<ここまでの話>
【第1部】
「<第1話> から <第24話>までのリンク」
【第2部】
「<第25話> から <第35話>までのリンク」
「<第36話>敵艦接近!」
「<第37話>被弾!そして・・」
「<第38話>MIA・・」
「<第39話>信頼!」
「<第40話>絹のスカーフ?」
【ガンダム外伝を楽しむための補講】
「補講(4)MS運用艦ヒポグリフ」
------------------------------------------------------------------------------
目の前数センチに、丹精に整った少佐の唇・・
鼻にはほのかに香る、心地よい香り・・
そして腕の中には、肢体の柔らかな感触が・・
もう・・ もう・・ ダメだ・・
「しょ・・ 少佐ぁ・・」
「・・・」
絡み合った2人の身体は完全にコントロールを失い、
床をすべるように部屋のドア付近に流れていく・・
そして自然にドアのセンサーが反応し、当たり前のようにドアが開きだした
(まずい!このままでは絡み合った体制で通路に出てしまう!)
と思った瞬間、私の頭部に何かに当たり、流れる2人の身体にストップがかかった
見上げるとそこには、目が点になっているマメハ戦隊長のお顔が・・
「・・・・・・」
沈黙が続く
実際には、ほんの数秒なのだろうが、すごく長く感じる・・
「え~っとぉ・・
艦長(少佐)を探しているんだけど・・
ここにも居ないみたいね・・ 一体、どこに行ったのかしら?
仕方が無いから、『私はコントロールルームに戻りますね~・・』
あ~!! ほんとっ! 一体何をやっているのやら!!・・
確かに『部下には絶対に手を出すな!』とは言ったけど・・
部下ではなく上官ですか?・・ はぁ・・ ごゆっくりぃ~ 」
と、捨て台詞を残すと同時に、踵を返し戦隊長が離れていく
(ダメだ、最悪だ!! 完全に誤解されてしまった!!!)
「も~ぉ♪・・ ワサビィったらぁ、強引なんだもん♪」
「って・・ 少佐!! そんな事を言ったら、話がややこしく・・
というか!! 戦隊長! これは・・ これは誤解ですって!!!」
「いいから・・ 戦隊長にはあとで私が報告しておくわ・・ うふっ♪
でも、これで話が面白くなってきたわよね~ 」
「少佐・・ 一体あなたは何をお考えで?」
「そんなの昔から決まっているじゃない♪ 盛り上がる方が優先よ!
てゆうかぁ♪・・
さっきから腰に何かが当たっているんだけど・・
戦隊長に睨まれても、戦闘体制持続って、やっぱり噂通りなのね?
すごいわ♪
で・・ いつまでこの体制なのかしら?
さっきも兵が3人ほどビックリした顔で通路を通過したけれど・・♪」
慌てて、身体を離す・・
しかし、手中にあったシルクの布地は既にクロヒッツ少佐に取り返されていた
「えっ・・ 兵も通ったのですか? まさか噂の親衛隊メンバーじゃ・・」
「さぁ、どうかしら・・ でも大丈夫よ 私の親衛隊は草食系だから♪
まぁ・・ 最近はユカちゃん親衛隊に流れちゃったから、寂しいんだけど・・」
「ですね、グリフィンで最大勢力との噂です・・」
「もう・・ 少しはフォローをしなさい! ってね♪
でね・・ このスカーフなんだけど・・ ちょっと後ろを向いて」
「は・・ はい・・」
言われるままにクロヒッツ少佐に背中を向ける・・
不意に背中に2つの柔らかな感触と穏やかな気流の変化を感じた
その感覚に酔うう間もなく、首筋に柔らかなシルクの感触が撒きつけられ、
少佐が私の前面に回ってくる
「このままスカーフには触らずに、ノーマルスーツに着替える事!
命令よ! 良いわね・・」
と言いながら、前でスカーフのようにタイ結びをし、スカーフの端部分を
上着の首筋部分から中に入れてくれる
(なんだ? 普通のスカーフと同じじゃないか・・ 違和感は無い・・
なのに、少佐は何を気にされているのだ? )
「はっ! ありがとうございます。
というか、全く違和感はありません、パイロットスカーフと全く同じです・・」
「そう? 本当に違和感が無いの? 良かった!
