犬の散歩

柴犬が家にやってきた。

Iさんからのメール

2009年04月10日 | Weblog
前略  M 様
 先日は猪猟に同行させていただき,ありがとうございました。お忙しい中を事前準備,2日間の猪猟,事後処理等にお時間を割いていただき感謝申し上げます。この度の猪猟見学に対して猟兄に敬意を表します。
 さて,猪猟初日はMさんと姫,神竜他4名で私以外の皆が順番に一銃一狗を体験し,7カ所合計21回以上の鳴き止めを拝見させていただきました。感心したと共に完璧な名犬,姫の鳴き止め芸に参加者全員が脱帽でした。同行記については時間を頂き申し訳ございません。本日御報告させて頂きます。先ずは猟兄の気さくな人柄,配慮,名犬,姫との一銃一狗に拍手を送り,心より御礼申し上げます。ありがとうございました。

甲斐犬姫による一銃一狗                
千葉 元右衛門

『わさもん』という熊本の方言を聞いたことがありますか。新しいことに果敢に挑む。二番煎じは決してしない。正しいと信じたことは,たとえ世の中と違っていてもやってみる。そんな進取の気風を言い表す言葉だそうだ。(翼の王国:ANA:再春館製薬所より)
 ここに日本犬による一銃一狗による猪猟犬探しの旅を紹介する。
 「古くて新しい犬」感じた甲斐犬は全体が黒色で虎毛の目の丸い可愛い中型犬であつた。この度は縁あって中国地方の『わさもん』。疾風パパにお許しを得て甲斐犬姫による楽しい猪猟に同行させていただいた。以下に甲斐犬による楽しい猪猟同行記を報告させていただく。
 小生の猪犬馬鹿というあることから,中国地方に甲斐犬で一銃一狗をなさる方がいることを知った。早速手を尽くし,平成21年1月,M氏にお許しを得た。甲斐犬による楽しい猪猟に同行させて頂く事となった。
 「1月24日(土)25日(日)に見に来られますか?」というM氏のメールに小生は「はい,必ず伺います。」という返事をさせて頂いた。小生の甲斐犬の芸を見せて頂きたいというわがままに,M氏は小生に見せなくても良いのである。お忙しい中を事前準備,2日間の猪猟,事後処理等にお時間を割いていただき感謝申し上げる。この度の猪猟見学に対して猟兄に敬意を表する。返事はしたものの1週間後であったので至急の準備と成った。冬季であるので天候も考慮し前日の1月23日(金)に羽田を出発し,M氏の紹介して頂いたホテルにチェックインした。
 同地は中国地方の瀬戸内海に面した,温暖な地域で農業,漁業はじめ,重工業等の発達している所である。詳細はM氏の猪猟場等の関係もあるのでお許し願いたい。
 1月24日(土),翌朝起きてびっくりした。一面雪で真っ白である。天気予報で予想はしていたが本日は九州,四国,中国地方とも大雪の予報である。本日ご自宅を早朝に出発しておられるであろうM氏に申し訳ないが,早速確認の電話をさせて頂いた。「メンバーが雪なのでどうしようか?」と考慮していたが「せっかく準備していたのだから行こう」というM会長の一言で予定通り猟場に行くことと確認された。ホテルの周りは日本海の低気圧の影響か?落ちてくる牡丹雪で真っ白である。
 小生は雪の中,8時にM氏に車で迎えに来て頂き,直ぐの出発となった。初対面ではあったが,気さくな若者であった。ホテルより国道を瀬戸内海方面に向かうと20分程で海が見えてきた。これと同時に天候は一変した。雪は止み,晴天となった。天気予報で海側は晴天とは予報されていたが,小生の地域では信じられない天候である。安堵した。
 M氏はメンバーとの待ち合わせ場所に風光明媚な所を選んで小生を案内してくれた。ここからは四国が見える。四国では雪が降っているのがわかる。
