頃からポーランドのオシュウェンツィムからそう遠くない場所で育ちました。多くのポーランド人と同じように第二次世界大戦をはさみ戦前・戦中・戦後を抑圧と圧政、人種差別という苦しみを強いられた世代の人です。
そうオシュウェンツィムはかの悲惨な歴史を象徴するアウシュヴィッツのポーランド名なのですね。

グレツキ
 
この作曲家も現代の作家らしくセリー音楽で一躍有名になりましたが、後に作曲語法がシンプルに純化され、耳にも違和感のない和音やカノンを用いた作風で「暗闇からの解放」という理念にのっとりこの交響曲が生まれました。

3つの緩やかな楽章からなるソプラノとオーケストラのためのこの作品は、心に突き刺さるようなソプラノが切々と悲しみを綴った3つのテキストを歌い上げます。

第1楽章はポーランドの祈りの言葉を歌詞とし、歌の入る中間部をはさんで弦楽器が10声部のカノンでやまなりの盛り上がりを奏で、やがて沈静化していきます。

第2楽章は大戦末期に囚われた18歳の女性が独房の壁に書いた祈りの言葉を歌詞にしています。
天国への憧れ~暗く重い苦悩~神聖な世界へ と悲しみが歌われます。

 
第3楽章は戦争で失った息子の安らかな眠りを願う母親の神への祈りの言葉が永遠の安息を約束されたかのように歌われます。


この静謐(せいひつ)で穏やかな曲進行は全曲「レント」という非常に遅いテンポで進みます。ソプラノというと多くの人がオペラティックなかん高い声を想像しがちですが、ここではあくまで控えめに祈りの歌になっています。
秋が進んで人が物思いにふける時、クラシックファンでなくても、この清らかで力強い祈りと悲しみの音楽に感動し、涙腺が思わず緩むことがあると確信できる音楽です。

上述のFM放送でのエピソードは非常に象徴的な出来事でしたが、現代人が今まさに必要としている謙虚な心からの祈りと世界平和への地道な努力そして「癒し・癒される」ことがどれほど大切かをどうぞこの「悲歌のシンフォニー」からくみとって下さい。


  「本当に大切なことは単純な言葉で語られる」(ペルト)



たまには音楽で泣くのもいいかも・・・



これは僕が一番好きな第2楽章です。



第2楽章 訳

お母さま、どうか泣かないでください。
天のいと清らかな女王さま、
どうかいつも私を助けてくださるよう。
アヴェ・マリア

(ナチス・ドイツの秘密警察の本部があったザコパネの「パレス」で第3独房の第3壁に刻まれた祈り。その下にヘレナ・ヴァンダ・ブワジュシャクヴナの署名があり、18歳、1944年9月25日より投獄される、と書かれている)



ついでに第3楽章




第3楽章 訳

わたしの愛しい息子はどこへ行ってしまったの?
きっと蜂起のときに 悪い敵に殺されたのでしょう

人でなしども 後生だから教えて
どうしてわたしの 息子を殺したの

もう決してわたしは 息子に助けてもらうことはできない
たとえどんなに涙を流して この老いた目を泣きつぶしても

たとえわたしの苦い涙から もう一つのオドラ川ができたとしても
それでもわたしの息子は 生き返りはしない。

息子はどこかで墓に眠っている
でもわたしには、どこだかわからない
いたるところで 人に聞いてまわっても

かわいそうな息子は、どこかの穴の中で 横たわっているのかもしれない
暖炉のわきの自分の寝床で 寝ることもできたはずなのに

神の小鳥たち、どうか息子のために さえずってあげて
母親が息子を 見つけられないでいるのだから

神の花よ、あたり一面に 咲いてください
せめて息子が楽しく 眠れるように
              



最後に、このようなすばらしい音楽をこの世に出してくれたグレツキのご冥福を祈ります。

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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
どうしてる~~? (yoko)
2010-11-23 14:34:22
ねぇねぇ・・・ちょっと。。バンマス。。 
少し元気になった?まさみやから元気飛ばしま~~~~す!!えい!さぁ!どうだ!!
返信する
はいな、もらいましたよ~ (バンマス@発行人)
2010-11-23 16:37:24
>yoko さま

今はだいぶ元気になってますよ~。
人生色々あってねぇ、いつもはほとんど一年中陽気でいられるんだけど、たまには厳しいハードル超えもあるんだなぁ、これが。

また行くのでごちそうしてね!
返信する
はじめまして (バッカス)
2010-11-23 16:52:11
こんな時でも書かずにいられませんのタイトルに惹かれ俺もお初書き込みいたします。ネームで推測出来る通り酒好きの同年代のオヤジです。ひょんなことからこのブログを知り覗いたところ読みごたえ見ごたえ充実した内容と大変興味のあるものでした。参加させて戴けると嬉しいです。私 中野区で整体治療院をやっている関係上 人の身体は多少は解るつもりですが心の中までは解りませんがバンマスの言う通り黙っているより吐露した方が結果が良いようです。当院の患者さんでも私にありったけをぶちまけて肩や背中をスッキリさせてく方も何人もいます。そして私はどんな患者さんにも決まって言う言葉があります「がんばらないで!」ジャクソンブラウンやイーグルスもいってますよって  Take it easy! って
返信する
ありがとうございます (バンマス@発行人)
2010-11-23 17:52:02
>バッカス さま

中野区・整体・酒好き・・・とても「はじめまして!」とは言えないような気分です。

ま、それはともかく力強い援軍を得たようなうれしい気分でもあります。

今後ともよろしくお願いします。
返信する
また、パソコンがぁ・・ (くまじー)
2010-11-25 13:35:47
またまた、パソコン壊れたー

2年しか経っていないのにぃ。

「ハードディスク・エラー」でセーフモードでもスタートしない!

バックアップCDでも不動。 秋になると壊れる。 寒さに弱いのかなあ?
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うえ~、大変だ! (バンマス@発行人)
2010-11-25 15:22:52
>くまじー さま

HDDが完全に壊れた感じですよね。
いくら消耗品だと言われても2年で壊れるのは気の毒。
一度、全部のケーブルを抜き、再度、モニターとキーボードとACケーブルだけを差し直してF8連打で立ち上げてみては?
もし幸運にも起動したら、大事なデータをCDRやDVDにコピーして、メーカー修理かな?
HDDを勝手に交換するとメーカーサポートが以後受けられないから気を付けないとだめです。

これは携帯電話からの投稿ですか?
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