IDE Lab.

北海道大学大学院教育学研究科井出研究室(福祉臨床心理)のブログです。

【本の紹介】『感情や行動をコントロールできない子どもの理解と支援 -自立支援施設の実践モデル-』

2019-11-28 15:27:05 | 書籍・論文
先日の学会の時,国立武蔵野学院の大原先生にご著書を頂戴しました。
感情や行動をコントロールできない子どもの理解と支援 -自立支援施設の実践モデル-』(金子書房)



大原先生は国立の自立支援施設である武蔵野学院の先生で,非行臨床や福祉心理学がご専門です。
特に生活場面面接についての造詣が深い印象があります。
先日の学会でも話題提供をしていただく場面がありましたが,いつもとても端的にわかりやすいお話をしてくださるなぁという印象です。

今回出版された著書では,児童自立支援施設での実践を基礎から示してくださっています。
特に,生活場面面接といわゆる個別面接の関係についてのべていらっしゃるところは勉強になるなと思いました。

生活場面面接を用いる理由はいろいろとあると思いますが,セラピーのような人と人との関係性に納まることが苦手な非行少年にとっては,まずは規則に守られた生活という枠組みの中で生活場面面接を重ねることが重要になると書かれています。こうした外的枠組みによる統制が機能するようになると徐々にその子どもの中に内的統制が育ってきて,その時にセラピーを実施することが可能になるし,セラピーが持つ意味が重要になるという事らしい。

「統制」という概念を中心に据えて,生活場面面接と個別面接(セラピー)の関係を整理されているところが,児童自立支援施設っぽいなと思いましたが,児童養護施設やじょうたん施設のようなところでも参考になる考え方だなと思いました。
児童養護施設やじょうたん施設での生活場面面接はどちらかというと,「統制」という概念よりも,子どもとセラピストの関係性を深めるという視点から語られることが多いかなぁという印象です。

ある程度,施設臨床,特に児童自立支援施設のことが理解できないと理解することが難しい本かもしれませんが,ちょっとでも経験がある方にはとても参考になる本だと思います。

【研究論文】『自然体験活動を取り入れた保育の実態と効果』

2019-11-26 16:37:32 | 書籍・論文
自然保育学会誌『自然保育学研究』に「自然体験活動を取り入れた保育の実態と効果」が掲載されました。
自然体験を積極的に行っている保育所の数やその内容,目的を分析すると共に,そうした自然体験保育の目的が青年期にどのような影響を与えているかについての調査を行った結果をまとめたものです。



端的に言うと,

・保育所や幼稚園が自然体験活動を取り入れている目的は①身体的健康・発達の促進、②意欲の向上、③社会性の向上、④共感性の向上である
・子ども時代の自然体験活動の経験は,おおむね保育所が目的に据えている領域に対して肯定的な影響を及ぼしている

というものでした。
しかし,保育所や幼稚園よりも,家庭の自然に対する親和性の方が影響がする可能性も示唆されました。

野外教育とか自然体験活動とかに取り組む方にとっては参考にしていただける論文ではないかなと思うのですが,いかんせんこの学会,論文を公開していないどころか,ciniiの検索にもひっかからない…
ご希望の方にはコピーをお送りしますのでおっしゃってください。

日本自然保育学会HP→https://shizenhoiku.jimdo.com/

【書籍・翻訳本】『子どもの性的問題行動に対する治療介入──保護者と取り組むバウンダリー・プロジェクトによる支援の実際』

2019-10-30 18:05:05 | 書籍・論文
エリアナ・ギルさんたちによる『Working with Children with Sexual Behavior Problems』を翻訳した『子どもの性的問題行動に対する治療介入──保護者と取り組むバウンダリー・プロジェクトによる支援の実際』が出版されました。


子どもの性的問題行動に対する治療介入──保護者と取り組むバウンダリー・プロジェクトによる支援の実際
(エリアナ・ギル/ジェニファー・ショウ著 高岸幸弘監訳 井出智博/上村宏樹訳)

