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IDE Lab.

北海道大学大学院教育学研究科井出研究室(福祉臨床心理)のブログです。

児童虐待とAD/HD

2017-01-06 10:01:39 | レジリエンス
手元に届いた"Child Abuse & Neglect"にAD/HDと児童虐待の関連を検討する論文が掲載されていました。
トルコで行われた研究ですが,100人ほどのAD/HDと診断された子どもと健常な子どもを比較し,AD/HDと診断されている子どもはどのような虐待を経験してきたのかを検討する研究です。
発達障害がある子どもは虐待を受けるリスクが高いということは常々言われてきましたが,AD/HDに限定して詳細なデータに触れるのは初めてでした。

"Effects of attention-deficit/hyperactivity disorder on child abuse and neglect"(2016) Gokten et al.

それによるとAD/HDと診断された子どもはそうでない子どもよりも身体的虐待(96.2%:46.2%),心理的虐待(87.5%:34.6%)を経験している一方で,心理的ネグレクトは統制群の子どもよりも経験していないことが示されています(5.8%:24.0%)。
また,DVの目撃者になる経験や性的虐待を受けた経験には統計的な差異は見られないようです。
ちょうど施設で暮らす子どもについて,発達障害や様々な生育上の経験が現在の暮らしやレジリエンスにどのように影響するのかについて調査をしているので,参考になるデータでした。
(それにしても虐待を経験している子どもの割合が多いな… 数字読み違えてるかも知れないのでよく読みなおしてみます)

身体的虐待は髪や耳を引っ張られたり,何かを投げつけられるなど広い意味での身体的暴力を含むもののようですが,AD/HDの子どもが身体的虐待を経験している割合は非常に高いですね。

一方で,"The ADHD Advantage: What You Thought Was a Diagnosis May Be Your Greatest Strength"(2015)Archerという本を読んでいました。AD/HDであることの強みについての本です。



冒頭で強調されているのは,AD/HDの子どもは幼少期に温かい養育を経験することができると,AD/HDならではの力を発揮することができるようになっていくということです。そういえば,知り合いの先生がご自身のことを「高機能AD/HD」とおっしゃっていました。AD/HDの特徴があるがゆえにいろいろなことに注意(興味)が向くけれど,注意(興味)が向いたことをちゃんとこなしていける,ということを言い表していたのだと思いますが,確かに,AD/HDの特性が強みになることもあると思います。
Attachmentの大切さはいろいろなところで強調されていますが,やはり幼少期に良い養育者-子どもの関係を築くことは大事なのですね。でも,AD/HDの子どもは虐待にさらされるリスクも高いので,幼少期の子どもに関わる人たちには子どもの特徴を理解する力やそうした理解をもとに養育者が子どもに良い養育を提供することができるようなサポートをすることができる力を身に着けてもらいたいと思います。


調査を進める手続き

2016-10-13 10:20:43 | レジリエンス
社会的養護を要する子どものレジリエンスについての調査を進めています。

子どもに回答してもらうものと、養育者に回答してもらうものがある調査です。

最近は調査をするにあたっての手続きがずいぶんと問題にされるようになってきました。いいことです。

調査する側はどうしてもその成果に目が行きがちですが、協力する方としてはその負担やリスクが心配です。でも、いろんなことを明らかにしていくにはやっぱり調査に協力していただく必要があるので、その辺りを丁寧に一緒に考えてもらう作業が必要です。
実は研究者が調査をするとき、最も問われるのはこの辺りの能力なのかもしれません。

今回の調査にあたっては事前にいくつかの施設の施設長や職員さんに内容をみてもらい、修正を重ねてきました。と並行して調査内容や手続きに関しては大学の倫理委員会で問題がないかを諮ってもらいました。特に個人情報の扱いについては慎重になるところです。

こうした手続きを踏んで、今日は調査をお願いする静岡県の施設長たちに説明とお願いをする時間を頂きました。
施設長会で色んな“長"を前にお話をするのはやっぱり緊張します。

でも、これでまた調査が一歩前に進みました。これからは個別に施設にお願いして、いよいよ調査の実施です。
調査内容についてはまたの機会に。