東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

Afや脳塞栓の既往のある脳出血後の患者に抗凝固療法は再開したほうがよいのか?

2016-08-27 18:18:12 | その他

 訪問診療を行っている患者さんで、Afがある脳出血後の患者さんがいました。訪問診療の依頼があった時点では脳出血の発症から4か月以上たっていましたが、抗凝固療法は再開されていませんでした。医学的には実際どのようにするのがよいのか・・・ 今回はそれを調べた内容をのせたいと思います。

•2次資料

★2011 American Stroke Association guidelineの推奨

①脳出血後少なくとも1~2週は抗凝固療法は再開しない

②脳梗塞のリスク少ないPt(脳梗塞既往ないAfなど)や皮質下出血のPt、重度の機能障害あるPtには再開は推奨しない。アスピリンは考慮。塞栓リスクが高い患者では再開する。

★Up to date

①抗凝固療法をすすめる状況

脳出血の再発低リスク(皮質下でない、血圧コントロール良好)

塞栓の高リスク(CHADS2≧5)、最近の梗塞・TIA、人工弁、弁膜症

②抗凝固療法をすすめない状況

脳出血の再発高リスク(皮質下、血圧コントロール不良)

塞栓の低リスク(CHADS2≦2)

•2次資料で引用される文献

Mark H Eckmanらの報告(Stroke 2003)

69歳以上の脳出血・非弁膜性心房細動の435例を対象にDecision Analysis

皮質下出血に関しては、QALYs(quality-adjusted life years)が非ワーファリン群で1.9年延長。それ以外の脳出血では、0.3年のみ延長。

•抗凝固療法中に脳出血起こした患者のアスピリンとワーファリンの再開を比べたCelineらの報告(Cerebrovasc Dis 2013)

後ろ向きに、再開なし群・ワーファリン再開群・アスピリン群で検討

⇒致死的・非致死的脳卒中で有意差なし(ただし、後ろ向き・N40程度)

•日本の臨床医はどうしているか?

Maedaらの報告(J Neurol Sci 2012):329名の神経内科医が回答(回答率79%)。

 91%が抗凝固薬を再開、3%が抗血小板薬を開始した経験あり。

 半数はCT所見を参考に再開。(2w以内の再開が半数以上)

 

 あたりまえではありますが、出血と梗塞のリスクの兼ね合いではあるのでしょうね。さきほどの方は皮質下出血ではありませんでした。Afは非弁膜性。血圧のコントロールもまずまず。CHADS2=3点。これらを考えると、抗凝固療法を再開したほうがよいのかもしれません。 中止してからずいぶん時がたっているのは、いまさらなんとなく再開しづらくなりますね・・・。本人や家族のくすり(抗凝固療法)に対する解釈も参考にする必要もあるのかもしれません(医学的に誤った解釈はある程度ただす必要があるかもしれませんが、出血したことは抗凝固療法の影響が大きいと考えていれば、再開により不安感が強くなるかもしれないし・・・)。

 くすり1つ再開するのも、医学的な根拠はもとより、様々なことを考えていかなくてはならないなと実感しました。

 


死別反応について~複雑性悲嘆を中心に~

2016-08-11 20:58:05 | 勉強会
今回は、遺族の死別反応についてしらべてみました。
訪問診療していて亡くなった患者さんのお宅に、時々遺族訪問としてうかがいますが、体系的には行えていない現状があります。正直に申し上げてグリーフケアを目的というよりは、患者さんのご遺族のお話しをお聞きして、自分たちの診療を振り返ったり、フィードバックしてもらう場となっています。きちんとグリーフケアを行うには一度だけの訪問ではなく、ある程度フォローアップしていくことも必要であると思いますし、時として医療的な介入が必要となる遺族があれば、それをどのようにマネージメントしていけばよいのかの知識も必要となります。物理的・心理的負担とならないよう多職種で分担して行っていくことも必要でしょう。課題は多いです。今回、とりあえず複雑性悲嘆を中心とした死別反応について調べてみました。
 
  • 死別反応

★悲嘆反応

死別に対する喪失感は誰しも経験する正常な反応で、6カ月をピークに軽減すると言われている。

★複雑性悲嘆

悲嘆反応の程度や期間(6カ月)が通常の範囲を超え、日常生活に支障をきたす程度となり、医療的な介入を要する。 DSM-5でも定義された。

★うつ病

DSM-IVでは死別後のうつを、2ヶ月以上続くもの、または重度の特徴を持つものと定義されていた。DSM-5では2ヶ月や症状などの人為的な線を引かず、死別反応の範囲か否かは、臨床的な判断に委ねられた。


  • 複雑性悲嘆はどれくらいの頻度で起こるのか?

