東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

GUPAカンファレンス

2015-08-25 20:45:25 | その他

 先週はGUPAカンファレンスというカンファレンスがありました。GUPAカンファは、東埼玉病院総合診療科・東京医療センター総合内科・栃木医療センター内科の医師で行っているWeb上のカンファレンスです、月に1回程度のペースで行っています。以前は年に3回くらいのペースで実際に集まってやっていたのですが、それはなかなか負担もあるので、Web上で頻回に行うようになりました。1回だいたい30分程度で行っています。

 テーマは3か所が持ち回りで、それぞれ考えて、プレゼン資料を用意して行っています。それぞれ地域やセッティングが異なるので、内容も各施設の特色が出て興味深いです。特に形式や内容のしばりはありません。症例ベースでの相談や報告であったり、各施設がやっている勉強会やカンファレンスの内容紹介であったり、1つのテーマについて調べて、それについてディスカッションしたりなど様々です。

 今回は、当院が当番であり、後期研修医の早坂先生がプレゼンテーションしてくれました。(準備は橋川先生と分担して行っています)

 内容は、当科で行っているリハビリ医とのカンファレンス内容を事例を通して紹介し、その意義について考察してくれました。(リハビリカンファレンスについては2015年4/15の記事を参照願います)

 今後も各施設の特色を出しながら、継続していきたいと感じています。

 


どのような患者さんが入院契機にADL低下しやすいか?

2015-08-23 16:26:06 | その他

 リハビリカンファレンス(このカンファレンスの内容については2015年4/15のブログ記事参照願います)で、初期研修医からの疑問でよく出るものとして、急性疾患で入院した高齢者で、どのような人を廃用予防でリハビリ依頼するかという話題があります。当然、リハビリ依頼という意味ではその病院のリハビリのマンパワーや病棟でどれだけ看護さんが介入できるかにもよるのですが、入院を契機にADL低下しやすいハイリスクな患者さんを、リハビリテーションや病棟でどのようにADL低下しないようにアプローチするかは重要なことと思います。ということで本日は「どのような患者さんが入院契機にADL低下しやすいか?」というハイリスク患者さんの同定について文献的にしらべたものをアップします。

 

 <どのような患者さんが入院契機にADL低下しやすいか?>

•急性イベントがあった際に、在宅よりも入院の方がADL低下しやすい?

Leffらの報告(J Am Geriatr Soc 2009)

 前向き研究(RCTではない)。肺炎・COPDや心不全の急性増悪・蜂窩織炎などで入院が必要な患者214例。(在宅84例、入院130例)

 在宅群の方が、イベント2週後のIADLの変化が有意に少なかった(ADLはP=0.10と有意差はなかった)

•入院した高齢者の3〜6割がADL低下する

 (Boydら,J Am Geriatr Soc 2009  Covinskyら, J Am Geriatr Soc 2003)

•CGA(高齢者総合的機能評価)が入院患者のADL低下を防ぐのに有用である

Van Craenらの報告( J Am Geriatr Soc 2010)

 メタ分析で、CGA群の方が有意に機能低下が少なかった。

 しかし、CGAを全例に行うのも大変・・・もっと簡便なものは?

 

•入院でADL低下しやすい患者を簡便に判断する方法は?

★HARP(Hospital admission risk profile)

Sagerら( J Am Geriatr Soc 1996):急性疾患で入院した高齢患者が対象

 年齢・認知機能(MMSE)・IADLで評価

★ISAR(Identification of seniors at risk)

McCuskerら(J Am Geriatr Soc 1999) ER受診高齢患者が対象

 ①自宅での介護者の存在なし ②依存が増えてきている ③入院歴 ④視力障害 ⑤記憶障害 ⑥3剤越える内服  3点以上ハイリスク

★Hoogerduijinらの報告(J Clin Nurs 2010)

 65歳以上の一般内科入院患者177例を対象に、ISAR・HARP・COMPRIを比較(退院3か月までに入院前よりADL低下あったか)

 感度・特異度  ISAR:93%・39%,COMPRI:70%・62%,HARP:21%・89%

★ISAR-HP(Hoogerduijinら Age and Ageing 2012)

