雨模様の一日、午後から所用で東京へ行きました。平日の新幹線は意外にも混雑しており、前日に思い描いていた車内での優雅なコーヒータイムはお昼寝タイムになってしまいました。
自由になる時間は2時間、東京、上野界隈で今行きたい、行ける美術館となると「東京国立近代美術館」しかありません。『都路華香展』を見たかったのです。
平日とあって館内は予想外に静まりかえっていました。自分の視界内に人が2~3人しかいないのです。ひとつの絵を独り占めできる密度です。
京都生まれで竹内栖鳳らとともに楳嶺門下生の四天王と呼ばれた華香、この人の絵には京都でお目にかかっています。殆どすれ違っただけですが、見覚えがありました。今回この企画に当たっては海外からの取り寄せもあったようですからおおむね初対面です。
元々染織作品の下絵だったという『吉野の桜』。桜の木に花びらが白く煙っています。50㎝ほどの距離から見ると、米粒大の花びらが幾重にも丁寧に描かれており、遠くから煙のように見えたのは花びらの輪郭がぼかされているからでしょう。
『緑波』草原のような海原。
『松の木』松の梢越しの満月。満月のくっくりとした存在感。
この人は建仁寺の禅師に参禅していたそうですが、その精神世界を感じるには時間があまりにも不足していました。それと自分の世界の奥行きも。息せき切って美術館にかけ込み、日常世界との切り離しができないまま絵画に向かったからでした。そう感じてはいたけれど、それほど悲観的にもならず、絵画の空間を楽しめました。人が少なかったことが最高の幸せでした。
欲張って大観の『生々流転』と常設展の一部も走って通り過ぎました。これまでこの美術館を訪問しなかったのは人混みを恐れてのことでしたが、平日にこれほどの余裕で見られるとは・・・都会の美術館訪問のこつをつかんだような気がしました。
1年に2~3回ぐらいは仕事を休んで、平日にこんな美術館めぐりができればと思います。どうせこれからもまとまった自由時間の確保は難しいのだから、もっと割り切って生きなければと思います。