Fujisawa Dらの報告(J Affect Discord 2010

日本の一般住民を対象とした研究で、過去10年間に近親者との死別を経験した4079歳を対象として、郵送質問紙調査を行った。

969名から回答があり(回答率39.9%)、複雑性悲嘆の有病率は2.4%であった。リスク因子は、続柄が配偶者・予期せぬ死別・脳卒中や心疾患による死・ホスピスでの死別・自宅での死別・最期の1週間を共に過ごした人、であった。

★青山らの報告(J-HOPE3報告書より)

ホスピス・緩和ケアを受けて亡くなったがん患者遺族を対象とした多施設での郵送質問紙調査。(死別後3.5カ月~2.5年)

⇒複雑性悲嘆は14%、中等度以上の抑うつとされた遺族は17%。複雑性悲嘆を有する遺族の59%、中等度以上の抑うつを有する遺族の45%が両方を混合して有していた。またなんらかの不眠症状を有していた遺族の割合は4669%であった。

悲嘆・抑うつの重症度の割合は、一般病院>緩和ケア病棟>在宅で有意差あり。

いずれの研究も複雑性悲嘆の評価にはBrief Grief Questionnaire(BGQ)を使用

これらの研究から言えることは・・・

死別からの期間や疾患により、複雑性悲嘆の頻度は異なる。

複雑性悲嘆と抑うつはオーバーラップしている。

ケアの場や看取りの場が悲嘆に与える影響に関しては、はっきりしないか(様々なバイアスや交絡の関与がありそう)


  • どのような遺族が複雑性悲嘆のリスクが高いのか?

★在宅ホスピスを受けていたがん患者の遺族の場合

Jessicaらの報告(J Palliat Med 2012

188名の在宅ホスピス受けていたがん患者の家族を対象とした前向き研究。亡くなったあと1年後のうつ・複雑性悲嘆をアウトカム。

⇒ホスピス導入時の抑うつスコアが亡くなった1年後のうつや複雑性悲嘆と関連していた。

★在宅ケアを受けていた認知症患者の遺族の場合

Schulz Rらの報告(Am J Geriatr Psychiatry 2006

217名の在宅ケアを受けていた認知症患者の遺族を対象とした前向き研究。18か月間の追跡。

20%の遺族が複雑性悲嘆に。亡くなる以前のうつ症状あり・認知機能がより重度な患者をケアした人がリスク因子であった。また、専門職による心理社会面への介入に登録していた家族は、有意に複雑性悲嘆が少なかった。

★高齢者の場合 

(高齢者は複雑性悲嘆のリスクであることが先行研究で報告済み)

Bruinsmaらの報告(J Palliat Med 2015

ケースとコントロール100組ずつの夫婦を対象としたコホート内ケースコントロールスタディ⇒ベースラインのうつだけが複雑性悲嘆と関連していた。

これらの研究から言えることは・・・

複雑性悲嘆のリスクに関しては、家族の介護開始時や介護中の「うつ」がある。その他に関してはあまりはっきりしているものはなく、様々な要素が絡んでいるのか・・・。


  • 複雑性悲嘆の治療について(Carenら NEJM2015のレビューより)

いくつかのRCTで認知行動療法の有効性があり

抗鬱薬(SSRISNRI)に有効性報告あるが、いずれもオープントライアル。


  • 在宅におけるグリーフケアの現状は?

