授業者日記

バファローズ・スワローズのことや授業のことについて書いていました(現在は定期更新停止中)

仮説証明授業 《 図形と角度 》

2015年11月21日 22時05分14秒 | 仮説実験授業とその周辺の“たのしい授業”
仮説証明授業《 図形と角度 》は、幾何学と証明の入門にぴったりの授業書です。

科学の授業書のように、華々しい実験はありませんが、数学と論理の世界の美しさと奥深さにふれることができます。
なんだか凄いことを知ったような感じがして、しみじみとした余韻が残る授業書だと思います。

この授業書は、以下の5部構成になっています。

第1部 直線
第2部 三角形と四角形
第3部 平行線と角度
第4部 三角形の角の和のなぞ
第5部 四角形・五角形の内角の和

現在の教育課程では、中学校2年生で対頂角・同位角・錯角について学んだり、多角形の内角・外角について学んだりするようになっています。
《 図形と角度 》の第3部以降は、概ねその内容と重なっています。
ただ、小学校の高学年以上であれば、全編通して授業することは十分可能ですし、実践例も多くあるようです。

私も、中学生と一緒にこの授業書の第3部以降を楽しむ機会がありました。
クラス毎に差がありますが、たのしさで7割以上、わかりやすさで9割以上の生徒が好意的な評価をしているので、実施してよかったといえると思います。

以下、簡単に授業のことを記してみます。
内容に関することなども書かれていますので、ご注意下さい。

なお、仮説実験授業の進め方にはいくつかの約束事があります。
もしご自分で授業を実施されたい方は、
仮説社 にて授業書をお買い求めの上、
仮説実験授業のABC(仮説社刊)仮説実験授業をはじめよう(仮説社刊) などで授業運営法を確認してから実施してくださるようお願いします。

偶然にして、月刊誌『たのしい授業』の2015年10月号 が算数・数学の特集で、《 図形と角度 》の授業記録も載っています。そちらも参考になるかもしれません。

【1時間目】

■ 第3部(平行線と角度)

対頂角,同位角,錯角が主たる内容です。ここでは掲示物を工夫しました。OHP用の透明なシートに、マジックペンで同位角や錯角を 色つきで書いておき、それを画用紙に印刷した図の上に重ねるというものです。“錯角はZの角” というのは定番の教え方のようにも思いますが、これを最初に考えついた人は賢いですよね。
また、平行四辺形と菱形が登場したところで、定義についての話もしました。何かを定義するというのは難しいということ、世の中の多くのものについて定義はあやふやでも何となく分かったつもりになっていることなど、“犬 の定義” などを例に話してみました。


■ 第4部(三角形の角の和のなぞ)

第4部では "三角形の内角の和=180度” という有名な定理を証明します。
例えばノートに描いた三角形の内角を分度器で測って足してみるとか、三角形を重ねて切ってそれらを並べるとか、実験的な方法で調べてみることは、それはそれで意義があります。ただ、そうした方法には限度があります。
「すべての三角形が」 or 「どんな三角形でも」 内角の和が180度であることを言うには、論理を使うしかないのです。
授業書には、その論理が4人の登場人物による試行錯誤のストーリーで綴られています。そして、今回の授業では画用紙と透明シートを使って、その流れを黒板上で再現しました。
また、数学で言う「すべて」「どんな○○でも」は本当に例外なくすべてであること、100%の世界なのだということなどを伝えるとともに、定理や証明といった語を紹介しました。


【2時間目】

■ 第5部(四角形・五角形の内角の和)

第5部は四角形・五角形を切り口に、多角形の内角の和の定理を導く展開になっています。
そして、最後の問題がまことに興味深いのです。それは、「三角形の辺上に180度の角があると思うと、これは四角形とみなすこともできるのでは?」という問題です。
皆さんはこの〈 あやしい四角形 〉を四角形と認めますか? もし認めるとすれば、三角形 → 〈 あやしい四角形 〉 → 〈 あやしい五角形 〉 → 〈あやしい六角形〉 → …… と果てしなく続いていってしまうのですが・・・。ちなみに、生徒たちに訊いてみるとクラスにより結果はマチマチで、「認めたくない!」が多数のクラスもあれば、半々のクラスもあり、「認めても良いんじゃない?」が多数のクラスもありました。


■ 数学は概念を拡張する

そして、最後の話、『数学は概念を拡張する』でこの授業はおしまいになります。
「数学は堅苦しい学問だと思われることがあります。しかし、じつは数学は自分の都合のよいように記号や数を作ったり、言葉の意味(概念)を広げていく自由な学問といった方がよいのです」
授業書のお話では、0やマイナスの数のことが書かれています。今回の授業では、それに加えて、虚数単位の i のことにも少しだけふれてみました。
今回の授業を受けてくれた生徒たちの学力層は高く、この授業書の本篇の部分を彼らの多くは「易しすぎる」と感じるだろうということは承知の上で授業をしました。でも、この最後の話だけは、きっと興味をもって食らいついてくるだろうと、事前に予想を立てていました。
実際、授業の感想文を読んでみると、予想通り、この話のことを書いてくれた生徒が多数いました。かれらの視野が、ぐっと広がったのなら、大いに喜ばしい限りです。