お役に立てて良かったわ・・ ちょっと匂いがするかもしれないけど・・
気にしないでね♪」
「そうですか・・ いい香りがしますけど・・」
匂いを嗅ごうとすると、少佐が止めに入る・・
というか、ほのかに香る匂いは少佐本人からの香りなのか
スカーフからの香りなのかは判別できないが
先ほどからの、ほのかな香り以外の匂いは感じられなかった・・
「触っちゃダメ! 本当に約束よ! 絶対だからね!!」
「はぁ?・・」(なんだ? 理由が解らん・・)
「どうなのよ? 約束できないのなら、返してくれる?」
「いえ・・ 解りました! 約束します!」
「本当ね? 約束を破ったら・・ 責任を取っていただきますから! 良いわね?」
「イエス! アイマム!」(って、責任って何??)
「はい! 良いお返事 じゃ、ノーマルスーツに着替えに行くわよ!」
「えええっ!・・・ 少佐・・ 付いてくるのですか?」
「当たり前じゃない・・ やっぱり・・ 信用できないもん♪」
・・・
主計係から予備のノーマルスーツを受け取るが、被爆チェッカーが新品だ・・
被爆チェッカーとは、宇宙線に含まれる放射線をどれだけ浴びているかを測定する
放射能反応プレートで、1ヶ月毎に交換する。
累計被爆量が許容量より多くならないようパイロットが個人ごとに携帯し、
ノーマルスーツの腕部分に装着する運用なのだが・・
もちろん許容量を越えそうなパイロットは、搭乗禁止となる。
うかつにも、自分のノーマルスーツに貼り付けたままで、グリフィンに異動してしまった
この数日、機外に出る事が非常に多かった事もあり気にはなるのだが・・
(ここは少佐には黙っておいた方が無難か・・)
最近さまざまな事象が上手く回っておらず、幾つかが先送りの状況を感じていた
こういう時は注意が必要なのだが・・
ロッカールームでノーマルスーツに着替えるもちろん少佐の監視下ではある
というか、自分の部屋以外での着替えは久しぶりでもあり、
宇宙戦闘機パイロット時代の懐かしさが蘇って来た・・
昔はロッカールームがパイロット同志のコミュニケーションスペースにもなっており、
ここにテーブルなどを持ち込んで、カードゲームなどをしていたものだ・・
もちろん宇宙世紀になってから、戦争などは無く平和時代だった事もあるが、
そういう環境がチーム意識を高める事に貢献していたんだなぁ・・と、
無くなって解る事も少なくは無い・・
「このロッカールームって、今は単なる物置ですよね・・
ロッカールームをパイロットの待機場所に戻しましょうか・・」
「ん? 戻すと・・ 何が良くなるのかしら・・
私達からすると、立ち入り禁止区画のような、閉塞感があるんだけど・・」
「そんな風に感じられるのですか?」
「そうね・・ その部屋にパイロット以外も自由に入れれば、
そんな閉塞感も和らぐんだけど・・」
「では、『自由に誰でも入れます』って事にすれば
「それだけではダメなの・・ あなた達には解らないかも知れないけど
やっぱり、MSパイロットなどは艦の乗組員ではないので・・
他の兵や曹が逆に気になるものよ・・ というか、気にしているの!
自分達がパイロット達の邪魔にならないように!・・ってね♪」
「そうなんですか・・
やはり現在の運用になった理由が、ちゃんとあるんですね・・」
「そうね・・ 軍規なども沢山あるけど、軍規以外の運用には慣習が多いわね
でも、なぜそのような慣習が出来たのかなどは、意外と知らない事も多いわ・・
で・・ やっぱりスカーフを巻くと、凛々しく見えるわよ♪」
「ありがとうございます♪ というか、巻いてないと凛々しく見えないんだ・・」
「そうよ・・ ちょっと、だらしないわね・・ ♪
若いMSパイロット達も、みんなスカーフを巻けばもっと萌えるのに・・」
「確かにだらしないかもしれませんが・・ 理由はそっちですか?」
「あら♪ これは禁則事項だけど、本当の事はあなたレベルでは解らないはずよ♪
さて、この話はこれでおしまい!
これで大丈夫ね! 気をつけて行ってらっしゃい!
