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北海道大学大学院教育学研究科井出研究室(福祉臨床心理)のブログです。

【研究論文】『セクシュアルマイノリティ児童生徒への スクールカウンセラーによる支援の現状と課題』

2020-01-06 09:20:50 | 性的多様性
「セクシュアルマイノリティ児童生徒へのスクールカウンセラーによる支援の現状と課題:肯定的カウンセリング効力感に注目して」が『静岡大学教育学部研究報告.人文・社会・自然科学篇』70に掲載されました。
性の多様性に関するスクールカウンセラー(SC)の理解に関する現状や課題などについてはこれまで調査をされてきませんでしたが,この論文ではSCの性の多様性に関する理解の現状や課題,あるいはSC自身の性の多様性に関連する相談活動についての効力感について検討しました。




端的には
・文科省が示した性の多様性に配慮した教育相談体制の構築についての通知や手引きについてのSCの理解はそれほど進んでおらず,特に手引き(性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け))についてはおよそ半数のSCが把握していなかったと回答している。
・また,通知や手引きについては学校を通して知るというより,本や論文,校外の研修等で知ることが多いため,SC向けの研修に通知や手引きを含めた性の多様性についての研修が増える必要があると考えられる。
・効力感に関しては,性の多様性に開かれた学校づくりを進めていく時に,児童生徒の様々な声をもとに学校づくりを進めていくために学校体制の変革に働きかけるようなアドボカシーに関する効力感は過去にセクシュアルマイノリティの児童生徒の相談に対応した経験の有無にかかわらず低く,SCにはアドボカシーに関する意識を高く持ってもらったり,具体的な取り組みが行えるような力をつけてもらう必要があることが示唆された(もちろん,前提にあるのは学校(特に管理職)の理解が進むこと…)。

本文は静大の学術リポジトリからご覧いただけます。
→本文はコチラ

学校における性の多様性に関連する論文

2019-04-04 17:50:13 | 性的多様性
昨年度末に学校における性の多様性に関する研究の論文が2本公開されました。
いずれも一緒に研究している先生が中心になって書いてくださいました。



1つ目は『特別支援学校における性的マイノリティ児童生徒への対応と性に関する指導の実情:静岡県の養護教諭への調査を通して 』です。
題名にもあるように,静岡県内すべての特別支援学校の養護教諭を対象とした調査を通して,特別支援学校におけるセクシュアルマイノリティ児童生徒の実態や学校における取組について調査した結果をまとめたものです。特別支援学校におけるセクシュアルマイノリティについての実態調査はたぶん初めてのものだと思います。
調査の結果からは,障害を持つ子どもたちに対して,本人の意思よりも周囲が望ましいと思う性的行動や規範に沿った指導が行われる傾向にあるため,養護教諭の中には性の多様性に対する配慮に欠けていると感じている方たちがいるということがわかりました。確かに性衝動のコントロールは障害を持つ子どもたちにとって大きな課題であるために,支援学校では具体的でわかりやすい性的行動に関する指導が行われていると思います。結果的に,「男」「女」という区別の強い指導になっているのかもしれません。しかし,そうした指導の結果,適応的な行動を習得した子どもたちもいるかもしれません。どのように指導を行っていくのかについてはまだまだ議論が必要でしょう。また,海外の研究では自閉スペクトラム症の子どもたちの中には,そうではない子どもたちに比べて多くのセクシュアルマイノリティの子どもたちがいるという研究も見られます(→R. George and M.A. Stokes,2018:Sexual Orientation in Autism Spectrum Disorder)。一方で,最近開かれた日本のGID学会ではそうではないという結果が報告されたとも聞いています。研究知見は分かれていますので,支援学校の子どもたちにおける性の多様性についてはもう少し調査が必要だと思われます。

もう1つは『「考え、議論する」道徳の授業実践(1):性の多様性を取り上げた教材研究を通して』です。
こちらは性の多様性に関するテーマで行われた教員養成課程における授業の分析を示した論文です。第一著者で教育学が専門の松尾先生が教科としての道徳における性の多様性の扱いについても触れて下さっていますし,小中学校,高校などの授業で性の多様性について取り上げてみようと思う方にはご一読いただきたい内容です。

それぞれ,静岡大学の学術リポジトリからお読みいただけますので,ぜひ,ご参照ください。
(以下の論題をクリックすると論文の詳細ページが開きます)

特別支援学校における性的マイノリティ児童生徒への対応と性に関する指導の実情:静岡県の養護教諭への調査を通して

「考え、議論する」道徳の授業実践(1):性の多様性を取り上げた教材研究を通して

【研修の案内】性の多様性に開かれた学校づくり・地域づくり

2018-11-06 08:45:06 | 性的多様性
静岡大学 性の多様性研究会では,今年度,地域の学校の教員,管理職,スクールカウンセラーを対象とした調査を実施し,性的マイノリティ児童生徒への支援の現状と課題を明らかにするとともに,性の多様性に開かれた学校づくりを進めるための教職員向けの研修の開発に取り組んできました。

