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北海道大学大学院教育学研究科井出研究室(福祉臨床心理)のブログです。

学校における性の多様性に関連する論文

2019-04-04 17:50:13 | 性的多様性
昨年度末に学校における性の多様性に関する研究の論文が2本公開されました。
いずれも一緒に研究している先生が中心になって書いてくださいました。



1つ目は『特別支援学校における性的マイノリティ児童生徒への対応と性に関する指導の実情:静岡県の養護教諭への調査を通して 』です。
題名にもあるように,静岡県内すべての特別支援学校の養護教諭を対象とした調査を通して,特別支援学校におけるセクシュアルマイノリティ児童生徒の実態や学校における取組について調査した結果をまとめたものです。特別支援学校におけるセクシュアルマイノリティについての実態調査はたぶん初めてのものだと思います。
調査の結果からは,障害を持つ子どもたちに対して,本人の意思よりも周囲が望ましいと思う性的行動や規範に沿った指導が行われる傾向にあるため,養護教諭の中には性の多様性に対する配慮に欠けていると感じている方たちがいるということがわかりました。確かに性衝動のコントロールは障害を持つ子どもたちにとって大きな課題であるために,支援学校では具体的でわかりやすい性的行動に関する指導が行われていると思います。結果的に,「男」「女」という区別の強い指導になっているのかもしれません。しかし,そうした指導の結果,適応的な行動を習得した子どもたちもいるかもしれません。どのように指導を行っていくのかについてはまだまだ議論が必要でしょう。また,海外の研究では自閉スペクトラム症の子どもたちの中には,そうではない子どもたちに比べて多くのセクシュアルマイノリティの子どもたちがいるという研究も見られます(→R. George and M.A. Stokes,2018:Sexual Orientation in Autism Spectrum Disorder)。一方で,最近開かれた日本のGID学会ではそうではないという結果が報告されたとも聞いています。研究知見は分かれていますので,支援学校の子どもたちにおける性の多様性についてはもう少し調査が必要だと思われます。

もう1つは『「考え、議論する」道徳の授業実践(1):性の多様性を取り上げた教材研究を通して』です。
こちらは性の多様性に関するテーマで行われた教員養成課程における授業の分析を示した論文です。第一著者で教育学が専門の松尾先生が教科としての道徳における性の多様性の扱いについても触れて下さっていますし,小中学校,高校などの授業で性の多様性について取り上げてみようと思う方にはご一読いただきたい内容です。

それぞれ,静岡大学の学術リポジトリからお読みいただけますので,ぜひ,ご参照ください。
(以下の論題をクリックすると論文の詳細ページが開きます)

特別支援学校における性的マイノリティ児童生徒への対応と性に関する指導の実情:静岡県の養護教諭への調査を通して

「考え、議論する」道徳の授業実践(1):性の多様性を取り上げた教材研究を通して