返却は主計兵やランドリーには出さず、そのまま持って来るのよ! 良いわね!」
「あっ・・ はい・・」(なにか・・ 色々と引っかかるんだが・・)
・・・
セイバーブースター(YUKIKAZE)に戻ると先ほどの兵長が待っていた・・
「どうだ! 出来たか?」
「ハイ・・ ただ、簡易的な配線を追加しただけですが
説明しますのでコックピットに上がっていただけますか?」
言われるままにコックピットに入る・・
「単純に連装トリガーへの信号を右と左に分けただけです、
こちらのレバースイッチの上側に『R』とマークしているのは
現在右砲にトリガーが繋がっている・・と言う事です」
「つまりレバーを下に下げると、左の砲ということだな?」
「はい、その通りです・・
ただ、エネルギーチャージを左右振り分けているわけではありません・・
少々邪魔ではありますが、サブパネルをこちらにつけています
このパネルで後部座席のビームエネルギーのチャージ状況モニター信号を
映し出しますので、表示レベルで判断しトリガーを引いてください
すると、片方だけのエネルギーがゼロになり、チャージが始まります・・
満タン側には入れようと思っても物理的に入らないのですが
すみません、本来なら安全装置として満タン側のチャージを止めるべきです
でも、そこまで出来ていません・・
ですので、片側の砲だけを連続で使用するような運用ではなく
左右交互にご使用いただければ・・と・・
あと・・ 連装同時発射には今は戻せません・・」
「そうか・・ 負荷がどのように作用するかは不明なんだな・・」
「すみません・・ でも、すぐにレバーを下にすると、
次発を発射可能ですので・・ それが大尉のご要望ですよね?」
「ああ・・ そうだ・・ 連装では威力があるのだが、
次発チャージに時間がかかりすぎる・・
というか、このトリガー切り替えレバーにタイムラグはあるのか?」
「ほとんど無いです、実は・・ 配線を直結していますから♪」
「なるほど、制御コンピュータは経由しないわけだ・・」
「すみません・・ 時間があれば・・
でも♪ 直結だから、トリガーさえ引けば、エネルギーが10%でも発射しちゃう
早漏野郎になっちゃいました♪
これは、使い方によっては上手く活用できるか?と・・」
「いや、それで良い! 良くやってくれた!」
「あと、ビーム砲発射時の反動は・・ 不明です
前にも言いましたように、アポジモーターとの連携は出来ていません」
「ああ・・ 解っている・・ ひょっとしたら扇状にビームが飛ぶかもな・・」
「ですね・・ 西暦時代に流行ったアニメの、ビームカッター!みたいな・・♪
ただ、発射の際に片舷加速をかけておくと、良いかも知れません・・
思い付きですけど・・」
「なるほど・・ ・・ いや・・ 考えたら片舷加速は操縦が難しい・・」
「すみません・・ 大尉ならなんでも出来ちゃうのかな?とか・・」
「お世辞を言っても、何もでないぞ♪ 出来ない事は出来ないからな!」
「で・・ コックピット右に出ているレバーが見えますか?」
「どれだ?」
「座席下になります・・」
「これか?」
「はい・・ それを前に倒すと、今回改修した全ての制御がパイロット側でできます。
通常は後方に倒し、コパイ側での制御ですね。 今は前に倒しています・・
というか、今回追加の機能だけをパイロットに・・ という切り替えではないので
ご注意ください!」
「よし! 概ね理解した・・ 他に何かあるか?」
「あと・・
後部座席にノーマルスーツを積んでおけと命令がありましたが・・ サイズは?」
「ああ・・ 9号でいいぞ・・」
「了解です!・・ というか、さすがですね♪」
「何が『さすが』なんだ?」
「いえ・・ 9号か11号かどちらなんだ?と、主計兵が悩んでいまして・・
どうやら、命令された戦隊長も、どちらなのか悩まれたようです・・
それで、2着ここにあるのですが・・ それを即答で9号だと言われたもので・・」
(し・・ しまった・・ つい無意識に・・ )
「いや・・ そうなのか?
というか・・ 多分9号だろうと言っただけだ・・
それが平均ではないのか?・・ 兵長はどう思う?」
「自分には、そちらの方の事は全く解りません♪
では、9号のノーマルスーツを後部座席に積んでおきます」
「まぁ、そういうことだな♪ 他には?」
「ありません! あとは大尉の腕とご武運があれば♪」
「了解♪ じゃ、すぐに出るぞ、発進準備に入ってくれ!」
「こちらYUKIKAZE・・ コントロールどうぞ・・」
「・・・ こちらグリフィンコントロール・・
大尉、いかがしましたか?」
「ああ・・ 戦隊長か艦長に繋いでくれ・・」
「・・・ お待ちください・・
・・・
あのぉ・・ 申し訳ありません・・
戦隊長が『艦長とお話すれば~』とおっしゃっておられますが・・
艦長は機関室に行かれていて・・」
(うっ・・ まだ誤解が解けてない・・ 一体何が悪かったんだ?・・
そ・・ そうか!♪)
「すまん、もう一度言う『戦隊長』に繋いでくれ!」
「・・・ お待ちください大尉・・」
「・・・ なぁに? 忙しいんだけど・・
ワサビィは、私ではなく艦長に御用事じゃないの~?」
(やはり・・ 戦隊長か艦長かなど2択にするからダメだったんだ・・)
「いいえ! この連絡は艦長ではダメなんです!
