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北海道大学大学院教育学研究科井出研究室(福祉臨床心理)のブログです。

日本福祉心理学会第17回大会@東京家政大学

2019-11-25 10:08:15 | 学会
11月23日,24日に東京家政大学板橋キャンパスで日本福祉心理学会第17回大会が開催されました。

今回はいろいろな役割を頂きました。
「社会的養護を要する子どもの心を育む『地域との連携』」と題された自主シンポジウムでは一般市民の理解,学校教育との連携,里親の普及啓発における連携といった話題提供者のお話を受けて指定討論者としてコメントする役割を頂きました。
また大会企画ワークショップでは司会として様々な立場の先生方にお話を振るという仕事を頂きました。






研究発表では共同研究も含めて3つの研究を発表しました。
1つは『児童養護施設におけるグリーフケアの実態とその必要性』です。
施設を対象にした調査からは施設職員が「死」に関することを扱うことがとても難しいと感じていることがわかりました。
まだまだ過去のトラウマにばかり目が向けられる傾向にありますが,今の生活の中で子どもたちが曝されるトラウマへの対応をしっかりと考えて行くことの必要性が示されていると思います。



2つ目は『地域との連携による自立支援 ~お仕事フェスタ,3年間の取り組み~』です。
社会的養護児童のキャリア・カウンセリング・プロジェクトの一環として行ってきたお仕事フェスタが子どもたちにとってどんな効果があったのかを質的研究によって明らかにしようとしたものです。子どもたちはいろんな仕事について知ることや,楽しく話を聞いて将来について考えること,体験して仕事の面白さを感じることをCCPの中で経験していることがわかりました。



3つ目は『特別支援学級・学級に通う子どもの自立を巡る里親の支援ニーズ』です。
支援学校や支援級に通う子どもを持つ里親さんたちにインタビューをさせていただき,その内容をテキストマイニングの手法を用いて分析することで支援級・学校に通う子どもを持つ里親さんたちがどんな支援ニーズを持っているかを明らかにしようとした研究です。
要約をすると,支援級・学校に通う子どもを持つ里親さん自身が,子どもたちがどんな進路,就労を選択することができるのかについての展望を十分に持っていないために,様々さ不安や困難さを感じているため,早い段階で児相や支援機関が情報提供をしていく必要があることが示唆されました。




書店では先日刊行された,翻訳に関わらせて頂いた『子どもの性的問題行動に対する治療介入──保護者と取り組むバウンダリー・プロジェクトによる支援の実際』も店頭に並べて頂いていました。





【研究論文】「成人前期の児童養護施設出身者におけるレジリエンスの保護・促進要因の探索」

2019-08-23 15:12:53 | 学会
児童養護施設で暮らした経験を持つ若者の中で,成功的な社会適応を遂げているレジリエントを隊長としたインタビュー調査を行い,彼らにとってのレジリエンスの保護・促進要因を明らかにした研究「成人前期の児童養護施設出身者におけるレジリエンスの保護・促進要因の探索 ―レジリエントへのインタビュー調査を通して」が『子どもの虐待とネグレクト』21(2)に資料論文として掲載されました。




この研究は昨年度の子ども虐待防止学会で口頭発表をしたもので,当日,座長を務めていただいた先生方からのご推薦を受けて雑誌に投稿させていただいたものです。
資料論文なので,本文には要旨がありませんが,執筆の過程で書いた要旨をご紹介します。

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多面的な基準に基づいてレジリエントと評価された児童養護施設での生活を経験した成人前期の若者(RY)を対象とした半構造化面接(N=7)を行い,レジリエンスの保護・促進要因を探索した。KJ法を用いた分析の結果,71ヶ所の保護・促進要因に該当する記述が抽出され,それらは6つの大カテゴリー,27のカテゴリーに分類された。施設で暮らしている間は境遇を共有できる仲間や職員といった【施設生活の中の資源】や,学校の教員や友人など【施設生活を支えた人の存在】が保護・促進要因となり,退所後には恋人やパートナー,大学等で出会った仲間など【卒園後の生活を支えた人の存在】が保護・促進要因となっていた。こうした多くの人との関わりの中で保護者や施設職員,他の児童を【反面教師として見る視点】が培われ,それをもとに将来の目標や展望を持つことも保護・促進要因となっていた。さらに,集団生活である【施設生活で獲得した力】など,レジリエントが持つ【個人の特性】なども保護・促進要因となっていた。こうした知見をもとに,レジリエンスの育成という視点から施設で求められる支援が提案された。

日本カウンセリング学会@北海学園大学

2019-08-19 16:13:58 | 学会
日本カウンセリング学会第52回大会@北海学園大学で研究報告をしました。



今回の発表のテーマは『児童養護施設で暮らす子どもの共感性が問題行動に及ぼす影響について』でした。

共感性の高さが攻撃的な問題行動を抑制すると言われてきましたが,果たして施設の子どもたちにもそういったことが言えるのか。また,そうであればどのような支援ができそうなのかを検討することが今回のテーマでした。