 ①入院前に助けが必要なIADLあり(1) ②歩行補助具の使用あり(2) ③旅行に助けが必要(1) ④14歳越えてから教育をうけていない(1)

 2点以上でリスクあり 感度89%・特異度41%

 

上記のスコアを実際に使うかは別として、やはりIADLで難しくなっている部分が増えてきていたり、なんとか動けていたみたいな人(歩行補助具が必要など)がハイリスクな人なのかなと、実際の臨床におきかえても思いました。あとは認知機能ですかねえ。

ちなみに、以前のリハビリカンファレンスで、リハビリの先生がおっしゃっていたのは、病前のADL・入院時の活動状況(元々のADLよりどれくらい低下しているか)・今後の見通し(数日以上の臥床が続くか)などで判断するのがよいのではとコメントをいただきました。確かに、研究であると「点」で判断するものがどうしても増えてしまいますが、実際の臨床では「線」で判断し、廃用のリスクを考えることが重要であると感じました。

 


アルツハイマー型認知症に伴うてんかん発作について

2015-08-16 04:26:46 | カンファレンスの話題

 施設診療していると、アルツハイマー型認知症(以下AD)に伴う初発てんかんに遭遇することがしばしばあります。ADや血管性認知症があると10倍ほどてんかん発作のリスクが高まるとの報告があります(Imfeld Pら,2013)。抗けいれん薬のデメリットも出やすいため(食事とれなくなるなんてことも時々・・・)、どのようなタイミングで投与開始するかは迷う場合もありますし、薬剤量なども悩ましいところです。最近もADのある施設の患者さんがてんかん発作で入院したのもあり、以前、ADのてんかんレビュー2つと高齢者てんかんレビュー1つをまとめたことがあるので、その内容を今日はご紹介させていただきます。 

 

★ADてんかんレビュー2つと高齢者てんかんレビュー1つを中心に

•AD患者のてんかん治療におけるRCTはなし
 
•高齢者のてんかん治療に関する文献がほとんど

①高齢者は若年者と比べて治療への反応はよい(6割が症状なしに)

②しかし、副作用で中止多い 65歳以上:64%vs65歳未満:33%

③新世代の抗痙攣薬のほうが、副作用少なくコントロール可能

(3つのRCTより、CBZよりGBP・LTGの方が)

④70歳以上では半量から開始が推奨 

(Cameronらの観察研究で、血中濃度正常下限以下が有意に副作用少と痙攣コントロール良好と関連)

そもそもどのような人に開始したほうがよいかは不明・・・

★高齢者におけるQOLと抗痙攣薬について(Saetreら,2010)

65歳以上の新規てんかん患者に、CBZ・LTG投与⇒ともに健康関連QOLは40週時点で、有意な改善なし

★初発高齢者てんかんにおける再発のリスク(Kanitpongら,2013)

脳波で異常ありは多変量解析で有意差あり(non-specific abbormalityはOR:1.24, epileptiform discharge5.72)

 

 ADのてんかん発作に関してはまだまだ不明な部分が多いようです。薬剤適応に関しても、予後以外に、療養の場や本人のQOLにどのように影響するかなど、多角的な面からの判断が必要かなと思います。


False optimismとcollusion(馴れ合い)について (朝の勉強会)

2015-08-10 21:10:02 | 勉強会

 今日は少し前に外山先生が、勉強会でやってくれた内容についてのせます。がん患者において、医師と患者のcollusion(馴れ合い)が、回復への誤った楽観に関与していたという内容の質的研究を紹介してくれました。以下に内容をのせます。

 Collusion in doctor-patient communication about imminent death: an ethnographic study. AM The et al. BMJ, 2000

•オランダの大学病院の呼吸器科看護師による、肺小細胞がん患者35名を対象としたエスノグラフィー。False optimismがどのような結果として行っているのかを観察して、質的に分析している。
 