小野らの報告(日本在宅ケア学会誌 2011

全国の訪問看護ステーションを対象とした郵送質問紙調査。

332回答(90.7%)⇒149施設(44.9%)が看取り後のグリーフケアが業務として位置づけられており、そのうち147施設(98.7%)が自宅訪問を実施していた。1ケースあたりの訪問回数は1回が9割を占めていた。

時間不足・人員不足や採算・グリーフケアの方法の不明瞭さ・グリーフケアの地域のサポートに未確立といった実施上の課題があった。

 


がん終末期患者に対する輸液

2016-08-07 23:44:36 | その他

 がん終末期の患者さんに対する輸液に関してはガイドライン含めて様々な推奨やエビデンスが出ています。最近研修医と話して、話題に出たので、以前調べた内容をアップします。

 

 <がん終末期患者に対する輸液>

•日本緩和医療学会ガイドライン(2006年版、2013年版)←こちらに対しては詳細は記述しません。日本緩和医療学会のホームページから見られます。
•上記ガイドライン(2006年版)の検証
 
Yamaguchiら(Journal of pain and symptom management 2012)
対象:20歳以上で、経口摂取が100Kcal/日・100ml/日未満となっている腹部悪性腫瘍患者(心・腎・肝不全、認知症などは除外)

デザイン:多施設、前向き、観察研究(12W or 死亡まで)

介入:ガイドラインに準じた輸液療法

アウトカム:global QOL、Discomfort scale、嘔吐・傾眠以外の症状(痛み・倦怠感・息切れ・口渇・むくみ)は研究期間中、安定していた。8割以上の患者が体液貯留のサインに変化なし。患者満足度、feeling of benefitは高かった。

⇒QOL・症状・体液貯留の増悪なく、患者は満足?

つまり、ガイドラインに沿って輸液をしていれば、少なくともデメリットはでない。しかし、メリットは? そして患者の満足とは?

•患者・家族にとっての輸液はどのような意味があるか?

Cohenら(J Pain Symptom Manage 2012)

対象:進行がん患者の輸液研究(RCT,2重盲検)に参加した患者85名と介護者84名

デザイン:質的研究(Day1とDay4にインタビュー)

結果:“Hope” 倦怠感のような症状を軽減したり、意識状態をよくすることにより、尊厳ある人生を延長させたり、QOLが改善するのではないか

“Comfort” 痛みをへらし、鎮痛薬の効果を増強させ、体や精神に栄養を与えることにより、“comfort”が改善するのではないか

•がん終末期患者に対する輸液のメリットは?

Brueraら(Journal of clinical oncology 2013)

対象:ホスピス入院中の18歳以上の進行がん患者で、軽度~中等度の脱水があり、倦怠感+せん妄・傾眠・ミオクローヌスのうち2つの症状がある予後1週間以上と考えられた患者129名(心・腎不全、認知症、出血+、血圧低下+、12時間排尿なし、意識障害などは除外)

デザイン:多施設、RCT、2重盲検

介入:毎日1Lと100mlの生食点滴

1次アウトカム:倦怠感・せん妄・傾眠・ミオクローヌスの4つの症状の合計(0~40)の変化(ベースラインと4日目)

2次アウトカム:ESAS(身体症状のスケール)、生存期間など

結果:上記アウトカム全て4日目・7日目の変化に有意差がなし。生存期間も差がなし(平均21日と15日)

 

 ガイドラインは、標準的な指針を与えてくれます。しかし、どことなく、目の前の患者さんに適応する際に違和感を感じることも時々ありますよね。患者・家族にとっての輸液への思いや考えを調べた研究は非常に興味深いなと感じました。この結果は単に輸液のメリットやデメリットに対する情報提供が不十分であったのか、それともそのうえでの“Hope”・ “Comfort”への期待があったのか・・・。そこが知りたいなと思いました。がん患者さんに限らないですが、医学的なメリット・デメリットとともに患者さんや家族の思いや考えをどのように医学的なエビデンスとバランスをとってやっていくのか・・・。それは難しい部分ではありますが、最も重要な部分であると個人的には感じています。最後にあげた研究はすごいなと思います。まずは情報提供するという意味でこのようなエビデンスは非常に意義があると思います。