東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

日本プライマリ・ケア連合学会誌に特別寄稿「本誌優秀論文賞をいただいた経験から」が掲載されました

2020-03-29 17:34:41 | 講演・著書など

日本プライマリ・ケア連合学会誌に、今永が書いた特別寄稿「本誌優秀論文賞をいただいた経験から」が掲載されました。

「特別企画:地域で頑張るプライマリ・ケア研究者から」という企画のトップバッターとして、地域医療の現場から研究を発信する意義であったり、そのコツのようなことを書かせていただいています。偉そうなことを書けるような実績はないのですが、地域医療に従事していて研究をこれからやりたいなという方に、少しでも参考になればと思い執筆しました。ご興味のある方はみていただければと思います。

下記URLからみることができます。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/generalist/43/1/43_2/_pdf/-char/ja

 


水分摂取を増やすことは尿路感染症の予防になるか?

2020-03-13 22:01:37 | 勉強会

久しぶりの更新となってしまいました・・・。最近の勉強会でやった内容を載せたいと思います。

カンファレンスで、高齢者で尿路感染症を繰り返す方がおり、その方の水分量を増やすことで尿路感染症の予防となるのかについて話題になり、調べてみました。再発性の尿路感染症を起こす方に、慣習的に水分摂取を増やすことをすすめる場合がありますが、実際にはエビデンスとしては乏しいことがわかりました。

 

<水分摂取を増やすことは尿路感染症の予防になるか?>

  • Fasugbaらのシステマティックレビュー(Journal of Hospital Infection 2020)

採用できる論文が少なかったため、メタ分析はできず(narrative synthesis)

2つの論文が採用

①HootonらのRCT(2018)

対象:膀胱炎再発したことがある閉経前女性(18歳以上)140例

介入:通常の飲水に加えて、1.5L/日の水分を摂取

   介入群70例、コントロール群70例

   (脱落はそれぞれ10例、7例⇒ITT解析)

アウトカム:1年間のUTIの頻度

結果:介入群は平均1.7回、コントロール群は平均3.2回(P<0.001)

②Mentes,CulpらのクラスターRCT

対象:4つの施設(long-term care facilities)

介入:個々の水分摂取の目標値を設定して介入

(最初の10㎏は100ml/㎏、次の10㎏は50ml/㎏、残りは15ml/㎏)

アウトカム:2か月間のUTIの頻度

結果:介入群25例のうち12例が水分目標値に到達せず

               (3例は75%未満)

コントロール群24例のうち13例が水分目標値に到達せず

               (4例は75%未満)

ITT解析はなし

UTIの頻度は、介入群が0回、コントロール群が1回で有意差なし

システマティックレビューの結論:2つのうち1つの研究はバイアスの高いリスクもあり、十分なエビデンスはなく、さらなる研究の蓄積が必要

 

  • Lean Kらの報告(BMJ Open Quality 2019) 質改善による前後比較

対象:3つの高齢者施設の150例

介入:ポスターや2hのセッションでスタッフにUTIや脱水の知識について知ってもらい、その後7回/日の飲水励行を行った(6~8glassesを目安)

アウトカム:12か月間の抗生物質投与が必要なUTI発症数、入院が必要なUTI発症数(月平均)

結果:

①抗生物質投与が必要なUTI

介入前の12か月間:月平均1.8、介入後の12か月間:月平均0.75

                         (58%減らす、P=0.10)

②入院が必要なUTI

介入前の12か月間:月平均1.4、介入後の12か月間:月平均0.9

                         (36%減らす、P=0.09)

低いコストで、UTIを予防できるであろうと結論

 

二つの論文の内容から次のように感じました。

  • 現時点で、水分摂取を増やすことで尿路感染症の予防になる明確なエビデンスは乏しい。
  • 膀胱炎を繰り返す若年の女性においては だいぶ多い量の飲水を追加してもらうことで、予防できるかもしれない。
  • 施設入所などの高齢者においては、効果の証明はできていないが、低コストであることを考えると、可能な範囲で水分摂取を心がけてもらうことはいいかもしれない。ただし、それによるデメリット(誤嚥、心不全の悪化など)も想定されるため、個別で考える必要があるであろう。