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第6部(1)ボーナスゼロ 疲弊する九電社員、過酷勤務続く 産経より

2014-01-17 09:06:52 | (英氏)原発・エネルギー問題

ボーナスゼロ 疲弊する九電社員、過酷勤務続く

2013.12.15 21:45 (1/5ページ)九州から原発が消えてよいのか
ボーナスゼロにもかかわらず、社員は過酷な勤務を続ける九州電力の本社=福岡市中央区(安部光翁撮影)

ボーナスゼロにもかかわらず、社員は過酷な勤務を続ける九州電力の本社=福岡市中央区(安部光翁撮影)

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 「情けないですよ。クリスマスが近いのに、娘2人にプレゼントを買ってやる余裕もない。これ以上ボーナスゼロが続けば、もう限界ですね…」

 九州電力の新小倉火力発電所(北九州市、計180万キロワット)の男性技師(42)は表情を曇らせた。

 妻、県内の私立大学2年生の長女と、公立高校1年の次女の4人家族。大学の学費は半期で30万円、住宅ローンのボーナス払いの25万円を足すと計55万円となる。社員平均計約160万円の夏冬のボーナスを充てればなんとかなるはずだった。

 ところが、東京電力福島第1原発事故のあおりにより、玄海、川内両原発の計6基がすべて停止したことで九電の経営状況は急激に悪化した。昨年冬のボーナスは7%減にとどまったが、4月からは給与が5%カットされ、今夏のボーナスはゼロ。技師は「秋以降に原発が動けば」と思い、何とか糊口を凌いだが、11月12日に労使が妥結したのは「冬期賞与見送り」だった。

 これにはさすがに愕然とした。「緊急用」に貯めていた預金百数十万円は今冬にも底を尽きる。もし来夏もボーナスゼロならば借金するしかない。

 この技師だけではない。九電の社員約1万3000人の多くが似たり寄ったりの境遇に追い込まれている。今冬からパートを始めた若手社員の妻も少なくない。車を売ったり、維持費が少なくて済む軽乗用車に乗り替えた社員もいる。九電は、給与1カ月分の退職金前払いに応じる支援策を打ち出したが、社員が納得するはずもない。

 夏冬のボーナスゼロは社員の家族や親族をも動揺させた。「本当に九電に勤めていて大丈夫なの?」「もう原発は再稼働できないんじゃないの?」-。社員にとって妻や子供からこう言われるのが一番辛い。将来を悲観し、退職する若手社員も目立ってきた。

 それでも反原発団体は九電本社前でデモを繰り広げ、一部メディアは「九電社員は高給取り」と容赦ないバッシングを浴びせる。

 言うまでもないことだが、九電が原発事故を起こしたわけではない。「九州の人々のために日々働いている俺たちが、なぜこれほど批判されなければならないのか」。九電ではそんな怨嗟の声が渦巻いている。

 

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 昭和26年の創業以来初めて「冬の賞与見送り」を飲んだ九電労組にとっても針のムシロの日々が続く。

 九電労組幹部は九州各地の職場巡回を続けているが、組合員は冷ややか。「いつまでボーナスゼロが続くのか?」「来夏は絶対にボーナスゼロを回避してほしい」「原発再稼働のスケジュールを会社側はどう考えているのか」-と詰め寄られることもしばしばだという。

 労組幹部は「最大限の努力はします」とひたすら頭を下げるが、実際の労使交渉は難航を極めた。

 「ボーナスゼロじゃあ組合員の士気にかかわる。たとえ少額でも出せないか」

 夏の賞与をめぐる労使交渉が佳境に入った4月。九電本社(福岡市中央区)の一室で、九電労組副執行委員長の田中賢一は、九電の労務担当に食い下がった。

 「少なくとも賞与という形では無理だ。値上げ直後ということもあり、世間の理解が得られない」

 押し問答は続き、平時なら3~4日で終了する労使交渉は、日曜も含め十数回に及んだ。2時間の予定が大幅に延び、深夜まで続くこともあった。

 労組側が恐れたのは、賞与支払いを迫る余りに、会社側が人員削減に手をつけることだった。

 田中は労使交渉の場に一冊の本を持ち込んだ。作家、百田尚樹のベストセラー小説「海賊と呼ばれた男」。出光興産創業者、出光佐三(1885~1981)の半生を小説化した作品だが、終戦直後、倒産の危機に瀕した同社の役員会で、佐三が、人員整理を進言する重役らを一喝する場面がある。

