goo blog サービス終了のお知らせ 

IDE Lab.

北海道大学大学院教育学研究科井出研究室(福祉臨床心理)のブログです。

学校臨床における性の多様性シンポジウム

2016-06-27 23:04:27 | 性的多様性
日曜日、今年度の静岡県臨床心理士会の総会・大会の企画の1つとして『学校臨床における性の多様性』と題した市民公開シンポジウムを開催しました。



会員、一般の方あわせて120名ほどに参加して頂きました。一般向けの広報はほとんどしなかったにも関わらず多くの方に来ていただき、このテーマへの関心の高さが伺えました。

話題提供者には4人の方をお迎えしました。
トップバッターはLGBTしずおか研究会の細川さんでした。聞く人がステレオタイプで性の多様性を捉えないように、専門的な言葉、ラベリングをするような言葉を使わないように気を付けながら性の多様さをお話ししていただきました。

2人目は静岡大学教職センターの松尾先生。学習指導要領の中で性がどう示されているのかということをご紹介いただきました。つまり、学校で性がどう教えられているか、ということですね。これは臨床心理士にとってとても目から鱗なお話だったと思います。どうしても多様な性を生徒指導、教育相談のテーマとして捉えがちな私たちにとって学習指導要領を頭に入れた支援をするというのは大切なことです。

3人目は定時制高校の先生である前田先生。私が性の多様性に取り組むきっかけをくださったお一人でもあります。性だけではなく、多様な生徒さんが通う定時制高校での実践に基づいて教師から見た性の多様さをお話ししていただきました。

そして4人目は当事者の学生さん。人前で話してくれるのは初めてだったにも関わらず、素晴らしい話と話す態度。ゆったりと、そしてしっかりと一言一言、自分のことを話してくれました。かっこよかった。

最後は指定頭論者の柘植道子先生。この企画を考えたときに、まずこの方に来ていただけなければ成り立たないと考えた方です。快く引き受けていただき本当にありがたかったです。お話しいただく時間が足りず、もっと聞きたかったという感想をかたくさん頂きました。柘植先生、参加者の皆さま、すみませんでした。
また今度は柘植先生のお話をしっかりゆっくり伺う機会を作れればと思います。“臨床 “という視点からの多様な性についてのお話はさすが柘植先生です。迫力があります。

そしてたくさんお誉めの言葉を頂きました。私の企画力(笑)
確かにこのテーマを考えたときにすっと会の流れと呼ぶ人が頭に浮かびました。うまくいかないイメージは湧きませんでした。臨床心理士向けの研修内容としてはバランスのとれた企画だったとも思います。
が、これは私の企画力によるものではありません。やっぱり、お話頂いた方のお力によるものです。
もし私に力があるとすれば、それはこうした素敵な方たちと出会い、こうしてお願いすると快く引き受けていただき頂けるという力だと思います。

シンポジウムを終えて舞台の上でみんなで撮った写真が素晴らしい。ここでお見せできないのが残念ですが、まるで家族のような写真でした。それぞれ緊張しながらお話しされたということもあったと思いますが、ほっと息が抜けて清々しい表情でした。

柘植先生がシンポジウムのなかで繰り返しおっしゃっていた「当事者」の語りの力は本当に凄かった。私たち臨床家は性の多様性に限らず、いろんな“当事者“の声に触れる必要があることを再認識しました。そして自分の中にあるホモフォビア(多様な性への恐れ)。このテーマで活躍してる人の中にもあるし、“当事者“の中にもあるんだということを知りました。

シンポジウムの後半、ラウンドテーブルに移ったときには私自身の脳みそが停止ししかけていて聞こうと思っていたことが頭から飛んでしまったことが残念でした。

最後に改めて話題提供者の皆さま、指定討論者の柘植先生、会場で運営をサポートしてくれた皆さま、参加者の皆さま、ありがとうございました。

【研修会のご案内】学校臨床における性の多様性

2016-06-09 20:04:29 | 性的多様性


静岡県臨床心理士会の今年度の大会・総会の企画として市民公開シンポジウム『学校臨床における性の多様性』を開催します。
一般の方にもご参加いただけます(閉め切りすぎてるけど…)。

今回は,一橋大学学生支援センターの柘植先生を指定討論者にお招きしました。
柘植先生は,「このテーマは私のライフワーク。頼まれたら断らない」とおっしゃっていただいたほど。熱く語っていただけると思います。アメリカでのご経験も含めて,性の多様性について臨床心理学を中心とした視点からお話を頂く予定です。

