その上で,次に,裁判長は,
「要件事実的には,もし代理とか使者であれば,誰が誰に代理権を与えたのかという授権行為についての具体的事実の主張がされるのが通常だが,記録を見てもそういう主張が具体的なく,原告側からその釈明を求められているが,その点について回答をしないという従前のスタンスには違いがないのか」
と,契約成立の具体的主張をするのかしないのかを質問しました。
すると,中信代理人は,
「書面でも申し上げたとおり,今回の契約は20何年前に行われているので,今となっては,誰が誰に代理権を与えたのかを明らかにするのが難しいと考えておりまして,我々としては求釈明には答えられない」
「それ以上の主張も立証もしない」
と言い,裁判所は,このやりとりを調書に残しました。
このやりとりからすると,この点について裁判長が最も関心を持っていたということが分かります。
もともと,この点について中信側が「主張立証しない」と回答することは,原審の記録からすると,当然に予想できたのです。
要するに,裁判長は,純粋な疑問から質問したのではなく,「高裁でも主張立証の機会を与えたのに,被控訴人は主張立証しなかった」という調書記載を残すことを目的にこのやり取りをしたのだと考えられます。
では,裁判長は,なぜ,この調書記載を残す必要があると思ったのでしょうか。
原審の判断を維持するのであれば,こんな調書記載を残す必要はありません。
なぜなら,あえて調書記載をしたということは,その点を裁判所が重要だと考えている意思表示だからです。
原判決を維持するのであれば,被控訴人を勝たせるためには「個々の契約成立の具体的な主張立証は必要ない」と書かなければなりませんが,もしそうだとすると,なぜ裁判所が必要もないことを被控訴人に釈明したのかという問題が生じてしまいます。
原判決を維持するつもりなら,このような釈明をする必要はありません。それどころか,かえってこの釈明が邪魔になってしまいます。
しかし,原審の判断を逆転させ,中信に不利な判決をするというのであれば,この調書の記載は使えます。
高裁がわざわざ主張立証の機会を与えているのに,そのチャンスを逃がしたのだから,不利な判決を受けてもやむを得ない,ということに使えるのです。
(つづく)
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