東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

早期からの緩和ケアについて

2015-12-28 20:47:30 | 勉強会
 在宅医療を行っていて、がん専門医から進行がん患者さんの訪問診療依頼をいただくタイミングは様々です。時には、がんセンターや大学病院などのがん治療医の外来を受診しつつ、訪問診療も開始となるというシチュエーションもあります。そのなかで、自分たちはどのような役割を担っていくのか・・・今回はそんなことを外山先生が勉強会でテーマにしてくれました。
 
 
<早期からの緩和ケアについて>
 
•早期緩和ケアの効果(進行NSCLC患者)→QOL向上、抑うつ減少、生命予後延長(Temel et al, NEJM. 2010)・・・生命予後に関しては、前二者の結果として、また不適切な抗がん剤治療を回避しえた結果と考察
•在宅医ががん治療医と協働する意義(白山ら、ホスピスケアと在宅ケア、2013):症状緩和以外に治療中止時の気持ちのつらさのケア、治療医に適宜情報提供→在宅死につながったと考察
•地域の病診連携の文脈で、がん専門医と在宅医の併診体制づくりの報告(所ら、緩和医療学、2009)などはあるが・・・そもそも大都市辺縁の当地域では成立困難か?
•在宅医が併診するデメリットについての言説は見つけられず:「責任不在」、「病状受入れ困難化」、「急変時対応屋」になるリスク・・・(あくまでも私論)
•早期緩和ケアに携わる医療者へのインタビュー→3つの役割を抽出(Back et al, J palliat med.2014)
①Managing symptoms to improve functional status and bridge to other issues:症状のコントロール→ラポール形成、身体症状以外の問題に関わるための糸口をつくる
②Engaging in emotional work to facilitate patient coping, accepting, and planning:限度を設定しつつ、難しい話題にも言及。関心事を共有する姿勢→患者のコーピング、受け入れを支援する
③Interpreting the oncologist for the patient and patient for the oncologist:治療医からの情報を患者に耐えうるかたちで伝え、患者の解釈を治療医にフィードバックする
 
  「症状コントロールの裁量」をもちつつ、「治療医へのフィードバック」が可能な体制であれば、関わる意義はあるかもしれない。
 
 
 勉強会のなかでは、現在の医療体制の問題点や、患者・家族およびがん治療医の心理などに関してディスカッションしました。なかなか一筋縄ではいかない問題点がありますが、今後のがん診療や在宅医療を考えるうえで、重要な課題のひとつかなと思います。
 
 
 

入院時にインフルエンザを除外できるか?

2015-12-22 18:52:28 | 勉強会

 少し間が空いてしまいました。すいません。

これから冬になり、インフルエンザが増えるかとは思いますが、今のところそれほど流行もなく、落ち着いている感じもあります。

季節ものとして、今日はインフルエンザネタです。少し前にやった勉強会の内容です。インフルエンザが流行りはじめると発熱の患者を入院するにあたってインフルエンザの除外が重要となることがあります。当然他の発熱の原因があるかないかの判断が重要ですが、実際にはなかなか迷いますよね。個室なんて限られてますし。

 <入院時にインフルエンザを除外できるか?>

•インフルエンザ迅速検査は感度に限界あり

Chartrandらのメタアナリシス(Ann Intern Med 2012)

 感度62.3%、特異度98.2%。成人:より低い感度(53.9%)、B型:より低い感度(52.2%)、24h未満だと感度40~50%程度

•症状からどれくらい除外できるか?

Tabithaらの報告(BMC Infect Dis 2012)

 インフルエンザ様の症状を呈した789例を対象。

採血によるPCR検査で陽性は220例で、6~49歳は熱(>38℃)・咳・acute onset(受診3日以内)・体の痛み・ワクチン接種-、3~5歳はワクチン接種-、50~80歳は熱のみが独立した因子。

6~49歳は熱・咳・acute onset・体の痛みのうち、2個の場合は感度95%以上(4個満たす場合は特異度99%)

ちなみにCDC ILI case definitionは感度40%・特異度86%

•採血検査からどれくらい除外できるか?

★Hoeniglらの報告(Infection 2014)

インフルエンザ様の症状を呈し451例を対象に後ろ向きに検討。

PCRで確認したインフルエンザA(H1N1)は199例。

より低いWBC・CRPは有意差あり。

★Zarogoulidisらの報告(BMC Res Notes 2011)

インフルエンザ様の症状を呈し入院した60例を対象。

PCRで確認したインフルエンザA(H1N1)は33例。

CRP(mean 12.8vs.5.74)、WBC( mean 10.53vs.7.11)で有意差あり。

★Haranらの報告(Am J Emerg Med 2013)

インフルエンザ様の症状を呈し救外受診した131例を対象。

48例がインフルエンザ。細菌感染症の診断は、CRP<2で感度100%、>8で特異度100%。

 

 正直、しらべてみていまいちでした・・・。インフルエンザ迅速検査の限界は有名な話しですし、インフルエンザであった人の症状に関しても高齢者では発熱だけが独立した因子ですし、採血もまあそうだよね・・・という感じの研究結果でした。(CRP>8で、細菌感染症が特異度100%というのもなんかちょっとうさんくさいというか)

やはり、そのときのベッド状況や臨床症状・検査結果などから総合的に判断するしかないんですよね。


終末期における人工栄養の減量・中止は苦痛の軽減につながるのか?