そんな中で,研修会を開くことになりました。

テーマは『性の多様性に開かれた学校づくり・地域づくり』です。
12月16日(日),参加は無料ですが,人数に限りがありますので,参加をご希望の方はお早めにお申し込みください。
午前中は講演,午後は事例検討に取り組む予定です。




以下,チラシからの抜粋です。

『性の多様性に開かれた学校づくり・地域づくり』
2018/12/16 (日) 9時50分-16時【開場9時30分】

性マイノリティの子供たちにもフレンドリーな学校や地域であるために、どのようなことが必要でしょうか?
学校や自治体など、いろいろな饂織や人との連携についても考えます。また、性的マイノリティの児童生徒対応の事例検討も行います。

≪参加者および参加費≫
教員や自治体職員のほか、この講演にご関心のある方。参加費は無料です。

≪場所≫
ペガサート貸会議室A(静岡市葵区御幸町3番地の21ベガサート3階)

≪講演≫
松尾真治さん(倉敷市教育委員会) _
星野慎二さん(NPO法人SHIP代表)
近藤晴路さん(静岡市役所)

≪問い合わせ・申込≫
https://kokucheese.com/event/index/542352/
※先羞30名です。

備考:この講演会は「しずおか中部連携中枢都市圏地域課題解決事業」の助成を受けています。

【研究論文】『公立高等学校における性的マイノリティ生徒への対応の現状と課題』

2018-06-26 15:45:10 | 性的多様性
昨年度,静岡県内の小中高等学校,及び特別支援学校を対象にした性的マイノリティ生徒への対応の現状と課題についての調査を行いました。すべての学校の養護教諭を通じて学校における性的マイノリティ児童生徒の実態や文科省の通知や手引きを中心とした校内体制づくりの状況を調査し,課題についても検討しました。



養護教諭の多くは性の多様性についての敏感性を持ち,問題意識も持っていることが示されました。また,通知や手引きについても比較的広く周知されていました。ところが,学校全体や養護教諭以外の教員の理解や問題意識というところに目を向けるとなかなか厳しい状況にあるようです。
また,以前文科省が行った全国の学校を対象とした調査では対応が行われているケースが606件挙げられていましたが,実際にはもっと多くの対応が行われているのではないかなと思われるところもありました。「あの子そうかもしれないな…」というレベルでの気付きや対応が必要だと思うけれど,学校全体としては取り組むのが難しかったというケースもあるようでした。

そうしたデータをもとにしてこれから学校でどのようなことに取り組んでいく必要があるかについて言及しています。
義務教育や特支についてもこれから論文として公表していく予定です。


静岡大学図書館のリポジトリからお読み頂けますので,ご参照ください。
『公立高等学校における性的マイノリティ生徒への対応の現状と課題 : 静岡県の養護教諭への調査を通して』
井出智博・松尾由希子・鎌塚優子・山元薫・玉井紀子・細川知子,静岡大学教育学部研究報告(人文・社会・自然科学篇)第68号(2018. 3)71~88

性別違和と性的虐待の関連

2018-04-05 08:09:14 | 性的多様性
興味深い論文を読みました。
GID(性同一性障害)学会が発行しているGID学会雑誌のvol.10(1)に掲載されている論文(症例研究)です。
テーマは「埼玉県の児童相談所における性同一性障害・性別違和と性的虐待の関連」というものです。

この論文では児童相談所のケースを分析する中で抽出された性別違和の訴えがあるケースを対象として分析が行われています。2391ケースのうち性別の違和感を訴えた症例が10ケースとされているのですが,そのすべてに性的虐待,あるいはその疑いがあるということが示されています。いくつかの症例については支援の経過が示されていて,(性的)虐待的環境から保護されたのちに性別の違和感が軽減したケースもあれば,継続しているケースもあるということが報告されています。

著者は虐待の影響やその後のケアが適切に行われないことによって,トラウマ性の症状が生じると共に,性別への混乱も生じたのではないかと考察しています。
私の経験的にもこの考察は「そうかもな」と思うところがあります。
性的虐待や性的被害が与えるダメージは,とても深刻です。身体的,心理的虐待が与えるダメージと性的虐待が与えるダメージを分けて考えることもあります(性的虐待独特の問題の深刻さがあるということ)。

性的虐待を経験した人は性別違和を感じるようになりやすいということは言えるのかもしれません。
ただ,性別違和,性同一性障害の人は皆,性的虐待,性的被害を経験しているということではないとも思います。

ちなみになんですが,性的被害を受けた子どもの治療についての良い本があります。
児童虐待を受けた子どもの心理療法についての本としては,1990年代にバイブルのようになった本を書かれたEliana Gilさんの本です。
残念ながら英語の本しかありませんが…
日本語で読みたいですよね?



Eliana Gil & Jennifer A. Shaw (2013) Working With Children With Sexual Behavior Problems