 さて,今日の主役,姫号と神竜号に用をたさせた。両犬とも人なつこく驚いた。紀州犬を多頭飼いしている小生の日本犬は山に行って一緒に猟をするときは別だが初対面の人には気を許さない。しかし,姫号と神竜号は小生がこれからMさんと猪猟に行くことを理解しているのだろう。良く躾られ,且つ,可愛がられて大切に育てられていることが伺える。小生の格好は確かにいつもの山に入る格好でニッカポッカに手っ甲,オレンジチョッキ等の服装であった。洗濯はしてあるが犬の臭いが染み付いているのであろうが警戒をしない甲斐犬の普段の仕込みの努力に脱帽である。30分ぐらいでM会長とHさん,Iさんの車2台で合流した。ご挨拶もそこそこに猪猟に山に向かった。
 ここでまたもやびっくりしたことがある。姫の猪猟に同行させて頂くことも,本日の天候にもびっくりであるが気さくなM会長に初めてお会いして,大先輩と猪猟を共猟させて頂けることに,3度びっくりであった。猪猟の人間関係に驚いた。感謝。感謝で小生の猪病は直りそうにもない。重傷である。
 10時過ぎに最初の山に着いた。皆,身支度をして集合した。打ち合わせ後,人家からそう遠くない林道脇を姫と共に山の背を歩いた。姫は50m位先を進み,捜索を始め急な斜面や猪の居そうな寝屋等は100m位の先を捜索している。主人の所には3分位で連絡に来る。見切りは何もしていない。いま歩いて居る所には新しい足跡は見当たらなかった。20分位歩いたろうか,先端の寝屋がありそうな所まで行ったが本日は猪はお留守のようで引き返した。無線を持っていないHさんが先端部の谷の下で立つに付いているので携帯電話で連絡した。10分位で車に帰ってこられた。
 全員集合の後,車で10分程の奥山に向かった。ここは日新・日露戦争の砲台後だそうで石組みの様子には時の経過が感じられない程の技術を見た。近くの谷に3坪ぐらいのヌタバをがあった。やはり猪は留守であったが神竜は良く捜索している。M氏達は神竜と先を進みM会長と小生は後を進んだ。30分くらい歩猟した後,車の近くに出た。車の反対側が猪に荒らされていた。M氏はメンバーの事を考え無理のないコースを進んでいるのだと感じた。猪を捕ることは簡単だが皆が楽しめない。搬出等で時間を必要とする。M氏はメンバーの為に色々と作戦を考えている。頭が下がる。
 皆で車に乗り送電用の鉄塔の山に向かった。集落を通過し,林道から鉄塔の連絡道へと進んだ。道路が広い所に駐車スペースを見つけ車3台を止めた。付近に車や人は見当たらない。M会長は車で留守番。正午を過ぎていたので小生はチョコパイとバナナを皆さんに配布した。お昼はご当地の美味しい食事を頂く予定であったがメンバーは猪猟のスイッチが入力されたようで「美味しい食事をしたい」などと言えそうにもなかった。
 身支度後鉄塔に向かって出発した。林道から休耕田が見える。奥の田圃は10年以上耕作されていない荒れた田が見える。山は300~400mで9合目付近に鉄塔が見える。林層は雑木林で椎の木,竹林等のシダ山である。ここでも松はかつての松食い虫でほとんど見ることができない。林道から荒れ放題の鉄塔の連絡道を登り始める。100mも登らない内に3人はゼイゼイハアハア。M氏は普通に皆の先頭を姫と共に頂上方向へ登って行く。3名は遅れ気味。5合目を過ぎた頃,猪道が目立ってきた。姫はM氏を中心に50m~100mで捜索している。M氏が「いるよ」と言うと「ワン。・・・ワン。」と間隔を置いた吠えが始まった。我々の50m位下のシダの中らしい。Iさんが向かった。M氏は鉄塔を下方向に,Hさんは鉄棟道を上に移動した。小生はIさんの10m後をゆっくり付いて行った。これを見せて頂くためにお願いしてきたのだから,スパイク足袋の音を立てないよう,且つ,邪魔しないように足運び等に注意した。姫は相変わらず連続ではない「ワン。・・・ワン。」である。Iさんが姫の近くに行き,鉄砲を構えている。しかし,シダが深く猪が見えないようだ。3分位して猪が人の臭いを感じたか?猪と姫が下方に動いた。しかし,100m位の所でまた止めている。小生とIさんは下方へ向かった。(猪が見えたか後で聞いてみるとやはり見えなかったそうである。)破竹のような竹林で止めていた。我々が近づくと止まっていた猪と姫は前の山のほうへ動いた。下りだったので近づくのが早すぎたのかもしれない。