シンポジストも面白い方を揃えました。


静岡大学の松尾先生は,学習指導要領とにらめっこしながら「どうして学校教育ってこうも男女に分けたがるんですかね?」とおっしゃっている方です。LGBTなどいわゆるセクシャルマイノリティだけではなく,多様な性について,臨床心理学とは違った角度からお話しいただく予定です。ちなみに松尾先生のご専門は教育史です。この前お会いした時は,学習指導要領の初期に「女性はこれという男性を見つけて気に入られるようにふるまい…」というような記述があったんだ,ということをねつっぽく語ってらっしゃいました。

前田先生は定時制高校の先生として,学校現場で多様な性を持つ生徒さんたちと関わってこられた方です。教師として何ができるのか,何をしなければならないのか。臨床心理士に何を求めるのかということについてお話しいただけるかなと思います。

細川さんはLGBTしずおか研究会の代表(だったかな?)です。
LGBTしずおか研究会(http://lgbt-shizuoka.com/)はLGBTの当事者の団体ではなく,当事者-被当事者の垣根をなくし,みんなで考えてみよう,という思いがあって「研究会」という名前にしたという会だそうです。とてもキュートな方ですが,スイッチが入ると熱いお話をしてくれます。

そして,なんといっても今回はLGBTの当事者にもお話を聴かせてもらう予定です。
きっと緊張してお話してくれるのだろうなと思いますが,生の声を聴かせてもらえるのが楽しみです。


そして,司会は私がつとめますが,あまり司会をするつもりはありません。
勝手なイメージとしては茶々を入れながらみんなでグループをやるというイメージです。
どんな話が出てきて,どこに行きつくのかわかりません。ただ,まとめようという気は毛頭ないので,楽しい時間にはなるはずです。

チラシはこちら

性的マイノリティ(教員の手引き)について

2016-04-05 11:41:59 | 性的多様性
平成28年4月1日付で文科省が『性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)』を公開しています。
各学校には冊子が配布されるようですが,データは文部科学省のホームページから見ることができます。

性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)




学生相談学会研修会

2016-03-09 08:07:08 | 性的多様性
先日,学生相談学会の研修がありました。
今回のテーマは『学生相談におけるセクシャルマイノリティ』でした。



話題提供をしてくださったのは,長年,学生相談の領域でセクマイの学生さんの支援に関わってこられた高石先生と,日本の性同一性障害(性別違和)診断の第一人者である針間先生,慶応大学の顧問弁護士の宗像先生の3人でした。それぞれにとても興味深いお話を聞かせてくださいました。

針間先生のお話は一度聞いてみたいと思っていました。
どんな風にして診断をされるのかという話や性別違和を感じている方と他の精神疾患や発達障害との関連など,日ごろ疑問に思っていることについても触れていただけたので腑に落ちました。
弁護士の宗像先生のお話は,臨床心理の考え方からすると割り切れない想いもありましたが,法律や社会システムという視点からみると,「そうなんだよなぁ」と感じる内容でした。大学を経営する立場からすると,個々の学生のニーズに応えることも大切だけれど,他の人(マジョリティと呼ばれる人)が負担するコスト,決まり事などとの関係に土江も考えなければならないというのは納得がいきました。

2日目はいろんな大学の学生支援に関わる方たちとディスカッションでしたが,個々の大学の事情や状況に触れることができました。それぞれの大学で目の前の学生に何ができるかということを少しずつ考え,取り組みが始まっているところなんだぁと思いました。
社会に新しい価値観が取り入れられていくとき, 無視→承認→受容… というプロセスを踏む,という話がありましたが,今は無視から承認に進んできた段階なのだというのが参加していた方たちが感じていることのようでした。受容の段階になるためには,社会全体がコストを負担することを受け入れる,ということのようなので,受容,というところに進むためにはもう少し時間が必要なのだと思います。

いつも思いますが,セクシャルマイノリティのテーマについて考えていると,結局は社会的養護などの他のマイノリティのこととも共通するテーマに行きつきます。

いつだったか,先輩の先生と話しているときに「戦う臨床心理士にはなりたくない」と話をしたことがありますが,その時,その方は「僕はそう思わないよ。臨床で学んだことを社会システムにしていくためにはそういうことも必要だよ」とおっしゃっていました(たぶん。酔っぱらっていたのであいまい)。
剣をもって戦おうという気持ちにはならないけれど,いろいろな人の声を整理して伝えていくことも必要なのだなと思いました。