戦隊長でないと全く意味がありません!」
「・・・ そうなのかしら? 私には『艦長みたいな事』は出来ないけど・・
まぁいいわ・・ で・・ 御用はなぁに?」
(うう・・ やはりトゲがある・・ 少佐ぁ・・ 早く誤解を解いてくださいよ・・
と・・ ここは大人の対応を・・)
「まず、MS隊の編成は通達済みです。
グリフィンにはユカ少尉とドロシー軍曹の2機で、あとはヒポグリフです・・
申し訳ありませんが、ユカ少尉のジム215号機の修理を優先ください・・」
「・・・ それは約束が違ってない?」
「すみません・・
ヒポグリフには艦の火器が無いため、単艦になった場合艦を守れません・・
グリフィンの移動先は比較的危険が少ないとも判断され・・」
「・・・ 仕方が無いわね・・
解ったわ、何とかしましょう・・ で・・ YUKIKAZEは?」
「ハイ、YUKIKAZEの改修が完了し、発進準備も終わっています。
いかがしましょう?」
「・・・ そうなの? 整備班に『ありがとう』と言わないといけないわね♪」
「そうですね、次の作戦前にでも、慰労を兼ねた簡単なキックオフ会などを
企画いただけたら嬉しく思います・・
というか、グリフィンメンバーのモチベーションは非常に良い状態です♪」
「・・・ そりゃ、私の艦ですから♪ まぁ何か考えておくわね♪
じゃ、悪いけどすぐに出てくれる?
『オペレーター! YUKIKAZEにレイテの航行プランを転送して!』
では、発進準備にこちらも入るわね! 頼むわよ!」
「了解です、ありがとうございます戦隊長!」
・・・
発進準備を行ない、ヘルメットを装着した後に気が付いたのだが、
ヘルメットを装着し気密を確保すると、あの独特なほのかな香りに包まれる
想像すると、このスカーフから発する香りである・・
不思議だが、この香りは力がみなぎってくる! (よし!良い感じだ♪)
あとでクロヒッツ少佐に、何の香りなのか聞いておこう♪
「・・・ YUKIKAZEへ! こちらコントロール、フロントハッチオープンします!
バーニア噴射で船外に出てください・・」
「こちら、YUKIKAZE・・ ワサビィだ・・ 了解した!」
グリフィン右舷のフロントハッチが開き漆黒の宇宙が広がると思いきや
前面には明るく輝くピンポン球程度の大きさの地球が浮かんで見えた
グリフィンの向きを地球方向に転移してくれたのだろう・・
私は軽く後部アポジモーターを吹かし、ゆっくりとグリフィンから外に出た
ふと左方を見ると、ヒポグリフからこちらに向かうオレンジのボールが見える・・
ウーミン伍長がグリフィンに向かっているのだ・・
(ん? 点滅発光信号? 何・・
お・に・い・ち・ゃ・ん・・ わ・た・し・を・お・い・て・
ど・こ・い・く・の・・・ って♪)
私も発光信号で返答する・・
ち・き・ゅ・う・に・ね・ ち・ょ・っ・と・や・ぼ・よ・う・・
い・い・こ・に・ し・て・る・ん・だ・ぞ・・・
すかさずウーミンのボールから返答が返る
い・つ・も・ い・い・こ・だ・よ・
は・や・く・ か・え・っ・て・き・て・ね・・・
「グリフィンコントロール・・ YUKIKAZEワサビィだ・・ 行って来る!」
「・・・ 大尉・・ 無事のご帰艦をお待ちいたします♪」
「サンキュ♪」
(さて、アッシー君をさっさと終わらせるか・・)
そんな事を考えながら、YUKIKAZEのブースターを軽く吹かしグリフィンから離れた
そして、翼を軽く左右にバンクさせ、ウーミン伍長に返事を返しておく・・
(今は辛いだろうが・・ これも戦争だ・・ 強くなれよ・・)
グリフィンから少し離れた地点で、ブースターをフルオープンにする
強いGが身体にかかり、今更ながらこいつがトンでもないジャジャ馬であることを
再認識する・・
「<第42話>ソドン型巡航船」に続く・・・
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Copyright ichigowasabi
【第1部】
「<第1話> から <第24話>までのリンク」
【第2部】
「<第25話> から <第35話>までのリンク」
「<第36話>敵艦接近!」
「<第37話>被弾!そして・・」
「<第38話>MIA・・」
「<第39話>信頼!」
「<第40話>絹のスカーフ?」
【ガンダム外伝を楽しむための補講】
「補講(4)MS運用艦ヒポグリフ」
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目の前数センチに、丹精に整った少佐の唇・・
鼻にはほのかに香る、心地よい香り・・
そして腕の中には、肢体の柔らかな感触が・・
もう・・ もう・・ ダメだ・・
「しょ・・ 少佐ぁ・・」
「・・・」
絡み合った2人の身体は完全にコントロールを失い、
床をすべるように部屋のドア付近に流れていく・・
そして自然にドアのセンサーが反応し、当たり前のようにドアが開きだした
(まずい!このままでは絡み合った体制で通路に出てしまう!)
