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IDE Lab.

北海道大学大学院教育学研究科井出研究室(福祉臨床心理)のブログです。

子どもの頃,虫,殺したことありますか?

2017-01-25 16:11:26 | 講義
大学院の講義では,院生と一緒にいろいろな疑問についてディスカッションしたり,文献を調べてみたりする比較的行き当たりばったり的な要素を含めた授業をしています。いろんなカップ焼きそばも食べてみています。
(あ,もちろん,講義もしますが,ある程度講義したらあとは受講生の発想を活かそうということです)

以前,「子どもの残虐性」についてディスカッションしたことがあったのですが,その時,私はそもそも人の攻撃性はどこから来たのか?ということで,京都大学総長で,霊長類学の権威である山際先生が書かれた本を読んでレポートを書きました。



(facebookには書いたのですが…)
本の内容はゴリラを始めとする類人猿の生態,行動を分析し,ヒトと比較することによってヒトの特徴を描こうとするもの。特に,なぜ,人は暴力をふるうのか,戦争をするのかということについて。ちょうど,先日,NHKスペシャルでツキノワグマの番組をやっていましたが,その中でオスが繁殖のために子殺しをするという話が出てましたが,同じように子殺しは類人猿にも見られるそうです。山際先生はそうした子孫を残すための欲求が実は私たち人間の中にも残っていて,児童虐待の中にはそうしたものも含まれると考える必要があると述べていました。

さて,今回は院生が発表してくれる番だったのですが,ある院生が選んでくれた論文がとても興味をひくものでした。

"The development of a screening questionnaire for childhood cruelty to animals"
Guymer, Elise C., Mellor, David, Luk, Ernest S. L. and Pearse, Vicky 2001, Journal of child psychology and psychiatry and allied disciplines, vol. 42, no. 8, pp. 1057-1063



動物を虐待する子どもの残虐性を測定する質問紙を作成するという論文なのですが,虫を殺したり,その行為を楽しんだりするといった残虐性が年齢と共にどのように変化するのかということも示されています。
それによると,大まかに,男女ともに6歳あたりで動物を傷つける残虐性が一気に高まり,加齢とともに徐々にその残虐性は減少していきます。ところが,10歳を過ぎる頃になると男女差が表れてきて,男の子の残虐性は再び上昇を始めます。一方で女子の残虐性は一気に減少し,その行動自体がほとんど観察されなくなります(性の多様性のことを勉強し始めるとこうした「男女」の比較の妥当性について考えたりもしますが…)。
年齢によるサンプルにばらつきがあるので,こうした推移や性差について統計的な検討は行われていませんが,こうした残虐性の推移は面白いなと思いました。

ディスカッションをする中で,6歳の頃に見られる残虐性と10歳以降に見られる残虐性は少し性質が違うよね,という話になりました。
発表してくれた院生は6歳頃に見られる残虐性を「素朴生物学」の獲得に関連があるのではないかと考察していました。
要は,生と死のとらえ方が経験的なものから,理解として変化していく過程で昆虫や動物を殺したり,いじめたりするのではないか?ということです。
子どもたちにとっては不思議なことを実験しているという感覚なのかもしれません。



それに対して,10歳以降に見られる残虐性はギャンググループとも関連をした,集団による影響があるのではないか?ということもディスカッションされました。
仲間関係の中で試しにやってみたことが面白おかしく,あるいは秘密として共有される。そこに虫を殺したりする行為が含まれ,決して1人ではしないことでもブレーキがかからず集団でならやってしまうというイメージです。

いずれにしても,このデータは一応,健常な子とされる子どもを対象にしたデータです。どういった子どもの”残虐性”が通常の発達の道筋から外れるサインとなるのか?ということについて知りたいなと思ったのですが,この研究ではAD/HDなどの臨床群のデータもとられていますが,そこまでは検討されていません。自分の子どもの頃の振り返りの意味も含めてしりたいと思いました。


『学校における性の多様性 ~授業実践と教育相談~』開催のご報告

2017-01-23 11:05:19 | 性的多様性
昨日,静岡大学道徳教育研究会が主催する『学校における性の多様性 ~授業実践と教育相談~』という研修が開催されました。
一橋大学の柘植先生(臨床心理学)と埼玉大学の渡辺先生(教育学)をゲストにお招きして,授業実践と教育相談という2つの視点から学校における性の多様性について考えました。