学校における多様性について考える

2016-01-08 18:26:24 | 性的多様性
先日,性的マイノリティの当事者の方をゲストスピーカーに招いて,授業をしました。

教員になる学生を対象とした「生徒指導」という科目では,児童生徒の学校生活上の様々な問題に対する理解と支援の方法について考えます。
いじめや不登校,発達障害などについて学ぶ中で,性の多様性についても取り上げました。
第1弾として静岡大学道徳教育研究会の学生さんたちによる,性の多様性についての授業をしました。
(⇒詳しくはこちら
それをもう少し掘り下げるために,今回は当事者を招いて実際の体験について伺い,教師として何ができるのかについて考えよう,というのが目的です。

今回のゲストは3名。
静岡には「LGBTしずおか研究会」という性的マイノリティ当事者の方と性的マイノリティに親和的な方,理解ある方のサークルがあります。
(⇒「LGBTしずおか」のホームページはこちら
その代表である細川さんに,性の多様さや多様な性を持つ人たちが置かれた現状についてお話してもらいました。





そのあと,朝原さんにはゲイであること,そして虐待を受けてきたことなど,ダブルマイノリティとしての苦しさと,その中で生きてくれることを支えてくれた人,先生との出会いや関わりについてお話をしてもらいました。朝原さんのお話は『カミングアウトレターズ』(砂川秀樹・RYOJI,太郎次郎社エディタス)という本にも書かれていますので,ぜひ,読んでみてください。



田中さんには,FtM(身体的な性は女性,心の性は男性)としての体験をお話してもらいました。また,FtMのお知り合いが取り上げられたビデオも見せてもらい,当事者が自分の性別に迷い,それを家族や周囲に伝え,また,周囲がそのことをどのように受け入れるのかについて教えてもらいました。
性別違和がある方たちの苦しさを感じたようで,学生さんたちも聞き入っていたように感じました。



そのあと,学生さんたちにディスカッションをしてもらい,質疑応答の時間も取りました。
話の迫力に圧倒されて,「いや,もう,何を聞いていいかわからん」という学生さんもいました。
また,自分が教師になった時に何ができるんだろう?ということを考えてくれていた学生さんもいました。
次回の授業ではもう少し踏み込んで,実際に自分が教師になった時に学級にそうした子どもがいた時に,何ができるかについてのディスカッションをする予定です。


一方で,学生さんからは「興味がない」という言葉も出ていたようです。
私は,正直な気持ちでいいなと思います。
「興味がない」とか「理解できない」とか,「気持ち悪い」とか。
いろいろな気持ちがあって当然なんだろうなと思います。

ただ,こうした気持ちの中には,Homophobia(同性愛に対する嫌悪感,恐怖)のように,同性愛や多様な性を持つ人に対する嫌悪感や恐怖,偏見も含まれているかもしれないということは知っておいてほしいなと思いました。そして,そうした気持ちが当事者に対する心無い言葉や態度になったり,攻撃的な言動になってしまったりすることもあるんだ,ということを意識しておく必要があると思います。実際に,当事者の方たちからは,学校で先生の心無い言動に傷付いたという話を聞くことがあります。

また,こうした性の多様性について理解することは,発達障害のように行動や発達傾向の多様性を理解したり,国籍や人種の多様性,社会的養護や貧困の問題を理解したりすることとも深く関係しています。
性の多様性について考えていても,あっち(性的マイノリティ),こっち(マジョリティ)というように分けたり,“当事者”という言葉を使ったりすることは,暗に自分の問題ではない,と遠ざけてしまっていることのように感じることがあります。

この記事でも,ゲストスピーカーのことを“当事者”という言葉,“性的マイノリティ”と表現させてもらいましたが,本人たちに「どんな風に表現したらいいかな?」と尋ねました。彼らは,あえて“当事者”“性的マイノリティ”という言葉で表現して,というようなことを言ってくれました。
こういう課題があるんだよ,ということを知ってもらうためには,今はまだそういう言葉を使うことにも意味があるんだよ,ということなのかなと感じました。



実は学校の中にはたくさんの“マイノリティ”の子どもたちがいます。
性的マイノリティに限らず,そうした子どもたちの存在に目を向け,気持ちを理解しようとする教師になろうと思ってもらえたらいいなと思います。