結論を要約すると…
・施設児童においても攻撃的な問題行動と共感性には関連がある。
・ただし,従来,向社会的行動(人のために行動したり,援助したりする行動)と敏感性には正の相関があると言われてきたが,施設児童では敏感性が高くなると攻撃的な問題行動が増加する可能性がある。敏感であることと,過敏であることは違うということなのかもしれない。敏感さを質的な側面から検討する必要がありそう。
・肯定的な感情を持つ他の子に対して好感をもつ傾向が強いと攻撃的な問題行動が抑制される可能性がある。嬉しかったり,楽しかったりしている子どもに対して「いいね~」と一緒になって嬉しくなったり楽しくなったりすることができるようになることが問題行動を生じにくくさせるのかも。どうやったらそれができるかは考えなければならないけれど,施設職員は問題行動が起きると子どもに関わる(介入する)けれど,嬉しかったり,楽しかったり,肯定的な感情を持っている時にももっと関わって,その感情を他の子どもにも伝えるような媒介者の役割を果たしたらいいんじゃないか?と思う。要は,職員はもっと子どもと楽しんで遊ぼう!ということなのかな…?

発表を見に来てくれた方たちとお話をしていたら,こんなことを考えました。
今回は(北海道だからだから張り切って)ちょっとふわっとした発表だったけれど,やっぱり発表を通して,自分で言葉にしたり,人から尋ねられて考えたり,新しい視点を頂いたりすると研究が深まるような感覚がありました。

やってみるもんだな。

ディスカッションしてくださった皆様,ありがとうございました。



日本心理臨床学会第38回大会@よこはま

2019-06-09 11:40:24 | 学会
横浜で開催された日本心理臨床学会第38回大会@パシフィコ横浜に参加してきました。

初日に自主シンポジウムを開きました。
今年度中に公刊される予定の「Reaching Resilience: A Training Manual for Community Wellness」という本を翻訳した仲間とのシンポジウムでした。



この本の著者はPatricia a Omidian(Patさん)という医療人類学がベースにある方です。
Patさんは,いろいろな紛争地域や被災地域などに医療人類学者としてフィールドワークに行く中で必要に迫られて介入プログラムに取り組むことになった時に,Focusingに出会い,Focusingを使いながらコミュニティを元気にする取り組みを重ねて来られたそうです。
先に介入プログラムがあって,それを現地に持ち込むというのではなく,その人の内的な感覚にアクセスするFocusingを用い,現地の人たちの想いやその時の文化などを大事にしながら,そこで必要な支援を創造するという取り組みが描かれています。

企画者の高橋さん(福島大学)に翻訳に誘ってもらった時,レジリエンスのことも研究しているし... と思って参加させて頂いたのですが,中身が理解できてくるにつれて,本当に興味深く,レジリエンスだけではなく,これまで自分がやってきたことととても重なることだなぁと思わされています。

今回はこの本の1章を担当した吉川さん(沖縄大学)に話題提供をしてもらい,それを飯嶋さん(九州大学)に文化人類学の視点からコメントしてもらって話を深めていこう,という企画でした。
吉川さんは沖縄のおじぃ,おばぁと一緒に戦争体験について語り合う場を作ってきた人なので,本の内容だけではなく,そうした実践とのつながりなどについても触れてくれました。
飯嶋さんはアボリジニのコミュニティで一緒に暮らした時の話など,文化人類学がコミュニティや人にどうアプローチするかという話題や臨床心理学ではどうなの?という疑問を出してくれました。

その後はフロアも交えてのお話になりましたが,文化人類学と(少なくとも私たちがやってきた)臨床心理学にはずいぶん共通するところがあって面白い,刺激になるということがわかりました。昔から文化人類学にはとても興味があったので,こうして刺激をもらえることはとても嬉しいことでもあります。

ただ,違いもありそうです。
別の機会に,社会的養護を話題にして飯嶋さん,高橋さんともっと深めてみる予定です。
https://www.facebook.com/events/2317998518474927/






で,学会から帰る前にもう1つ寄っておきたいところがあったので,都内に行きました。
以前,カンボジアに行った時に見学させて頂き,お話を聞かせてもらったシェムリアップの孤児院“スナーダイクマエ”の絵画展です。
代表のメアスさんにはキャリア・カウンセリング・プロジェクトの本にもコラムを書いてもらいましたし,今回の学会期間中にトークイベントでもやりたいと思っていたのですが,残念ながら実現には至りませんでした…。



毎年,東京を始め,数か所で絵画展を開かれているので,時間が合えば伺っています。
子どもたちの描く絵の色使いがとても楽しくて,気に入ったのがあれば買って帰ります。
今回も1つ頂いたのですが,それぞれの絵には描いた子どもの名前,年齢,小さな顔写真が付いています。
絵を頂いたというより,子どもの一部を頂いたという感じもします。