柘植先生からはセクシャリティーの揺れについてお話をして頂きました。
特に児童期~思春期~青年期というただでさえ揺れやすい発達段階にある児童生徒ですから,自分の性をめぐってもいろいろな揺れを経験することをお話しいただきました。

渡辺先生からは小中学校において性の多様性を児童生徒と共に学ぶ授業についてお話をして頂きました。
渡辺先生の実践からは「当事者と非当事者」「マイノリティとマジョリティ」という二分した思考ではなく,それぞれが多様な性の中にいる”当事者”であるということにどのように気付いていくのかということを学びました。

最後に,静岡大学道徳教育研究会からは教員養成課程で(将来教員を目指している学生に対して)性の多様性について学ぶ機会を提供する取り組みについて報告させて頂きました。この取り組みも2年目を迎えますが,報告してくれる学生たちの姿も随分と頼もしく感じました。講師のお二人からは今後に向けての視点もご示唆頂きました。単に知識を教えるだけではなく,自身の中にある感覚に気づくことができるような授業づくりを進めていかなければならないなと思いました。

昨年度に比べると多くの学校の先生方にもご参加頂き,関心を持っていただいていると感じました。



児童虐待とAD/HD

2017-01-06 10:01:39 | レジリエンス
手元に届いた"Child Abuse & Neglect"にAD/HDと児童虐待の関連を検討する論文が掲載されていました。
トルコで行われた研究ですが,100人ほどのAD/HDと診断された子どもと健常な子どもを比較し,AD/HDと診断されている子どもはどのような虐待を経験してきたのかを検討する研究です。
発達障害がある子どもは虐待を受けるリスクが高いということは常々言われてきましたが,AD/HDに限定して詳細なデータに触れるのは初めてでした。

"Effects of attention-deficit/hyperactivity disorder on child abuse and neglect"(2016) Gokten et al.

それによるとAD/HDと診断された子どもはそうでない子どもよりも身体的虐待(96.2%:46.2%),心理的虐待(87.5%:34.6%)を経験している一方で,心理的ネグレクトは統制群の子どもよりも経験していないことが示されています(5.8%:24.0%)。
また,DVの目撃者になる経験や性的虐待を受けた経験には統計的な差異は見られないようです。
ちょうど施設で暮らす子どもについて,発達障害や様々な生育上の経験が現在の暮らしやレジリエンスにどのように影響するのかについて調査をしているので,参考になるデータでした。
(それにしても虐待を経験している子どもの割合が多いな… 数字読み違えてるかも知れないのでよく読みなおしてみます)

身体的虐待は髪や耳を引っ張られたり,何かを投げつけられるなど広い意味での身体的暴力を含むもののようですが,AD/HDの子どもが身体的虐待を経験している割合は非常に高いですね。

一方で,"The ADHD Advantage: What You Thought Was a Diagnosis May Be Your Greatest Strength"(2015)Archerという本を読んでいました。AD/HDであることの強みについての本です。



冒頭で強調されているのは,AD/HDの子どもは幼少期に温かい養育を経験することができると,AD/HDならではの力を発揮することができるようになっていくということです。そういえば,知り合いの先生がご自身のことを「高機能AD/HD」とおっしゃっていました。AD/HDの特徴があるがゆえにいろいろなことに注意(興味)が向くけれど,注意(興味)が向いたことをちゃんとこなしていける,ということを言い表していたのだと思いますが,確かに,AD/HDの特性が強みになることもあると思います。
Attachmentの大切さはいろいろなところで強調されていますが,やはり幼少期に良い養育者-子どもの関係を築くことは大事なのですね。でも,AD/HDの子どもは虐待にさらされるリスクも高いので,幼少期の子どもに関わる人たちには子どもの特徴を理解する力やそうした理解をもとに養育者が子どもに良い養育を提供することができるようなサポートをすることができる力を身に着けてもらいたいと思います。


