僕の平成オナペット史

少年からおっさんに至るまでの僕の性欲を満たしてくれた、平成期のオナペットを振り返る

連載小説「1999-お菓子系 20年目の総括」③

2023-06-18 09:50:12 | 小説
「まあ、繭子も芸能界に身を置いているうちに知恵をつけたんじゃないかな。このままじゃ恥さらしで終わるってわかったから、行き遅れた子みたいに地元で地道に婚活してたんじゃない? 私にもいきさつを話してくれなかったんだから、密かに婚約話を進めていたんだろうけど、それじゃあ遠回りだよね。でも、話がまとまったんだから、私たちがとやかく言ってもしょうがないし」

 親友の里帆に何の相談もなく、無難な一般人の妻の座を射止めた岡野のぞみに、スキャンダルタレントのイメージを壊そうとしなかったプロとしての自覚が窺えるけど、彼女が芸能界に残した足跡とはいったい何なのか。無知と若さだけを売り物にしてきた頃から知っている私は、あの沢田繭子が不惑を目前に控えるまで明け透けに振る舞っては世間の非難を浴びるのが彼女なりの流儀だと思っていたのに、将来を案じて婚活していたのなら、これまでの恋愛沙汰には何のひたむきさも伝わらず、単に週刊誌やスポーツ紙のゴシップ記事を埋め合わせたるために事務所がメディアと結託したのでは、と勘繰ってしまう。里帆の前でも夢想家で欺き通し、私生活では売れ残り同士でも堅実で経済的余裕のある相手を選り好みしていた岡野のぞみは、自らの意思で大物との恋愛と破局を繰り返したのではなく、事務所の営業活動と芸能ジャーナリズムの売らんかな主義をアシストしたのであって、彼女自身も彼らのおこぼれにあずかって懐を温めてきたのだ。

 いずれ岡野のぞみが記者会見を開き、一般人との結婚と芸能界引退を明らかにしても、世間の反応は冷ややかで、引退を惜しむどころか一年も経てば存在すら忘れられてしまうはずだ。事務所とメディアは岡野のぞみに代わるスキャンダルタレントを育て上げ、世間を騒がせては視聴率と販売部数を稼ぎ、スポンサーから広告料をせしめる。新陳代謝や世代交代のプレッシャーを感じていたのなら、地元での婚活も選択肢の一つだったと同情してあげるべきだけど、中年女性になっても芸能界で生き長らえる計画と知恵を持とうとしなかったのは怠惰だ、と私は思う。事務所の営業戦略に従順なように見せかけて、いざとなったら反旗を翻して独立や移籍を企てられるほどの人脈作りにいそしむ。私が岡野のぞみの立場なら、そのように頭を働かせるだろうと考えてみるけど、歌も芝居も演芸も何の才能もない中年女を囲ってくれる物好きなパトロンなどいるわけがないし、彼らも伸び代が見込めない三、四十代よりも素直で物わかりのいい十、二十代をじっくり育てていきたいに違いない。それでも岡野のぞみを切ろうとしないのは、彼女が十代の頃から精神的に成長していないからなのかもしれない。

「それでさあ、繭子ったら、私にぜひ結婚披露宴に来てほしい、あらためて招待状を送るって言ってきたけど、いくら二十年来の友達だからといって、あの子の昔を知りすぎている人間がのこのこと出てくるのはやばいんじゃないかな。祝儀を包んであげたり、お呼ばれ服を新調したりする余裕もないし」
「もう時効だって割り切ってんじゃないの? どうせ周りの人たちは繭ちゃんの昔の芸歴なんて知らないだろうし、あの子だって今は岡野のぞみという芸名で視聴者に知られている。でも、繭ちゃんって個性的なキャラだったから、地元じゃ結構いじめられてたって話、昔彼女の口から直接聞いたことがあるんだけど、今はもう根に持ってないのかな。じゃなければ、地元に戻るなんて気は絶対起きないはずだけど」

「芸能界で散々遊ばれてきたのに比べれば、地元の人間関係なんて全然大したことないんじゃない? むしろ、昔のことを全部水に流せるほど、あの子にも余裕があるんだと思うよ。私たちはかすっただけだけど、繭子はどっぷり漬かってきたんだから」

 余裕があるのなら、なおのこと芸能界で生き長らえる術を探せばよかったのに、と私は岡野のぞみの人生の選択にけちをつけたくなるけど、彼女の幸福追求を妨害する権利はないし、曲がりなりにもプロの芸能人に対して、その世界で仕事をしたことがない立場の者が批判するのは単なる愚痴でしかないから、里帆にこぼさずに胸のうちに留めた。里帆の言うとおり、私も彼女も芸能界の入口をうろちょろしていたけど、運と覚悟と厚かましさがなかったので岡野のぞみのようにはなれなかった。そんな私が芸能界を引退して一般人と結婚する四十路前の女性をなじるのは筋違いだと自制しながらも、やはり岡野のぞみは玉の輿か自滅のどちらかを選んでほしかった。婚期を逃した者同士の妥協ではなくて。

「それで、どうする。披露宴に出席する気あるの?」

「私のときはあえて呼ばなかったし、夫にいちいち繭子との関係を詮索されるのもうざったいから、行かないと思うよ。長年の友達でもさ、私たちの関係って何か不思議じゃん。あまり誰かに話したくないし、知られたくないって気持ちがあるんだよね。罪を犯したり、AVに出たりしたわけじゃないのに、新しく知り合った人に打ち明けづらい。それじゃあ心のどこかでうしろめたさがあるんだろうけど、結局、私はそれを必死に否定しようとしているから隠し通そうとするんだよね。たぶん美優も同じだと思うけど、繭子はあのときよりも今までのほうがみっともないから、過去に対して無神経になれるし、自分の結婚披露宴に平気で私を呼べちゃう。私たちよりもあの子のほうが過去をきっぱり清算できちゃってるんだから、皮肉な話だよね」


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