カンボジアに行った時には孤児院の他にも田舎の村にホームステイをさせてもらいました。
そこで暮らしていた子どもたちにお土産としてクレヨンとクロッキー帳を持って行って,一緒にお絵かきをしようと思っていました。
ところが目の前にクレヨンや紙を並べると,子どもたちは困った表情をしました。
どうしたのかな?と思いながら,言葉は通じないので,ジェスチャーでこうやって書くんだよ,と近くに落ちていたはっぱを描いて見せました。すると子どもたちは私が描いた葉っぱの絵を描きました。
自由に,好きなものを描いていいんだよ,と一生懸命伝えましたが,なかなか自分で好きなように描くことはしませんでした。
後で聞いてみると,田舎の村の子どもたちは普段から絵を描くことがないし,学校にも美術の時間がないから,どうしたらいいかわからなかったのかもね,と言われました。

その後でスナーダイクマエに尋ねると部屋一面に子どもたちの色彩豊かな,自由に描かれた絵が貼られているのを見て,とても驚きました。

絵画展では子どもたちが自由に描いた作品が額縁に入れられて展示されています。
1つ1つの絵がとても素敵な作品で,きっと子どもたちは行ったこともない日本という国で自分の描いた絵が,そんな風に額縁に入れられて展示されていることを想像して誇りに思っているんじゃないのかなと思います。

カンボジアの孤児院で暮らしている子どもたちも虐待やDVなど生い立ちに困難を抱え,様々な理由で家族と暮らすことができない子どもたちです。でも,私はメアスさんが絵画展を始め,いろんな機会を通じて子どもたちが持つ可能性に光を当てながら子どもたちの暮らしと育ちを支えているように見えています。日本の施設で暮らす子どもたちにもそうしたことが伝えられるようにならないといけないのだけれど,まだまだ十分ではないなぁとも思います。

今年は東京での開催は今日で終わりだそうです。
でも,この後,和歌山,大阪でも開催されます。
お時間がある方はぜひ,足を運んでみて下さい。








日本心理学会@久留米大学

2017-09-20 13:28:59 | 学会
日本心理学会第81回大会に来ています。
心理学会は大きな学会で,さまざまな領域の研究発表や講演が行われています。

今回は「児童養護施設児童にとって将来の夢は自尊感情を育むことに繋がるのか」というテーマでポスター発表をしました。



児童養護施設で暮らす子どもは程度の差こそあれ,生い立ちの中で様々な困難を経験しています。そうした子どもたちに対しては過去のトラウマに焦点を当てた治療が行われてきました。その一方で,彼らが施設を巣立ち,社会に自立していくための自立支援は,様々な事情(マンパワーの不足や方法論の欠如など)もあり,十分に行われてきたとは言い難い状況にあります。

これまでの研究で,施設で暮らす子どもたちは将来への肯定的な展望を描けないばかりではなく,将来のことについて考えたい,おとなになりらいという気持ちが低いことが示唆されてきました。つまり,自立支援は彼らへの支援としてとても重要であるということです。

施設での支援はin care(日々の生活の中で行われる支援),leaving care(自立に向けた支援),after care(自立後の支援)によって構成されるとされてきました。しかし,個人的にはleaving careは施設を巣立つ直前にだけ行われるものではなく,in careと連動して行われる必要があり,徐々におとなになる準備をしたり,将来への展望を描いたりすることができるようになることが必要であると考えてきました。

そこで,今回の研究では,彼らが将来への展望を持つことや持とうとすること(時間的展望)と,自尊感情がどのように関連しているかについて検討しました。特に,肯定的な将来展望や将来への志向性が自尊感情を高めるというメカニズムを実証することに焦点を当てました。

結論として,施設の子どもも,家庭で暮らす子どもも肯定的な将来展望を描くことや,描こうとする気持ちが高まることは自尊感情を高めることにつながるということが明らかになりました。ただし,家庭で暮らす子どもに比べて,施設で暮らすこともはそのメカニズムが限定されているということも明らかになりました。

しかし,将来展望を描くことや描こうとする気持ちが高まることは確かに自尊感情に肯定的な影響を与えていました。
つまり。従来,leaving careとして位置づけられてきた自立支援は,子どもたちの今にも肯定的な影響を与えているということです。
もう少しかみ砕いて言うと,施設の子どもたちに対して(家庭で暮らす子どもも同様ですが),肯定的な将来展望を描けるような支援を行ったり,将来展望を描きたいと思えるような支援を行ったりすることは,今,現在の子どもたちの生活にも肯定的な影響を与える(治療的な効果がある)可能性が示されたということです。このブログでも報告していた,キャリア・カウンセリング・プロジェクト(http://blog.goo.ne.jp/idtomoro/c/5653005451543be3afc025216cb73b38)のような取り組みは子どもたちの自立に向けた手助けになるだけではなく,今の生活の安定にもつながる可能性があると言えます。

ただ,この研究にはまだまだいろいろな穴もあります。
今回はそうした穴についてもコメントを頂きました(心理学会は実証研究に強い方が多いので,ありがたいです)。
もう少し,理論的に成熟させていく必要があると思いました。
また,施設における心理的援助において,過去に焦点を当てるばかりではなく,こうして将来や現在に焦点を当てるアプローチの必要性について,同意して頂くようなコメントを頂けたことも心強かったです。
科学的な検証は地道な作業ですが,少しずつ積み重ねることが必要ですね。