2015-12-11 21:14:54 | 勉強会

 非がん終末期の患者さんと関わっているなかで、家族と状況を共有して苦痛軽減を目的にケアを行っていく方向性となったときに、時々経管栄養や点滴が苦痛を強めているのではないかと感じることがあり、医師間や他職種で協議したのちに、それらの人工栄養を減量(点滴は時に中止)することがあります。そうすると、痰が減ったり、肺炎となる頻度が減ったりして苦痛が軽減されているような状況となることを経験していました。そのようなこともあり、今回は下記の内容について調べてみました。がんでは点滴を中心に様々なエビデンスがありますが非がんにおいては少ないのが現状ではありました。

 

<終末期における人工栄養の減量・中止は苦痛の軽減につながるのか?>

•Pasman HRらの報告(Arch Intern Med 2005)

人工栄養の中止を行った重度認知症のナーシングホーム入所者178例を対象に前向き観察研究。

Discomfortのスケール(Discomfort Scale-Dementia of Alzheimer Type)を経時的に測定。

Discomfortスケールの平均値は中止時が最も高く、その後、日が経つにつれて低下。(苦痛症状の平均数も日が経つにつれて低下)

⇒論文の結論:人工栄養の中止はDiscomfortスケールの高さとは関連しない(ただし、対照群がないので解釈は注意)。

重度認知症患者においては、人工栄養の中止は容認できる意思決定であろう。個別性があとは重要。

•人工栄養の中止を行った場合の予後は?

Pasman HRらの報告(Int Psychogeriatr 2006)

人工栄養の中止を行った重度認知症のナーシングホーム入所者178例を対象に前向き観察研究。(最長6W)

59%の患者は中止後1週間以内に死亡。

呼吸苦・アパシーがある患者、施設の医師が重度の状態と判断した患者は有意に死亡。不穏状態の患者は有意に高い生存率であった。

(おまけ)
•実際にどれくらい人工栄養の中止が行われているか?

Buiting HMらの報告(J Pain Symptom Manage 2007)

ヨーロッパの6か国で死亡届をもとに2万例程度調査。人工栄養の中止を行っていた割合はイタリア2.6%からオランダ10.9%まで。人工栄養の中止は、女性・80歳以上・悪性腫瘍・神経疾患(認知症含む)で有意に多く認めた。

 

 1つめの論文が疑問に近いものでありましたが(というかあとの2つはおまけのようなものでのせました)、様々な研究の制限はあり、このまま実臨床に結び付けるのは難しいのかもしれません。(対照群がないのは大きな制限でしょうか・・・スケールの内容からみても亡くなる直前になるにつれてスケールは自然と低くなる可能性もあるかと思います) このような内容は倫理的側面で医師に葛藤がおこる部分であると思います。このような分野での研究がさらに進めば、適切な看取りのケアが推進させるのではないかなと感じました。

 


朝霞保健所主催の在宅医療研修で講演をしてきました

2015-12-05 17:04:12 | 講演・著書など

 12/3に朝霞保健所主催の在宅医療研修で「在宅医療推進における多職種連携の重要性について」という題目で講演をしてきました。ここのところ、同様の講演依頼をいただいており、9月には川口保健所から、10月には春日部保健所から、11月には大宮医師会からそれぞれご依頼をいただき、講演させていただきました。いずれも私たちが関わらせていただいているモデル事業である蓮田市在宅医療連携推進事業のこれまでの流れなどを中心にお話しさせていただいています。最近、私たちが関わらせていただいているモデル事業に対して、その内容を話してほしいという講演依頼が多いのには理由があります。このモデル事業が、介護保険法の地域支援事業に位置づけられ、実施可能な市区町村は平成27年4月から取組を開始し、平成30年4月には全ての市区町村で実施する予定となっているのです。つまり、介護保険法のなかで制度化されることになります。これには医師会も連携していくことになっています。しかし、地域の実情は様々でそれぞれの市区町村や医師会ではどのようにすすめていけばよいかの戸惑いもあり、ちょっと先に事業をやらせていただいていた私たちに講演の依頼が来ているといった状況です。