と思った瞬間、私の頭部に何かに当たり、流れる2人の身体にストップがかかった
見上げるとそこには、目が点になっているマメハ戦隊長のお顔が・・
「・・・・・・」
沈黙が続く
実際には、ほんの数秒なのだろうが、すごく長く感じる・・
「え~っとぉ・・
艦長(少佐)を探しているんだけど・・
ここにも居ないみたいね・・ 一体、どこに行ったのかしら?
仕方が無いから、『私はコントロールルームに戻りますね~・・』
あ~!! ほんとっ! 一体何をやっているのやら!!・・
確かに『部下には絶対に手を出すな!』とは言ったけど・・
部下ではなく上官ですか?・・ はぁ・・ ごゆっくりぃ~ 」
と、捨て台詞を残すと同時に、踵を返し戦隊長が離れていく
(ダメだ、最悪だ!! 完全に誤解されてしまった!!!)
「も~ぉ♪・・ ワサビィったらぁ、強引なんだもん♪」
「って・・ 少佐!! そんな事を言ったら、話がややこしく・・
というか!! 戦隊長! これは・・ これは誤解ですって!!!」
「いいから・・ 戦隊長にはあとで私が報告しておくわ・・ うふっ♪
でも、これで話が面白くなってきたわよね~ 」
「少佐・・ 一体あなたは何をお考えで?」
「そんなの昔から決まっているじゃない♪ 盛り上がる方が優先よ!
てゆうかぁ♪・・
さっきから腰に何かが当たっているんだけど・・
戦隊長に睨まれても、戦闘体制持続って、やっぱり噂通りなのね?
すごいわ♪
で・・ いつまでこの体制なのかしら?
さっきも兵が3人ほどビックリした顔で通路を通過したけれど・・♪」
慌てて、身体を離す・・
しかし、手中にあったシルクの布地は既にクロヒッツ少佐に取り返されていた
「えっ・・ 兵も通ったのですか? まさか噂の親衛隊メンバーじゃ・・」
「さぁ、どうかしら・・ でも大丈夫よ 私の親衛隊は草食系だから♪
まぁ・・ 最近はユカちゃん親衛隊に流れちゃったから、寂しいんだけど・・」
「ですね、グリフィンで最大勢力との噂です・・」
「もう・・ 少しはフォローをしなさい! ってね♪
でね・・ このスカーフなんだけど・・ ちょっと後ろを向いて」
「は・・ はい・・」
言われるままにクロヒッツ少佐に背中を向ける・・
不意に背中に2つの柔らかな感触と穏やかな気流の変化を感じた
その感覚に酔うう間もなく、首筋に柔らかなシルクの感触が撒きつけられ、
少佐が私の前面に回ってくる
「このままスカーフには触らずに、ノーマルスーツに着替える事!
命令よ! 良いわね・・」
と言いながら、前でスカーフのようにタイ結びをし、スカーフの端部分を
上着の首筋部分から中に入れてくれる
(なんだ? 普通のスカーフと同じじゃないか・・ 違和感は無い・・
なのに、少佐は何を気にされているのだ? )
「はっ! ありがとうございます。
というか、全く違和感はありません、パイロットスカーフと全く同じです・・」
「そう? 本当に違和感が無いの? 良かった!