研修会『学校における性の多様性~授業実践と教育相談』開催のご案内

2017-01-05 18:14:44 | 研修会
静岡大学道徳教育研究会主催の『学校における性の多様性 ~授業実践と教育相談』を開催します。
今回は教育相談と授業実践をテーマとしました。
教育相談についてのお話は一橋大学の柘植先生にお願いをしました。今回は特に思春期の揺らぎのあたりについてもお話ししてもらい,そうした揺らぎをどう支えるかということについても考えてみたいと思います。
授業実践については,埼玉大学の渡辺先生にお願いをしました。渡辺先生はいろいろな学校で性の多様性について考える授業実践を重ねておられますので,学校で性の多様性について教える,考えるということについてお話ししていただく予定です。
また静大の学生たちも教員養成課程で性の多様性を教える授業実践に取り組みましたので,その報告も行う予定です。

http://www.ipc.shizuoka.ac.jp/~etide/dl/LGBT2017.pdf

⽇時:2017年1⽉22⽇(⽇)13:30〜16:45(13:15開場)
場所:CSAホールDen bill → http://hall.csa-re.co.jp/
定員:60名(定員に達し次第締め切ります)
参加費:無料
【申し込み】
静岡⼤学道徳教育研究会ライフスキル・性教育部会
申し込み先URL:https://moral-education-shizuoka.jimdo.com/
*「講演会への参加申込」からお申込みください。
*終了後,会場もしくは駅近辺の喫茶店などでの簡易な交流会を 予定しています。希望される⽅は研修会参加申し込みの際,必ずメールアドレスと参加希望の意思をお書きください。詳細が決まり次第,メールアドレスに内容をお送りいたします。


キャリア・カウンセリング・プログラム(CCP)とライフ・ストーリー・ワーク(LSW)

2017-01-04 11:15:19 | 児童養護施設におけるキャリアカウンセリン
新しい一年が始まりました。
本年もよろしくお願いします。

昨年末,日本子どもの虐待防止学会(JaSPCAN)の雑誌『子どもの虐待とネグレクト』にいつも一緒にキャリア・カウンセリング・プログラム(CCP)に取り組んでいる児童養護施設の片山さんの原稿が掲載されました。
『子どもの虐待とネグレクト』18巻3号では「人生史と虐待」という特集が組まれ,その中に『児童養護施設で人生を扱う実践の可能性 -親への支援と,子どもの未来への支援』という原稿を書かれたのですが,その中でCCPの実践についても触れていただきました。



CCPの開発を始めた当初はLSWとの関連など全く考えておらず,「施設で暮らす子どもの自立支援がもっとスムーズに進むように」「将来的な展望が描けるように」ということを考えて取り組み始めました。ところが当然,そうした取り組みをしていると,過去の体験がどれくらい整理されているか,過去に対する時間的な展望がどのようなものかが,将来の時間的展望に影響を与えるよなぁということに体験的に気づいてきました。当たり前といえば当たり前のことですが,自分のこれまでを肯定的に捉えられていれば,自分のこれからも肯定的に捉えられるよ,ということですね。そう考えてみると,LSWというのはその子の「これまで」を整理する作業,まさに人生史を編纂する,自分にとってのナラティブを構築していく作業だと思います。その作業ができていると,CCPでこれからの人生を考えることがよりよくできるということになるのですね。ところが,CCPをやっていて感じたことは,必ずしも「LSWをやって過去の整理ができた→CCPで将来の展望を考えることができる」という流れだけではなく,CCPに取り組み,将来のことについて考えてみようという準備が整ってくると,過去の自分の体験の整理にも取り組んでみようという動きが出てくることもあるということでした。
長くLSWに取り組んでこられた片山さんがこのあたりのことに気づいてくれて私に教えてくれました。

LSWは社会的養護を要する子ども,虐待を経験した子どもなど育ちにいろいろな問題,課題を抱える子どもの育ちを支える関わりとして近年,とても注目されているアプローチ(というより,個人的には周囲のおとなの姿勢だと思うのですが…)です。自分が取り組んできたことが,こうしてLSWと関連付けて考えられるようになったことに驚きを感じるとともに,もう少しいろいろな視点からCCPという取り組みを育ててみたいなと思いました。

「一年の計は元旦にあり」と言いますので,とりあえず今年の目標の1つにここまで取り組んできたCCPを本にすることに取り組んでみたいなと思っています。おそらくワークブックのような形になると思いますが,少し理論的な背景の部分やLSWとの関連にも触れながらまとめられればいいなと思います。

LSWに関しては楢原さんの書かれた『子ども虐待と治療的養育―児童養護施設におけるライフストーリーワークの展開』(金剛出版)という本がおすすめです。
今回の『子どもの虐待とネグレクト』の特集にも楢原さんの原稿が掲載されています。




なお,このCCPの開発に取り組むにあたり,「第43回(平成24年度)三菱財団社会福祉事業・研究助成」の助成を頂きました。
改めて助成して頂いたことに感謝です。
→三菱財団のHPはこちら