佐々木俊尚の「ITジャーナル」

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波紋を広げるカカクコム問題

2005-06-03 | Weblog
 カカクコム問題が、波紋を広げている。社会的責任のある東証一部企業が、果たしてあのような事後対応で許されるのかどうか。セキュリティに関して、情報を開示しないのが正しいのかどうか。

 ところで私は数日前、産経新聞の連載コラム「断」に、次のような原稿を出稿した。

 
日本の企業は、何か事故を起こしても「警察が捜査中なので」「原因が究明されるまでは何もいえない」といった理由にならない理由をつけて、とにかく情報を開示しようとしない場合が多い。たとえばJR福知山線の脱線転覆事故や、あるいは昨年春に起きた六本木ヒルズ回転ドア男児死亡事故などを見ても、それは明らかだ。

 しかし「だれに責任があり、だれが責任を負うべきなのか」という追及と、客観的かつ科学的な原因の分析については、本来はきちんと切り分けて考えるべきである。責任の所在が明らかになるまでは、原因につながる情報は公開しない方がいいという考え方は激しく間違っていると思う。

 最近も、その誤りがまたも繰り返された。「カカク(価格)コム」というインターネットのショッピングサイトが五月中旬、何者かに侵入され、結果として多数の顧客がコンピューターウイルスに感染してしまったという事件である。同社はたしかに被害者で、不正侵入した犯罪者は別にいる。本当に悪いのはそうした犯罪者なのだが、しかしそれにしても同社のひどい対応はいかがなものか。

 まず侵入の具体的な手口について「捜査に支障がある」「模倣犯を招く」といった理由で情報開示を拒否し続けている。このためネット業界各社は同じ手口による侵入を警戒しつつも、対策が取れずに困惑しきっている。

 おまけに社長が記者会見で「最高レベルのセキュリティだったのに侵入された」と言い放ち、「本当に最高レベルだったのか」「何の根拠が?」と業界からは疑問の声が多数上がった。会社の経営者ともあろうものが、根拠を提示できないような軽はずみな発言をするべきではない。


 結論から言えば、この原稿は没になった。

 産経新聞の担当編集者から、次のような趣旨のファクスが突然送られてきたからである。

うちの新聞にカカクコムのインタビュー記事が掲載されています。反省の弁もあり、一般読者にはこれで充分かと感じました。佐々木さんの指摘はもっともなのですが、加害者の立場で情報を開示しない企業に対して批判の刃を向けた方が得策なのではないかと思います。今回の原稿掲載は見送らせてください。


 言及は避けるが、「セキュリティ」というものに対する無理解は相変わらずひどいとしか言いようがない――そんな感想を抱いた。