 昨日の講演でもお話ししたのですが、我々が行ってきた事業もまだまだ課題はあるのが現状ではあり、そんなに先進的な内容では決してありません。しかし、少し先に事業をはじめたものとして、どんなことが重要で、どんな工夫を行ってきて、どんなところに苦労してきたかなどはお話しできる部分がありますので、できるだけありのままをお話しするように心がけています。いずれの回でも質問を熱心にいただけるので、関心の高さを感じるとともに、自分たちも負けてられないなという思いを新たにします。在宅医療における多職種連携の推進というのはまだまだ課題が多い分野ではありますが、何年か後に訪れるさらなる超高齢化に備えて、私たちなりにこの地域での在宅医療・介護の体制作りを、事業を通して微力ながらお手伝いできれば思います。


消化管(胃十二指腸)穿孔に対する保存的治療について

2015-12-04 21:37:13 | 勉強会

 在宅や施設の患者さん方は、合併症があるような虚弱高齢者も当然多いのですが、そのような方に消化管穿孔が起こることもあります。そのようなときに、手術が困難と外科が判断した場合、もしくは私たちからみて手術は困難と考えられかつ患者側も手術の希望がないときなどに保存的に治療することが今までも何回かありました。幸いほとんどの患者さんは治癒して退院でき、そのような中で、保存的治療でもある程度治療可能な場合もあるのではないかと感じました。特に先ほど述べたような手術が困難な患者さんに対してどのように保存的治療を行っていくのかなどは今後高齢化がさらに進む中で1つの視点なのではないかと思い、今回調べてみました。

<消化管(胃十二指腸)穿孔に対する保存的治療について>

•胃十二指腸潰瘍穿孔に対する保存的治療の予後は?

★Crofts TJらの報告(N Engl J Med 1989)

手術群(43例)と非手術群(40例)とを比較したRCT

非手術群は補液・胃管・抗菌薬・H2ブロッカー投与、11例が12h後に改善なく手術必要となった。死亡率・合併症率で2群に差はなかった。70歳以上は有意に保存的治療への反応が悪かった。

⇒論文の結論:70歳未満であれば、初期治療として保存的にみても注意深く経過をみれば安全かもしれない。

★Dascalescu Cらの報告(Hepatogastroenterology 2006)

消化管穿孔を起こした患者のうち、発症から短期間で気腹が少量である64例(全体の10%)を対象に、胃管・補液・抗菌薬・制酸薬投与の保存的治療を施行し、評価。7例に合併症あり(腹腔内膿瘍、うち4例は外科的ドレナージが必要であった)。死亡はなし。

⇒論文の結論:胃十二指腸潰瘍穿孔のケースでも症例を選べば、保存的治療が代替となりえるし、麻酔や外科侵襲を避けることが可能。

•どのような患者が保存的治療が成功しにくいか?

★Songne Bらの報告(Ann Chir 2004)

消化性潰瘍穿孔と診断された82例を前向きに調査。最初に保存的治療(胃管と制酸薬の経静脈的投与)を行い、24h後に改善しない場合には手術施行。

→約半数が保存的治療のみで改善。保存的治療失敗の予測因子は、多変量解析では、①気腹のサイズ(第1腰椎より大きい)②心拍数(>96/分)③鼓腸 (単変量では④直腸診の圧痛、⑤60歳以上も有意差あり)

①・②・④・⑤を満たしていると全員手術となった。

 ここまで調べてみると・・・比較的軽症であり、若年者であれば最初保存的に治療を行うという方法もあるのかなと。しかし、自分たちが診ているような手術リスクの高い患者においてはどうなのかという検討はあまりありませんでした。そこでその点については下記の論文が一番参考になりました。

 

•手術治療のリスクが高い合併症ある虚弱高齢者は?

Pascal Bucberらの報告(Swiss Med 2007)

胃十二指腸潰瘍穿孔で入院となった533例のうちpoor conditionのため(重度心不全・腎不全・肝硬変・糖尿病の重度合併症など)保存的治療となった30例を後ろ向きに調査。 (保存的治療:胃管・抗菌薬・制酸薬)

→平均年齢79歳。死亡率は30%(同時期の手術群は13%)、PPIの方がH2ブロッカーよりも有意に死亡率低かった。保存的治療群で死亡の予測因子は、多変量解析で、入院時のShock Index≧1・制酸薬の種類(H2ブロッカー)が有意であった。⇒論文の結論:手術ができないような状態の消化管穿孔患者にはPPIを使用した保存的治療は妥当な治療選択肢であろう。しかし、ショック状態の場合にはそれでも手術を検討しなくてはいけないかもしれない。

 自分たちの経験上も死亡率は3割程度くらいかなという実感でしたので、ある程度一致した感じがありました。Shock Index≧1のような患者さんは予後が悪いというのも過去の症例を考えてもあてはまりました。手術をできないような患者さんに対しても必ずしも治療自体をあきらめるのではなく、患者さんのもとの状態にもよると思いますが、保存的治療をきちんと行っていくのでよいのだ(それが根拠のない治療ではないのだ)と少し裏付けができた気がしました。