エリアナ・ギルさんは,アメリカの心理臨床家で,彼女が書いた『虐待を受けた子どものプレイセラピー』は日本での児童虐待の取り組みが本格的に行われるようになり,児童養護施設に心理職が配置され始めた頃に日本に紹介されたこともあって,施設で臨床をする者には非常に大きな影響を及ぼした一冊だったと思います。
その内容をそのまま施設で行うことは困難でしたが,基本的な考え方を学ぶという意味では本当に勉強になる本でした。





『子どもの性的問題行動に対する治療介入』では,その題名の通り,性的な問題行動を示す子どもに対する治療的な介入が中心に書かれています。子どもだけに介入するわけではなく,子どもの生活環境に働きかけたり,養育者-子どもの関係を改善したりする具体的な方法についても述べられています。
日本でそのまま導入するということについては課題もありますが,基本的な考え方,特に中心になっている「バウンダリー・プロジェクト」という考え方は非常に参考になると思います。

「バウンダリー・プロジェクト」とは,TF-CBTや心理教育,箱庭療法,アタッチメント理論などを統合したアプローチで,家族に焦点を挙げた統合的なモデルです。「バウンダリー」という言葉が使われているように時には大人による管理を含めて,様々な意味での境界線(バウンダリー)を引けるようになっていくことを支援するものです。

監訳者である高岸さんはカナダの性被害,性加害の治療施設での研修もされた性的虐待や性被害の心理的ケアの専門家です。
この翻訳本の出版は実践を進めるためのスタートだともおっしゃっていましたので,「バウンダリー・プロジェクト」に基づく実践を日本で具体的に適応できるような形に修正していって下さるものだと思います。

翻訳本ということで,訳者としては読みやすいように翻訳することを目指しましたが,わかりにくいところもあるかもしれません。
本をお手に取られて,もしわかりにくいところがありましたらご指摘ください。
また,この本をもとに実践をしてみたいよという方がいらっしゃったら,ぜひ,お声かけください。

書評『ソーシャルペダゴジーから考える施設養育の新たな挑戦』

2019-06-25 12:30:19 | 書籍・論文
7月1日に発行される『こころの科学』(日本評論社)に書評を書かせていただきました。

読ませていただいたのは施設心理のパイオニアである楢原さんが監訳された『ソーシャルペダゴジーから考える施設養育の新たな挑戦』です。同年代の施設心理の仲間がこんな素敵な本を日本に紹介してくれることを誇りに思いますし,書評を書かせていただく機会をいただいたのはありがたいことだと思いました。

本のだいご味は本文もそうなのですが,まえがきやあとがきに込められた書き手の想いに触れることだと思っています。
この本でも楢原さんが翻訳し,日本に紹介しようと思った想いがとても強く感じられました。

ぜひ,書評も読んでいただければと思いますが,『ソーシャルペダゴジーから考える施設養育の新たな挑戦』も手に取っていただけるといいなと思います。


『こころの科学206号 子育て支援と虐待予防』



『ソーシャルペダゴジーから考える施設養育の新たな挑戦』

『これからの教育相談 ‐答えのない問題に立ち向かえる教師を目指して‐』

2018-04-02 13:42:29 | 書籍・論文
教育相談の教科書を作りました。
タイトルは『これからの教育相談 ‐答えのない問題に立ち向かえる教師を目指して‐』です。

教育相談の教科書ですが,学校教員を目指しているわけではない方が読んでも面白いと持っていただける内容になっているとも思います。特に,おそらく初めて教育相談の教科書としては性の多様性に1章分を割きました。その他にも災害を始めとするトラウマのケアや,虐待や貧困など子どもの福祉に関連する内容もしっかりと触れられているんじゃないかなと思います(手前味噌ですが…)。



これからの教育相談 ‐答えのない問題に立ち向かえる教師を目指して‐(北樹出版)