第１部（３）安易な「脱原発」なら「倒産」も 全社員タダ働きでも赤字 産経から転載

第１部（３）安易な「脱原発」なら「倒産」も　全社員タダ働きでも赤字　

2012.9.26 08:14 （1/4ページ）［九州から原発が消えてよいのか］

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　「九電さんとの今までの関係は十分承知しておりますが、追加融資はなかなか難しいですよ。電気料金値上げはするんでしょ？」

　今年夏前、福岡市内のあるメガバンクの支店。汗をふきふき頭を下げる九州電力経営企画本部幹部を応対した銀行幹部は、追加融資の要請を慇（いん）懃（ぎん）ながら冷徹に突き放した。「九州経済界の雄」として君臨してきた九電には、さぞ屈辱だったに違いない。

　九電は平成２３年度連結決算で過去最高の１６６３億円の最終赤字を計上した。玄海、川内両原発停止による電力不足を補うため、火力発電所の稼働率をアップしたことで燃料費が５２０２億円に跳ね上がった上、他の電力会社に融通してもらった電力の購入費が２０６０億円に及んだからだ。

　九電は今年３月、２４年度中に１２００億円をコスト削減する緊急経営対策を策定。九電側は各金融機関でこの詳細を説明し、追加融資を求めて回ったが、どの金融機関も簡単には応じようとはしなかった。

　資金調達を担当する九電事業計画グループの松本一道課長はこう打ち明けた。

　「いつ原発を再稼働できるかわからない。金融機関はそれを見抜いているからそう簡単に融資には応じてくれないんです。正直言ってこんなに資金調達に苦心したことはなかった…」

　結局、日本政策投資銀行の支援方針決定を受け、８月に地方銀行１４行から約５００億円の融資が決まり、メガバンクからも一定の融資を受けるめどが立った。加えて５００億円の社債発行にもこぎつけた。

　これにより「資金ショート」という最悪のシナリオは免れた。とはいえ、火力発電用燃料費として毎日十数億円を費やし続ける“自転車操業”は続く。松本氏はこう語った。

　「もう電力会社は未知の領域に足を踏み入れているんです。どこまで耐えられるか…」

２４年度の経営状況の厳しさは２３年度の比ではない。昨年は玄海、川内両原発が順々に止まっていったとはいえ、原発稼働率は年平均で３割ほどあった。しかし、昨年１２月２５日の玄海原発４号機停止を最後にすべての原発は止まった。２４年度はまだ一基も動いていない。

　当然、これは九電の業績に跳ね返った。

　２４年度第１四半期（４～６月）の燃料費と購入電力料は２３２６億円。原発が計画通り稼働していた２２年度同期と比べて２・７倍にも膨らんだ。結果、３カ月間の赤字は１００９億円に上った。

　政府の需給検証委員会は２４年度を通じて九電の原発が一基も稼働しなかった場合の赤字を３８８５億円と試算した。瓜生（うりう）道明社長も９月７日の中間決算見通し発表の際、「通期赤字は３千億～４千億円になる」と語っている。

　これは、九電が長年積み立ててきた剰余金をすべて吹き飛ばす水準だ。九電は人件費削減や保有資産売却を続けているが、全社員（１万２８００人）が１年間タダ働きをしたとしても１６００億円の削減にしかならず、とてもではないが、通期赤字の埋め合わせにはならない。九電の経営戦略を担う中野隆・企画グループ長は悲壮な表情でこう語った。

　「第１四半期は想定していた中で最悪の数字だった。２４年度通年もおそらく最悪のシナリオをたどることになるでしょうね。圧倒的な燃料費のボリュームはもはやコスト削減では太刀打ちできない…」

　　

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　巨額赤字を出し続ける九電にとって「倒産」の２文字はもはや絵空事ではない。財務の健全性を示す自己資本比率はそれまでの２５％前後から平成２３年度は１９％に急落した。

それどころか、政府が原発廃止を閣議決定すれば「即死」する。恐ろしいことに政府はそんな試算を平気で公表しているのだ。

　経済産業省は６月、民主党の求めに応じ、２４年中に全原発の「廃炉」を決めた場合の試算を公表した。

　これによると、九電は原発６基の廃炉により約４４００億円の特別損失を計上しなければならない。

　九電の貸借対照表に記載された原発６基と核燃料の資産価値は５１２８億円。これも無価値となる。バランスシートは一気に崩れ、債務超過は時間の問題。融資する金融機関があるはずもなく、九電の企業体としての命脈は絶たれる。

　聞こえのよい「脱原発」「原発ゼロ」が何を意味するか。全国の電力会社の「死」である。安直に「脱原発」を唱える政治家たちは、この巨大な負債を国民に負わすつもりなのか。

　　

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　九電の「倒産」を回避するには２つしかない。原発を再稼働するか。そうでなければ電気料金を大幅に値上げするか。

　もともと九電の電気料金は、沖縄電力を除く全国の電力９社の中で３番目に高い水準だった。人口密度が低い上に集落が山間部まで広い地域に点在しているため長い送電設備が必要となるからだ。人が居住する離島が２２もあり、島ごとに発電・送電設備をおいていることも発電コストを引き上げている。

　それだけに他地域の電気料金との格差解消は九電の悲願だった。国策に沿って、ランニングコストが低い原発の比率を高めた理由はここにある。

　初の原発である玄海１号機は昭和５０年に運転を開始し、その後も次々と原発を建設した。これに伴い、九電は昭和６３年以降、９回の値下げを実施し、北陸電力に次いで全国で２番目に安い電気料金を実現した。

 

安い電気が工場進出を促し、工場進出により電力需要が増え、さらに電気を安くできる。原発導入による「正のスパイラル」はつい最近まで続いていたのだ。

　ところが、強みだった原発比率（４割弱）の高さは、福島第１原発事故後、一転して弱みと化した。

　原発稼働率がゼロであっても核燃料の冷却や維持管理は必要だ。現在は原発６基の維持費が年約１６００億円も九電の経営を圧迫している。廃炉にするとしても１基３００億円～７００億円の廃炉費用と代替電源開発が必要となる。

　もはや電気料金値上げは避けられない。九電幹部はこう打ち明けた。

　「我慢できるところまで我慢するが、今年いっぱいまでか…」

　九電は２５年春から１０％の値上げを検討しているが、これは原発３基の再稼働を前提とした数字。このまま再稼働できなければ２０％以上の値上げを考えなければならない。脱原発による廃炉となると電気料金は現在の２倍に跳ね上がる。

　「債務超過になって九電がつぶれ、私が首になるだけならばそれでいい。だが、電気代が高騰したり、電力供給が不安定となって、九州経済全体に迷惑をかけることだけは絶対に避けなければならない」

　瓜生社長は最近、社員らにこう語ることが増えた。九電が直面する危機の巨大さを物語っている。