 「ならん、ひとりの馘首(かくしゅ)もならん!」

 田中が本を差し出すと労務担当者は深々とうなずいた。「私も読みました。よく分かっています…」

 労務担当者からこの話を聞いた九電社長、瓜生道明は「私も労組と同じ気持ちです」と答えた。

 「組合員の生活を守るのが労組の役割。九電そのものが倒れれば意味がない」「苦しみはみんなで分かち合うしかない」-。田中は、執行委員長の久保友徳らと協議を重ねた末、「賞与ゼロ」をのむことを決めた。こうして組合員の雇用だけはなんとか守ったが、労組幹部の表情は険しい。

 「このまま原発が動かないならば、一体どうすればよいのか…」

 

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 原発停止で、かつて超優良企業だった九電の財務状況は「火の車」となった。

 原発6基分の電力は、火力発電8カ所17基をフル稼働させて補完しているが、円安もあり、重油や液化天然ガス(LNG)の調達費がかさみ、1日十数億円、月500億円の赤字を垂れ流す。平成23年度の連結決算は1663億円の最終赤字、24年度は3324億円となった。

 それだけではない。原子力規制委員会が示した原発安全対策の新基準に対応するための費用は総額2千億円を超える。4月に企業向けの電気料金を平均11.94%、5月に家庭向け電気料金を平均6.23%の値上げに踏み切ったが、この程度の値上げで“出血”は止まらない。

原発停止前に6500億円あった内部留保は、25年度中間決算で730億円にまで減った。自己資本に手をつけざるを得ない状況に陥るのは時間の問題となっている。

 とてもではないが、妻や子に「九電は大丈夫だ。安心しろ」と言えない。ある九電社員は「ボーナスゼロ以上にそれが一番辛い」と語った。

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 どんなに赤字に陥ろうと電力は止められない。不測の事態で大停電を招けば、あらゆる企業は大打撃を受ける。病院や介護施設の機能が麻痺すれば、何人の命を奪うことになるか分からないからだ。

 九電社員には、この精神的苦痛の方が、経済的な苦しみよりよほど大きい。

 しかも今夏は各地で35度以上の日が続く記録的な猛暑に見舞われた。

 原発が動かない以上、電力需要増は火力発電所のフル稼働で補うしかない。九電は震災特例で認められた定期検査の延期を重ね、それでも足らない時は他社からの電力融通でしのいだ。ピーク時の電力融通は120万キロワット。9月まで関西電力大飯原発が稼働しており、他社に融通できる余力があったことに救われた。

 そんな中、火力発電所では些細(ささい)なトラブルも許されない。この夏は幹部社員もボイラーやタービンのパトロールに加わった。タービン建屋内の気温は50度に達する。社員らは頭から水をかぶったように汗だくになりながら24時間態勢で点検作業を続けた。

 それでも巨大プラントでの「トラブルゼロ」は不可能に近い。

 8月2日には、石炭火力の松浦発電所1号機(長崎県松浦市、出力70万キロワット)がボイラートラブルで停止し、電力使用率は事前予想の89%から94%に跳ね上がった。懸命の努力で8月19日に運転再開にこぎつけたが、この日の電力使用率は「厳しい需給状況」となる97%に達した。

 もし運転停止したままだったらどうなっていたか。少なくとも「原発がなくても夏を乗り切ったじゃないか」という脱原発派の主張は現実と乖離(かいり)している。

 ある火力発電所幹部はこう打ち明けた。

 「帰宅しても携帯電話が鳴る度に緊張しましてね。何かトラブルがあったんじゃないかと思って。夏場は肉体的にも辛かったけど、精神的にはもっと辛かったですよ…」

 大変だったのは発電所の社員だけではない。4月以降の電気料金値上げで各地の営業所社員は、苦情対応に追われた。

 「なぜ営業所に冷房を入れているのか? お前らが電気を一切使わないなら値上げをしてもいいぞ」「値上げした分の料金を払うつもりはない」-。どんな理不尽な苦情にも、社員はひたすら頭を下げ続けた。

 繰り返すが、九電が原発事故を起こしたわけでもなく、社会的制裁を受けるべき瑕疵(かし)があったわけでもない。民主党政権の原発政策のブレに翻弄されたあげく、企業存亡の危機に瀕し、社員らは苦しんでいる。関連会社を含めれば、九州経済界に及ぼした悪影響は計り知れない。

 新小倉発電所の別の男性技師(45)は、高さ50メートルのボイラープラントの上に立ち、北九州市の夜景を見つめながら言った。

 「原発事故の前も後も私たちの使命は何も変わりません。ただ、この街の明かりを一瞬たりとも絶やさず灯し続けることなんです」

 (敬称略)


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