•結果
★一般的な経過:5つのステージ:
–①existential crisis at diagnosis ②focus on treatment ③relative peace of mind ④another existential crisis at recurrence ⑤final crisis(no further Tx)
★予後の隠蔽:
–診断時の医療面接で、完治は難しいことは伝えられるが、具体的予後についてはほとんど語られない。
–患者ごとの多様性について医師は多く語る
–「レントゲンがきれいになった」との情報を見せられると、患者はそれ以上の予後などについては質問しなくなる(治ったと信じ込む)
–医師が予後について語るのは、治療上必要な時と、治療不能となりGPに送り帰そうと考えるときのみ。
★治療の強調: 要因は医師側だけでなく患者側にも
–医師も患者も治療のことばかりを話題にし、予後のことを語ろうとしない (とくに2.3ステージ)
–「患者が尋ねない」=「知りたくないと思っている」と医師は思ってしまう→言うべきことと言わざるべきことのバランスを見つけにくくなる
–患者が「知りたくない」という態度をとり続けると、医師はいら立ちを感じ、患者が死に近づいていることを気づかせようとする→しかし、患者はより真実を避けたがる
★あいまいさ:
–意図しなくても、あいまいな医師の言葉。患者にとっては医師よりも多くの意味を持ちうる。
–治療効果に対して過度な楽観視を誘導することを意図した、あいまいな表現も。「もうすっかり肺はきれいですよ」
–‘curative aura’:「緩和的治療である」と医師が言っても、そこに出現してしまう…
★知ること と 知らないでいること:
–はじめは、医師と患者側は”治る筋書き”を維持するために共謀する
–次第にその筋書きに疑問を挟みつつも、その疑問を否定する
–予後が短いことを自覚しながらも認めようとしない。知ることと知らないでいることの間をゆれうごく
–医師も患者も、もう治療法がなく死が切迫していることを自覚するようになるが、それでもなおる筋書きについて語り合う
★後悔: 治る筋書きと楽観は・・・
–治療を耐えるための支えになる一方で、それが幻想だったことが明らかになるときには大きな痛みに変わる。
–死が迫っていることを受け入れ、その準備をする時間を奪い、恐怖に基づいたものではない治療を考えることを妨げる。結果として、医師と患者双方に後悔をのこす。
 
•考察
★“medical activism”:不確定要素をわかりやすい医学的モデルで埋めようとする。死から逃れようとする西洋的な指向。
★短い期間で再診すれば、常に目先の治療を考えていればよく、長期的なことを考えずに済む
★患者は医師が提供する逃避的な機会を喜んで受け入れ、それが当然とされている。そしてそこから抜け出せなくなる。
★Collusionのサイクルから抜け出すには:医師側からの、patient-orientedなアプローチが必要。また、医師ー患者でない第三者”treatment broker”の介在が有効かもしれない
 
 
 前回のアドバンスケア・プランニングのはなしとも関連しますが、非常に解釈は難しいなと感じました。このはなしは、すべてを言語的なコミュニケーションで行うことが前提となっている部分もあるのかもしれませんが、実際には、(特に日本においては)「言わずもがな」という形もあると思います。しかし、「言わずもがな」の難しいところは「本当にそうなのか?」という部分でもあります。グループ診療を行っていると、そのあたりを他の医師がどう思っているか?他の職種はどのように感じているのか?を確認することも可能ですし、そのようにすることも多いです。その結果、「(患者・医師)お互いに多くを語らない」という結論に達することもありますし、それがうまくいく場合もあるかとは思います。しかし、思いこみで、何らかの意思決定がなんとなく触れずに過ぎていってしまうということもあるのかもしれません。個人的にも「この人は、最期の場をどこにしたいか話しはしないが、家族が介護してくれないだろうと感じて、そのような話しをしないのだろう」と思っていた患者さんが、ある看護師さんには「家に帰りたい」と言っていて、結果、その看護師さんの働きかけで消極的であった家族も在宅介護を行い、最期は在宅みとりとなった例を経験しました。この看護師さんは、上記の”treatment broker”にあたるのかもしれません。この論文自体は緩和ケアへのきっかけを逃していることに関して扱っているのだとは思うので、少しはなしがずれていると思いますが、医師患者関係のなかで、あらゆる意思決定を行う際にも通じる部分があるのかとも思い、そんなことを思いました。
「馴れ合い」も、医療者や患者さんによって、よい作用に働くこともあるし、悪い方向にいくこともあるのかもしれません。

アドバンス・ケア・プランニングをどのようなタイミングで行うか?(朝の勉強会)