M氏と合流するまで10分位時間を要した。姫も帰ってきた。HさんがいないのでIさんが携帯で連絡を取っると,上方の鉄塔連絡道にいることがわかった。小生とM氏はハンディを持参しているので安心だが携帯の使用できない所では不安である。M氏はハンディでアンテナの指向性から姫の方向等を常に頭に入れ猟を進めて行く。姫は小生の紀州犬程心配がいらない。連絡がとても良い。本日,実際に聞いたことだが姫は猪を見つけるとまず,小さく「ウゥウ。・・ウゥゥ。」とうなりをあげ3~4秒後に「ワン」と吠えが始まる。M氏が遠いと迎えに来る。目を見たら「猪居るよ」とでも言うような顔して猪の居る方向へ向かう。猪が居る場所が遠い場合等場合によっては迎えが先でその後に唸りということもあった。猪を止めている(止まっている)場所ではシダが深く暗い。犬の先を見ても猪は見えないそうだ。犬は一定の間合いを取り吠える。主人がきてそれ以後は少しずつ詰める。たぶん猪は姫を馬鹿にしている様だ。咬みにこないと思って止まっている。犬も猪もお互いの強さを知っている。姫は突っ込まずに主人を待つ。主人に鉄砲で捕らせようと待つ。姫は頭が良い。小生の犬はこれが出来る犬が少ない。今までに数頭しかできていない。
 姫が今度は我々の奥左上200mの所で吠え止めしている。Iさんと小生が向かった。我々の下方の猪道でM氏が立つにたった。10分止めていたろうか。Iさんが少しづつ近づく。やはり猪が見えないようだ。「ドドドー」シダが揺れ猪に抜けられた。姫は猪を追っていった。少したつと姫が直ぐ上100mの所で止めている。Hさんが合流し,今度はHさんが挑戦する事となり皆はその手前と下方の獣道に立った。更にシダが深く暗いので猪を見ることが出来ない。姫が一定距離で猪とシダの周りをラウンドしている。Hさんが少しづつ近づくとシダを揺らして猪に出られてしまった。少しすると右上方200mの所でまた止めている。(申し添えておくがHさんもIさんも鳥猟のベテランで猪猟の方ではない。)
 こんな具合で姫は概ね7カ所,約21回鳴き止めしていた。場所はシダ山,しの山,竹山,荒れたみかん山等の中であった。Mさんと小生しか目撃できなかった所では吠え止めしておりM氏が下から近づくと小生の居る前に70kgと20kgの猪が出てきた。鉄砲持参ではないので残念であった。良い仕事を見せて頂いた。
 M氏は姫が一生懸命吠え止めしていると姫は呼んでも聞こえないのでその場に行くが猪の出しが悪いと無理をして猪を捕らない。皆が大変になるからだろう。お昼も食べずに午後3時まで何度も吠え止めを拝見した。姫の技に脱帽である。姫を呼んで紐につなぎ駐車場に向かった。車まで帰るのに時間がかかるので携帯で連絡しておいたのでメンバーは安心して待っていてくれた。本日の皆様に先ほどの結果を報告し,感謝のご挨拶をしてM氏の車で本日の宿に向かった。

考察 甲斐犬である姫はM氏が近くに居ないのに初対面の我々に良くあれだけの芸を見せてくれた。多くの日本犬は警戒することが多いので,他人が同行するとなかなか普段の芸を見ることが出来ないことが多い。姫の連絡の良さは甲斐犬の特性だと思う。迎え芸等もこの傾向か?甲斐犬の特性から一銃一狗に向くのだろう。小生の紀州の場合犬が判断して進むことが多く,吠え止めはあっても迎え芸は少ない。紀州の特性か?気の強さか。
 吠え止めに3つのタイプがあると聞く。
1 唸りながら吠え止めする犬
2 間隔を置き,軽い声で吠え止めする犬
3 遠吠えして,吠え止めする犬
 名犬姫は1と2のタイプと考える。
 甲斐犬で姫のようなタイプの犬は少ないと聞く。姫の子の多くを残し,血統を増やし,よりよい猪犬を心ある猪猟者が経験を基に完成させ後世に残す事を願ってやまない。
なにはともあれ,M氏が多忙の中,貴重な時間を割いてくださり,名犬姫の芸を見せて下さったことに感謝申し上げるとともに,御礼申し上げます。
                             平成21年3月3日