【 生徒の評価と感想 】

3クラスの生徒たちの評価(たのしさ)は、以下の通りでした。
「5:とてもたのしかった」  42人(36%)
「4:たのしかった」     46人(40%)
「3:どちらともいえない」  25人(22%)
「2:つまらなかった」     2人( 1%)
「1:とてもつまらなかった」  1人( 1%)

☆ 《 図形と角度 》感想文より。括弧内の数字は「たのしさ」と「わかりやすさ」
 ・ 最後のプリントに「数学は自由な学問」と書いてあり、数学に対する見方が変わって、いい体験になった。(5,5)
 ・ 181°以上の角がある四角形でも360°になるということ。(5,5)
 ・ 平行線と角度の授業(=第3部)で透明シートを使って、対頂角,同位角,錯角をやってくれたので、わかりやすかった。もっと、0の数の話のような面白い話をしてほしい。(4,4)
 ・ 証明が楽しかった。(4,4)
 ・ 〈 あやしい四角形 〉に関する話が興味深かったです。(4,4)
 ・ 透明なシートを使って角度が同じということを教えるというところが分かりやすかったです。(4,5)
 ・ あやしい四角形が面白かった。数学のトリビアをもっと教えて欲しいです。(3,5)
 ・ とても説明が分かりやすく、よく分かった。幾何が楽しくなった。興味が持てる授業だった。もっとこの単元のことを知りたいと思った。(5,5)
 ・ 「あやしい四角形」が面白かった(5,5)
 ・ 「-1はiの2乗である」ということが分かった。(4,4)
 ・ 図があって、分かりやすかった(4,5)
 ・ 今日の授業の0の話やマイナスの事がとても面白かった。(4,5)
 ・ 今日の授業の先生の演説がよかったです(5,5)
 ・ 三角形が見方によれば四角形になれること。(4,4)
 ・ 数学のことがよくわかってよかった。(5,5)
 ・ 三角形の辺に適当な点をとると何角形にでもなれるということが、屁理屈だが納得できた。 □2=-1となる数をつくったことによる利点などの話が、テストとは関係なく、とてもおもしろいと思ったので、他にも数や図形に関する雑学がもっと知りたい。数学は元々好きだったが、知らなかったことや、新しい複雑な知識も非常にためになると思う。角度の定理や証明も、とても分かりやすかった。(5,5)
 ・ 〈あやしい四角形〉を四角形と見立てて考えることが、とても面白くて、数学に対する考えが深まり興味がわいたので、面白かった。(3,5)
 ・ 早く証明をやりたいです。(5,5)
 ・ 最後の「概念拡張」の話が面白い考え方だと思って、数学に興味をもてた(5,5)
 ・ 三角形の内角の和が180°の証明など、やったことがないものだったのでおもしろかった。解説もわかりやすかった。(4,4)
 ・ 数学の世界は本当に自由だということが分かり、何か凄いことを教わった気がしました。(4,5)
 ・ 今まで常識的に覚えてきたものを証明するところが難しかったけど、楽しかった。(4,5)
 ・ とても興味が湧いたし、勉強になりました。(5,5)
 ・ 授業の範囲から少しそれた、豆知識がとても面白かった。(3,4)
 ・ 言われてみればそうであるが、ややこしいと最後のは思った。(3,4)
 ・ 概念拡張の話に興味を持った。図形と角の語がおもしろかった。(4,5)
 ・ 三角形を四角形に見立てても、内角の法則が成り立つことを初めて知った。(5,5)
 ・ 専門的な部分まで教えてくれたところが良かったです。(4,4)
 ・ 定理や定義などの数学の根本的なところについて学べた。(4,5)
 ・ 会話をつかって説明されてて、よくわかり面白かった。(4,4)
 ・ すごいな。数学って本当に雄大な学問だなぁ(3,3)
 ・ 角度に興味を持てた。(5,5)
 ・ i^2=-1というのが実際に役に立つというのが意外だった。(4,4)
 ・ 図形から数学の概念まで飛んでおもしろかった。定理について考えるのが面白かった。(4,5)
 ・ あやしい四角形がおもしろい(4,4)
 ・ 最後の問題(=あやしい四角形)は腑に落ちなかった。(4,4)
 ・ 今回の授業は、これまでやってきた問題を解くというものは少なく、理解を深めることが中心であり、今までやらなかった学習をし、最後には数学の概念を学んでとてもためになったと思った(4,5)
 ・ あやしい四角形などが作れるなんて、考えたこともなかった。(3,4)
 ・ あやしい四角形について興味を持った。その後の数学とは何かについての文が良かった。(4,4)
 ・ 定理は自由だった。(3,3)
 ・ プリントが物語のように進んでいくのがおもしろかった。(5,5)
 ・ 三角形と言ってもいろいろな見方があることを知り、おもしろかったです。(4,4)
 ・ 数学は新しい概念を作る学問である。(4,4)
 ・ 授業の最後の方にやった「あやしい四角形」について興味を持った。(5,5)
 ・ もう少し静かな授業で、少しずつ雑談を入れていってほしい。授業自体はけっこう面白く、数学者になりたいと考えたりもできた。(3,4)
 ・ あやしい四角形が、なるほどと思い面白かったです。(4,4)




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