東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

がん終末期におけるリハビリテーションの意義

2016-05-13 20:57:56 | 勉強会

 先日行った勉強会の内容を載せたいと思います。がん終末期におけるリハについてです。がんのリハビリテーションもいろいろなフェイズがありますが、今回は我々が関わることが多い終末期における意義について調べてみました。がん終末期にリハビリってなにを目標にするの?とか終末期だしリハビリをそんなに積極的にしても・・・などの意見が出ることが時折あります。これらは誤解があると思いますが、実際のところどのようなエビデンスがあるのか調べてみました。

 

<がん終末期におけるリハビリテーションの意義>

•Oldervoll LMらの報告(Oncologist 2011)

予後2年以下と考えられた進行がん患者231例を対象として、介入群(121例)と通常群(110例)を比較したRCT、アウトカムは倦怠感と運動機能(歩行・上肢筋力)

理学療法の内容:週2回60分の運動を8週間

介入群の36%・通常群の23%が死亡(フォローアップできていない)

結果:8週後に、倦怠感への効果は両群で有意差なし、運動機能に関しては有意に介入群で効果あり

•Cheville ALらの報告(J Pain Symptom Manage 2013)

StageⅣの肺がん・大腸がん患者66例を対象としたRCT

介入群:週4日以上の自宅でのPT介入

3例がドロップ、7例が死亡

8週後に、運動機能・倦怠感・睡眠の質に関しては有意に介入群で効果あり

痛みやQOLは有意差なし

•Lopez Sendin Nらの報告(J Altern Complement Med 2012)

がん終末期の患者24例を対象としたrandomized controlled pilot study

PT介入:理学療法とマッサージ、2週間のうちに30分程度の介入6回

2週間後のpain・moodのスコアが介入群で有意に効果あり

 

 これらをまとめると運動機能には効果がありそう。痛み・睡眠・倦怠感・QOLなどの

症状に関してはエビデンスは限られるか。

 では、本人・家族はどのような意義を感じているのであろうか?

•関根らの報告(J-HOPE3報告書:終末期がん患者のリハビリテーションにおける家

族体験に関する研究)

全国の緩和ケア病棟での遺族を対象として調査(770名←回収率77.3%)

入院前にリハビリ受けていたのが21.3%、入院後受けていたのが19.5%

⇒リハビリに対する遺族の経験:約半数弱の遺族が「共通の話題をもつことができ

た」、「ともに取り組めるものができた」と回答。

遺族が判断したリハビリの患者への影響:「気分転換が得られた」79.5%、「楽しみを

感じられた」58.2%、「目標や希望をもつことができた」54.5%、「身体機能の維持に役立っていた」51.7%。

  あくまで遺族からみた患者本人への影響ではあるが、気分転換や楽しみ・希望につながる部分もあるのかもしれない。

 

 個人的には、患者さん本人がどのような意義を感じているのか? 精神的苦痛やスピリチュアルペインの軽減につながるのか?などをもっと知りたいなと感じました(しらべた範囲ではあまり見当たりませんでした)。がん終末期の患者さんは少しずつご自身でできることが減っていくことのつらさなどを抱えている場合も多いです。それをリハビリ的な介入でどのように軽減していけばよいか。また、体を動かしたり、触れたりしながら行う会話がどのように患者さんのつらさを軽減するのか。いろいろと興味がある部分ではあります。


家族による疼痛評価・管理について

2016-05-04 19:45:48 | 勉強会
 がん終末期の在宅医療においては、疼痛管理は1つの重要な在宅医の仕事の1つです。患者さんが十分に状態を伝えられる人であれば、直接疼痛の状況を聞きながら薬剤の調整を行っていくことになりますが、時として認知症があったり、せん妄があったりで直接患者さんから情報収集できない場合もあります。そのような場合、家族からの情報が重要となりますし、疼痛管理についても家族と協働しながらすすめていく必要があります。家族によって、だいぶ疼痛の評価や管理が異なることは印象としてあり、そこをどのようにうまく協働してマネージメントしていくかは難しい部分があると感じています。今日は以前勉強会であつかった家族による疼痛評価・管理について書いてみます。
 
 
<家族による疼痛評価・管理について>
 
•医療者は家族の疼痛評価をあてにしている?

村上ら(Palliative care research 2012):患者の訴え以外に医師が痛みの評価で重視している項目⇒「家族・介護者の意見」が88%程度(患者の「表情」の次に多い)

•家族は、本人の苦痛の評価をできているのか?

MacMillanら(Cancer Nurs 2003):疼痛・呼吸苦・便秘ともに家族のほうが(本人よりも)症状が重いと判断

•家族は、疼痛管理に関してどのように感じているのか?

Debraら(J Pain Symptom Manage 2008):Caregiver Pain Medicine Questionnaire(CPMQ)において、最も同意された内容:「鎮痛薬を投与する時に何か間違えないかが怖い」  最も同意されなかった内容:「鎮痛薬による副作用より、痛みを我慢してもらったほうが容易だ」

•家族は、どのように疼痛管理を行っているのか?

Anitaら(Journal of Palliative care 2010):「過去の経験に基づく」、「プランを戦略化する」、「疼痛に対処するよう努める」、「最もよい状況を模索する」の4つのカテゴリー   (詳細下記)

 24家族への半構造化面接をグラウンデッド・セオリー・アプローチで分析した質的研究

 ★「過去の経験に基づく」

疼痛管理の以下のパズルの背景を与えている

 ★「プランを戦略化する」

“責任性を認識する” 

“疼痛管理の関係性を確立する”(Ptとヘルスケアチーム)

“疼痛や疼痛管理に対する情報を探索する”

 専門職からの情報不十分:役に立たない(副作用の情報重要) 

 家族・友人・ネット・本など複数のものから入手

 ★「疼痛に対して対処するよう努める」

 “疼痛の特徴を決定すること” 

言語的:寛解・増悪因子  非言語的:様子、表情、ムードなど

 “疼痛解放への戦略を行う” まず、薬物療法 でも薬だけではだめ

薬以外⇒「気を散らす」、マッサージ、ポジショニングなど(強くない痛みに)

 ★「最もよい状況を模索する」 パズルのはてはめ

 

 個別化が当然重要であるのは前提ですが、家族は症状を重く見積もりがちなのかもしれません。その背景には、疼痛があることに対して家族としてうまく対処できているか、また間違いなくうまくできるかといった不安もあるのでしょう。家族がそのような不安を持ちながら疼痛の評価や管理を行っていること・様々な模索をしながら対処していることをまず理解することが重要なのかなと感じます。そのうえで、薬物療法以外の対処方法などもきちんと指導していくことが重要なのでしょうね。