お役に立てて良かったわ・・ ちょっと匂いがするかもしれないけど・・
気にしないでね♪」
「そうですか・・ いい香りがしますけど・・」
匂いを嗅ごうとすると、少佐が止めに入る・・
というか、ほのかに香る匂いは少佐本人からの香りなのか
スカーフからの香りなのかは判別できないが
先ほどからの、ほのかな香り以外の匂いは感じられなかった・・
「触っちゃダメ! 本当に約束よ! 絶対だからね!!」
「はぁ?・・」(なんだ? 理由が解らん・・)
「どうなのよ? 約束できないのなら、返してくれる?」
「いえ・・ 解りました! 約束します!」
「本当ね? 約束を破ったら・・ 責任を取っていただきますから! 良いわね?」
「イエス! アイマム!」(って、責任って何??)
「はい! 良いお返事 じゃ、ノーマルスーツに着替えに行くわよ!」
「えええっ!・・・ 少佐・・ 付いてくるのですか?」
「当たり前じゃない・・ やっぱり・・ 信用できないもん♪」
・・・
主計係から予備のノーマルスーツを受け取るが、被爆チェッカーが新品だ・・
被爆チェッカーとは、宇宙線に含まれる放射線をどれだけ浴びているかを測定する
放射能反応プレートで、1ヶ月毎に交換する。
累計被爆量が許容量より多くならないようパイロットが個人ごとに携帯し、
ノーマルスーツの腕部分に装着する運用なのだが・・
もちろん許容量を越えそうなパイロットは、搭乗禁止となる。
うかつにも、自分のノーマルスーツに貼り付けたままで、グリフィンに異動してしまった
この数日、機外に出る事が非常に多かった事もあり気にはなるのだが・・
(ここは少佐には黙っておいた方が無難か・・)
最近さまざまな事象が上手く回っておらず、幾つかが先送りの状況を感じていた
こういう時は注意が必要なのだが・・
ロッカールームでノーマルスーツに着替えるもちろん少佐の監視下ではある
というか、自分の部屋以外での着替えは久しぶりでもあり、
宇宙戦闘機パイロット時代の懐かしさが蘇って来た・・
昔はロッカールームがパイロット同志のコミュニケーションスペースにもなっており、
ここにテーブルなどを持ち込んで、カードゲームなどをしていたものだ・・
もちろん宇宙世紀になってから、戦争などは無く平和時代だった事もあるが、
そういう環境がチーム意識を高める事に貢献していたんだなぁ・・と、
無くなって解る事も少なくは無い・・
「このロッカールームって、今は単なる物置ですよね・・
ロッカールームをパイロットの待機場所に戻しましょうか・・」
「ん? 戻すと・・ 何が良くなるのかしら・・
私達からすると、立ち入り禁止区画のような、閉塞感があるんだけど・・」
「そんな風に感じられるのですか?」
「そうね・・ その部屋にパイロット以外も自由に入れれば、
そんな閉塞感も和らぐんだけど・・」
「では、『自由に誰でも入れます』って事にすれば
「それだけではダメなの・・ あなた達には解らないかも知れないけど
やっぱり、MSパイロットなどは艦の乗組員ではないので・・
他の兵や曹が逆に気になるものよ・・ というか、気にしているの!
自分達がパイロット達の邪魔にならないように!・・ってね♪」
「そうなんですか・・
やはり現在の運用になった理由が、ちゃんとあるんですね・・」
「そうね・・ 軍規なども沢山あるけど、軍規以外の運用には慣習が多いわね
でも、なぜそのような慣習が出来たのかなどは、意外と知らない事も多いわ・・
で・・ やっぱりスカーフを巻くと、凛々しく見えるわよ♪」
「ありがとうございます♪ というか、巻いてないと凛々しく見えないんだ・・」
「そうよ・・ ちょっと、だらしないわね・・ ♪
若いMSパイロット達も、みんなスカーフを巻けばもっと萌えるのに・・」
「確かにだらしないかもしれませんが・・ 理由はそっちですか?」
「あら♪ これは禁則事項だけど、本当の事はあなたレベルでは解らないはずよ♪
さて、この話はこれでおしまい!
これで大丈夫ね! 気をつけて行ってらっしゃい!
