僕の平成オナペット史

少年からおっさんに至るまでの僕の性欲を満たしてくれた、平成期のオナペットを振り返る

連載小説「1999-お菓子系 20年目の総括」①

2023-06-11 00:57:03 | 小説
 二十歳の頃の大物ミュージシャンに始まり、舞台演出家、プロ野球選手、歌舞伎役者、実業家と数々の有名人と浮名を流しては破局を繰り返してきた岡野のぞみが、芸能界を引退して地元の同級生と結婚するという話を、かつての仕事仲間の横山里帆から聞いた。演技力も歌唱力も人を笑わせる才能もないのに、高校時代から二十年近く芸能界にしがみついてこられたのは、ひとえに私生活の切り売りに徹してきたからで、そんなタレントがきっぱり足を洗って都落ちするのが果たしておめでたいのか。それが里帆からの一報を聞いたときの私の偽らざる心情で、電話越しの彼女のはしゃぎっぷりに軽い違和感を覚えた。私たちの間で多少の揶揄も込めて「出世魚」と呼んでいた岡野のぞみ。金も地位もある男性との結婚の夢が叶えられずに表舞台から消え去るのは、内助の功の素質うんぬんよりも、やはり私たちの青春時代に残した記録がたとえ芸能活動の範疇とはいえ、それを否定したがる良識派たちの助言によって歴代の恋人たちが求婚の一線を越えられなかったのでは、と私は彼らの包容力の拙劣さを情けなく思う。

 里帆は私と岡野のぞみの共通の友人で、私も彼女と面識はあったけど直接連絡を取り合うほどの間柄でもなく、芸名を変えて最初のスキャンダルが報じられるまでは、ほかの仕事仲間のようにとっくに足を洗っていると思い込んでいた。里帆との会話で岡野のぞみの話題が出る際には、今でも沢田繭子という彼女の旧芸名で通している。それが青春期のひとときを共有した私たちの不変の固有名詞で、テレビタレントとして成り上がった彼女への尊敬と嫉妬と侮蔑がごちゃ混ぜになっている証拠だ。女優にも歌手にもお笑い芸人にもなれず、番組で一緒になった有名人に接近しては懇ろになった岡野のぞみと、自らの肉体を売り物にしてきた沢田繭子を比較すると、後者のほうが誠実で清々しさを感じるから、私は里帆と旧芸名で呼び合いながら彼女の近況を知り得ている。自発的に知り得ようとは思ったことは一度もなく、いつも里帆のほうから情報を提供してくれる。芸能界引退と結婚の知らせも、ブログもSNSもやらない私なら拡散しないと高を括って、里帆が口を滑らせたのだろう。岡野のぞみは芸能界で余人をもって代えがたい存在でもないので、引退から結婚というシナリオも衝撃的なニュースバリューがあるとは思えないけど。

 私よりも里帆のほうが岡野のぞみのメディアでの露出に興味を示し、だからこそ二人は長年連絡を取り合っているのだけど、岡野のぞみから聞き出した業界の裏事情や大物タレントの性癖を私に話してくれる里帆の表情や話ぶりは、得意げにまくし立てているようでささやかな悪意が感じ取れる。元々は同じスタートラインからで、当時は里帆のほうが人気があって芸能事務所からメジャーデビューの誘いもあったのに、彼女は自らの商品価値は高校卒業までだと見切りをつけ、岡野のぞみとは別の道を歩んだ。。芸名を変えて過去を消したい岡野のぞみが今でも里帆に私生活の内情を打ち明けるのは、彼女の姐御肌気質に惹かれ続けていると推察できるけど、果たしてそれが二人の友情の証なのかどうかは、第三者の私には判断しかねる。岡野のぞみの芸能界引退と結婚を嬉々と伝える里帆の話の端々から、彼女が心から祝福しているというよりも、しょせん玉の輿に乗れる器ではなかったとの嘲りが含まれているように思えてくる。

「繭子が言うにはさあ、中学校まで一緒で、地元の信用金庫に勤めている人と一緒になるらしいよ。やっぱあの子も大した家の子じゃないから、家柄も血筋も才能も一流の人たちにはめずらしがられただけなんじゃない? いざ結婚となると、釣り合いが取れていないとわかっちゃって離れていく。でもさあ、その信用金庫の彼ってのも電撃的だよね。あの子がやけくそになってるんじゃないかって心配したけど、もう芸能界に未練はないんだって。もったいないと思うけど、逆によく今まで生き残ってこられたのが不思議よね。事務所だって大手じゃないのに」

「未練がないって話を額面どおりに受け取っちゃっていいのかな。もし地元の人と結婚しても、繭ちゃんに普通の主婦が務まるとは思えないし。あの子は芸能界のスキャンダル要員がお似合いだと思うんだよね。でもアラフォーでその役を演じ続けてるのはさすがにきついのかな。まあ、私たちにはあまり関係ないんだけど、今までが今までなだけに相手が一般人とはいえ、すんなりまとまらないんじゃないの?」

「そういえば、そうかもしんない。先週繭子と都内で会ったときに話してたんだけど、結婚してやるんだって偉そうな感じが半端なかったわ。相手の人は初婚だし、貯金も結構あるみたいなんだけど、今までの元彼と比較しちゃうと全然大したことないんだってさ。遊び好きでもなく四十近くになるまで独身で通ってきたから浮気の心配はないらしいんだけど、逆に私をやきもきさせてくれるほうが張り合いがあるって。いつも男に捨てられてきた子が何強がり言ってるの? って感じ」

「でも、その相手の人もどうして繭ちゃんと結婚する気になったんだろう? 繭ちゃんにとって十代は黒歴史のはずなのに、地元との接点を持ち続けていたのが何となく引っかかるんだけど。繭ちゃんの地元って、確か茨城のウシクってところだったよね。そんなにしょっちゅう帰ってたの?」

「私もそれが気になってるんだけど、繭子は口じゃ大物狙いを公言してても、心の奥じゃ無理だとわかっていたから保険を掛けてたんじゃないの? 相手も棚から牡丹餅っていうか、繭子にたぶらかされて結婚するんじゃないのかな。恋愛と失恋を繰り返す幼馴染みに同情してってノリで」


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