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北海道大学大学院教育学研究科井出研究室(福祉臨床心理)のブログです。

保育における自然体験活動の効果についての研究

2016-10-13 19:41:18 | 保育
「社会福祉法人 どろんこ会」との共同研究として,「平成27年度植山つる児童福祉研究奨励基金(研究A・自主研究)」の助成を受けて,保育所における自然体験活動の現状,そうした活動を行う目的,さらにはそうした保育所が考える目的には本当にエビデンスがあるのか?ということについての調査研究を行いました。

報告書については「社会福祉法人 どろんこ会」のホームページからご覧いただけます。
社会福祉法人 どろんこ会のトップページ

まずは第1研究として,静岡県と東京都の保育所のホームページを分析し,自然体験活動がどれくらい保育所の保育活動の中で重視されているのか,またそうした園ではどのようなことを目的として自然体験活動が取り入れられているのかを分析しました。
ホームページに自然体験活動を行っていると謳っている保育所の割合は地域によって差異が見られ,少ないところで17%程度,多いところでは52%ほどでした。平均としては25%の保育所が自然体験活動を積極的に取り入れていますよ,と謳っていました。

では,そうした保育所ではどのようなことがめあてとされているのでしょうか?
これもホームページの分析から次の図のようなことがわかりました。



自然体験活動は「身体的健康,身体的発達促進」「意欲の向上」「共感性の向上」「社会性の向上」をめあてとして保育活動に取り入れられているようです。

次に第2研究では果たして保育所がめあてとしている4つのものは本当に自然体験活動で得られているのか?を検討しました。
社会人や大学生を対象とした調査を行い,幼児期の自然体験活動,保育所・幼稚園での自然体験活動と現在の心理的特徴を比較することにってどのような特徴がみられるかを分析しました。

結果として,
(1)身体的健康,身体的発達促進については…
保育所や幼稚園での自然体験活動の推奨具合が直接的にその後の身体的健康や身体的な発達に強い影響を与えるかどうかは明らかになりませんでしたが,幼少期の養育者の態度によっておとなになってからの身体的運動的な嗜好性には差異が見られることが明らかになりました。
(2)意欲の向上については…
意欲を直接測定することは難しいので,自尊感情を測定することにしました。その結果,幼少期の自然体験の頻度や自然体験に関する親の養育態度による差異が認められ,自然体験の頻度が多い群,親が自然体験活動を好んでいる群において高い傾向がみられました。
(3)社会性については…
幼少期の自然体験の頻度や自然体験に関する親の養育態度による差異が認められ,幼少期の自然体験活動が社会的スキルの獲得にも肯定的な影響を与えていることが示唆されました。
(4)共感性については…
自然体験活動を推奨する保護者の場合にはそうでない保護者よりも他者への共感性が高まる一方で,他者からの影響は低下することが示されました。

ここまで見ると,保育所における自然体験活動がその後の「身体的健康,身体的発達促進」「意欲の向上」「共感性の向上」「社会性の向上」に直接的に影響しているというよりも,親の養育態度の影響を強く受けているようです。

もう1つ,レジリエンスについても調査しました。
レジリエンスは困難を乗り越える力です。レジリエンスにおいては幼稚園や保育所が自然体験活動を推奨したかどうかや幼少期の自然体験の頻度や自然体験に関する親の養育態度による差異が認められました。

こうした結果からは,保育所において自然体験活動を推奨することは,「身体的健康,身体的発達促進」「意欲の向上」「共感性の向上」「社会性の向上」といった個別的な特性の発達に影響を与えるというよりも,レジリエンスといった総体としての力に肯定的な影響を与えているといえるのかもしれません。レジリエンスは学習指導要領にうたわれている「生きる力」と理解することもできます。
保育所において自然体験活動を推奨することは,子どもたちがその後,様々な困難を経験しながらもそれを何とか乗り越えていこうとする力を身に着けていくことにつながっていくかもしれないということが示されました。


こうした研究成果の詳細とそれについてのコメントを「どろんこ会」のホームページで紹介してくださっています。
→『にんげん力の向上に自然体験は効果的――自然体験型保育の研究報告


保育園における自然体験の意義

2016-05-17 14:25:02 | 保育
幼稚園や保育園で”どろんこ保育“とか”自然体験“を売りにしているところがあります。
個人的には子どもの頃から自然の中で遊んできたので、何かいいものがあると、経験的には思います。
では、実際のところどうなんだろう?という事で、保育所での自然体験活動についての調べてみることにしました。学生の勉強も兼ねて、静岡と東京の保育所のホームページを手がかりにして、自然体験活動が保育所の活動として位置付けられているのか?また、そうだとしたらどのような活動をしていて、どのようなねらいがおかれているのかを分析しています。

結果はまだ出ていませんが、とりあえず、第一段階の分析は終わり。





全国私立保育所連盟について

2016-04-05 10:11:34 | 保育

全国私立保育所連盟


毎年2回開催されている全国私立保育所連盟の保育カウンセラー講座に講師として呼んでいただいています。
研修はステップ1からステップ3まであり,さらにそのあとにはステップアップコースも準備されている,なかなか手厚い研修です。現場である程度の経験を積んだ方たちが参加されるので,研修をやる方もいろいろな経験に語り掛けることができる分,面白いなぁと感じます(保育カウンセラー養成講座についてはこちら)。

そんなお付き合いもあって,毎月,全国私立保育所連盟からはお便りが送られてきます。『保育通信』という冊子です。
今日,今月号が手元に届いたので,拝見していると東京大学の遠藤俊彦先生の記事がありました。
『乳幼児期の教育について考える』という記事でした。Attachment研究で有名な遠藤先生は九州大学で教鞭をとられていたということもあり,また今は東大にいらっしゃるので静岡にも近いということで,何度か研修で静岡に来ていただきました。九州経験者ということで,お酒も飲まれるので,研修会そのものよりも,飲み会の時にいろいろなことを教わるという贅沢な時間を過ごしてきました。

遠藤先生はその記事の中で「非認知的な心の力」という概念を紹介しています。
ノーベル経済学賞を受賞したヘックマンはIQのような「認知的な心の力(認知的能力)」よりも,「非認知的な心の力(Non-cognitive Ability)」の方が成人期の適応や幸福状態に影響を与えていることを指摘し,乳幼児教育の重要性を強調しました。


(『幼児教育の経済学』ジェームズ・J・ヘックマン (著), 古草 秀子 (翻訳))

そして,発達心理学者から見た「非認知的な心の力」を自己や社会性に関わる力と説明し,Attachmentにはそうした力の発達を下支えする機能が含まれているということを紹介してくださっています。

結びの章には『何気なくやってしまっていることの教育的意味を見直そう』という題名をつけられています。保育という実践の中で,日々,当たり前,常識的な感覚の中で実践していることの中にこそ,乳幼児の教育において重要なものが含まれている。保育に携わる人はそうした意識をもっと強く持つ必要がある,ということです。
この点,私も強く共感します。学校教育でも,心理臨床家の教育でも,形あるもの,プログラムに対する信奉はとても強い。確かにプログラムやスキルは目に見えやすく,わかりやすいし,評価しやすいので,学んだ気になりやすいと思います。しかし,そうしたものの土台になる実践というのはもっともっと日々の実践の中に,まるで土に水がしみわたるように,浸透していくものなのだと思います。でも,空気や水のような当たり前の存在だからこそ,日々意識することも難しいし,研究として焦点を当てていくことも難しいな,と思います。

そんなわけで,今日は何を書きたかったかというと,全国私立保育所連盟のご紹介と,保育カウンセラー講座,良ければご参加くださいというご案内でした。