返却は主計兵やランドリーには出さず、そのまま持って来るのよ! 良いわね!」
「あっ・・ はい・・」(なにか・・ 色々と引っかかるんだが・・)
・・・
セイバーブースター(YUKIKAZE)に戻ると先ほどの兵長が待っていた・・
「どうだ! 出来たか?」
「ハイ・・ ただ、簡易的な配線を追加しただけですが
説明しますのでコックピットに上がっていただけますか?」
言われるままにコックピットに入る・・
「単純に連装トリガーへの信号を右と左に分けただけです、
こちらのレバースイッチの上側に『R』とマークしているのは
現在右砲にトリガーが繋がっている・・と言う事です」
「つまりレバーを下に下げると、左の砲ということだな?」
「はい、その通りです・・
ただ、エネルギーチャージを左右振り分けているわけではありません・・
少々邪魔ではありますが、サブパネルをこちらにつけています
このパネルで後部座席のビームエネルギーのチャージ状況モニター信号を
映し出しますので、表示レベルで判断しトリガーを引いてください
すると、片方だけのエネルギーがゼロになり、チャージが始まります・・
満タン側には入れようと思っても物理的に入らないのですが
すみません、本来なら安全装置として満タン側のチャージを止めるべきです
でも、そこまで出来ていません・・
ですので、片側の砲だけを連続で使用するような運用ではなく
左右交互にご使用いただければ・・と・・
あと・・ 連装同時発射には今は戻せません・・」
「そうか・・ 負荷がどのように作用するかは不明なんだな・・」
「すみません・・ でも、すぐにレバーを下にすると、
次発を発射可能ですので・・ それが大尉のご要望ですよね?」
「ああ・・ そうだ・・ 連装では威力があるのだが、
次発チャージに時間がかかりすぎる・・
というか、このトリガー切り替えレバーにタイムラグはあるのか?」
「ほとんど無いです、実は・・ 配線を直結していますから♪」
「なるほど、制御コンピュータは経由しないわけだ・・」
「すみません・・ 時間があれば・・
でも♪ 直結だから、トリガーさえ引けば、エネルギーが10%でも発射しちゃう
早漏野郎になっちゃいました♪
これは、使い方によっては上手く活用できるか?と・・」
「いや、それで良い! 良くやってくれた!」
「あと、ビーム砲発射時の反動は・・ 不明です
前にも言いましたように、アポジモーターとの連携は出来ていません」
「ああ・・ 解っている・・ ひょっとしたら扇状にビームが飛ぶかもな・・」
「ですね・・ 西暦時代に流行ったアニメの、ビームカッター!みたいな・・♪
ただ、発射の際に片舷加速をかけておくと、良いかも知れません・・
思い付きですけど・・」
「なるほど・・ ・・ いや・・ 考えたら片舷加速は操縦が難しい・・」
「すみません・・ 大尉ならなんでも出来ちゃうのかな?とか・・」
「お世辞を言っても、何もでないぞ♪ 出来ない事は出来ないからな!」
「で・・ コックピット右に出ているレバーが見えますか?」
「どれだ?」
「座席下になります・・」
「これか?」
「はい・・ それを前に倒すと、今回改修した全ての制御がパイロット側でできます。
通常は後方に倒し、コパイ側での制御ですね。 今は前に倒しています・・
というか、今回追加の機能だけをパイロットに・・ という切り替えではないので
ご注意ください!」
「よし! 概ね理解した・・ 他に何かあるか?」
「あと・・
後部座席にノーマルスーツを積んでおけと命令がありましたが・・ サイズは?」
「ああ・・ 9号でいいぞ・・」
「了解です!・・ というか、さすがですね♪」
「何が『さすが』なんだ?」
「いえ・・ 9号か11号かどちらなんだ?と、主計兵が悩んでいまして・・
どうやら、命令された戦隊長も、どちらなのか悩まれたようです・・
それで、2着ここにあるのですが・・ それを即答で9号だと言われたもので・・」
(し・・ しまった・・ つい無意識に・・ )
「いや・・ そうなのか?
というか・・ 多分9号だろうと言っただけだ・・
それが平均ではないのか?・・ 兵長はどう思う?」
「自分には、そちらの方の事は全く解りません♪
では、9号のノーマルスーツを後部座席に積んでおきます」
「まぁ、そういうことだな♪ 他には?」
「ありません! あとは大尉の腕とご武運があれば♪」
「了解♪ じゃ、すぐに出るぞ、発進準備に入ってくれ!」
「こちらYUKIKAZE・・ コントロールどうぞ・・」
「・・・ こちらグリフィンコントロール・・
大尉、いかがしましたか?」
「ああ・・ 戦隊長か艦長に繋いでくれ・・」
「・・・ お待ちください・・
・・・
あのぉ・・ 申し訳ありません・・
戦隊長が『艦長とお話すれば~』とおっしゃっておられますが・・
艦長は機関室に行かれていて・・」
(うっ・・ まだ誤解が解けてない・・ 一体何が悪かったんだ?・・
そ・・ そうか!♪)
「すまん、もう一度言う『戦隊長』に繋いでくれ!」
「・・・ お待ちください大尉・・」
「・・・ なぁに? 忙しいんだけど・・
ワサビィは、私ではなく艦長に御用事じゃないの~?」
(やはり・・ 戦隊長か艦長かなど2択にするからダメだったんだ・・)
「いいえ! この連絡は艦長ではダメなんです!
