南海泡沫の後で

貨幣収集を時代背景とともに記述してゆきます。

スーダン・20ギルシュ白銅貨

2012年10月27日 22時30分06秒 | 投資
大衆の目に触れることもなくごく少数の人々にさえもとっくに飽きられている当ブログだが、
極細の糸のごとくかすかに息をしている。当然訪問人数は少ない。しかしそれでよかろうと思う、万人が読んで面白かろうことなど
書かぬし書く体力もない。仕方のないことだ。


今日はスーダンの20ギルシュ白銅貨。プルーフ。
何かのお土産?か記念用かの販売用だったらしい?が、発行枚数が少なく発行年数も3年間作られた後、マイナーチェンジして
2年間少しだけ作られた。
すべてアラビア文字で表記され、なじみのない私にはパッと見では意味も見てとることはできない。

このコイン、流通用にはなりえない。非実用的に分厚く、エッジも立っており指当たりが硬質である。
全体的に質はあまり良くない。オモチャ的感覚を持っていて高級感は少ない。
外国人用の土産物かと思われる。
エッジもプレスで作られた感じが残り、絵柄も甘い仕上げ。それらしく見せるためだけに分厚く作られた感じ。
プルーフ仕上げも表面的なお化粧である。

しかしアラビア圏の美的感覚、価値観はかなりわれわれとは異質でもあろう。
それを考えるとこのコインも真剣にデザインした作品なのであろうか?

しかし材質が白銅であるところ、やはり土産用かと思われる。

ヤフオクで買ったのであるが、正直白状すると、銀貨と思いこんで買ってしまった。カタログで調べてから入札すればよかったのであるが
プルーフ仕上げだったので銀貨と早とちり。
プルーフ仕上げの白銅貨などいくらでもあるのだから確認してから入札すべきだった。

かといって気に入らぬからヤフオクで売り飛ばすでもなく手元に置いている。

このコインが作られたのは西暦1967年から3年間。写真の物はNumistaのページで見ると1968年。発行枚数は5251枚。プルーフセットのみでこのコイン、終焉している。同じ絵柄の2、5、10ギルシュ白銅貨プルーフ、さらに1、2、5ミリム白銅貨プルーフとセットだったようだ。まるきり発行枚数が全種類とも同じ数である。ちなみに小額面貨のほうは円形でなく波型のエッジである。小額面貨はプルーフではない流通用のものも同じ絵柄で400万枚ほど生産されている物もある。カタログで参照されたし。といってもわざわざ調べるほどの物でもないかもしれないが。

当時の情勢を考えると銀貨発行はこの額面では無理だったかとも思われる。
5スーダンポンドでの銀貨発行は存在している。(1978年、5グナー銀貨)

コインの質感、甘い絵柄やチャチいプルーフについての悪口ばかり書いてきたが、スーダンのここ数十年の道のりを調べてみると急にこのコインが影を帯びる。(またこの記述のパターンで恐縮だが)

スーダンは1956年のイギリスからの独立時、南北統一してのスーダン共和国としての出発であった。
もとより民族的にも複雑で宗教的にも相互相容れないものがあった。イギリス統治時代、南北の交通は禁止され、より独立後の内戦の遠因となったともいわれる。
独立1年前に既に始まっていた、1955年に始まる第一次スーダン内戦は長く続き、1972年に南部が自治権を与えられ一次収束する。
しかしその後南部で油田が発見されもとより南部と融和しがたい北部政権が支配的・対立的になるにつれ
第二次スーダン内戦が勃発した。勃発のきっかけは1980年代に北部イスラム政権が国法にイスラム法をとり
南部キリスト教住民にもそれを強いたのが直接のきっかけである。イスラム法の窃盗犯への切断刑や石打ち刑などを南部キリスト教民やアニミズム信者の国民へも強いたのである。

この内戦は干ばつと飢饉を伴い推定190万ともいわれる死者を出した。
大多数は戦闘による兵士の戦死ではなく市民の餓死、病死である。
内戦で農業が完全にストップし難民が激増、食料がなくなり餓死が続出した。
内戦は21年に及んだが2000年代に入り停戦。
2011年南スーダンは独立して収束した。

そういえば南スーダンへは自衛隊がPKOで橋や道路などの整備に2011年に出動している。

となると、このコインは第一次スーダン内戦が継続されている期間に発行されたこととなる。
しかも1969年には軍部によってクーデターが起こりスーダン共和国からスーダン民主共和国へと体制が変わる前に作られたものである。
以上のような内情を踏まえると、精緻な銀貨のプルーフなど作れようもない筈である。
むしろ荒削りなエッジの堅いこのコインは荒い国内情勢を反映していると言える。
このコインと同じ絵柄の白銅貨プルーフセットは、民主共和国に成った後も2年間プルーフセットが作られた。しかしアラビア語の字体が変わっておりまた別バージョンとなっている。

発行枚数を書いておくと、1967年に7834。68年に5251。69年は2149、と各ミリム貨および各ギルシュ貨それぞれ全く生産数が一致している。
さらに1970年に字体変更で作られたが1646。71年に1772。この時も全種、プルーフで作られセットとされた模様。

1970年以降は生産数がずっと少なくなりこれは希少と思われる。希少だけれども欲しいかどうかはまた別だが。
カタログを見るとこのコイン、元ネタは1956年の独立時のコイン。この時は高額面は10ギルシュまでで20ギルシュは作られず
プルーフはなく通常の流通用として数種類が大量に作られたのであった。

…と知ったかぶって記述しているが、実は書き出し時点ではどれとセットかわからないなどと記述していたし、元ネタ
のコインについても知らなかった。Numistaやワールドカタログで見ているうちに気がついたのである。

よく見ずに記述し続けていたら誤謬だらけの記事なる処であった。
しかしカタログで生産年、発行枚数などを調べて推移を知るうちに興味も増し、スーダンの歩みを調べ、
結局この記事を書きすすめるうちに面白さが増していった。なんだか急転して満足感が得られたコインである。

もしヤフオクであれば1956年独立当時のこの同じ絵柄の白銅貨を探してみようと思う。
1ミリムや5ミリムなどの小額面が良かろう。

今回のこのコインよりアジがあるのではないか。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