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北海道大学大学院教育学研究科井出研究室(福祉臨床心理)のブログです。

【研究レビュー】公的なケアを受ける子どもたちが義務教育を終えても教育を受け続けるためには…

2018-07-06 14:35:49 | 社会的養護の自立に関する書籍,文献
ヨーロッパで行われた研究に「YiPPEE project」というものがあります。
Young People in Public Care Pathways to Education in Europeの頭文字をとったものです。



このプロジェクトは公的なケアを受けて育った若者が義務教育終了後も継続して教育を受けることができるようにするためにはどのようなことが必要かを明らかにすることを目的として行われてきました。日本でも,社会的養護の子どもや貧困家庭の子どもが高校や大学等の高等教育を受けない傾向が強く,結果的に社会的に弱い立場となり,貧困の連鎖などが起きているということが指摘されてきました。
子どもたちの自立を進めていくためには,そうした公的なケアを受ける子どもたちが教育を受け続けるにはどうしたらよいかについて考えることは非常に大きな課題であると言えます。

"YiPPEE Project: Young people from a public care background: pathways to further and higher education in five European countries"はこのYiPPEE Projectの成果をまとめた報告書です。

この報告書はそのまとめとして,公的ケアを受けてきた若者が教育を受け続けることを阻害する要因と促進する要因を示しています。
促進要因は「個人レベル」のものと「システムレベル」のものに分けられて報告されています。

個人レベルの要因としては,
・親とは異なる生活に対して強い動機づけられていること
・レジリエンスと自己効力感が高いこと
・源家族の教育や学歴を尊重していること
・措置先から個人的な支援や助言を受けていること
・学校でうまくやりたいという気持ちを持っていること
・高い意欲があり,未来志向的であること

システム的な要因としては
・公的ケアと教育が緊密に連携していること
・ソーシャルワーカーが措置先を決定する際に教育について優先的に考えていること
・里親と教育者(pedagogue)が教育を重視し,情緒的で実践的な支援を提供していること
・公的ケアや学校環境の変化が少なく安定していること
・ケアシステム外の人との一緒に過ごしていること
・ケアの中やコミュニティの中にロールモデルが存在していること
・余暇活動や地域生活に参加するサポートがあること

が挙げられています。

これまでに私が取り組んできた調査の中でも重視してきたポイントと重なるところがたくさんあるなと思いました。
たとえば,最近はキャリア・カウンセリング・プロジェクト(CCP)の取り組みの1つとして,地域で働くおとなの姿に触れてもらうために『お仕事フェスタ』を開催したり,休日に旅行に出かけることについて考えたりすることを取り入れ,ロールモデルに触れたり,余暇の過ごし方について考えたりしてきました。
また,別の取り組みとして,社会的養護と教育の連携,連動についての調査や実践もやってきました。

日本ではなかなか体系化されて実践や研究が行われませんが,1つ1つの実践や研究がもう少しつながって,体系化されていけばいいなと思います。


【自立支援に関する本の紹介】(論文)児童養護施設の自立支援プログラムに対する評価測定

2017-08-03 08:40:28 | 社会的養護の自立に関する書籍,文献
児童養護施設の子どもたちの自立や自立支援に関する書籍は,実はいろいろあります。
ただ,私が読んだ印象では,スキル(「生活指導」「学習指導」「金銭管理の意識づけ」「対人関係の支援」)を中心にしてこう言ったことをやりますよということを述べているものがほとんどで,具体的な解決策を示しているものはほとんどないという印象です。

具体的な解決策が示されていない,というのはそれが難しいからだと思うのですが,それでも,もう少し具体的に問題点を示し,それに対する解決策を示していかなければいけないと思うのです。

今回は施設児童の自立や自立支援をめぐる課題について参考になる論文を紹介してみようと思います。「児童養護施設の自立支援プログラムに対する評価測定」畠山由佳子(2002)関西学院大学社会学部紀要,91,p137-148です。




この論文では,自立能力がどれくらい達成できているかを測定する尺度の作成が試みられています。自立を達成する能力はTangible skills(具体的なスキル)とIntangible skills(抽象的なスキル)に分けられるという視点から,「職業」「経済」「パーソナリティ・人間関係」「生活技術」「自立に対する意識」「健康」という6つの領域に関する自立を測定する尺度が作成され,施設退所者の回答をもとにして自立のパターンを検討しています。この尺度は,退所者の自立能力を測定する方法として役立ちそうです。

さらに,その結果そうした自立能力がどのような要因の影響を受けているかについての分析も行われており,結論として,調査対象となった施設における自立支援を目的とした援助は,退所者のバランスをとれた社会的自立を高めているとは言えなかったと結論付けられています。
サンプル数が少ないという問題もありますが,自立支援の効果を実証的に検討した貴重な研究だと思います。

この論文の中で,畠山は施設児童の自立を「発達上の自然な過程ではなく,すでに『法律上で認められたもの(act)』であり,『期限切れ(deadline)』であるという点が,家庭で育ち,家庭から巣立っていく子どもたちとは違う」と述べています。これは本当にその通りだなと感じます。少しずつ施設児童が高卒後に進学することに対する支援も広がってきていますが,そうした進学の保証は学力やスキルを身に付けるだけではなく,その後の生き方を模索したり,施設外の仲間との出会いを促進したりすることで,その後の自立の大きな助けになると思うのです。

施設児童の自立は,施設内の自立支援だけではどうしたって完結しようがありません。
家庭で育ったとしても家庭からの自立は親と子の関係だけの問題ではなく,周囲の環境に大きく影響をされます。
自立支援を単なるスキルトレーニングだと捉えずに,もう少し広い視野で捉えたり,子どもの目線から捉える必要があると思います。

【本の紹介】ひとり暮らしハンドブック 施設から社会へ羽ばたくあなたへ―巣立ちのための60のヒント

2017-07-29 11:12:18 | 社会的養護の自立に関する書籍,文献
生い立ちに困難を抱える子どもたちの自立に関連する書籍や文献を紹介します。

今回紹介するのは『ひとり暮らしハンドブック 施設から社会へ羽ばたくあなたへ―巣立ちのための60のヒント』です。
ブリッジフォースマイルという施設を巣立った方たちの支援をする団体の林恵子さんの本です。

施設で暮らしていたことで,十分に経験できなかったことや,おとなになって初めて直面する出来事にどう対処すればいいのかについて,イラストも豊富に描かれています。私が読んでも「そうなんだ」と初めてちゃんと理解できることもあったりします。

援助者が,施設から社会に自立した時,どんな困難に直面するのかを理解するためにもいい本ですし,自立間近の子どもと一緒に読んでみるのもいいかもしれません。