2015-08-05 21:24:55 | 勉強会
 今回は、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)をどのようなタイミングではじめればよいのか?というテーマについて調べてみました。訪問診療や施設診療においては、虚弱といえる高齢者を多く診察させていただいておりますが、状態が落ち着いていると、なかなかACPのとっかかりがなく、流れていってしまう部分があります。ACPについての話題が取り上げられる機会が多くなっているなか、現在わかっていることについて少し調べてみました。
 
•The GSF Prognostic Indicator Guidance 、RADPAC、Residental home palliative care tool、SPICT、 NECPAL-CCOMS-ICO、Quick GUIDEなどのツールがある。

 どれも、PCセッティングでの妥当性の検証はされておらず、さらなる検討必要と。

                            (Maas EATら,BMJ Support Palliat Care 2013) 

•RADPAC以外のツールではすべてSurprise questionが含まれている。
 
•Surprise questionの有用性について
 
 ★腎不全・透析患者

 ①腎不全患者における1年後生存:感度66.7%・特異度77.9%(多職種で判断)

                          (Fevi Kら,BMJ Support Palliat Care 2015) 

 ②透析患者における半年後生存:多変量解析で、HR:2.71(腎内医が判断)

                             (Cohen LMら,Clim J Am Soc Nephrol 2010)

 ★がんについて

 ①進行がん(StageⅣ) 1年後の生存:42名のGP患者231例の患者を対象とした前向きコホート。感度69.3%・特異度83.6%(GPが判断)

 ②短期間(7日・30日)の予後:PCU・PCT・在宅緩和ケアの患者2361例を対象とした前向きコホート。   (Hamanoら,Oncologist 2015)

 7日後生存⇒感度84.7・特異度68.0%

 30日後生存⇒感度95.6%・特異度37.0%

 ★高齢者について

 12名のGPに対して、予後1年以内の可能性があるとGPが考えた80歳以上の非がん22例について半構造化面接を行った。ACPを行う際に、 Surprise questionを使用していなかった。その理由は判断が主観的な面が大きいことであった。(Elliot Mら, BMJ Support Palliat Care 2014)

     Surprise questionに関して、がんではある程度の有用性があるかもしれないが、それ以外ではまだまだ検証不十分か・・・?

 

•ACPを行うタイミングが不明確な中、実際にどのようにGPはACPを開始しているのか?

①Schonfeldらの報告(Am J Hosp Palliat Care 2012)

合併症を複数もつ高齢者とその家族に終末期ケアの話しを導入する臨床医の経験について、フォーカスグループ(4つ)を行い、質的に分析。

⇒3つのテーマ(1)単一の明らかな終末期の病気(がん)をもつ患者・家族とEOLの話をするよりも、合併症を複数もつ高齢者・家族と話す方が困難 (2)EOLの話をはじめるときに、臨床医はこれらの議論を促進する身体的・社会的なサインに依存していた。また、合併症を複数もつ高齢者・家族と話すことが困難な理由は、はっきりしたきっかけがないことやそれらの話を促進することがないことであった。 (3)EOLをはじめる3つのアプローチ(direct,indirect,collaborative)

②Claessen SJらの報告(BMC Fam Pract 2013)

GPがどのように緩和ケアが必要な患者を判断しているか?20名のオランダGPへインタビュー行い、質的に分析。⇒GPはいくつかのシグナルのコンビネーションにより判断していた。シグナルはしばしばわかりづらいもので、患者からのシグナル(ケアへの依存の増加や回復が乏しい)・家族からや専門職からのシグナルである。COPDや超高齢者などは、がんのように治療と緩和のphaseの区別がつきやすいものと比較して、緩和ケアの必要性について認識するのが困難。(緩徐に認識)

 

 このような結果もみると、やはりACPを行うタイミングというのは、明確なものはなく、特に非がんにおいて難しいのだなと感じました。「言わずもがな」といった文化がある日本ではさらに、個々の患者さんによってはACPを行うべきなのかどうかといった議論もあるのかもしれません。まだ自分のなかで考えがまとまっていない部分が多いテーマだなあと今回あらためて調べたり、考えたりして感じました。