戦隊長でないと全く意味がありません!」
「・・・ そうなのかしら? 私には『艦長みたいな事』は出来ないけど・・
まぁいいわ・・ で・・ 御用はなぁに?」
(うう・・ やはりトゲがある・・ 少佐ぁ・・ 早く誤解を解いてくださいよ・・
と・・ ここは大人の対応を・・)
「まず、MS隊の編成は通達済みです。
グリフィンにはユカ少尉とドロシー軍曹の2機で、あとはヒポグリフです・・
申し訳ありませんが、ユカ少尉のジム215号機の修理を優先ください・・」
「・・・ それは約束が違ってない?」
「すみません・・
ヒポグリフには艦の火器が無いため、単艦になった場合艦を守れません・・
グリフィンの移動先は比較的危険が少ないとも判断され・・」
「・・・ 仕方が無いわね・・
解ったわ、何とかしましょう・・ で・・ YUKIKAZEは?」
「ハイ、YUKIKAZEの改修が完了し、発進準備も終わっています。
いかがしましょう?」
「・・・ そうなの? 整備班に『ありがとう』と言わないといけないわね♪」
「そうですね、次の作戦前にでも、慰労を兼ねた簡単なキックオフ会などを
企画いただけたら嬉しく思います・・
というか、グリフィンメンバーのモチベーションは非常に良い状態です♪」
「・・・ そりゃ、私の艦ですから♪ まぁ何か考えておくわね♪
じゃ、悪いけどすぐに出てくれる?
『オペレーター! YUKIKAZEにレイテの航行プランを転送して!』
では、発進準備にこちらも入るわね! 頼むわよ!」
「了解です、ありがとうございます戦隊長!」
・・・
発進準備を行ない、ヘルメットを装着した後に気が付いたのだが、
ヘルメットを装着し気密を確保すると、あの独特なほのかな香りに包まれる
想像すると、このスカーフから発する香りである・・
不思議だが、この香りは力がみなぎってくる! (よし!良い感じだ♪)
あとでクロヒッツ少佐に、何の香りなのか聞いておこう♪
「・・・ YUKIKAZEへ! こちらコントロール、フロントハッチオープンします!
バーニア噴射で船外に出てください・・」
「こちら、YUKIKAZE・・ ワサビィだ・・ 了解した!」
グリフィン右舷のフロントハッチが開き漆黒の宇宙が広がると思いきや
前面には明るく輝くピンポン球程度の大きさの地球が浮かんで見えた
グリフィンの向きを地球方向に転移してくれたのだろう・・
私は軽く後部アポジモーターを吹かし、ゆっくりとグリフィンから外に出た
ふと左方を見ると、ヒポグリフからこちらに向かうオレンジのボールが見える・・
ウーミン伍長がグリフィンに向かっているのだ・・
(ん? 点滅発光信号? 何・・
お・に・い・ち・ゃ・ん・・ わ・た・し・を・お・い・て・
ど・こ・い・く・の・・・ って♪)
私も発光信号で返答する・・
ち・き・ゅ・う・に・ね・ ち・ょ・っ・と・や・ぼ・よ・う・・
い・い・こ・に・ し・て・る・ん・だ・ぞ・・・
すかさずウーミンのボールから返答が返る
い・つ・も・ い・い・こ・だ・よ・
は・や・く・ か・え・っ・て・き・て・ね・・・
「グリフィンコントロール・・ YUKIKAZEワサビィだ・・ 行って来る!」
「・・・ 大尉・・ 無事のご帰艦をお待ちいたします♪」
「サンキュ♪」
(さて、アッシー君をさっさと終わらせるか・・)
そんな事を考えながら、YUKIKAZEのブースターを軽く吹かしグリフィンから離れた
そして、翼を軽く左右にバンクさせ、ウーミン伍長に返事を返しておく・・
(今は辛いだろうが・・ これも戦争だ・・ 強くなれよ・・)
グリフィンから少し離れた地点で、ブースターをフルオープンにする
強いGが身体にかかり、今更ながらこいつがトンでもないジャジャ馬であることを
再認識する・・
「<第42話>ソドン型巡航船」に続く・・・
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